幼女に厳しい世界で幼女になった   作:室戸菫はかわいい

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俺がアルデバランで、こいつが六連星ってやつだ

ティナ周りを忘れたわけじゃないが、時計を進める





ブラックホーク・ダウン

 暦の上では7月。

 夏場の夜ともなれば蒸し暑さに苦しめられるものだが、空の上はその限りではない。

 闇夜を切り裂く鋼の刃を踊らせながら、鋼鉄の夜鷹(ブラックホーク)は未踏査領域上空600メートルを飛行していた。

 

「なーんも見えなーい」

 

 民警、獅電(しでん)ヒメカは暗視装置を外し、ヘッドマイクにぼやいた。

 すぐさま反対側で地上に目を光らせている(イニシエーター)の叱咤が飛んでくる。

 

「当然。姉さんには見えない、私には見える」

 

「じゃなきゃ困る! ミカ頼りなんだよ、これ」

 

「もちろん。期待していい」

 

「よーしよし。まぁ、何も見つからない方がいいんだけど」

 

「言えてる」

 

 ドイツとオーストラリアで大絶滅が起きて以来、聖天子は外部――すなわち未踏査領域にも目を光らせるように指導していた。しかしすでに外周区の見回りを行っている自衛隊のキャパシティを越えるとの懸念から、一部地域を民警に委託する方式を取っている。

 報酬が割高なのは聖天子が本気で懸念しているからだろうか。

 なんにせよ、彼女らはその()()()()委託業務を受けた民警だった。

 

 人間の光受容体は本来逆さまになっている欠陥品だが、一部のイニシエーターはその限りにあらず。

 桿体が発達したモデル・ナイトホークの少女ミカは人間が活動不可能な夜間でも、力を解放している状態なら月明かりの反射で標的の動きを発見することが出来る。今回の夜間警戒にうってつけの人材だ。

 一方の(プロモーター)はただの人間。特殊な能力などないから内地側を見ている。

 

 彼女らがこの任務を始めて数週間。他の民警と入れ替わりで行っているが、現在までなんらかの異変を確認したペアはいなかった。むろん、飛行型ガストレアをドア付近に設置された機関銃でハチの巣にしたことは何度かある。

 

 しかし何が起こるかわからないのが未踏査領域。

 警戒をやめるわけにはいかないが、やや手持無沙汰になってきたヒメカはドアガンを構えつつ、妹にちらちらと目線を送る。

 髪はショートボブでくせっ毛がなく、目はタレ目で小動物っぽい。着ている迷彩服とブーツはミカが言い出したのでサイズ違いでお揃いだ。

 

「……何?」

 

「あ、ばれた?」

 

「当然。何か用?」

 

「いや、かわいいなぁって」

 

「む……集中して」

 

 褒めてやれば耳が赤くなる。かわいい。

 やはり守護(まも)らねば。

 

 ヒメカは再び外に視線を移した。

 視線の先には嫌でも目を引き寄せられるものがある。

 モノリス――横に1キロ、縦1.6キロ強の人類の最後の盾。

 闇の中でも黒光りする金属塊が屹立していた。

 確か、近いのは第32号モノリスだったか。一番若いモノリスだ。

 あんなものを人類はよく建てられたとヒメカは今でも思う。

 あれが、故郷にもあれば。

 詮無き事と知っていても考えてしまう。

 

 ヒメカは焼津から家族と東京に逃げてきたクチだ。家族仲は良かったと思っている。すくなくともガストレアが来るまでは。

 父が避難中にガストレアに殺されたことで母が精神的に不安定になった。それでも父の遺子がお腹に居たから保っていた正気は、生まれた子供が褐色の肌と赤目だったことで崩壊。母は発狂し、あろうことか赤子を殺そうとしたのである。

 妹が生まれた時、15歳にしてヒメカは思った。この子はなんとしても自分が守護(まも)らねばと。

 だから妹を母から引き離し、地獄のような東京エリアで9年ミカを育てたのだ。

 正直民警にならざるをえなかったのは悔いだが、大きな会社の庇護は必要なことだった。

 

 過去を思うと自分がママと名乗ってもいいとさえ思う。ただ、姉呼びが嬉しいので変えさせる気はない。本人もそれで納得しているし。

 

 気が付けば、ヘリは折り返し地点を過ぎていた。

 旋回し、帰還ルートに入る。

 思わず息を吐く。過度な緊張が呼吸を抑制していたのだ。

 

 旋回する過程で丁度、反対側に富士山が見える。

 モノリスの2倍もある標高はさすがの存在感で、ここから――――

 

「あれ?」

 

 ちょっと待て。

 

 ふと、違和感がヒメカの受容体を刺激した。

 富士山は確かに高い山だが、東京からあんな大きさで見れただろうか?

 やけに、大きいような気もする。

 双眼鏡タイプの暗視装置を覗いた。

 背筋に冷たい汗が流れる。

 

「な、なにあれ……」

 

 暗視装置の有効視界は250メートルほど。どう考えても見えるはずなんてないのに。

 闇の中、巨大なシルエットは、確かに存在した。

 鞭のような物を揺らめかせるそいつは、一体何者か。

 

「ねぇ、ミカ……」

 

「…………」

 

「ミカ?」

 

 違和感を共有しようと振り返ったが、相棒は地上を凝視したまま動かない。

 何か、イニシエーターの視力で見つけたのだろうか。

 その様子にヒメカの総身を嫌な予感が走り抜ける。

 慌ててミカの下に近寄れば、ヒメカは飛び掛からんばかりの勢いで押し倒される。

 

「ね、どうし――――」

 

 ヒメカは妹のあまりに必死そうな形相に言葉が詰まった。

 額と首から脂汗。目は最大限に開かれ、赤い瞳が揺れている。

 ヒメカは一瞬で理解した。

 あのシルエットと同等か、それ以上にやばいものを見つけたのだと。

 

「森田さん、左に曲がって」

 

「え?」

 

「早く!」

 

「お、おう!」

 

 いつもは声を荒げない少女の剣幕に驚いて、操縦主は言うとおりに機体を傾斜させる。

 瞬間、森田は地上で何か光るものが放たれたように見えた。

 ように、というのはその事実を認識したころには手遅れだったからだ。

 

 機体を激しい揺れが襲う。

 幸い、ヒメカはミカに抑えられていたため機外に放り出されることはなかった。

 しかしそれでも衝撃は並ではない。三半規管がシェイクされそうだ。

 

「……っ!」

 

「な、なんじゃとて!?」

 

「や、やられた! 操縦が効かない!」

 

「えぇ!?」

 

「メーデーメーデー! こちらアローヘッド2-2(ツーツー)! 被弾した! 繰り返す、被弾した! メーデーメーデー! こちら――――」

 

 操縦主は末期(まつご)の悲鳴とばかりに叫ぶ。

 警報器がけたたましいエラーを告げた。

 事実、光の槍、とでも言うべきものが機体後尾を破壊、機体の操縦を不可能にしていた。

 ヘリはきりもみ軌道を描きながら高度を下げていく。

 人間のヒメカは前後不覚に陥りながら叫んだ。

 

「森田さん、これどうにかなりそう!?」

 

「難しいが……やってみるさ!」

 

「そっか……!」

 

 操縦主は頑張ってくれている。

 しかしヒメカは直観的に助からないことを悟った。

 事実、状況が好転することはなく、そのまま機体は落下を続ける。

 あと十数秒もすれば地面のシミになるだろう。

 ただ、それでも。ヒメカはミカを強く抱き締めた。

 自分は死ぬだろうが、再生能力を持つ妹ならうまく自分がクッションになれば助かるかもしれない。そんな望みに賭ける。

 ミカと目が合った。

 

「大丈夫、私が守るから」

 

「……思いあがらないで」

 

 顔をくしゃくしゃにしながら意地なんて張る妹がかわいくて、微笑ましい。

 最後に見る景色がこれならまぁ、いいかな。

 そんなことを思っていたところ。

 操縦主が叫んだ。

 

「お嬢さんら、俺が足手纏いなんだろ。気にすんな、いけ!」

 

 それは、考えていたが口にはしなかったこと。

 妹以外の人間に興味ないヒメカだが、ミカはそうではない。

 少なくとも関わりがある人間は助けようとするタイプだ。

 さすがの彼女でも両手に大人を抱えて脱出するのは難しい。だから必然的に捨てることになるわけだが、性格的にそれは却下されるだろうから黙っていた。

 だが、それを相手から言い出した場合は話が違う。

 

「森田さん――――わかった」

 

 森田とミカの視線がぶつかる。

 その瞬きに過ぎない時間で、両者の行動は決まった。

 

 ベテラン操縦主は今まで培ってきた経験で操縦不能な機体をほんの一瞬、安定させた。

 すでに地上との距離は50mとなっている。

 眼下は異常な成長を遂げた森。このまま飛び降りたとして生存率は五分五分。さらに寄って来たガストレアに襲われるに違いない。それでも生存できるかどうかは――――そんなことはどうでもいい。やらなければ死ぬだけだ。

 ミカは腹を括った。

 

「ありがとう」

 

「おう」

 

 それだけを交わして、ミカはヒメカを抱いてヘリを飛び出す。

 束の間の重力からの解放。

 肩甲骨から伸びる翼モドキを広げ、ふたりは命綱のないバンジーに身を捧げた。

 

 直後、静かな森に花火が瞬いた。

 

 目覚めた森が、外界の異物に牙を剥く。

 

 

 

 

 

 

「確かなのですね?」

 

「は、はい、間違いないかと」

 

 聖天子の問いに分析官が震える声で答える。

 東京エリア第一区、聖居地下シェルターのJNSC・司令室。

 楕円形のテーブルに官僚たちが揃っていた。

 しかし彼らは正気を保てている自信がなかった。幾人かは狂気に飲まれてすらいる。

 

「こんなの、出鱈目だ! もう一度計算しろ!」「何回もやった! それでこれなんだよ!」「もうだめだ、おしまいだ……」

 

 唯一、聖天子の隣に控えた天童菊之丞だけが鋭い眼光を保っていた。

 

「アルデバランのみならず……長距離狙撃能力を持つガストレアですか」

 

 動揺を悟られぬよう、シルクの白い手袋で口元を隠しながら聖天子はつぶやいた。

 司令室正面のパネルには巨大なガストレアと液体が付着したモノリスが映っている。

 隣のパネルに写る衛星の拡大写真では、液体が付着した箇所からモノリスが白化(無力化)されていくのが確認できる。

 ステージⅣ、アルデバランのバラニウム浸食液。それを弾丸にして飛ばす? それが複数体? これが悪夢でないならなんだというのか。どういう進化を遂げたらそんなことが出来るようになる?

 このままでは遠からず、モノリスが倒壊してガストレアがなだれ込んでくるだろう。確認できるだけで2000体以上だ。そうなれば東京エリアはおしまいである。

 しかも、崩れるモノリスが()()()()()()()いい方だ。

 始まりは民警の偵察部隊が未踏査領域で行方不明になったことだ。その後無人偵察機が撃墜されたことで異変が発覚した。

 幸い、早期発見が出来たのは行幸だろう。すべてはここからの行動に懸かっている。

 

「聖天子様」

 

 菊之丞がしかつめらしい表情を向けてきた。

 

「わかっています……」

 

 聖天子は息を吸い込む。

 その場の全員が聖天子に視線を集めていた。

 彼女は胸を張り、凛と顔を立てる。

 

「みなさん。こんな時だからこそ我々が秩序を失ってはいけないのです。首都機能の麻痺と無政府状態だけは避けねばなりません。記者クラブに協力を要請してください。事情は説明して構いません。菊之丞さん、地下シェルターの収容可能率はいかほどですか」

 

「30パーセントほどかと」

 

 菊之丞の言葉に頷く。

 

「構いません。選出システムの構築をお願いします」

 

「御意に」

 

 たまらず官房長官が口を挟む。

 

「しぇ、シェルターよりも航空機で他エリアに脱出させるべきでは」

 

「無駄だな。悪戯に空港に混乱を呼び込むだけのことよ」

 

 菊之丞は提案を一蹴した。

 

「な、ならどうすれば……」

 

「戦うのです」

 

 官房長官がハッとした表情になる。

 

「我々は戦わなければなりません。座して危機が去るのを待つわけにはいかないのです」

 

「聖天子様……」

 

「現時刻をもって、未知のガストレアをプレアデス型と呼称し最優先撃破目標に設定。自衛隊に32号モノリス周辺への集結命令を発令します」

 

「……もはや、手段を選んではおられなんだか。私からも民警に声をかけておきましょう。この際私情は挟みません」

 

「ありがとうございます、菊之丞さん」

 

 国家(エリア)の危機には菊之丞とて()()()()をしないようだった。

 

「同時に、代替モノリスの建造に着手してください。時間との勝負になります。プレアデス型が夜にしか活動しない理由は不明ですが、この機を逃してはなりません。これは過去と同等か、それ以上の苦難となりましょう。しかし膝を屈するわけにはいかないのです」

 

 聖天子はこの場の全員を見渡した。

 皆、完全とは言わずとも覚悟が決まった顔をしている。

 

「守りましょう。我々の背にある東京エリア100万の命を」

 

 

 





原作描写はともかく、アニメ描写はどう考えても一体じゃない。難易度がおかしいことになった。



・浸食率
延珠 42.1%
夏世 34.0%
アル 16.2%
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