幼女に厳しい世界で幼女になった   作:室戸菫はかわいい

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バナージくん、聞こえているなら正気に戻るのをやめろ!
このままでは自己矛盾でお互い燃え尽きることになる

無印と2はいいぞ




山猫は眠らない①

 

 

 

 

「はぁ…………」

 

 2日後。

 蓮太郎の姿は豪勢なリムジン(車中)にあった。

 

「蓮太郎、溜息ついてどうしたのだ? 幸せが逃げてしまうぞ」

 

「……なんでもねーよ」

 

 興奮した様子で車窓からの景色を眺めていた延珠にそっけなく返してしまう。

 蓮太郎の憂鬱には理由があった。

 先日、蓮太郎の家にパトロン(未織)社長(木更)がやって来た折、致命的に仲の悪い2人によって内装を破壊し尽くされてしまったのだ。今も一部の家具は使えないままで、金欠のため買い替えもできない状況だった。

 というか延珠は未織側(貧乳派)について煽っていた。

 

 そんな彼の様子を見て聖天子は告げる。

 

「お忙しかったでしょうか。無理して受けていただかずともよかったのですよ」

 

「受けなかったらアンタ困るだろ」

 

「それは……そうなのですが……」

 

 手を握りしめ、縮こまる聖天子。

 

――そう言うってことはやっぱり妨害されてたのな。

 

 蓮太郎の推測は正しかったらしい。

 その時、彼に悪魔のひらめきが走る。

 

――アイツ(保脇)、まさか暗殺依頼なんてものを出してねぇよな?

 

 マッチポンプ説だ。

 

 しかしすぐさま否定する。

 思想はともかく、曲がりなりにも優秀な男ではあるのだろう。

 ムカつくが。

 でなければ菊之丞に留守を任されるなど信じられない。そんな人間が一か月前に失敗したことと同じ手段をとるとは思いたくなかった。

 もしそうなら、この国の内部は()()()()()()と言わざるを得ない。

 たしかに天童の政治は汚いところもあるが、それでも(エリア)を維持するためのはずだ。蓮太郎はまだどこかで彼らの善性を信じている。

 かつて日本はスパイ天国と呼ばれていたが、偶然とはいえスパイを1人捕まえたことのある蓮太郎からすると自国民が勝手にスパイめいたことをし出すのは如何なものだろうか。

 

 とはいえ、杞憂であればなんの問題もない。

 むしろ、そんなことをしそうな人間は別に心当たりがあるほどだ。

 まだ暗い表情の聖天子を見て、蓮太郎は不器用に明るい声を出した。

 

「ま、安心しな。依頼を受けた以上、依頼人(アンタ)はきちんと守ってやんよ」

 

「うむ。妾たちが精いっぱい守護してあげるのだ。蓮太郎に色目を使わない限り!」

 

「い、色目だなんて……はしたないですよ」

 

「ならばよしっ!」

 

「お前は余計なことを言うなっ」

 

「あいたっ」

 

 蓮太郎が延珠に軽いチョップを食らわせると、場の雰囲気が弛緩する。

 聖天子は朗らかな笑みを浮かべた。どうやら幾分か持ち直したらしい。

 そして彼女は蓮太郎の目を見つめた。

 

「里見さん、あなたは斉武大統領と面識があるのですよね?」

 

「……随分昔の話だ。天童の屋敷にいたころ、菊之丞(クソジジイ)に色々連れまわされた。その時に会ったことがある」

 

「その、里見さんから見て斉武大統領はどんな人なのでしょうか。菊之丞さんは露骨に不機嫌になってしまうので教えて欲しいのです」

 

 だろうな、と蓮太郎は思った。

 クソジジイは進んで斉武の話をしないだろう。

 しかし外務省の連中が基本情報を教えているはず。

 となると、個人的な意見を聞いていると彼は判断した。

 

「アドルフ・ヒトラー」

 

「は?」聖天子の声は裏返って瞬きも早くなり、面白い表情をした。

 

 彼女は軽く目頭を揉む。

 

「すみません、里見さん。最近政務が忙しくて疲れているようなのです……もう一度お願いできますか?」

 

「だからアドルフ・ヒトラー」

 

「冗談ですよね?」

 

 どこかすがるような聖天子の言葉を、蓮太郎はばっさり切り捨てる。

 

「マジだよ。斉武がすでに17回も暗殺を起こされて生きてるのは知ってんだろ? 重税に苦しむ住民を笑って見下すような奴だぞ。『黒船が来たら老中が若くなる』の代表例さ。あんたは既に他の元首と話してるならわかるだろうが、『我こそ日本の代表』とか寝言を真顔で言う連中(元首)のなかで1番ヤバい人間だよ」

 

「わ、わかりました。ご忠告、感謝します」

 

 蓮太郎は自分に言い聞かせるつもりで話し、聖天子は気圧されながらも神妙に頷いた。

 

――ノウハウが失われるのはやっぱりきついな。

 

 蓮太郎は思った。

 戦後、各エリアの国家元首は変わっていないが、東京エリアは内情が異なる。

 聖天子と呼ばれる人間は厳密には3人いるのだ。

 敗戦後の東京エリアを立て直した初代、1年弱で病没した2代目、そして目の前の3代目だ。

 いつの世も組織は3代目が分水嶺と言われる。

 目の前の小さな元首はそれをわかっているから真面目に働こうというのか。

 

――そういえば、電話会談と言っていたな。

 どうやら小さな元首はあの魑魅魍魎共と直接対峙したことはないらしい。

 であれば緊張するのも無理はないか。

 刺激が強い話になりそうだ。

 

 その時、リムジンが止まった。目的地についたのだろう。

 

「蓮太郎、お仕事頑張ってくるのだ」

「おう」

 

 延珠を車中に残し、蓮太郎と聖天子はリムジンを降りた。

 植え込みに潜むヒバリの澄んだ鳴き声に導かれ、蓮太郎の視線は上に向かう。

 地上86階の超高層建築ホテル。

 ガストレア大戦後、土地の確保に苦労した各国はこのような高層建築に活路を見出した。東京エリアでもスカイツリーを越える高さの建築物がちらほらあるのだ。

 延珠に手を振り返し、先を歩く聖天子に蓮太郎も続く。

 彼女のウェディングドレスに似た白い礼装は肩が露出しており、ピンク色の柔肌が蓮太郎からも見えてしまう。

 なんだかいけないことをしているような気分になった。

 

 

 聖天子は回転扉をくぐり、貴人専用という豪奢なホテルのフロントに来意を告げた。すぐにかしこまった支配人が『鍵』を渡してきたので彼女も薄く微笑んで礼を言えば、彼の頬は赤く染まった。

 

 乗り込んだエレベーターには鍵穴があったので『鍵』を使い、新たに表示された最上階のボタンを押す。

 押し付けられるような若干の圧迫感と共に、アンティークな階数表示目盛り(インジケーター)が数字を刻んでいく。

 

――いよいよか。

 

 蓮太郎自身、斉武と会うのは久しぶりで緊張はしている。

 しかし、それ以上に隣の少女に弱いところを見せるのは僅かなプライドが許さない。

 ちらりと聖天子を見れば、彼女と目が合う。

 気まずくなって目をそらした。

 

「里見さん……私の傍、離れないでくださいね」

 

「へいへい」

 

 聖天子はムスっとした。

 

「あと、今日は短気さを抑えてくださいね。里見さんが斉武さんに殴りかかってエリア間抗争の引き金を引いてしまったら目も当てられません。『うっせえわ』とか『ざけんじゃねぇよ』とか汚い言葉遣いも使わないでくださいね」

 

「チッ……残念だがこれ(口調)は無理だ」

 

「それはどういう――――」

 

 聖天子が尋ねるより先にエレベーターは重々しい音を立てた。

 最上階に到着したのだ。

 2人は意識を正面に集中させる。

 

 扉の先は展望台を私室に改造したような部屋が広がっていた。

 エレベーターの脇で直立したまま深い一礼をしたのは斉武の護衛だろう。

 ボディスーツ……いや、外骨格(エクサスケルトン)を着ている。蓮太郎では逆立ちしても買えない代物だ。

 

 その先、デザイナーズ・ソファから立ち上がった白髪の老人。

 彼は5枚羽がつけられた帽子を取り外して礼をした。

 

「初めまして、聖天子様」

 

 獅子のたてがみのような髭を蓄え、眼光は鋭く、スーツを着た長身の男。御年65とは思えぬ覇気をまとった彼こそ数多の政敵を闇から闇に葬った老獪な政治家、斉武宗玄(さいたけそうげん)である。

 

 聖天子が目礼するのを満足そうに見たあと、彼は隣の蓮太郎に声のトーンを落とした。

 

「天童の貰われっ子か。その様子だと民警風情に堕ちたようだな?」

 

――来たか。

 

 斉武の()()調()()を受けて立つべく、蓮太郎は一歩踏み出した。

 不安げに見つめてくる聖天子に頷き、宗玄に近づく。

 

「ハッ、テメェこそくたばってんのかと思ったぜクソジジイ」

 

「言葉を慎めよ、民警風情が! 女狐に(そそのか)されて天童を出奔した貴様はもはや政治家などではない! 地虫のごとく地を這う民警よッ! 俺は貴様をそう扱う!」

 

「その地虫に守って貰えるのを偉いと勘違いしてんなら、今すぐそっから引きずり降ろしてやんよッ!」

 

「負け犬の遠吠えなど烏合の衆! 痒くもないわッ! 貴様のような下民が俺に触れられると思うなよ。天に立つ俺に謁見できるのは地位と名誉があるやつだけだッ! 」

 

「そんなに空が好きなら他界他界(たかいたかい)させてやろうか! 地位や名誉に縛られたテメェみたいなジジイは(エリア)に帰りやがれ!」

 

「誰の許可を得て俺に命令するか貴様ッ、頭が高いぞ! 天童でない貴様に価値などあるものかッ!」

 

「天童だろうが民警だろうが俺は俺だッ、テメェが勝手に決めつけてんじゃねえぞ!」

 

 蓮太郎と宗玄は額を叩きつけ合った。

 皮が破れ、血がこぼれ出してくる。

 

 聖天子は2人の剣幕に顔を青ざめさせながらも、気丈に耐えようとしていた。

 

 頭を離すと、宗玄はふっ、と笑った。

 どうやら合格らしい。

 

 宗玄の護衛に差し出された治癒布(ファストエイド)を礼を言いながら受け取り、傷に張り付ける。

 宗玄は顎をしゃくった。

 

「蓮太郎、あの仏像掘りは元気(隠居しないの)か?」

 

「……もうあんま掘ってねーよ(知らねぇよ)。出来の悪い弟子が逃げちまったからな」

 

「なんだ貴様、後悔してるのか」

 

「ケンカ売ってんのかテメェ。口を閉じた方が利口に見えんぞ」

 

「里見さん、菊之丞さんのお弟子さんだったのですか……?」

 

「だったら、どうなんだよ」嫌な記憶を思い出して不機嫌な声を出してしまう。

 

「いえ、別に……」

 

 宗玄に勧められ、聖天子はガラステーブルを挟んだ向かいに座る。蓮太郎はその後ろに立った。

 両者が席につき、ようやく政治的な交渉が始まるかと思いきや、宗玄は別の話を振った。

 

「蓮太郎、貴様、ステージⅤのガストレアを倒すためにレールガンモジュールを鉄屑に変えてしまったらしいな」

 

「だったらなんだよ」

 

「戦争とは、上空を取った者が勝つと孫氏の兵法から決まっておる。俺の計画では、アレを月面に取り付けてガストレアどもを根絶やしにしてやるつもりだったのだよ」

 

「……まてよジジイ。本当にそのレールガン、ガストレアだけに使うんだろうな?」

 

 宗玄は鼻で笑う。

 

「たわけが。貴様の想像通り、次世代の抑止力のひとつとして有効活用してやるのよ」

 

「暴力で他国を脅そうというのですかッ!」

 

 たまらず口を挟んだ聖天子に宗玄は大仰(おおぎょう)に語る。

 

 

「聖天子様、あなたにはビジョンがないッ。我々はもはや被支配者ではなく支配者なのだッ! 米国だかロシアだかに脅かされる弱い日本ではない、強い日本を作らねばならぬッ! そうでなければ日本は衰退し干からびるだけよ。ガストレアが来なければ確実にそうなっていた。だからこそ! 世界中の国家が解体されたような今、いち早く日の本をこの未曽有の大災害から俺の(もと)で復興させ、次世代の世界のリーダーになるのだ! そして古き良き日の本を取り戻す! セコく儲けてる軟なインテリだのリベルタリア気取りの政治屋などくだらねぇ。俺の邪魔立てするもの、無能な者、俺に従わぬ者は全て力ずくで排除する!」

 

 聖天子は唇をわなわなと震わせている。

 蓮太郎もあきれてものも言えない。宣戦布告のような内容もそうだが、ガストレアはもはや駆逐しきれないと学者が試算しているのだ。それなのにまだ人殺しをしたいとは、つくづくイカれている。

 

『人間は平和に飽きたら戦争を、戦争に飽きたら平和を求める愚かな生き物なんだよ』

 

 菫がいつか言っていたセリフを思い出した。

 

 ふたりが黙っているのをどう捉えたのか、宗玄は身を乗り上げる。

 

「まぁ、レールガンについてはいいだろう。代わりなどいくらでもある」

 

「あ?」

 

「力ある者は全て俺が蒐集するのだ。そう、蓮太郎、お前も来い」

 

「ハッ! 誰が好き好んでテメェの巣に行ってやるかよ」

 

「強い者はより強い者の下についてこそ真価を発揮する! そう分かれよ蓮太郎」

 

「ざけんな。俺は俺の守りたい者のために戦うんだ。誰かを傷つけるためじゃねぇ」

 

「フン……甘ったれ小僧め」

 

 すっ、と。

 聖天子が静かにドレスの前で手を重ね、背筋を伸ばした。

 

「斉武大統領。そろそろ本題に入りたいのですが」

 

 宗玄は舌打ちをしながら「ああ、そうだな」と手を振った。

 

「聖天子様、あなたの主張はわかる。『ハンブルグとブリスベンが大絶滅したから仲良くしましょう』違うかね?」

 

「……っ」

 

「は?」

 

 蓮太郎は呼吸が止まる思いだった。

 今、やつは何と言った……?

 大絶滅だと? この10年なかったことが?

 

「そんな、そんな馬鹿な話があるか! そうだろ!?」

 

 すがるように聖天子に視線を向ける蓮太郎。

 

「それは……」

 

 しかし、目を伏せる聖天子の態度で、宗玄の世迷言が事実なのだと理解してしまう。

 

「うそ……だろ……」

 

「おいおい、まさか世界のトップニュースも聞かされてないのか? ヨーロッパは大慌てでアメリカだって足の引っ張り合いをしているんだぞ、情報弱者め。俺がなんの勝機もなしに将来を語るわけがないだろうが」

 

「まぁ、協力するのも吝かではない。貴様ら東京エリアが俺の支配下になるならな」

 

 

 

 その後たっぷり2時間使って話し合われるも、結局第1回の非公式会談は聖天子と宗玄の政治政策(マニフェスト)は全く相いれないということが分かっただけだった。

 

 

 

 

 

 

「所定の位置につきました。指示を乞います」

 

 小雨と夜風が吹く超高層ビルの屋上。

 年端もいかぬ少女が無線の先に語り掛けていた。

 彼女の傍らには容姿と似合わぬほど大きな鉄塊――.50 Cal(ブローニングM2重機関銃)がある。

 それは機関銃でありながら、スコープと三脚によって2kmもの有効射程と使用弾が優れた弾道特製を持つ狙撃銃に変貌する。

 加えて小さな機械――シェンフィールドが周囲の空を監視していた。

 脳波コントロールされたドローンがリアルタイムで視界を少女に提供する。

 

『目標がチェックポイントを通過したよ。そろそろ見えるんじゃない?』

 

 通信機から聞こえる声に従い、射撃姿勢を取る。

 シェンフィールドから送られてきた映像は確かに目標を捉えていたが。

 

「目標を捕捉……あれは?」

 

 少女をして、その存在は予想だにしないものだった。

 

 

 





・斉武 宗玄
過激派おじさん
その正体は日本を支配しようとする秘密結社の一員だった!?
ヒトラーの有名な話はユダヤ人少女と仲が良かったというものだが


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