あいつが小学校低学年の頃。道場で初めて会った時は、おぼろげながらも覚えている。
おかしな奴。
左部弥一の第一印象は、正しくそれだった。
問題児ではない。人当たりは悪くはないし、何かを教えれば、すぐに覚えた。
ただ、必死なのだ。強くならなければ、あたかも死ぬことになると言わんばかりにがむしゃらだった。
稽古前でも、飽きずに他人の目線や足先に目を向けていた。剣の稽古を終えた後も、もっと教えて欲しいと言い、体術、杖術、鉄扇、手裏剣、挙句の果てに鎖分銅も教えろとせがまれた。
なぜそこまで必死なのか聞いても、必要だからの一点張り。今は練習の甲斐あってか、どれもかなり上手だ。特に器用貧乏にもなっていない。おかしいだろ。
それに、俗にいう霊感とやらもあるようだ。
一度、稽古後に車で家に送った事がある。日はすっかり暮れて、雨も降っていたから仕方なくだ。
道中、急に道を変えろと言い出したのだ。”そっちは危険です。別の道で行きましょう”と、のっぺりした声で話しかけてきた。口調だけは普段通りなのが、不気味さを掻き立てる。
いたずらだろうが、どうせなら乗ってやろうと、その日は少し遠回りの道を使った。
普段使っている道で交通事故と聞いたときは、鳥肌が立ったものだ。
あいつ、何かに憑かれているのか?
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とある日の夕方
最後まで残っていた人が頭を下げ、体育館から出るのを見届ける。これで今日の仕事は終わりとなる。
ここは見滝原の学校だ。今は臨時の仕事として、剣道の外部指導員をやらせてもらっている。なんでも、普段教えていた指導員は足をやってしまったらしい。あまり酷くはないらしく、一月も休めばいいそうだ。アキレス腱断裂しなくてよかったな。
週2日で時給1500円ちょっと。まあ平均的だ。難点をいうならば、家と仕事場が少し遠いぐらいか。
自分は残って素振りをする。もちろん勤務時間には含まれない。
普段の魔女狩りに加えて入院もあり、剣道の腕が鈍ったようだ。前と比べて、うまく打突部位に打てなくなった。特に魔女狩りは、変な癖が付きやすいように感じる。なぜか打突部位ではない所を打ってしまったり、酷いときは声を出し忘れそうになる。
給料を貰って教える以上、試合に弱くなる事があってはいけない。素振りで何とかなるかは微妙だが、やらないよりかはマシだ。
「さて、___」
「あっ、すみません!剣道部の指導員さんですよね?」
「っと」
振り向けば、青髪短髪の子がいた。元気で活発そうな普通の子に見える。見覚えはないから、剣道部員ではないはずだ。
「ちょっと聞きたいことがありまして。時間いいですか?」
壁の時計を見る。特にこの後も予定はなし。
「大丈夫、だな。何を聞きたいので?」
「えーっとですね………もし怪獣と戦うならば、どうしますか?」
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その人は、眉をひそめ、少し首をかしげていた。
当たり前か。いきなりこんな質問したんだし。
「………怪獣ってゴジラみたいなものか?そんなの軍とか自衛隊とかが戦うものだろ」
「あー、そうゆうのじゃなくて、怪物?UMAみたいな感じです。もし剣で戦うならば、どうするのかなーって」
「そんなの飛び道具一択だろうに。下手に近づけばボコされるだけだ」
「えー………」
つまり銃を使うマミさんが最強ということ?剣しか出せないあたしは外れだと?
一理ある。実際、マミさんは強い。
一理、あるけど………もっとこう、あるでしょ!剣で戦わないって、それでいいのか剣道家ーっ!?
「まあ、仮に剣しかないならば____基本は弱点らしき所を突きまくる、か?チクチク刺して弱らせてから、最後にグサリといく」
「ほうほう」
「少し剣道から離れるけど、もし切りたいならば、こんな風に軸で動く。剣はなるべく、軌道線で振る。こっちのほうが、腕だけで振るよりも疲れにくい。こう、軸で回りながら____上げて、下す。下ろしたら、上げる張り合いに切る、突きは、回りながら押し込むように、と。こんな感じか。この動きは素早く動きにくいけど、その分剣が重くなるな」
袈裟切り、なのかな?説明しながらも、動きが様になっていた。いや、本職だから当たり前か。あたしの戦いに生かせるかはわからないけど、遅くまで学校に残っていた甲斐があったかな?
「てか、なんでこんなことを聞くんだ?」
「ぅえっ、えーと、………あっ!小説です小説!読んでいた本に剣で戦う人が出てきまして、それで!」
「そうゆうのが流行っているのか………あ、言っておくが、実際にこうやって戦えるかは知らないぞ。むしろ、ほとんど不可能かもしれない。場合によるだろうが」
おい。
「なんたって、剣で化け物と戦ったことないからな。今の動きだって、所詮は対人の介者剣法。もしも剣一本で化け物と対峙したら、自分は迷わず逃げるね」
____あ、そっか。
この人だって、魔女の前には弱者でしかない。知らないんだ、魔女の事。
だけど、あたしは魔法少女。これから、みんなを魔女から守っていく。
あたしは、マミさんみたいな正義の味方に____
「ちょっと、おーい」
「っ、はい?」
「もし剣について知りたいならば、剣道部に入部するのはどうだ?なんなら顧問に話でも」
「あー、あたし放課後は開けておきたいんですよ。やらなきゃいけないことがあって」
「やること?」
「じゃ、失礼します。ありがとうございましたーっ」
礼をして、体育館から出る。
あの人には悪いけど、部活には時間をかけられない。
悪い魔女を探してパトロール。これも正義の味方の勤めだからね。
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「………なんだったんだ?」
よくわからなかったが、勧誘が失敗したことは確かだ。放課後が埋まっているということは、習い事でもしているのだろうか?
「まあいいか」
では改めて素振りを____________いや、今日はいいか。優先度で言えば、魔女狩りの方が高い。
とっとと着替えて、ドライブに興じることとしよう。走り回っていれば魔女や使い魔、一匹ぐらいは見つかるだろうしな。
少し短め
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