幼女に厳しい世界で幼女になった   作:室戸菫はかわいい

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今が全部じゃない、何度だって生まれ変わるの




Safe→?

 

「心配するな。私にも、死ぬ時が来ただけだ」

 

 

 

 陽光も月光も差し込まない地下室は、カチカチと音を立てる時計によって夜が証明されていた。

 

 菫は自分のベッドに誰かがモゾモゾと侵入してきたのを感じ、タオルケットを捲る。

 

「えへへ、来ちゃった☆」

 

 すると蛇のような巻き付き方をするアルが伸し掛かっていた。

 冷めた瞳で少女を見つめる。

 

「呼んでないぞ」

 

「先生ぇのゲームにこんなのがあったし、好きかなぁ~って思ったんだけど?」

 

「君だと欠片も胸がときめかないな」

 

「えぇ~、残念☆」

 

「それより暑苦しいから降りてくれないか。というか自分のベッドに帰れ」

 

 言いながら引きはがそうとするも、アルは両手で胴を抱えて抵抗した。

 

「やだ。先生ぇの匂い、もっと嗅ぎたい」

 

 それどころか額を押し付けて深呼吸を始める始末。

 温い体温と生暖かさが不快で菫は身をよじる。

 

「だいぶ気色悪い発言だぞ」

 

「気にする人間はいないからいーの」

 

「いるだろここにひとり」

 

「アタシの視界にはだーれもいないよ~」

 

 菫は天井を見上げた。

 溜息をつきたい気分だ。力を使ってまでそんな私にしがみつきたいか。

 やはりこのちびっこは面倒な性格をしている。

 

「人肌恋しいならそう言え」

 

「違うし」

 

 うつむいたままアルは答えた。

 

 そのまま時が過ぎる。

 

 根比べに負けたのはアルだった。

 

「先生ぇ。あの時のお願いは本当(ホント)にあれでよかったの?」

 

「何がだ?」

 

 アルは顔を上げ、探るような視線を向けた。

 いつもの調子に見える。

 

「患者の心配は先生ぇらしくて好きだけどさ~ぁ? アタシにあ~んなことやこ~んなことするチャンスだったんだよ~? 今からでも遅くないからぁ……やっちゃお?」

 

 挑発的にナイトウェアの胸元を揺らす。

 一方の菫は額に眉を寄せた。

 

「目に見える地雷を踏むわけがないだろうよ」

 

「む~、アタシが地雷だっての? 確かにファッションセンスは地雷系かもだけど、そこまでいうことないじゃん。碌な成果を報告してない先生ぇのためを思って言ったんだよ? せっかくアタシの秘密をひとつ解明したんだからさ、この調子でどんどん見つけちゃえばいいじゃん」

 

 唇を尖らせて抗議すると、菫はげんなりする。

 

「夜中に早口はやめろ…………確かにお前が別の自分と自意識を共有していることは驚異的だがな、それを報告して私に何の利益が上がるんだ。人力通信機だ凄いね、で終わると思うか? 私は思わん。そして面倒ごとがやって来た時、その被害に遭うのは私なんだよ。世界の趨勢に興味なんてないのに、巻き込まれるのはごめんさ」

 

「その論調だとアタシを捨てればよさそうだけど?」

 

 少女の視線に、如何にも短絡的だな、と菫は嘲笑する。

 

「残してしまったものは消えんから捨てても捨てなくても変わらん。大衆は面白い人間が見つかるとその周囲ごと嗅ぎまわるのが大好きな生物だからな。ここがこれ以上五月蠅くなれるのは困る」

 

「ふ~ん? そっかぁ……ふふ。先生ぇは功績よりアタシを取ってくれるんだね☆」

 

「都合のいい解釈をするな。だいたい、お前が最初から話していればこう面倒な考えをすることもなかったんだぞ」

 

 にやけた面を菫は小突いた。

 

「えへへ☆ お詫びにぃ……ひとつお願いを聞いてもいいよ~?」

 

「こいつ……終わらす気がないのか……」

 

 無限ループを察し、うんざりした菫は思いついたことを話す。

 

「ならばアル、君はミイラの経験はあるか?」

 

「ミイラ……? さすがにないよ~」

 

 当然か意外か、アルは否定し、菫は頷いた。

 

「奇遇だな。私も作ったことがないんでね、里見くんをミイラにする前に経験を積んでおきたいと思っていたところだったのさ」

 

「むぅ……蓮太郎くんの練習台っていうのが気に食わないんだけど」頬が膨らむ。

 

「おや? ミイラ自体はいいのかな?」

 

 虚を突かれたような表情になる菫だが、その理由に呆れることになる。

 

「ミイラってあれでしょ? 鼻から棒を突っ込んで脳みそをぐちゅぐちゅほじくり出すっていう。先生ぇがやってくれるならすっごく気持ちよさそうだしいいかなって☆ それにぃ、アタシが先生ぇの部屋にずっと残るんでしょ? ずっと見ていられるじゃん」

 

「それは金と防腐技術の問題があったからだ。今だと脳は特殊液で溶かす方法になるし、飽きたら捨てるから君のお望み通りにはいかん」

 

「え~、そんなぁ。…………でも脳が溶ける……それはそれで気持ちいいかも」

 

「……提案したのは私だが、いざ乗り気になられると気持ち悪いな」

 

「あは☆ 先生ぇは生きてる(いずれ死ぬ)アタシより死んでいる(死なない)アタシの方が好きなんでしょ? だったら叶えてあげるのが相棒()のやくめだよ」

 

 一瞬、脳裏に過ったIF.(たられば)を菫は首を振って否定した。

 

「……勝手に娘を気取るな。君は手がかかりすぎて話にならん」

 

「むぅ、まだそこまで行けないかぁ~」

 

「残念ながら一生無理だな」

 

 と、そこで菫は服の下でもぞもぞ動く腕を見つめた。

 いつの間にか背中にあった腕が移動している。

 

「……なぁ、アル。君の手癖が酷いのはもう知っている。気づかれないと思ったか?」

 

 真顔でアルが答えた。

 

「なにが? ただの寝る前のマッサージだよ。いつもしてるじゃん☆」

 

「今までビクビクやってたクセに開き直ったな。似非(エセ)科学を私に試そうとはいい度胸だとは思わんか?」

 

「でもぉ、先生ぇのおっぱいはまだ大きくなるって!」

 

「答えになってないぞ。大体、20年もすれば朽ちる体になんの期待をしているんだ」

 

「わかってないなぁ、先生ぇ。肉体があるから……ふふっ、ヤれるんだよ☆」

 

 アルはどや顔でそう言った。

 菫は哀れみの目で少女を見る。

 

「脳が肉欲に支配されてしまったか」

 

「人生に活力を与えてくれる重要な要素(ファクター)だもん。なくせないよ!」

 

「私に縁のないものだな」

 

「エロゲやってるのにその発言は無理があるでしょ」

 

「エロゲでも10歳児はそこまであけっぴろじゃあないんだよ」

 

「アタシが淫乱ピンクだっての?」

 

「ほかにどんな言い方がある?」

 

「……先生ぇだけの淫乱ペット」

 

「悪化してどうする」

 

「ふふ、本当になってもいいんだよ? また首輪繋いでくれたら」

 

 光を失って恍惚とする表情に、菫は拒否反応が出た。

 

「やめやめろ。今以上に面倒くさくなるな」

 

「え~。枯れた先生ぇの生活をアタシと甘いコトして潤してあげようっていうのに」

 

「無用なお世話だ、マセガキめ」

 

 菫は緩んだアルの腕をはぎ取った。

 

「むぅ、でもそんな意地悪(いけず)な先生ぇも好き」

 

 手を握って上目使いで言うも、菫はそっけない態度を示す。

 

「そうだな、よかったな」

 

「うわ、棒読み……あ、そうだ。明日蓮太郎くんたちと遊びに行ってくるね?」

 

 菫はアルの頭を掴んだ。

 

「……おい、いい加減君は事前に家主(かいぬし)の許可くらい取りたまえよ」

 

「あっ、顔がいい……でも、ここって家じゃないよねぇ?」

 

「ほう、ならばなんだと?」

 

「アタシと先生ぇの愛の巣☆」

 

「託児所の間違いだろうが」即座の返事。

 

「うわ、ひどーい。せっせと小枝を集めて作ってるんだよ?」

 

「余計なものを持ってくるなと言っている。明日、ロリコンにその歪んだ性癖を直してもらったらどうだ?」

 

「それ先生ぇが言う? てか寝取らせ性癖あるの? 先生ぇが言うなら……アタシ、本当は嫌だけどちゃんと蓮太郎くんとシてくるよ?」

 

 わざとらしく涙を浮かべたアルに手刀が落ちる。

 

「あ(いた)っ」

 

「言いがかりはやめろ。必要ないし、蓮太郎が警察の世話になる以外の旨味がないだろ」

 

 アルは鋭い視線を向けた。

 

「……また蓮太郎って言った」

 

「言い方など私の勝手だろうに」

 

「むぅ……まだアタシより蓮太郎くんが大事なんだ」

 

「10年近い付き合いだからな。君とは文字通り時間が違う、当たり前だ」

 

「ふぅん……なら時間と密度を両立して見せるし」

 

「出来るとでも?」

 

 その言葉に対抗心を燃やしたのか、アルは膝立ちで両手を菫の頭の横に置いた。

 スミレ色の瞳を上から見下ろして言う。

 

「出来る。アタシ、菫は絶対あきらめないから」

 

 赤い瞳に捉われながらも、涼しい顔して菫は答えた。

 

「その自信はどこから来るのやら。無駄骨にあとで嘆いても知らないぞ」

 

「大丈夫」

 

「そうか」

 

「うん」

 

 再び見つめ合う両者。

 それもやがてアルが頭を揺らし始めたことで終わる。

 

「……寝るぞ」

 

「うん……おやすみ」

 

 お休み、と返し、落ちてきた少女を抱き留めた。

 

 

 

 

 

 

 タワーの上。

 病衣に身を包む少女たちは眼下の半壊した街を見下ろしていた。

 ガストレアが街に侵入したことで人々はパニックに陥っている。

 戦火を広げまいと奮闘する民警のおかげで致命傷にはならないで済みそうだが、街の発展が遅れるのは言わずもがなであろう。

 

「見てよアシュリー、すっごい綺麗に燃えてる」

 

「そ~うだねぇ~」

 

「《ROFL(クソワロタ)》」

 

『リタちゃん、エイン君は?』

 

「あっち」

 

 思い思いに見つめる中、問われた少女は瓦礫の方を指さした。

 今もガストレアに踏み荒らされるその場所は、もはや人間の活動できる場所ではないだろう。

 

『う~ん。やっちゃったねぇ』

 

「《R.I.P.(オワタ)》」

 

「これからどうするー?」

 

 緋色の髪を揺らした少女が問いかけると、白髪の少女が答えた。

 

「ティナ(ねぇ)がジャパンに誘ってるし、行ってみる? 結構楽しいみたいよ」

 

 今度は金髪の少女が意見する。

 

「せっかくだし、ちょっと羽伸ばしてから行きたい。いい? セラ姉」

 

『まぁ、それでいいんじゃない?』

 

「じゃあ、そうしよっか」

 

「《OK》」

 

 話がまとまったところで、そういえば、と緑髪の少女が言った。

 

「というかぁ~、姉さんはそこから出ないの~?」

 

 彼女の視線の先は、黒髪の子に抱えられた高さ30cmほどの円筒形の機械。

 液体で満たされたその中には少女の首が浮かんでいる。

 奇怪な技術により、その機械からは音声が流れていた。

 

『これだとみんながお世話してくれるからね~。出たくないよぉ』

 

「うわぁ、ダメダメセラ姉だ」

 

「《www》」

 

「そう言うならお世話するだけだけどぉ~」

 

「姉さんがいいならいい。それじゃあ行こう」

 

「終末旅行ってやつだよね。僕は楽しみだなぁ~」

 

「《Let's go》」

 

「はぁぃ」

 

『無限の彼方へさぁ行こう~』

 

 空に一条、流れ星が降った。

 

 

 





・エインくん
R.I.P.

余談だけど、影胤がクトゥルフのアクセサリーを持ってるってことは
ラヴクラフト氏が居たわけなんだよな

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