幼女に厳しい世界で幼女になった   作:室戸菫はかわいい

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今日はコミケだとか。
ブラブレの作品とかまだあるのだろうか




山猫は眠らない②

 

 

 

 帰りのリムジンは重苦しい空気に包まれていた。

 外がすっかり宵闇に染まっているのも理由のひとつだろう。

 

 あまりに沈黙が続くので、いたたまれなくなった蓮太郎は膝上で眠っている延珠を撫でる。彼女はにへらぁとだらしない笑みを浮かべた。

 

 対面の聖天子は窓の外の闇に向かって鬱っぽい表情を浮かべている。

 これで5エリアの代表全てと話をしたことになるが、この様子だと他の元首との会談もあまり期待通りにはいかなかったようだ。

 

 車が信号で停止したのを皮切りに、蓮太郎は口火を切ることにした。

 

「……なぁ、聖天子様。俺はあんたをちょっと見直してたんだよ。それなのに……なんで、あんな大事なことを公表しねぇんだ」

 

 その言葉にゆっくりと顔を動かし、聖天子は蓮太郎と視線を合わせる。

 

「……里見さん。それを国民が知って何があるというのですか?」

 

「それは……」

 

「ただいたずらに国民の不安や恐怖を煽ることが正義だと、そう仰りたいのでしょうか」

 

「ちげぇよ。俺は……何も知らずにいるのが嫌なだけだ」

 

「それはあなたの感想で合理性はありません。それともドイツやオーストラリアに出向いてガストレアを倒して来ていただけるのでしょうか」

 

「それは……だとしても……」

 

 蓮太郎自身、己が馬鹿げたことを言っていると理解していた。

 隠し事をされた子供の癇癪に過ぎないのだろう。

 ただ聖天子を糾弾する口実を得たいだけだったのかもしれない。

 クソッ。

 自己嫌悪に陥りそうだった。

 

 そんな蓮太郎の態度を見て、聖天子は小型の冷蔵庫から桃果実のジュースを取り出し、グラスに注いだそれを渡す。蓮太郎は躊躇しながらも受け取った。

 

 一口、二口と嚥下すれば冷たい糖分が五臓六腑に染みわたり、マトモな思考力が返ってくる。

 

「……悪りぃ。アンタにも訳があるんだろ」

 

「いえ……あなたのそういう感情的なところ、私は気に入っているんです」

 

「……褒めてるんだよな?」

 

「もちろんです。私の周りにハッキリ物を言う人はいないので新鮮に映ります」

 

「……結構酷いことを言った覚えがあるが、許してくれてたのはそういう理屈か」

 

 蓮太郎は蛭子影胤テロ事件の時に不敬罪で首を刎ねられそうなことを言ったが、まだ首が繋がっている理由を知った。

 

「でもよ、護衛官より民警を近くに置いちまっていいのか」

 

「あの人たちは……目つきが怖いときがあるので……」

 

「……俺も似たようなもんだろ」

 

「里見さんの場合は違います。なんと言えばよいか……そう、瞳がキレイなのです。確かに覇気のない顔立ちをしていますが、それすら水晶のような煌めきを引き立てているものと思えます」

 

「……そうかよ」

 

 あまりに聖天子がまっすぐ見つめてくるものだから、蓮太郎はいつもの悪態をつきそこなった。気恥ずかしさを覚える。

 

 同時に目といえば少し思い出すことがあった。

 自分を正しいと言ってくれたあのイニシエーターはどこにいるのだろうか。生きているのか死んでいるのかもわからない。自分はあの時よりも自信を持っているのだろうか。

 

 黙った蓮太郎に何を思ったか、聖天子は咳払いをする。

 

「ところで、斉武大統領に諸外国が接触して『様々な支援』をしているという噂はご存じでしょうか」

 

「噂程度にはな。でも、あんな独裁者を支援して奴らになんのメリットが?」

 

「バラニウムです。斉武さんに日本を武力統一させてバラニウムを安定的に得ようという魂胆だと思われます」

 

 すべての地下資源は偏在している。

 代表的なところで言うとダイヤや金はアフリカ、石油は中東であるが、バラニウムはどうだろう。

 それは世界中の半分程度が日本にあり、中でも東京エリアは31%とずば抜けている。

 諸外国はそれを手に入れるために躍起なのだ。

 

「……あの偏屈ジジイが素直に動くとは思えねえな」

 

「私もそう思います。お互いがお互いを出し抜くつもりなのでしょう」

 

 聖天子は居住まいと正し、透き通る声で告げる。

 

「話は戻りますが、戦後から10年、平和とは言い難くも各国は国力を回復する余裕が出てきました。そんな中で『大絶滅』が起きたとなれば、ますますバラニウムの需要は高まります。どうなるかわかりますか? 里見さん」

 

「……バラニウムを求めて日本にやってくるってか?」

 

 バカな話、とは言い切れなかった。実際、バラニウムがなければ対ガストレア武器もモノリスも作れないのだから。

 

「その通りです。『資源の呪い』に導かれて様々な国がコンタクトを取ってくることになります。そして次世代の戦争とは弾道ミサイルや航空機の爆撃ではなく、強力な民警を送り込んでの暗殺や破壊工作なのです」

 

「……それはテロと変わらねぇじゃねえか」

 

「民警が世界の軍事バランスを崩してしまった以上、当然の帰結なのです」

 

「俺たちはテロリストじゃねぇ、市民を守る民警だッ!」

 

 蓮太郎は苛立ちのまま足踏みする。

 

「わかっています。しかし、動き出した針はもう止められないのです。仮に東京エリアだけが止まったならば世界の食い物にされるだけでしょう。そういう意味では斉武大統領の話は事実ではあるのです」

 

「あんな……あんな奴の肩を持つのか、アンタ」

 

「その言葉が出るということは、わたくしの今までの活動は実を結んでいないということなのですね」

 

 悲しそうな表情をする聖天子に蓮太郎は言葉を返せなかった。

 

「わたくしは侵略などという卑劣な行為をしませんし、暗殺や謀殺に膝を屈しません。その結果、騒動の渦中で(たお)れるかもしれませんが、それでも越えてはならぬ一線はあるのです」

 

「どうしてそう、後ろ向きなんだよ」

 

「戦争で犠牲になるのはいつも子供と老人だからです。わたくしは戦後の混乱期、お母様と東京エリア各地を巡って愕然としました。身動きすら取れず病に倒れた子供たちが、わたくしが微笑みかける時だけは懸命に微笑み返すのです。しかし彼らは翌日には冷たくなってハエが集っている」

 

 聖天子は身を震わせながら祈るような姿勢で言う。

 

「わたくしには叶えたい夢があります。東京エリアの領土をガストレアから取り戻し、すべてのエリアと土地を直結させるという夢が。そうしたとき、国民は思い出すのです。日本はひとつの国であるのだと。そしてエリアという鳥籠に囚われていた自分を恥じるでしょう。そのためには、あんなことが二度と起きてはならぬのです……ッ!」

 

 『敬愛している。だが許せぬこともあるッ!』

 

――ああ、クソ。今ならわかるぜ、ジジイの言葉。

 

 世界中の人間が子供たちに憎悪を滾らせて実行に移す中、彼女は子供たちを嫌いきれなかったのだ。

 

「早死にするタイプだよ、アンタ」

 

「理想も語れない人間にはなりたくないのです」

 

 蓮太郎はしばし顔を落とすと、延珠の肩から背を撫で、顔を上げた。

 

「世間じゃそういうの、馬鹿正直っていうんだぜ……嫌いじゃねえけど」

 

 聖天子がわずかに頬を染める。

 

「あ、ありがとうございます」

 

 その時、蓮太郎の下顎に激痛が走った。

 

「ごっ!?」

 

 今まで寝ていた延珠が飛び起き、余波でヘッドバットを食らったらしい。

 

「ど、どうしたんだ急に」顎をさすりながら蓮太郎は延珠に問うた。

 

「妾の『蓮太郎レーダー』に反応したのだ」

 

 なんじゃそりゃ。

 蓮太郎が最近の延珠が摩訶不思議能力を身につつある事実にめまいがした。

 

 きょろきょろしていた延珠はやがて聖天子に目を向ける。

 

「蓮太郎はだめだぞ」

 

「あ、あの……?」

 

「蓮太郎はおっぱい星人だから木更より胸がないと女として見られんのだ」

 

「里見さん……不潔です」

 

「言いがかりだよッ!」軽蔑した目で見られた蓮太郎はたまらず否定する。

 

 そのままコメディめいた雰囲気が流れるも、延珠は真剣な表情で蓮太郎を見た。

 

「蓮太郎、なにか、嫌な予感がする」

 

「嫌な予感?」

 

 相棒の勘を信頼して蓮太郎は窓の外に視線を移す。

 雨の水滴が窓から見える景色を歪ませていた。

 その光景に違和感を覚える。

 

――明かりがないだと?

 

 住宅街を走行している今、まだ深夜でもないのだから電気を使う家はあるはずだ。しかしそれがひとつもないというのは妙だ。これでは何も見えない――――。

 蓮太郎の背筋が冷える。

 目撃者が全くいないとなれば、考えられるのは――暗殺だ。

 

 延珠が警戒を強めるように、蓮太郎も最大限に周囲を見回した。

 

 ビルの屋上付近でほんの一瞬、何かが閃いた。

 

――マズルフラッシュ!

 

 蓮太郎は咄嗟に延珠の頭を下げさせ、聖天子を胸に引き込んだ。

 

 瞬間、激甚な厄災がリムジンを襲う。

 

「ぐおぁっ!?」

 

 車は横転し、車内にかかるGで三半規管が錯乱しつつ、やがて車はガードレールに衝突して停車した。

 

 すぐさま戦闘用に思考が切り替わる。

 

「――延珠!」

 

「わかっておる!」

 

 阿吽の呼吸で蓮太郎は聖天子を、延珠は運転手を車から連れ出した。

 

 息をつく間もなく、先ほどまで乗っていたリムジンが爆散。

 熱波と破片から聖天子を庇いつつ、蓮太郎は遮蔽物を探した。

 

 しかしそれよりも早く、再びの閃光。

 

――まずいッ!

 

 聖天子は腰が引けているようで動けない。

 これではどうしようもない。このまま一緒にお陀仏だ。

 

 すまん延珠、俺は――――。

 

 しかし、蓮太郎が辞世の句を詠む必要はなかった。

 

「はず、した…………?」

 

 相手の技量が低かったのだろうか。弾丸は狙い(あやま)った。

 かなり離れたビルからの狙撃を行うなら手練れだと思ったのに。

 

「聖天子様!」

 

 遅れて護衛官たちがやってきて、蓮太郎の思考は一旦打ち止められた。

 真っ青な顔でドレスをきつく握りながら、聖天子は護衛官に囲まれて後退していく。

 

 不意に、フゥゥゥンという奇怪な音が耳に聞こえてくる。

 風が頬を撫でた。

 

――なんだ? 今の音は。

 

 周囲に異常はない。ひしゃげて大破したリムジンの残骸が燃えているだけだ。

 

 延珠が蓮太郎の腕を強く引いた。

 

「なにしてるのだ! ここから離れないと――」

 

「……いや、その必要はなさそうだ」

 

 にわかに出てきた一般人の喧騒をよそに、発射地点と思しきビルを見る。

 目算1kmだろうか。強風、夜間、雨天という環境で狙撃を敢行してきた相手は一体何者か。

 蓮太郎はそれが気がかりだった。

 

 

 

 

 

 

『説明を要求します』

 

 無線越しの声は誰が聞いても怒気を含んでいるものだった。

 

『なぜここにあれが? 民警だってそうです』

 

「知らないよ☆ 聖天子が勝手に雇ったんじゃない?」

 

『ふざけないでください。完全に話が違います』

 

「おかしなことを言うね。それこそティナちゃんの方がよく知ってるでしょ」

 

『まさか……本当にそうなんですか? ありえません……だって、マスターは手を出さないって……』

 

「エイン君がそんな口約束を守ると思ってたの? 可愛いね☆」

 

『そんな……それじゃあ私は……』

 

 

 

 

 

 

「ふぇぇぇ……目が回りますぅ……」

 

「おい……じゃあなんで選んだんだよ」

 

「鳥に……なりたいなって……」

 

 蓮太郎はベンチでグロッキーな少女に肩を貸してやると、彼女――ティナ・スプラウトは嬉しそうにだらしない表情を浮かべた。

 

「ありがとうgAいますy……」

 

「日本語喋れてねえぞ」

 

 休日。

 昼下がりの遊園地は2031年でも子供連れやカップル、学生たちで賑わっており、蓮太郎たちもその一員だった。

 『赤目』だとバレない限りは子供たちでもこうした娯楽施設を利用できるのだ。

 

 しかし……と蓮太郎は財布を開く。

 そこにはウォール街も真っ青な不景気が広がっていて、溜息が漏れた。

 遊園地は入場料がぼったくりレベルで高く、延珠とも数えるくらいしか来たことがなかった。そんな貴重な機会を知り合って間もない少女に使っているというのに……。

 

「ぁぅ……ふぇ……わ……」

 

 当の本人は舟を漕いで今にも眠ってしまいそうだ。

 慌てて彼女は懐からカフェインの錠剤ボトルを取り出すと、中身をそのまま食べようとして――取り落とす。

 どうやら目が回ったままらしい。

 

「わ……」また取り出して、落とした。

 

「うぇ……」また落とした。

 

「んぅ……」落としまくった。

 

「はぁ……」

 

 蓮太郎は錠剤ボトルをティナから横取ると、丸い錠剤を掴んでティナの口元に運んだ。するとティナはひな鳥のように口を開いて食べる――指ごと。

 

「…………」

 

 蓮太郎は何とも言えない表情になった。

 ティナはまた口を開く。催促しているようだ。

 

「なんでそうなるんだよ……」

 

 ティナがいつぞやのパジャマではなく、眼鏡をかけて気合の入ったドレス姿なだけ絵面はマシだろうか。いや、ボタンは掛け違えてるし髪留めの位置もおかしいのでダメかもしれない。

 

「やだ……犯罪……?」「睡眠薬を飲ませてる~」「ふ、不審者……!」

 

 ダメみたいですね。

 

 蓮太郎は現実逃避も含めて過去に思いを馳せた。

 

 

 聖天子暗殺未遂から1週間が経っていた。

 事件直後、有意義な反省会(デブリーフィング)が行われるかと思った蓮太郎の予想を裏切り、ただの責任の押し付け合いが始まったのは記憶に新しい。

 しかもこぞって蓮太郎のせいにしようというのであるから談合を疑った。

 彼らの言いたいことは結局『僕は悪くない!』ということである。子供かよ。

 特に保脇は熱心に情報流出を蓮太郎のせいにしてきたので、本当にもうこの国の中枢はだめなのか? と失望しかけた。

 その場は乱入してきた聖天子が『恥を知りなさいッ!』と一喝したので終了したが、保脇は蓮太郎に熱い視線を送り続けていた。

 どうやら蓮太郎と聖天子が恋仲ではないかと疑っているらしい。

 あんなのでいいのかよ、聖天子付護衛官は。

 

 それともうひとつ。

 暗殺者の目的もはっきりしない。

 聖天子を殺害して何がしたいのか?

 政治・宗教的な理由なのか熱狂的ファンのどちらが主体かもわからない。

 一応、聖居の保管庫に見させてもらったが様々な脅迫状やラブレターもどきが届いているようだった。これに加えてメールボックスも来るのだから探しきれない。

 

 それ以外にも疑問はある。

 あの日以来、蓮太郎は見えない襲撃者のことを考えていたが、ルートを割り出して狙撃という殺意の高い手段を用いていながらなぜあっさり退いたのか疑問だった。

 

 1kmも狙撃できる銃弾となれば相当の威力であり、護衛もろとも聖天子を狙えたはずである。さらにこちらは遠距離を叩く手段がないのだから一方的に出来たはず。

 

 当時の状況も不可解である。

 蓮太郎はのどに小骨が刺さったような違和感を感じていた。

 

 何か、何か手がかりさえあれば――――

 

「んっ……ちゅ……むぅ……」

 

「……何やってんだお前」

 

「ふぇ……」

 

 カフェインは食べ飽きたのか、それともまだ寝ぼけてるのか。

 ティナは蓮太郎の指を咥えていた。

 良くないことをしている気になり慌てて指を引けば、名残惜しそうに彼女は目で追ってくる。

 

「蓮太郎さん……すごい美味しいものがあります……それは私のモノです……くらひゃい……」

 

「これは俺の指だッ、食い物じゃねぇ!」

 

「残念……です……でしたらこっちを……」

 

「待て止まれ、変なことをするな!」

 

 指がだめだと知ると、今度は首元に顔を近づけてくる。

 

「破廉恥な……」「すごいプレイをしているよ~」「ロリコンだわ……」

 

 周りの声がまずい方向に進んでいることに気づき、肩を掴んでティナを止めた。

 

「むぅ……蓮太郎さん、いじわるです」

 

「理不尽過ぎんだろ」

 

 蓮太郎は取り出したハンカチで指を拭いた。

 

 ふと、肩に重りが乗っかったような感触。

 首を傾ければ、ティナが頭を預けて来ていた。

 

「おい、何して……」

 

 言い切るよりも先に、彼女は見上げるように目を合わせ、おもむろに呟いた。

 

「私、蓮太郎さんのこと、好きです」

 

「は、はぁ?」唐突過ぎて面食らう蓮太郎。

 

「私、こんなに外で自由に遊べたのは……初めてで……」

 

 ティナは縋るような瞳で言った。

 

「蓮太郎さん……パパって、呼んでもいいですか?」

 

「いや、それは……まずいだろ……」

 

 いろいろと。

 

「そう、ですよね……」

 

 ティナは目を伏せた。

 途端、蓮太郎は悪いことをした気持ちになる。

 

 彼女と会うのは4回目。

 さすがに関わってしまった以上無下にもできず、『私と会っていることは誰にも言わないでください』なんてベタな条件を突き付けてくる彼女と交流を重ねていた。

 そうなると相手の事情が気になってくるのは人間の常。

 

「なぁ、どうやってここまで来たんだ? 普段どうしてるんだ? お前のこと、もっと知りたい」

 

「私の、こと……」

 

「例えば、保護者がいないって話だが、今までどうしてたんだ?」

 

「私は……その、施設で育ったので……」

 

「……っ、そこはいいところか?」

 

「はい。姉さんと、みんなと……楽しかったです」

 

「じゃあ、普通その施設長が保護者になるんじゃないのか?」

 

「それは、私が……」

 

 言葉が途切れる。

 

「ティナ?」

 

 蓮太郎がティナの表情を覗き込んだ。

 虚ろな目でガタガタと震えている。

 

「私だけが……私だけが外で、遊んで、こ、こんなの……」

 

 急に泣き出したティナに蓮太郎は狼狽える。

 

「お、おい、大丈夫かよ」

 

「蓮太郎さん……私、私はどうしたら……」

 

 胸に縋りついてくる少女。

 大丈夫だと言いたいが、何も事情を知らない人間が言ってなんの意味があるのか。

 蓮太郎は手を彷徨わせる。

 

「け、警備員!」「女の子泣かせた~」「なんて大胆な……」

 

 しかし周囲の目もあってそのままとはいかず。

 蓮太郎はティナを連れて遊園地を後にした。

 

 

 

「ごめんなさい、急に……」

 

 ティナはドレスの袖で涙をぬぐう。

 

「いや、大丈夫だが……あー、なんだ。あんま、溜め込むなよ」

 

 言うべき言葉が浮かんでこなくて、蓮太郎はありきたりな言葉しか返せなかった。

 それでもティナは影のある笑顔を見せる。

 

「ありがとう、ございます。……また、会えますか?」

 

「あ、ああ。呼んでくれりゃ時間を作るよ。もういいのか? まだ時間は――」

 

「いいんです。今日は……」

 

「そう、か」

 

「はい……では、また……」

 

 丁寧に一礼をして去っていく彼女の背を、蓮太郎は長い間見ていた。

 するとその直後、メールの着信音。

 差出人は未織で、至急来いという連絡だった。

 

 

 

 

 





どっかの誰かのせいで見捨てる判断が出来なかった罠。


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