英雄の仲間から神の眷族へと改帰する   作:時雨シグ

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この先、この話の一部を触れる可能性があるので投稿しました。

天寿にてこれを読んだことがある人は読む必要は無いです。完全コピペなので。
この創作を初めて読んだという方向けです。

あと、この話を読むのは何話か読んでからの方がいいと思います。




番外編
第零話 ベルの始まり


 

 

古代

 

 

それは常に死が隣にいた地獄の時代であった。

まだ蓋がされていない『ダンジョン』から湧き出るモンスター達。その数はあまりに多く、力無きひ弱な民は抵抗するか逃げるか殺されるかしかなかった。

蹂躙された村など、数えるだけ憂鬱になる。

 

 

誰もが救いを求め、誰しもが''英雄''を求めた。

 

 

民の願い通り『英雄』は現れた。

ただこれは、英雄ではなく、のちに''守護者''と謳われるようになったとある男の物語である。

 

 

 

『さぁ―――護ろう。みんなが笑っていられるように!』

 

 

 

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side:???

 

 

その子はとある女性に抱えられながら大量の涙を流し顔をくしゃくしゃにして、手を伸ばし喉がはち切れんばかりに叫んでいた。

 

 

「パパァアアアアアッ!!ママァアアアアッ!!」

 

 

何度も何度も、自分のもとへと戻ってくることを願って。

 

 

当時7歳だったその子は、とある曇天の日にモンスターによって家族を失った。

 

過去から現在にかけてこの世界はモンスターに支配されつつある。先程も言ったが、滅びた国や壊滅した村など数えるのが憂鬱な程に。

 

いずれこの村もモンスター達に飲まれてしまうだろうという確信が村人達の共通認識であった。

 

 

そして、それはやってきた。

その村には子供から老人までいた村だ。子供を女性を老人を逃がすため、戦える者はモンスターを少しでも食い止めようと死地へと身を投じた。

 

その子の両親は多少の武術に精通しており、先陣をきって赴いた。

考えてみて欲しい。例えば戦時中、国の為に家族の為に戦場へと赴いた恋人、家族といった大切な人に自分は何を思うのかを。

 

辛いに決まっているじゃないか。戻ってくる可能性なんて小粒程度しかないのだから。

 

当時7歳の子供にはあまりにも辛すぎる出来事だ。しかし、このようなことが世界中で起きている。

たがらこそ、十数年後『王都』ラクリオスにて''英雄選定''が行われたのだろう。.......表向きにはだが。

 

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side:???

 

 

「もう行ってしまうのね」

 

「うん。これはずっと前から決めてたことだから」

 

「...そうね、あなたはずっとそう言い続け、そうなる為に鍛錬していた」

 

 

昔を思い出すようにしみじみと語るとある女性。その目の前に立つ少年は熱い決意を胸に凛々しい顔つきをしていた。

 

 

「身体には気をつけてね。それと...死なないでね」

 

 

その少年が向かうは死地だ。送り出すとある女性は今にも泣き出しそうな表情だった。

 

 

「うん、お義母さんも。必ず戻ってくるから」

 

 

優しい笑みを浮かべたその少年は言った。

 

 

「行ってきます!」

 

 

今にも泣き出しそうな表情をぐっと堪え、慈愛のこもった笑みをもって

 

 

「行ってらっしゃい....ベル」

 

 

その言葉に送り出されるように少年――ベルは歩き出す。

ベルが見えなくなるまでずっと背中を見送り続けたその女性――ベルの母の姉は目尻に浮かぶ涙を拭い、そっと扉を閉めたのだった。

 

 

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side:ベル

 

 

ベルはもう少しで15歳を迎えようとしていた。王都に着く頃にはとっくに過ぎているだろう。

 

 

そんな15歳を迎えた日だった。

どこからか異常な力を感じ取る。感じ取ったのもあるが、黒煙と砂埃が混ざった煙が近くの森から出ているのを見た、という方が大きい。

 

このとき何なのか知りたいという好奇心と、モンスターかもしれない襲われるかもという恐怖との狭間にたっていた。

当時15歳の少年、好奇心が勝ってしまった。

確かな足取りで森へと近づき森中へと入っていったベル。震える体を抑えつけるように深呼吸する。

 

 

地面が空気が振動していて、木々の葉がザザザザと擦れる音が鳴っている。

近づくにつれてだんだんとそれが強くなる。

時間にして一分ほど、目的の場所までやってきた。

ベルは木から覗き見るようにそこに視線を移す。

 

そこには、

 

全長四m弱の見たことの無いモンスターと、片腕を抑え血を流している紫髪の美しい女性が戦っていた。

ベルは見たことの無い巨大なモンスターよりもそのなんと表現したらよいのだろうか、例えるなら御伽噺に出てくるような神聖さを持つ女性に目が縫いつけられる。

 

 

そんなときだった。

突然その女性が頭を抑えた。

立ちくらみがしたときのようにフラッとなってしまった女性。

その瞬間をモンスターは見逃すわけがなかった。腕を振り上げ鋭い爪が太陽に照らされ輝く。そして、引き裂かんとばかりに振り下ろされた鋭い爪。

 

 

ザシュッ!!

 

 

「っ!」

 

 

結果を言えば、その神聖さを放つ女性は無事だった。

無事だったのは、モンスターからの攻撃が直撃する直前、何者かによって弾き飛ばされたからだ。

ゴロゴロと転がったその女性は勢いが止まるとすぐさま顔を上げ弾き飛ばしてきた者へと目を向けた。

 

 

「がぁああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!!!」

 

 

苦痛にもがく雄叫びが響き渡った。

雄叫びを上げていたのはベルだ。背中から腕にかけて幾数の引き裂かれた傷があった。そこからは夥しい量の血が溢れ出ており、腕なんて血で見えないが、もし血がなかったら四分の三くらいは断面図が見えていただろう。

ベルも例外なく力無きひ弱な人間だ。たった一回の攻撃、されど一回の攻撃で死に追いやられるのだ。

 

 

「―――――っ!!」

 

 

直後、辺りが真っ赤に染まった。どうしてこうなったか分からない。

発端としては、神聖さを帯びるとある女性が魔法を使ったのだが、魔法というものを見たことがないベルには理解できるものではなかった。また、痛みによって意識が朦朧としていたのもあるだろう。

 

大量の血を流しながらもベルの表情は穏やかであった。

自分は死んでしまうが、それでも最期に誰かを護れてよかったという思いからだろう。

だけど心残りはある。それは、目標を成し遂げられなかったこと、お義母さんとの約束を果たせなかったこと。死なないでね、また戻ってくるという約束を。

 

引き裂かれたところはとても痛い。だけど、もう麻痺してきているのか痛みを感じなくなってきた。ああ...、死ぬんだと悟る。

だから抵抗することもなく、ベルはそっと目を閉じた。まるで、ベットの上で明日を迎えるかのように。

 

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鳥のさえずりが鼓膜を揺らす。

 

ベルは死んだ。それは変えようのない事実だ。四m弱の巨大モンスター、そいつが殺すために放ってきた攻撃だ。ベル自身少しは身を捻ったかもしれない。だけどそうまでしても、胴体は二分の一まで腕は四分の三まで引き裂かれている。それが幾つもある。普通に考えてみて死んでないとおかしいのだ。

 

だけど、その少年は目を醒ました。

 

 

「...ん...?」

 

 

朦朧とする意識とぼやける視界。それでもゆっくりと身を起こす。

辺りは小さな森。鳥のさえずりと木々の葉が擦れる音しかない。

そこら辺で見かける森だ。

 

辺り一面緑と戦闘後の焦げた茶色草で埋め尽くされている。一つ違和感を言うなら、赤が混じっていること。

 

 

「...え?」

 

 

ベルが倒れていた部分が赤、つまり血の色で塗り替えられていた。

その量はあまりに多く、死んでいないとおかしい量だった。

そんな理解が追いつかないなか、とあるものを見つけた。

 

『ありがとう』

 

そんな文字を。

何の変哲もないただの言葉。だけど最も人の心に響く言葉。

そこで理解した。あの人を助けられたんだ、と。

疑問に思うことは当然ある。ハッキリしてきた思考で記憶を思い返す。記憶間違いでないのなら、僕は必死の攻撃を食らったはずだ。だけど、裂かれた服はそのままなれど身体は何もなかったように綺麗であった事に。

 

分からない。

ただ、ベルはまだ生きられることを喜んだ。目標を達成できない約束を守れないまま死ぬなんて悲しいことにならずに済んだからだ。

その謎はまた時間ができた時にでも考えればいい。そう思い、ベルはまた目的地へと歩き出した。

 

 

.....あのひと、美人だったなぁ.....

 

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『王都』ラクリオス

『楽園』と謳われるほど、モンスターからの侵攻を退けている国。何故退けれているのか、それはもとより軍事力はさることながら、一人の男が君臨しているからだ。

 

常勝将軍ミノス。

王都最強の男である。

巨大な鎖を振り回し、人もモンスターも引き千切るその光景はまさに迅雷の如く、そんな男に民は畏怖と敬意を評し、付いた渾名は雷公(いかずちこう)。その男がいる限り王都は安全、とまで言わしめている。

 

 

「はぁ〜.....やっと着いた...」

 

 

『王都』ラクリオス。

ここがベルの目的地。ベルが掲げている目標を叶えるための手段がここにある。だから数ヶ月かけて来た。

 

ベルの目標は、『民を護り、みんなが笑って過ごせるようにする』というもの。

幼きときに無くした両親。避難先ではずっと泣いていた。泣いて泣いて沢山泣いて、そしてベルは成長した。自分のような子供が現れないようにという想いを掲げるまでに。

その想いは今もある。

 

 

「....見ててね、お母さん、お父さん。待っててね、お義母さん」

 

 

ベルは心臓部分の服をギュッと握り王都の門をくぐったのだった。

 

 

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いずれ書きます

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五年後。

 

 

この五年様々なことがあった。

幸いなことに師匠と尊敬できる人に巡り会え、そして、その師匠の教えによって僕は力をつけていった。

何故だか分からないけど、僕は常人にはない運動神経反射神経があるらしい。それのおかげでどんどん師匠の教えを吸収していった僕は、今では師匠を超えるまでに成長した。師匠によると全力の''ではないが''将軍様といい勝負は出来るだろうとのこと。

 

で、その将軍様のことなのだが、僕が思っていたようなヒトではなかった。

『王都』ラクリオスは他の国と常に戦争していた。何故そんなことをしているのかと言うと、それは将軍様に結びつく。

言ってしまうと、将軍様の正体は''モンスター''だった。個体名はミノタウロス。では何故モンスターであるミノタウロスが国を守っているのか、それは数代前の王のときにもたらされた魔道具が原因であった。

 

そう、ミノタウロスを操るといっても生贄が必要だった。だから協力し合わないといけないのに人同士の戦争が繰り広げられているのだ。

 

『王都』ラクリオスは表向きはいい国だ。その証拠に全国民が笑っていた。

しかし裏側は闇が根深く浸透しており、笑顔を無くした人達がたくさんいた。

王女様に、とある占い少女、暗殺者。

 

僕の胸にはまだあの決意は残っていた。

だけど、どうしたらいいのか分からないのだ。根深い闇に切り込む勇気が怖くて湧けないし、切り込み方が。ずっと足踏みしていた。

 

そんなときだった。王の命により英雄選定が行われることとなる。

裏は当然あった。でも何も出来ないのだ。どうしたらいいのかが。

 

 

そして、

 

そして、

 

 

そんな英雄選定にて、僕の人生が大きく変わることになるのを、このとき知る由がなかった。

 

 

 

 





次の話はとある人との番外編です。

日曜か月曜あたりの深夜から午前中に投稿します。多分。


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