幼女に厳しい世界で幼女になった   作:室戸菫はかわいい

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この世界の8/15はどういう扱いなんだろね




山猫は眠らない③

 

 

 

 

「未織―! 開けなさい、デトロイト()()よ!」

 

 木更がドアを蹴破ろうと努力している中、蓮太郎はパトロン兼生徒会長の司馬未織と共に、勾田高校の生徒会室に居た。

 とはいえただの生徒会室ではない。司馬重工が未織のために用意した特注のオペレーション・ルームだ。

 50を超えるホロディスプレイには株価や政治・経済ニュースが所狭しと映されている。

 

 蓮太郎は彼女に今回の『聖天子狙撃事件』の調査を依頼していた。

 兵器に詳しい未織に言わせると今回の狙撃は神業なのだという講義を受けたり、実は民警は政府の首輪付きで疑似階級があったなどと知らされたり、昔の自衛隊は格好良かったなどという感想を聞いた後。

 

 未織が操作すると、それらは別の映像に切り替わる。

 

「そうや里見ちゃん、妙なことがあったんよ。昨日の事件現場、急な停電にあっててな? そんでこれなんやけど」

 

「なんだ? これは……」

 

 未織が再生したのはSNSに投稿されたひとつの動画だ。

 「鬼火見つけたったwww」というコメントがつけられている。

 

「ウィル・オ・ウィスプみたいだな」

 

 人の頭サイズの鬼火めいた赤い塊がひとつ、奇妙な動きをしていた。

 虫のように俊敏に動いたかと思ったらカメのようにゆっくり動いたりもする。

 しかし、よくできた合成と言われたらそうと思える程度だ。

 

「これ、どうやら赤外線カメラで撮ったみたいなんよ」

 

「一般人が赤外線カメラだって?」

 

「なんやそういう趣味の人だったようや。そんでこっからが気になるんけど」

 

 未織はまた画面を操作した。

 

「この動画、もう削除されとるんよ。なんなら、投稿してたアカウントも削除されとる」

 

「はぁ……?」

 

「なーんかクサイんよなぁ、これ。アカウントはいわゆる日常的に使われてたもので、その日まで普通の投稿があったんやわ。それなのにまとめて消すとなると……見られちゃいけないようなものを見られたような……そんな厄ネタの香りがすんで」

 

「よく保存できたな」

 

 鉄扇を広げ、口元を隠す。

 

「まー、運がよかったんよ。そんで里見ちゃん。コレ、どうやら現場方向に向かってたようやけど、実際に現場でこんなものを見た?」

 

「いや……こんな動きをする奴、絶対目立つだろ。俺は見てねぇよ」

 

「やっぱりぃ? 現場写真にも写ってないし、なんか変なんよなぁ。そんでコレが関係するかは知らへんけど、里見ちゃんの言ってた2発目の銃弾は何もないところを撃っててな。最初に言うたけど、1km近い狙撃をこなす神業狙撃兵がなんの理由もなく外すとは考えにくいんよ」

 

「つまり、あの狙撃手は別のものを狙ってたって言いたいのか……?」

 

「さて、そこまでは。でも里見ちゃん、この事件……ただの護衛任務って訳には行かないかもしれない。気を付けてな」

 

「あぁ……わかってんよ」

 

 胸騒ぎを覚えながら蓮太郎が考えに浸ろうとした時、「やっと開いたわ! 覚悟しなさい蛇女!」木更が乱入してきて思考は中断された。

 

「あんらぁ……一足遅かったで木更?」

 

 未織は和服の袖を口元に持ってきて、しおらしいポーズを作る。

 

「な、なによ……何が遅かったって……」

 

「いんやぁ? なんにもあらへんで。ほんと、ほんとなぁんにも。ただ、ウチのコトを里見ちゃんはいたく気に入ってくれたみたいでな? それ以外は本当に。本当に何にもないんよ。それじゃあウチはこの辺で……里見ちゃん、またなぁ」

 

 言うだけ言って、未織は生徒会室を出て行ってしまった。

 

「お、おい……何言ってんだ未織……」

 

「ふ、ふふ……ふふふ……里見君……」

 

 殺人刀・雪影をカタカタ鳴らしながら近づいてくる木更に、蓮太郎は思わず後退る。

 

「き、木更さん……これは違うんだ……話せばわかるッ!」

 

「問答無用! 蛇女の血、私の血で全部洗い去ってあげる……ッ」

 

 再び蓮太郎の携帯がなるまで、ふたりの取っ組み合いは続いた。

 

 

 

 

 

 

「今日は呼び出されてばっかだな……」

 

「そんなに疲れたのか?」

 

「いや、まぁ……な」

 

 結局あの後サトミ虫とキサラ蝶とかいう、どう見ても自分たちがモデルの話で皮肉られた蓮太郎は、言われた通り室戸菫の地下研究室までやってきた。

 道中で延珠と合流している。

 

 清潔な廊下を抜け、地下への階段を進めば芳香剤の匂いが迎え出る。

 中から成人女性と少女の声がするので不在というわけではないならしい。

 

「せんせ、入るぞ」

 

 悪魔のバストアップが刻まれた人除けをくぐると、大の字で笑い転げる菫がいた。

 彼女はテーブルの上で暴れており、ビーカーや試験官が床に落ちてパリンパリンと割れていく。

 

「ハハハハハ! 里見くん、この記事は面白いぞ! ヤクザのくせに月の土地を地上げして回ってるんだ。エイプリルフールネタに騙されたとも知らずに……ハハハハハッ」

 

「先生ぇ、それ片付けるのアタシなんだよぉ? もうちょっと労ってくれないかな☆」

 

 その隣には三角巾を頭に着けて箒をもったアルもいた。彼女は床に散らばったガラス片をせっせと集めている。

 

「ならもっと散らかしてやろうじゃないか。喜べ、君の存在理由が増えたぞ」

 

 無情か、菫はお構いなしにまた割った。

 

「も~!」

 

「ははは! その調子で牛になってしまうといい」

 

「なんだこれは……」蓮太郎は早くも帰りたくなった。

 

「菫、それにアルも! 遊びに来たぞ~!」

 

 一方の延珠が嬉しそうに手を振れば、2人そろって彼女に向き直る。

 

「いらっしゃい☆」

 

「里見くん、延珠ちゃん。私の悪夢へようこそ。歓迎するよ」

 

「アタシを抹消しないでくれる?」

 

 菫はアルを無視して延珠と蓮太郎の顔を交互に見た。

 

「里見くんは剥製よりミイラだな。木更ならミイラより剥製。そして延珠ちゃんは……ミイラでいいな、うん」

 

「む、いま妾のどこを見て言ったのだ?」

 

「誰でもいいから早くミイラか剥製にできる死体が出来ないものかな。癒しがなくて死にそうだよ」

 

「アタシは? アタシは?」

 

「おや忘れてた里見くん。相変わらず不幸そうな面をしているねぇ見ているだけでうつ病になりそうだ。悪いんだが、明日までに整形してきてくれないか?」

 

「そんなに俺は絶望的かよ!」

 

「アタシいらない子……」

 

「お主、大丈夫か」

 

「おお……延珠ちゃんは天使だぁ☆」

 

 いじけたアルがコーヒーを作り始める一方、菫は蓮太郎に話を続ける。

 

「今回は護衛なんだって? 面白いことをしているじゃないか」

 

「耳が早いな」

 

「まぁね。しかし私はそっち方面には詳しくないが、今回の相手は狙撃手だとか」

 

「ああ。1km先からぶち抜いてくる凄腕だ」

 

「へぇ。なんだ、その程度なら君にも出来そうじゃないか。二階の窓から双眼鏡で幼女を追いかけ回す集中力と温泉で親子連れが入ってくるまで何時間でも湯につかっている驚異的な忍耐力を合わせもつ男だからね。名づけるならラブ・スナイパーかな気持ち悪い死ねこのロリコンが!」

 

「事実無根じゃねえか」

 

「そうだったのか、蓮太郎ッ」「蓮太郎くん……やるね……☆」

 

「違うそんな変な目で見るな! てかアパートの住人にいきなりつばをかけられるハメになったのは延珠に余計なことを吹聴するからなんだぞ!」

 

「計画通りじゃないか。我ながら自分の才能が恐ろしいよ……」

 

「アンタ人間の屑だな!」

 

「君が社会的に破滅していくのは愉悦の極みだからね。ファハハハハ」

 

 蓮太郎は絶句する。

 その時コーヒーが注がれたカップが蓮太郎と延珠の前に置かれた。

 

「あれ? そういや延珠ちゃんってコーヒー大丈夫だっけ」

 

「うむ! 蓮太郎がコーヒーを飲めない女とは結婚しないと言ってたからな」

 

「えぇ……カフェインの過剰摂取は体の成長を妨げるんだよ? まさか蓮太郎くん、そこまで計算して……策士だね☆」

 

「お前までやめろほんと……ただ延珠が真似をしているだけだ」

 

「ほんとかなぁ……一応ミルクとシュガースティック置いておくね☆」

 

「おお、ありがたい!」

 

 2人が着席するのを見届けた菫は頬杖をついて声のトーンを落とした。

 

「さて、遅れたがまずはおめでとう。君は蛭子影胤という元ランカーを打倒し、序列の階梯を駆け上がった。しかし同時にこれからは好むと好まざるに関わらず、君に接触してくる人間がいるだろうから忠告と知識を授けようじゃないか」

 

「なんでそんな上からなんだよ」

 

「勿論偉いからだが? 君はまだ高校生だから知らないだろうが、私は博士(ドクター)だぞ? いくつ論文を上げたと思ってる」

 

「ああそうかよ……で、話ってなんだ」

 

「せっかちだなぁ君は……まあいいだろう」

 

 菫は『機械化兵士計画』が日本以外にもアメリカ・オーストラリア・ドイツで行われていたことを語る。そしてその顛末も。

 蓮太郎は寝耳に水だった。

 

「機械化兵士創造ノウハウを持っているのはアメリカのエイン・ランド、オーストラリアのアーサー・ザナック。日本の私。そしてそれらの最高責任者がドイツのアルブレヒト・グリューネワルトの4人だ。『四賢人』だとか『四天王』とかと言われたこともある」

 

「『四賢人』……?」

 

「ああ。アメコミよろしく世界中からガストレアに対抗できそうな頭脳を集めたのさ。しかしな、結論から言うと我々は協力などしなかった。私含めてな」

 

「――なぜ?」

 

「君にわかるか? 自分より優れた人間などいないと驕っていた時に突然自分と同等かそれ以上の天才が3人も現れたんだ。それに、丁度私の恋人がガストレアに殺されたのだからまともな思考はしていなかったな。そのころの私を君は知ってるはずだ」

 

「…………はい」

 

 途端、ゾクリとした寒気が蓮太郎を襲う。

 一瞬だけアルが蓮太郎を睨んでいるように見えた。

 

「話を戻そう。結局、最後まで心が通じ合わなかった我々は『個々人が自分のノウハウを駆使して機械化兵士を作った』。しかし結果はお察しの通りだ。なぜかね?」

 

 蓮太郎が身を固くした延珠を見遣った時、答えは唐突に言われた。

 

「アタシたちが生まれたから☆」

 

「……今のは里見くんに聞いたんだがな。まあいい」

 

 菫は続ける。

 

「さて雇用を子供たちに奪われた兵士たちはどこへ行ったのだろうか。答えは民警だよ。強いプロモーター(機械化兵士)と強いイニシエーターのタッグは恐ろしいほどの戦果を挙げて、そのほとんどが超高位序列者の椅子に座っている。もう意味は分かるね?」

 

 蓮太郎は乾いた唇をゆっくり舌で湿らせながらうなずく。

 

「普通に民警をするなら問題ないが、自分の出自を探ろうとするなら……必然的に、彼ら3人が作り上げた機械化兵士のプロモーターともぶつかることになる。気を付けろよ、彼らの能力は我々の想像を超えた進化を遂げているかもしれないぞ」

 

 いつの間にか、蓮太郎は背筋を正していた。

 冷や汗が頬を伝い、ゆっくりと酸素を肺に送り込んだ。

 

「しかし安心したまえよ、君は既にグリューネワルト(おう)の機械化兵士を1体倒している」

 

「……蛭子影胤か?」

 

「その通り。彼だけは自国に研究ラボを持っていなかったから他の国に研究施設をもっていたんだよ。そしてその中の日本で造られたのが蛭子影胤というわけさ」

 

「あんなのがまだいるのか……」蓮太郎は当時の戦いを思って胃が重くなる。

 

「グリューネワルト翁は我々の中でも頭一つぬけた天才でね。私でも設計図を解読しきれなかったくらいだ。つまり他の機械化兵士は君より弱いとも言えるかもしれないぞ?」

 

「言ってることがさっきと逆だぞ先生……というかそんな(すげ)ぇ奴だったのな、アンタ」

 

「単に知識の量が違うだけだよ。たしかに検死や解剖は好きだがそれだけだ。本来私に専門分野というものはないのだよ。すべてが私の専門分野さ」

 

「先生ぇ、いつもその顔してたらかっこいいのに☆」

 

「余計なことを言うな」

 

 横から頬を突っつくアルの手を鬱陶しそうに弾いた。

 蓮太郎も延珠もスケールのデカさに驚きを隠せない。世界的権威と目の前の映画と18禁ゲームにハマった年齢不詳の女がイコールで結びつかなかった。

 

 菫は溜息を吐いて話題を切り替えた。

 

「ところで知ってるかい里見君? 最初期のギャルゲーは主人公の頭が顔が良くなきゃヒロインたちに見向きもされなかったんだよ。まぁ、ゲームのくせに夢も希望もないから他のゲーム会社は追従しなかったがね」

 

「……何の話だ?」

 

 18禁ゲームマニアの女医は胸ポケットのボールペンを抜き、トントンと机を叩いてニンマリ笑った。

 真面目な話は終わったらしい。

 

「いやね、木更とはどこまで行ったんだい? 木更は君みたいな不幸面の虫マニアにはもったいない物件だよ。まだ目立った彼氏がいないのが不思議なくらいでね。君はもっと焦りたまえよ? 口調の割にフェミニストだが、女性の躊躇をあえて押し切って相手を獲得するだけの征服欲というものが欠如している。それは君の欠点だよ、里見くん」

 

「そう、こんな風にね☆」

 

「君はくっつくな鬱陶しい」

 

 アルが菫の腰に抱き着いたのを見て、延珠は蓮太郎を見た。

 

「や、やめろよ延珠。な? わかるだろ(OK)?」

 

わかった(OK)!」

 

「ぐふっ……」

 

 延珠ミサイルが腹部に直撃し、蓮太郎は肺の酸素を失った。

 一方の延珠は満足そうにしている。

 

「蓮太郎くんは~、もっとレディの扱いを覚えなきゃいけないんじゃないかな☆」

 

 額を手で押さえられながら、アルは蓮太郎に向かって言う。

 

「そうだぞ、妾をいつも邪険にして……」

 

「してねぇよ、お前が距離近すぎるんだろ……」

 

「おやロリコンとは思えない口調じゃないか里見くん」

 

「誰がロリコンだ、誰が!」

 

 蓮太郎は激怒した。必ず、かの邪知暴虐の王を以下略。

 

「でもさぁ、実際問題、それじゃどこかのお嬢様は振り向いてくれないぞっ☆」

 

「う、うっせーな。かんけーねーだろ……」

 

 面白くなさそうな顔で見上げる延珠にバツが悪くなって顔をそらす。

 

「いいや、関係大ありだね。木更ちゃんのおっぱいって凄い揉み心地よさそうだよね☆ 毎日あれが揉めたらさぞ幸せな一日になるって思わない?」

 

「は?」

 

「時代は肉食なんだよ? 人口が激減した世の中じゃ産めよ増やせよ(セックス)が正義なの。草食系なんて20年は時代遅れだよ~。蓮太郎くんも男ならガツガツいかなきゃ!」

 

 こいつ、ほんとに10歳児か? 先生はどういう情操教育をしている?

 蓮太郎は訝しんだ。

 

「……いいんだよ。俺は俺の、木更さんは木更さんのペースがあるんだからな」

 

 至極真面目に語った蓮太郎をアルは笑った。

 

「ぷぷっ……それ、寝取られるオタクくんの言い分そっくりだよ」

 

「はああ? どこがだよ。というか誰が木更さんを……」

 

 不意に、蓮太郎は木更が勾田高校にやって来た時のことを思い出した。

 多数の男子が彼女の一挙手一投足に注目しており、なんならその場で告白までしようとした者がいたくらいだ。

 

「おや? 心当たりがあるみたいだね☆ そうしたら君の知らぬ間に蓮太郎くんとは真逆のチャラチャラしたイケメン金持ちに言い寄られちゃったりしてるんじゃないの~? それで君が意を決して告白しようとした頃には『ごめんね……里見君……』ってメールが届くんだ☆」

 

「アル、私は君の想像力にドン引きだよ」

 

「ええっ! エロゲ三昧の先生ぇと一緒に居たらこうなるって☆」

 

「なんか……妾もそういうのはちょっと……」

 

「えっ!?」

 

 菫も延珠も引いていた。

 

「…………木更さんは、そんな奴には靡かねえよ」

 

 不思議と乾いた口から、かろうじてその言葉を絞り出す。

 

「ほんとかなぁ、ほんとかなぁ……天童民間警備会社はお金持ちなの? 古今東西お金が結婚理由なんて珍しくもないんだよぉ?」

 

「そんな、馬鹿な事……」

 

 脳裏をよぎるは、野良犬にあげようとしたビーフジャーキーをかっさらった木更の必死な形相。悔しいが食事にも困窮しているのは事実。というか今日もモヤシしか食べていないはず。

 

 金や食べ物で木更さんがつられる?

 まさか、そんなわけがない。

 蓮太郎の心は必死に否定するが、頭は想像をやめてくれなかった。

 髪を染めてキラキラした装飾品で身を固めた男と街を歩く木更の姿――彼女は映画館で憧れのロマンス映画を見る。その後はビルの最上階の高級レストランで食事をして、月が綺麗に見える海沿いの道を歩いて告白されて――そこまで想像して、呼吸は早くなり、胃がキリキリと痛んで吐き気までする。

 そこは俺の居場所だ――――まて、今何を考えた?

 変なことを吹き込まれたからだろう。そう断定して蓮太郎は頭を振る。

 

「あらら? 青ざめたね……想像したんだ?」

 

「そんな、そんな未来は来ねえ、来てたまるか……」

 

「じゃあチャラ男君に言い寄られる未来はなかったとして……君が草食でいる限りアタシは木更ちゃんを狙っちゃおっかな☆」

 

 どこかの兄貴みたいな宣戦布告を聞いて、蓮太郎はハッとした。

 

「お前……まさか()()()か?」

 

 アルはにんまり笑う。

 

「男の人は男の人同士で、女の子は女の子同士で恋愛するべきだと思うよ☆」

 

 その言葉を聞いて蓮太郎の意識は急に上向きになる。

 

「ばっ……お前、延珠に手を出そうってんじゃないだろうな……!」

 

「ん~? それはどうだろうね☆」

 

「やめろよお前、延珠に変なこと吹き込むなよッ」

 

「やぁだ☆ そんな心配なら娶るなり養子にするなりしちゃえばいいのに」

 

「できるわけ……ないだろ、年齢を考えろよな」

 

「え? できるよ?」

 

「できるのかッ!?」

 

 アルの言葉に延珠が食いついた。

 

「児童婚って言ってね? アフリカとかだと未成年と結婚するのも合法なんだよ」

 

「おや、アル。よくそんなことを知ってるな」菫が関心したように言う。

 

「まぁね☆ アタシだって勉強するんだよぉ」

 

「まぁ、その話を正確に言うなら風習に近いな。摘発する法がないから違法じゃない、というわけだ」

 

 菫は延珠がいるからか珍しく配慮のある言い方をした。

 

「ん……つまり、アフリカに行けば蓮太郎と結婚できるというわけなのだな?」

 

「結局のところはそういうことだね☆」

 

 延珠は強い意志を以て言った。

 

「よし、蓮太郎! この仕事が終わったら妾たちは結婚するぞ!」

 

「それ、いろいろやばい発言だからやめろ!」

 

「なぜだ~!」

 

「まずおいそれと外国に行ける状況じゃねえだろ……というかお前2年待つって言ったじゃねぇか」

 

「それはそれ、これはこれなのだ」

 

「便利な言葉覚えやがって……」

 

 アルが咳ばらいをする。

 

「と、いうことで木更ちゃんが心配ならさっさと会いに行って愛を囁いたらどうかな?」

 

「……ッ! クソ、なんだってんだほんと……」

 

「恋のキューピットしてるだけだよ☆」

 

「まぁ、君が愛を囁くかは別にしてだな里見くん。私は延珠ちゃんと話すことがあるから君は帰り給え」

 

「は? 先生、まさか」

 

()()()じゃない」

 

 懸念していることではないようで蓮太郎は安堵する。

 

「…………そう、か。なら俺は行くよ……延珠、ひとりで帰れるか?」

 

「うむ、問題ないぞ」

 

 蓮太郎は抱き着いている延珠の頭をひと撫でしてから、後ろ指を引かれる思いで大学病院を後にした。

 

 

 

 





書ききれなかったから山猫はもうひとつ続く。


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