いろいろあって、少々混乱したが無事に(?)諸々の問題が解決したと思う。
街にいた奴隷商人の仲間は続々と捕縛または街から逃げ出して、奴隷達も開放することができた。二度と会えないと思えた家族との再会には涙を禁じ得なかった。
街の活気が私がここへ訪れた時よりも溢れている。大通りを歩く人々の姿に女性や子どもたちが多く混じるようになったからだ。どうやら、奴隷されることを恐れて家に引きこもっていたらしい。
人々の数が増えたこともあって大通りの店はどこも忙しそうにしている。休む間もなくて大変だと、店の人達は口を揃えて言うが嬉しそうにしていた。
ただ、それでも心の底からというわけではない。彼らはサヤに弱みを握られている。バラされてしまえば最後、彼らに居場所がなくなる。彼らはそれを恐れているのだ。
だが、彼らが恐れているようなことには恐らくならないだろうと私は思っている。なぜなら、サヤは街の経済の中心である大通りの店すべての主導権を手に入れることが目的だったからだ。
サヤ曰く、天獄拳で快楽の暴力に晒されているときに天啓を得たのだという。男を誘惑し、不倫させることで弱みを握り、裏から手引するという方法を思いつき、すぐさま実践した。
結果は知っての通り、大成功。
サヤの身体に付けられた雷竜人族の男のみに作用する特殊な興奮剤により性欲を煽られた男たちは半分理性をなくしてサヤを襲い、陥れられた。
「……その若さでなんとも恐ろしいことするものだな、君は」
「へへへっ、それほどでもないです♡」
褒めてないんだが……。
私は呆れて
「ああ……もっと見下してください♡もっと体重をかけて、お尻でぐりぐりしてくださいぃ♡」
「……」
断っておくが私が彼女に強制したわけではない。応接室に呼ばれ、入ると昨日はあったはずのソファや椅子がなくなっていた。そして、突然「代わりにサヤに腰掛けてください」と四つん這いになって言ってきたのが、数分前のことだ。
おそらく強すぎる快楽で脳をやられた影響だろうと思う。
「ところで、そろそろ私を呼んだ理由を教えてくれないか?」
「んあっ♡しょ、しょーでした。……コホン、実はテレジア姉さまに護衛をお願いしたいのです」
幼い娘とは思えない程に大人で威厳のある雰囲気を出してサヤはそう言った。
今はまだ未成年ということで街の長(仮)という身ではあるが、既に長としての才能を見せてきている。成人したとき彼女は立派な支配者になるだろう。……椅子になっているせいで台無しだが。
「護衛……というのは、君が隣の街へ挨拶に行くのに付き合えということでいいのか?」
「はい。そう通りです。テレジア姉さまのおかげでボリバルの脅威は去りましたが、まだ残党共がこの街の近くに潜伏している可能性がありますので警戒しておきたいのです」
あの夜、ボリバルと共に私達を襲撃した男達はボリバルの部下の一部に過ぎなかった。ボリバルの死亡を知った彼らは一目散に街から逃げたという。
その数は襲撃してきた者達の半分ほどらしいが馬車を1台襲うには十分すぎる人数だ。
「私が馬車の護衛についたとして、その間に連中が街を襲いに来たらどうする?」
「ここに帰ってくるまでは、街の門は全て閉じます。壁の上には常にクロスボウを持たせた衛兵を置いて、警備させます」
なるほど、それなら大丈夫そうか。
「わかった。護衛を引き受けよう」
「ありがとうございます。……そういえば、テレジア姉さまはもうすぐ街を去られるのですよね?」
「ああ、ちょっと訳ありだからな。長く留まるつもりはない」
「そうですか……残念です、後一ヶ月待っていただければ産卵に立ち会ってもらえたのに……」
「……なんて?」
いま、なんて言ったこの子? ……産卵? その歳で?
「ですから産卵です。いまサヤ……じゃない、わたしの中には卵があるんです」
「それを早く言え」
私は彼女の上から退いて、彼女を立たせた。まったく身重のくせに何やっているんだ。
「テレジア姉さま、どうして……?」
「どうしてもあるか。もう君の体は君だけのものではないんだ、大事にしなさい」
「……そうですね。すみません、浅はかでした」
人を呼んで椅子を持ってきてもらい、サヤを椅子に座らせた。
「もう卵があるのか分かるのか、あれからそれほど時間が経ってないのに」
「はい。あの時、孕みやすくなる薬も併用したのもありますが、雷竜人族は子供が出来やすい種族なんです」
「卵はいくつあるのか分かるのか?」
「雷竜人族は大体5、6個卵を産みますが……わたしはもしかしたら多いかもしれません。大勢に子種を注がれましたから」
まぁ……そうなるな。あれだけ、すればなぁ……。
あの時のサヤは全身ドロドロになっていた。その倍以上の量がサヤの中に入ったのだから当然と言えば当然か。
「……でも、ちゃんと生まれてくるのは半分ぐらいかもしれません」
「なぜだ?」
「すべての卵に命が宿るとは限らないからです。6個産んでも、3個しか孵らないというのはざらにありますから……」
なるほど、そういうことか……ならば。
「ちょっと失礼するぞ」
「? ……テレジア姉さま?」
私はサヤの下腹部。子宮がある辺りに手を当て、気をゆっくりと流し込んだ。
「ん……っ、なにか、お腹の中に温かいものが……」
「腹の中の卵に気を送った。これですべての卵に命が宿ることだろう」
「テレジア姉さま……そんなこともできたのですね」
「別に私にしかできないことじゃない。獣竜人族の女はみんなこの方法を習う」
獣竜人族は子孫繁栄を重視している。そのためか、こういった助産的な技も生み出されている。
「こんな方法があるなんて……さぞ、テレジア姉さまの種族は繁栄されておられるのでしょうね」
「いや、そうでもない。数で言えば雷竜人族の半分に届くかどうかだな」
「えっ、どうしてですか?」
「……色々とあるのだ。色々とな」
獣竜人族は子孫繁栄を重視している。その上、強い個体だけが子孫を残すべきだという考えもある。
そのため、一人目が卵から孵ったとき、残りの卵は潰されるのだ。……親の手で。
こんな惨いことをサヤに聞かせるべきではないと思い、私ははぐらかすことにした。
「そういえば、名前は決めているのか?」
「名前ですか? まだ気が早いと思いますけど……そうですね、色々と考えているんですがいい名前が思いつかなくて」
「しっかり考えてやれよ。名前というのは一生使っていくものなのだから」
変な名前をつけられては子供が可愛そうだ。
「……そうだ。よければテレジア姉さまも一緒に名前を考えては頂けないでしょうか。私だけではずっと悩んでしまいそうで」
「いいのか? 初子の名前をわたしが考えて」
そういうのは、コーデリア殿と相談した方がいいんじゃないか?
「いいんですよ。この子たちはテレジア姉さまのおかげで授かったようなものですから」
「そうか……」
遠回しにお前のせいだぞと言われてるような気がしないでもないが……まぁ、私にも責任はあるか。なら、いい名前を考えてやらねば。
「よし。なら一緒に考えようか」
「はい。よろしくお願いします」
その後、私達は名前の候補を出しあって、男子と女子それぞれ10種類の名前を決めた。