幼女に厳しい世界で幼女になった 作:室戸菫はかわいい
時刻は日も落ちた夕刻。
日中の陽気が残る気温とは裏腹に暗闇が広がりつつある世界で、外周区への
その表情は肉体よりも精神的な疲労が色濃い。
――どうかしてる。世界も、俺も。
命と金を比較するのは人道的におかしい。だが現実ではそんな綺麗事を言ってられず常に取捨選択を強いられる。
わかっている。わかっているのに。
知らぬ間に世界へ
「クソ……」
だいたい、どうして交番務めの警官がバラニウム弾なんかを持っている。
蓮太郎はその答えを知っていた。
いつだったか、東京エリア内で民警がガストレアに殺されたとかで民警嫌いな警察の一派が「市民の安全を守る私たちにこそ対抗手段は必要だ」とか言っていた。それが正しい運用をされていないのは今回の件で一目瞭然だ。
だが疑問が解けたからといって感情を抑えられるわけでもない
そんなもの持ってるならお前らが戦えよ。なんで子供たちばかり――――。
ガン。
右手で殴りつけた電柱が甲高い音を立てる。
それより延珠になんと話せばいいか。
自分を信じてくれた顔を考えると蓮太郎はなお憂鬱だった。
そうして信号待ちをしていた折。
「やけにお疲れじゃないか。里見くん」
「ッ!」
訓練された両者がお互いに拳銃を突き付け合う。
XD拳銃と
「蛭子……影胤……」
眼前の
そもそもコイツが遺産を盗んだのがことの発端。
「ヒヒ、こんばんは里見くん」
「……何の真似だ?」
挨拶するなり銃を下した影胤を蓮太郎は訝しむ。
「話をしようじゃないか、里見くん。銃を下ろしてくれると嬉しいのだが?」
「聞けねぇな」
「おお、手厳しい」
影胤が指を弾こうとした刹那。
「……何の真似だね?」
影胤の眼前で回転する銃弾は、やがて勢いを失って地面に落ちた。
「テメェのような奴がいるから……争いばかりが起きんだろ」
「酷い言いがかりだ。里見くん、その言い分が本当に正しいと思っているのかね?」
「……」
「だいたい、
「どうだか。人をナメてると痛い目見んぞ」
「ほう? なら試してみようじゃないか」
「パパを虐めたなぁぁぁぁぁ?」
声が聞こえた時には遅かった。
背後に現れた気配。漆黒の狂刃が首元に迫る。
なぜあんな挑発をしたッ! バカがッ!
迂闊な自分を呪いながら迫る死を感じた時。
「イヤァァァァーッ!」
鈍器がぶつかり合ったような音と擦過音。
――斬れなかった!
――蹴れなかった!
蓮太郎の隣には延珠、影胤の前には小比奈が立ちふさがる。
互いが互いの情報を共有し、油断なく相対する両者。
「ねぇパパ、あのウサギ首だけにするから斬っていい?」
「何度も言っているだろう愚かな娘よ。ダメだ」
「むぅぅ、パパ、嫌い!」
影胤はシルクハットを直して蓮太郎に向き直る。
「繰り返すようだが里見くん。私は話をしに来たのだよ。それともまだ
「……」
これ以上は小競り合いじゃすまないか。
蓮太郎は下唇を噛むと拳銃を下した。
「要件を言えやボケ。テメェの顔を見てると気分が悪くなる」
「ヒヒヒッ、やはり君は殺すに惜しい」
笑みを隠さず、ピエロのように鷹揚な仕草で男は言った。
「里見くん、私の仲間にならないか?」
延珠が「蓮太郎が呼んでいる!」と叫んで飛び出したのを見送り、アルはひとり帰路についた。
向こうは今頃勧誘に失敗したところだろうか。
「やぁやぁやぁ……無能なアルくん。君はお使いひとつこなすのに日が暮れるまでかかるのかい?」
机に伏した菫が出迎える。
「アタシ10歳だから道に迷っちゃった☆」
「おいおい、勘弁してくれよ。6歳児ですら初めてのお使いをこなすんだからな」
「じゃあ先生ぇが道案内してよ~。それとも一緒にお買い物いくぅ? アタシ先生ぇとお出かけしてみたいんだぁ☆」
「いやだよ面倒くさい」
「しょぼーん」
落ち込んだフリをしながら、アルは食材や日用品を所定の場所に置いていく。
「というか先生ぇ、GPSあるんだからわかってるでしょ~?」
「君の場合、頭を切り離したら意味がなくなるだろうが」
「あはっ☆」
菫は呆れ顔で出来の悪い生徒に諭すよう話す。
「大体な、私は君の監督責任があるんだ。君が事件を起こしたら真っ先に私があの七面倒くさい部署に言い訳をしにいかなければならないじゃないか。揚げ足取りと悪魔の証明が大好きな奴らだぞ? あいつらにかける時間は無の極みだよ。だから早く帰って来いと言っているんだ」
「とか言ってぇ……先生ぇ寂しいんでしょ~?」
「残念だな、チャーリーがいるからその心配は無意味だよ」
「いなかったら寂しいんだぁ?」
「やめろやめろ。君まで言葉遊びをし始めるんじゃねえ」
語尾が強くなる菫。よほどかの人間を思い出すのが嫌らしい。
「ぶーぶー、ちょっとくらい心配してくれてもいいじゃんか~」
「君に心配なんて言葉、世界で最も似合わないだろうに」
「それでも心配してほしい乙女心はあるんだよ☆」
「乙女心ぉ? おやおや、自己中心主義の代名詞じゃないか。身勝手で享楽的で人の話を聞かないアル君にはぴったりだ」
「いたいけなロリを言葉責めするなんて
「あいにくだが、私は里見くんと違ってロリコンじゃぁない。他を当たってくれ」
「でもエロゲはロリものばっかりだよね~☆」
「里見くんをからかうのに必要だからな」
「そのままこっちに堕ちてもいいんだよ~?」
「君の脳みそは忘れているらしいから言うが、私は既婚者だ」
「なら内縁の妻ってことで☆」
「おや驚いた。金食い虫と書いて妻と読むなら正解だよワトソン君」
「むぅ……」
頬を膨らませたアルを菫は鼻で笑った。
「口で勝とうなんて10年早いぞ、ちみっ子」
「なら実力行使☆」
いつの間に移動したのか、アルは菫の背後からしなだれかかる様に覆いかぶさる。
そのまま両手を菫の胸の前で交差させた。
「どぉ? ドキドキするでしょ~?」
いわゆる「当ててんのよ」をされても菫は慌てない。
むしろ享受したうえで感想を語った。
「身長、体重、弾力性、体臭、力加減も何もかも君は落第だよ」
「アタシ仮にも乙女なのにぃ? 人の心がないの~?」
「いやいや、人間らしいまっすぐな心さ」
数秒、アルが俯いて反応しなくなる。
かと思えば、腕の力は増して菫を逃がさぬように捕らえた。
「このまま首を絞めたら先生ぇ死んじゃうね」
その瞳に意思は感じられない。
急な変わりよう。しかし菫は冷静だ。
アルが脈絡のない行動をするのは何度も見ているからこそ、命の危機だとしても最適解を冷静に選べる。
「脅しか? やりたければやればいい。その代わり君の居場所はどこにもなくなるな」
再び沈黙。
「……あは☆」
力の入り具合が変わった。
縋りつくよう菫に抱き着く。
「それより早く夕食を作りたまえよ。私はもうお腹が減ってしかたないんだ。特製ドーナツをご所望なら代わりに作ってやるが?」
「あんなドブを食べるなら死んだほうがマシ☆」
「そこは『あなたの手料理を食べれるなんて幸せ』くらい言ったらどうなんだ」
「それはそれ、これはこれ☆」
エプロンとマスクを着け、アルは逃げるように臨時厨房へ走っていく。
「はぁ……」
子供のストレス発散の相手は疲れる。
アルを片目で追った後、菫はパソコンに意識を移した。
・蛭子 影胤
なぜハレルヤという割にクトゥルフの印をつけてるのか。
・蛭子 小比奈
かわいい。
鬱展開は苦手