幼女に厳しい世界で幼女になった   作:室戸菫はかわいい

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この世に生まれたことが罪なら





楽園(せかい)を滅ぼしたガストレア①

 

 フタヒトマルマル。作戦開始時刻になった。

 選りすぐりの民警たちがヘリに搭乗し、目的地へ向かっていく。

 里見蓮太郎もその中のひとりだった。

 

 本作戦の目的はモノリスの外に逃げた蛭子影胤の捕獲若しくは討伐。

 影胤の奪取した『遺産』によりゾディアックガストレアが呼び出されれば、東京エリアは大絶滅(エリアごと消滅)する。

 それを防ぐための作戦だった。

 

 モノリスを越え、旧千葉県の房総半島に降り立った蓮太郎。変貌した森の姿に驚きつつも彼は相棒(延珠)と影胤一味を探しに向かう。

 重装備を好まない蓮太郎の持ち物は簡素だ。

 手と足のカートリッジ、XD拳銃及びサイレンサーと数種の弾丸、手りゅう弾各種、ライト、そして――AGV試験薬5本。

 菫は改良したと言ったが、それでも驚異的な再生力と引き換えに15%の確率でガストレア化する()()()諸刃の剣。

 この手札で森のガストレアたちを搔い潜り、居場所もわからない神出鬼没の相手と戦わねばならない。

 弱気な心が鎌首をもたげる。

 

「蓮太郎、急に止まってどうしたのだ?」

「……いいや、何でもない。行くぞ」

 

 しっかりしろ、里見蓮太郎。木更に啖呵を吐いて先生にもカッコつけたんだろ。

 彼は己を鼓舞し、森の中で捜索を続けた。 

 

 

 

 一方、そのころ。

 蓮太郎とは違う場所に3人の女性も降り立っていた。

 

「ごめんねぇ~、無理言っちゃって☆」

「い、いえ。急な話でしたから驚きはしましたけど……お、お金さえ貰えるなら大丈夫ですっ」

「そこは問題ないよ~。きちんと振り込んでおくから☆」

 ありがとうございます、と感謝を告げたのは弱気そうな成人女性。

 その隣で愉快ならぬ表情をしているのは、アルと同じ位の背丈。

 彼女たちは民警のペアだった。

 少女が不満そうな顔をしている理由は、アルがヘリを降りるまで2人に詳細説明をしていなかったからだろう。

 

「ねぇアンタ。ここなら盗聴器の心配はないんだから、いい加減に事情を話しなよ」

「アンタって他人行儀だよぉ。昔みたいにアーちゃんって呼んで欲しいな☆」

「きも。あれはアタシの黒歴史よ、誰が呼んでやるもんか」

「じゃあアタシはりっちゃんって呼んであげる☆」

「やめてよ、鳥肌が立つから」

 心底嫌そうな顔をした少女はモデル・シャークの開始因子(イニシエーター)占部里津(うらべりつ)

 彼女は耳にピアス、右目の下にスペードのペイントという不良じみた格好をしていた。

「り、里津ぅ? い、依頼主さんなんだから暴言はだめだよ……」

 相棒のいつも以上な粗暴さに困惑するのは加速因子(プロモーター)井上(いのがみ)比叡(ひえい)

「いいのさ、こいつは」

「え、えぇ……どうして……?」

「愛を誓い合った仲だからね☆」

「出鱈目言うな。ストリート時代の知り合いだってだけ」

「そ、そうだったんだ……」

「コイツ、どっかで野垂れ死んでると思ってたんだよ。なんで生きてんの? アンタ」

「りっちゃんを残して死ねないよ☆」

「きも。答えになってないし。アンタそうやってまた誰かをひっかけてるんじゃないでしょうね」

「大丈夫☆ 心はいつもりっちゃんのものだから!」

「それ自白だって気づいてる?」

「ま、まぁまぁ……そ、それで依頼主さん。話の続き、お願いしていいですか?」

 

 比叡が終わりのなさそうな話に割り込んだ。

 アルは頷く。里津は半目で睨んだ。

 

「話は簡単。このラインから南に誰も来ないようにして欲しいってこと」

 アルは地図に線を引いた。

「そ、それは手段を問わず、ですか……?」

「うん☆ その辺言い出したら絶対受けてくれないだろうからね」

「そりゃそうだよ。10kmはあるじゃん、これ」

「でも出来るでしょぉ?」

 問われて里津は胸を張った。

「当たり前じゃん。アタシたちを何だと思ってるの?」

「なら決まりだね☆ ちなみに蛭子影胤を見つけても逃げた方がいいよ。りっちゃんじゃ絶対勝てないから」

「は?」

「あ、あの……私たち、表向きは蛭子ペアの捜索なのですけど……」

 あんまりな言い草に里津は青筋を、比叡は苦笑いを浮かべる。

「無理無理。だって相性最悪だもん、りっちゃん」

「そんなこと言われて『はいそうですか』なんて言うと思ったの?」

「いいやぁ? でも、何も知らないで死んだら可哀そうだし☆」

「うざっ。その口、捌いてやろうか」

「サメなのにサバ? 面白いこと言うね☆」

「……この550位(ランカー)を前に吠えたな、ランク外」

 

 アルの体がぐらりと揺れた。

 見れば、自分の両手がなくなっている。

 

「うわ、ひっどーい☆ なんで斬ったの?」

「いや、ムカついたから」

 いつ抜き放ったのか。里津の手にはバラニウム製の曲刀(カトラス)が握られていた。

「アンタほんとつまんないね。ちょっとぐらい泣きわめいてよ。それがアタシの楽しみなんだから」

「りっちゃんの性癖を助けるのは吝かじゃないけど、野外はちょっと嫌だな☆」

「…………きも」

 里津は引いた。

 そんな幼女共の話に混乱したのはプロモーターである。

「りりりり里津!? 何してるの!? というか依頼主さんもなんで平然としてるの!?」

 彼女は不幸なことに、一般的な常識を持ち合わせて()いた。

 呪われた子供たちといえど四肢欠損は普通に重症だ。治らない場合もある。

「何って、斬っただけよ」

「斬られただけだね☆」

「斬られただけって……両腕落とされたよね……? どどどどどうしよう、弁償ですか? 弁償ですよね、弁償しますごめんなさいぃぃぃぃ」

 しかし幼女共はそんなこと気にしない様子なので、比叡は泣き出してしまった。

「大丈夫だよ比叡。コイツは違うんだから」

「ち、違うって何が……?」

 まぁ見てなよ。

 里津がそういうので比叡は斬られた腕を見た。

 すると不思議なことに、出血は止まっていて細身の腕が生え始めているではないか。

「え…………」

「意味不明だよ、コイツ」

 話しているうちに、驚くべき早さで腕は再生されてしまった。

「べ、弁償は……なしですか……?」

「うん、ないよ☆」

「よかったぁ…………じゃあ別にいいですね」

「そうだよ」

 比叡は泣き止んだ。

 しかし、何かを思い出して「あ」と口を滑らせた。

「血に誘われて……」

「まぁ、夜だけど起きてるやつはいるよね☆」

「別にいいでしょ」

「み、未踏査領域ですよ? なんか、大きいのとか居そうですし――」

 

 比叡が言い切る前に、木の陰から足音がした。

 現れたのはタカのような猛禽類の鋭い頭部とトンボに似た翅、バッタのような脚部を持つ異形の生物――ガストレアだった。

 全長は5mほどある三重因子。ステージで言えばⅢかⅣだろう。

 単独での討伐は避けるべき相手だ。

 

 そんなガストレアの出現に、真っ先に反応したのは比叡だった。

 

「ひぇぇぇぇ~!」

 小さな悲鳴という器用なことをしながら、一瞬で間合いを詰めた比叡は掌底を繰り出した。

 ガストレアの防御も間に合わず、その凶打は腹部に直撃。

 だが、人間の掌底がなんというのか。それだけでガストレアが倒せるなら人類は敗北していない。

 

 その時、不思議なことが起こった。

 タカモドキは全身から血をまき散らして倒れたのだ。

 再び動く気配もない。瞬殺だった。

 

 八極拳。それが比叡の放った武術である。 

 どれだけ強い外殻を持とうが、それ以上の攻撃力で破壊すればいい。

 ついでに全身を内部からぐちゃぐちゃにかき回してやれば再生も関係なかった。

 

「大丈夫じゃん」

「ひぇぇぇ……心臓に悪いのは確かなんですよっ」

「強すぎ☆」

 返り血をハンケチで拭いながら比叡は不平を嘆く。

 国際イニシエーター監督機構が認めたIP序列550位は伊達ではない。彼女らにとってガストレアはただの猛獣以外の何でもなかった。

 

 そんな時だ。

 3人の耳が独特な振動を補足した。

 榴弾の爆発(時報)だ。

 

 音のない森ゆえ、大きな音はいつも以上に反響して聞こえる。

 そして、それがもたらす結果を3人は正確に知っていた。

 

「うわ、馬鹿じゃん」

「たたたた、大変ですよっ! ガストレアみんな起きちゃいますって!」

「あは☆」

 

 言い終えると同時、森の様々な場所から耳障りな咆哮が轟いた。

 森の目覚めだ。

 これから先は隠密行動など取れないだろう。影胤捜索の難易度は数段跳ね上がった。

 

 だが、そんなのはどうでもいいとばかり、アルは醜悪な笑みを浮かべた。

 

「丁度いいし、アタシはもう行くからよろしくね☆」

「ねぇ、アンタ、蛭子影胤の居場所知ってるんでしょ。教えなさいよ」

「やだ☆」

「否定はしないんだ」

 里津の追求を笑顔で誤魔化す。

「なら先に見つけて勝手に殺してあげる。せいぜい獲物を取られて絶望すればいいよ」

「――――がんばってね☆」

 

 アルは走り出した。

 後ろで「見てなよ! 後悔したって遅いんだから!」と叫ぶ声が聞こえた。

 

 

 

 森の中を全力で疾走する。疲労も負荷も関係ない。だって治るのだから。

 ガストレアに見つかって足を食われようと腕をもがれようと関係ない。だって治るのだから。

 手柄を独り占めしようとする民警ペアに殺されかけたが関係ない。だって治るのだから。

 

 アルはこの事象を知識として知っていた。

 無論必ずなるとも限らない怪しさはあったし思い出したのが直近だったというのもある。

 それでも彼女の足ならばそうならないように行動もできた。

 

 そうしなかったのは、ひとえに自己中心的な理由(エゴ)からだ。

 すなわち。

 目当ての人物が自分と同じ人殺しになって欲しいという歪な願いである。

 1度目はまぐれかも知れない。だから万全の2度目を。そんな具合だ。

 

 そして、爆発が起きたということはその願いも叶えられたのだろう。

 

「あはっ☆」

 

 それはおよそまともな人間の考えではない。

 しかし考えても見ればわかることだ。

 この世界で、どうしてまともな常識を身に着けられるのか?

 歪んだ社会構造と生活環境でまともに育つのは難しい。

 けれど。それも絶対ではない。例外はいつだってあるのだ。

 もっとも。この女は例外足りえなかったわけだが。

 

 アルは既にどこで彼女を見つけられるか当たりをつけていた。

 房総半島で海岸の街など限られている。その上で東京湾に現れる化け物が見えるとなれば旧市原市、旧木更津市、旧袖ヶ浦市。このあたりだろう。違ったら探し直せばいい。

 

 どれだけ探したのか。興奮した状態のために体内時計は役に立たない。時計を見る発想もなかった。

 今を永遠と引き延ばされる幻覚を覚えたころ、銃声が聞こえた。

 ねじ切れんばかりに足を曲げて方向転換。

 音の元へ急行すれば。

 

 武器も持たぬ貧弱な肉体でガストレアと奮闘するイニシエーター(しんゆう)がひとり。

 

「みぃ~つけたぁ☆」

 

 少女が吹き飛ばされるのと同時、イレギュラーは乱入した。

 

 

 





・占部 里津
この時点ではまだやめてないでしょ、多分。

・井上 比叡
オリキャラ……になるのか?

・スコーピオン
次。

感想は欲しいけど、書くことがないだろうのもわかる。
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