幼女に厳しい世界で幼女になった   作:室戸菫はかわいい

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2話同時更新。こっちは2個目
なんか静かですね




トリカブト

 

 

 

「東京エリアが壊滅する、ねぇ……」

 

「な、なんだってー!?」

 

「白々しいからやめろ」

 

「あは☆ それにしても、興味なさそうだね? 先生ぇ」

 

「あんなものを真っ先に渡されたらそうもなる」

 

 大学病院の地下室。

 椅子に腰かける菫はパソコンを操りながら不快感を隠さないで答えた。

 その床には破かれた紙が落ちている。

 いわゆる、地下シェルターの抽選券。抽選と謳いながら指名制とはこれいかに。

 この部屋にはつい先ほどまで政府の役人がいた。

 しかし菫のけんもほろろな態度に意気消沈。退出していったのだ。

 

「『世界最高峰の頭脳が今失われては人類の多大な損失に繋がる』だとか、私がそんなセリフで動くと思っていたのかね」

 

「動いてもらわなきゃ困るから来たんでしょ~」

 

 菫は鼻で笑う。

 

「はっ、未完成のシェルターに何の希望を持てというんだ? 君は『ミスト』を見たばかりだろう。閉鎖空間の立て籠りはたいてい宗教的で頭のおかしな人間が台頭してくるものさ。『人々よ、悔い改めよ!』とな。そんなところ、私が行きたいと思うか?」

 

「辛辣~。さすが不動卿☆」

 

「先見の明と言え。それと変な渾名(あだな)を付けるな」

 

「先生ぇみたいな出不精にはお似合いだよ☆ アタシの誘いも断るし」

 

 菫は顔だけ振り向き、半眼のまま手を振って否定する。

 

「何が悲しくてプールなんていう、人間の悪性を詰め込んだ場所に行かなければならない? 里見くんを悶絶させる方がまだ幾分かの楽しみの余地があるね」

 

「その蓮太郎くんが幼女に詰め寄られて慌てふためく姿が見れるかもしれないよ?」

 

「見るだけならカメラで十分だとも」

 

 菫にとって盗撮は些細なことなのだろうか。

 アルは「つれないな~」と唇を尖らせ、ゴミとなった抽選券を拾う。

 

抽選券(これ)、破いちゃったのはもったいないなぁ。どうせならネットオークションに出したかったね~。というか今からでも遅くないかな?」

 

 非難するような瞳がアルを貫いた。

 

「それ、何が起こるか分かっているんだろうな?」

 

「もちろん☆ 誰が獲得しても住所を特定して血で血を洗う争奪戦が始まるね~」

 

「同感だが……随分悪趣味だな、君は」

 

「そこは『人類は愚かだな』じゃないんだ?」

 

「君も含めてというなら大いに納得だがね」

 

「ひど~い☆」

 

 頬を膨らませての抗議は黙殺される。

 

「それより、里見くんが教師なんて面白いことをしてるそうじゃないか。行ってみたんだろ? どうだったね」

 

 関心ごとが移ったのか、菫は愉快そうに表情を歪めて問うた。

 不満を残しながらも顎に手を当ててアルが答える。

 

「ん~、木更ちゃんが居たから内容自体はまともだったかな☆」

 

 ほう、と菫は感心の息を零した。

 

「面倒見の良さは変わらずか。子供の無意味な言動にいちいち気を配ってそうだ」

 

「無意味ってわけじゃないと思うけどね~」

 

「理性より感情を優先し、合理性を欠いた行動を無意味と言わずなんという?」

 

「でも先生ぇ、そういうの好きでしょ?」

 

「それは砂漠で砂はどこだと言うような問いだよ」

 

 アルは「そうだね~(よくわからん)」と相槌を打つ。

 

「それと延珠ちゃん考案でC.O(カウンターおっぱい)とかいうのを作ったんだけど、皆が入ってくれれば蓮太郎くんの包囲網が出来そうかな。今後が楽しみ☆」

 

「20人だかに追われる里見くんか。いっそ哀れだが、それが彼の望みだから仕方ないな」

 

「そだね~。ふふ、仕方ない仕方ない……」

 

 ふと、ニコニコ笑っていたアルの表情がすっと消える。

 

「というか、なんでアタシが蓮太郎くんの話をしなきゃいけないワケ?」

 

「急に真顔になるな。情緒不安定か君は」

 

 菫に言われて、笑顔のコピー&ペーストを行う。

 

「あは☆ それよりぃ、アタシは先生ぇと保健体育の授業がしたいな~?」

 

 唇を人差し指でなぞりながら猫なで声を出す露骨さに、菫は溜息をついた。

 

「年中発情するんじゃないよ」

 

「先生ぇ限定だから大丈夫☆」

 

「どこにも大丈夫とする根拠がないぞ」

 

 菫は視線をパソコンに戻し、マウスを動かす。

 内蔵スピーカーから喜悦の声が聞こえてきた。

 空のケースを見れば『お兄ちゃんの×××になんて負けない~生意気妹の調教日記~』なんて書いてある。

 アルは目を細めた。

 

「へぇ~? ふぅ~ん。口ではそんなこと言ってるけどぉ……先生ぇ、アタシを調教したいとか思ってたんだ? きゃっ☆」

 

「ほんと自意識過剰な奴だな……」

 

 呆れを声にする菫だが、数秒考え込むような仕草を見せた。

 

「いや……そろそろ君にも教育が必要か?」

 

「え、ほんと? やった☆」

 

 小躍りするアルに、視線を合わせて菫は言い放つ。

 

「ああ、そうとも――――こっちに来い

 

「っ!」

 

 威圧するような低い声に、アルの総身がぶるりと震えた。

 瞳から静かな毒が回り始めたような錯覚。無いはずの首輪が繋がっている。

 瞳孔が散大し、呼吸が荒くなり、がくがくと膝が笑って体の自由が利かなくなる。

 彼女に従わなければ。脳が叫んだ。いつものように。

 

はい……

 

 ふらふらと菫の下に彷徨えば、腕を捕まれ横抱きにされる。

 そのまま口を割り開き、舌を強引に掴まれた。

 痛いはずなのに妙な心地良さが脳を狂わす。

 

「生意気なことを言うのはコレか。今すぐ引っこ抜いてやってもいいんだぞ?」

 

ぁぇ……

 

 人体の構造上、舌を掴まれてはうめき声しか出せない。

 しかしそんなことが気にならないほど、至近距離で死人のような(トリカブト)に見つめられ、アルは魂が落ちていくような感覚に支配された。

 

「君のことだからまた生えてくるだろう? 舌のホルマリン漬けはまだ作ったことがなくてね。試してみようかと……おいおい、なんてだらしない表情をしているんだ」

 

んぁ……

 

 発情した雌猫のような顔を、菫は蔑んだ。

 蔑まれたのにも関わらず、アルの脈拍はどんどん早くなる。

 

しぇんしぇ……

 

 媚びるような視線と声で続きをアルが促したとき。

 重低音を響かせて悪魔の扉が開いた。

 

「失礼する。室戸医師、蓮太郎が――――む、取り込み中だったか」

 

「はわ、はわわわ……」

 

 入室してきたのはコートを着た長身男性と、とんがり帽子を被った少女。

 男性は目元のバイザーを掴み、少女は帽子のツバで目を隠した。

 

 はた目から見て、アルたちは倒錯的に絡み合っているように見えたらしい。

 

「おや、彰磨(しょうま)くんじゃないか。久しぶりだねぇ」

 

 しかし菫は全く気にせず、アルの舌を弄びながら悠長に答えた。

 アルの方は現実が認識できてないのか、ぼんやりと快楽に流されている。

 

「ああ。()()は……いいのか?」

 

「別に構わないよ。要件を聞こうじゃないか」

 

 若干困惑しつつ、彰磨――薙沢(なぎさわ)彰磨はもう一度口を開いた。

 

「蓮太郎を探している。こちらに来ていないか」

 

「いいや、今日はまだ来てないねぇ。けどせっかく来たんだ、何か飲んでいくかい?」

 

「……いや、遠慮しておこう。行くぞ(みどり)

 

「はわ、はわわ……は、はい……」

 

 菫が相席を勧めるも、彰磨は翠という少女と共に部屋を立ち去って行った。

 

「ふぅん。相変わらずだねぇ」

 

 菫は残念そうに肩を落とす。

 すると、そこでようやくアルの脳みそがマトモな思考を再開した。

 

「ふぇ?」

 

 興奮がさっと冷めていき、ないはずの羞恥心がふつふつと湧き上がってくる。

 

「おや、まだ起きていいとは言ってないが」

 

「わ、わ、わ」

 

 言語か怪しい声を零しながら、慌てて菫の拘束から抜け出した。

 

「ふっ……なんて顔してるんだい、君は」

 

「……っ! か、揶揄ったね!?」

 

 燃えるような顔色に変わるのがわかった。

 口から伸びた銀の糸をシャツの袖で拭う。

 責めるような視線を向けるが、当の菫は涼しい顔だ。

 

「はははっ。君がチョロ過ぎるんだよ」

 

「ちょ、チョロくないし!」

 

「たった一言でメス顔晒してそのセリフは無理があるな」

 

「メス顔晒してないが? アタシはつよつよだが?」

 

「ふぅん?」菫は訝しむような視線を向けた。

 

「ぅ……ま、まぁ先生ぇ限定なら、いいかな☆」

 

 顔の前にダブルピースを持って来て、アルはいつもの笑みを浮かべる。

 

「取り繕っても遅いぞ。だから大丈夫な要素がないと言ったろうに」

 

「む、むぅ……でも、見方を変えれば先生ぇがアタシを受け入れたってことだよね☆」

 

「単なる教育だが」

 

「ぐぁ……!」

 

 アルは心臓を抑えて膝から崩れ落ちた。

 菫はタオルで手を拭い、冷めたコーヒーを口にする。

 

「ま、私としては君の制御方法がわかって一安心だよ」

 

「次は……こんな簡単に行かないからね☆」

 

「一か月も似たようなことをしていたのだから、もう無理だと思うがね」

 

「それはどうかな☆」

 

「……そこに座れ

 

はい……

 

 ぺたん、とアルは指示通り床に腰を付ける。

 今度はすぐに光を取り戻した瞳で叫んだ。

 

「今のはフリじゃないんだけど!?」

 

「いや、待てよ……これは面白いぞ……周波数の問題か? すばらしい。まったく飽きがやってこないな。君の脳がどうなっているか、私は俄然興味が湧いてきた。少し脳波を測ろうじゃないか」

 

「先生ぇ、なんだろう……急にマッド感出すのやめてくれるかな☆」

 

「そこは『脳まで丸裸に!? いやん☆』とか言うところだと思うが」

 

「なんか妙に声真似うまいのがムカつくんだけど☆ それにしたってさぁ、先生ぇ余裕過ぎじゃない? モノリスが壊れたら大惨事待ったなしだよね?」

 

「おや、妙なことを聞くじゃないか」

 

 菫は至極当然のように答えた。

 

「そうなったら君が私を守ってくれるんだろう?」

 

 気のせいかもしれない。

 しかしアルはその言葉に深い信頼を感じた。

 

「……もっちろん。先生ぇの命はアタシだけのものだから☆」

 

「たわけ。私のモノに決まってるだろうが」

 

「そんな~」

 

 菫は立ち上がり実験室に足を進める。

 アルもその後ろをひな鳥のように付いていった。

 

 





・アル
色ボケ。大丈夫か?

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