ありふれないクラスメイトと平行世界のクラスメイトのトータス入り 作:ユラシ仮面氏
作りが細かく、尚且つ美しいと思わせる装飾が施されているテーブルだったが怒りに満ちた教師愛子に中央部分から真っ二つに割られていた。
が、立ちっぱなしよりかは割られたとはいえ座れなくもないテーブルを使っている方がマシという事で座っている者が二人。
片方は一見優しげな顔をするが、実際に話すと年相応の貫禄を感じさせる教皇イシュタル。
「話は纏まりましたが、何か相違点の違いやご不満な点はございますかな?」
「いえ。僕の方からは何も、むしろこんな好待遇は有り難い限りです!」
そして、そんなイシュタルに話を振られた童顔でまだボーヤと呼ばれても違和感の無い高校生ハジメが笑顔でイシュタルに返答をしながら頭を下げた。
彼等はお互いの非を認めてから、無礼を承知で召喚された側のハジメ達を戦争に参加して欲しいとの交渉がされた。
ハジメは難色を示しながらも、帰還方法として最も近道となるのは考えているので条件を付けてコチラを快諾。
そしてハジメ達とは服装、見た目に類似点が多く残る生徒達の代表である光輝のソックリさんも戦争参加への合意を得た後にお互いの合意の元。
召喚された側がこのトータスでどの様な扱いになるか。
そして今後の動き、生徒達をどの様に民へ公表するか等のすり合わせを
今は、そのすり合わせに何か不満な点は無いかの確認をイシュタルが取っていたのだが、ハジメからは問題無しとの太鼓判を受けた所だった。
「では、皆様の混乱も収まったご様子ですので今現在、我等が居ますハイリヒ王国現国王であらされるエリヒド=S=B=ハイリヒ陛下への謁見をして頂きたいのです。宜しいでしょうか?」
イシュタルは席を立つと、目線を生徒達へ向けてトータスの王への謁見を求めた。
「えぇ…国王様に会うなんて、眼の前で粗相したらどうしよう…」
「国のトップと会うのかよ…」
そう言われ、先に召喚された"原作軸"の生徒達は国王への謁見に緊張が露骨に見え始めた。
「フッ、国のトップすらもこの俺様に注目する!やはり、この俺様に注目しないなんて人間は居ないな!」
サングラス男子こと幸利は顎下当たりに手を添え、不敵に笑いながら何やら自意識過剰な発言をしていたが、周りには「また何かほざいてるなー」と無視されていた。
普段からドレ程、幸利は今みたいな言動をしていたか想像に難くない。
「過度な緊張感がまさかココまでの気持ち良さを持ってくるなんて…!ココは天国だ!!」
ゴキブリもダッシュで逃げ出すレベルの変態である重吾は、緊張するだけで今度は興奮しだしていた。
強個性組以外からの重吾への嫌悪・動揺・困惑の視線が突き刺さるので、もうハジメを含めた強個性生徒達は一刻も早く、この場から逃げ出したい気持ちで一杯だ。
この変態だけは、トータスに置き去りにして日本に帰りたい。そんな思いがクラスの面々の間で芽生えてくる。
「ハジメきゅんとイケおじイシュタルの薄い本展開も期待してたけど、イシュタル×王様展開も!?(゚∀゚)キマシタワーコレ!!」
更には腐のオーラをまき散らしながらシレッと同級生とイシュタルのBL展開を妄想しながら頬を
何とも業が深い女である。
因みに。まだ会っていない筈の王様が何やら同時刻、背筋に走る悍ましい悪寒に襲われたとか。
そんな、普通の一般人ならその目で見る事はまずないであろう王様に会おうというのにあいも変わらず、いつも通りの態度と言動を取る。
"IF"の世界線を生きてきた強個性組は、もう王様に合わせない方が良いのかも知れない。
「陛下は、神より賜った勇者様並びに使徒様方への顔合わせを強く願っておりました。どうか、検討をして頂ければ良いのですが」
だがイシュタルは、そんな腐女子という存在を知らない。
知っていたとしても、使徒との関係構築する為なら王様なんて生け贄にしたるわ!を速攻で実行するので、知ったとしても無意味だが。
「そうですね…」
(今の妙子とか重吾を仮にも国の王に会わせたら、不敬すぎる態度取ったから死刑宣告されるとか無いよね?コレ)
ハジメは不遜過ぎる態度しか取れないであろう面々を思い浮かべて、王様の期限を損ねて始末されないか不安がっていた。
コレから会う王様の目の前で不遜な態度をせず、変な目を向けない様に指導や注意をするという選択肢が真っ先に上がらない辺り、ハジメから一時的にでも直すのは諦められている。
(とは言っても、断る選択なんてしたらソレこそ不敬罪に当たりそうだし、下手にイシュタルの爺さんの前で弱みになりそうな事を仕出かしたら後々、何の脅しの材料にされるか分かったもんじゃないしねぇ...ハァ)
「分かりました。この服装と明らかに不敬な事柄を起こしそうな者達で良ければ、王の
溜め息を心の中で吐きながらも、イシュタルの意見を賛同するしかないと考えたハジメは不安だらけの面子で行くしかないのか…と落胆の気持ちを抑えてイシュタルの提案を受け入れる。
未だ会ってない使徒(主に妙子)へ何やら嫌な予感を覚えてる王よ。骨は拾ってやる。byガイア
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「イシュタル様。僕の記憶通りなら、"ようこそトータスへ!"と言っていたのですがこの国はハイリヒ王国と言われていましたよね?トータスという単語は地名の事を指すのですか?」
ハイリヒ王国内の中でも今現在ハジメ達が居るのは、王城より遥か巨大な神山と呼ばれる山に建てられた教会に居るらしく、その教会から王国の城へ赴く為に移動中にハジメがイシュタルに聞いた。
「いえ、トータスとはこの地全てを指す言葉ですな」
(フーン?僕達の世界でいう地球みたいなモンか)
勇者と使徒一行の先導をしながら先頭を歩くイシュタルは、トータスの単語を説明しながら純白の繊維であしらわれた絨毯が敷かれた廊下を歩く。
イシュタルのその姿からは年相応の衰えを見せず、教皇としての貫禄のみが突出して見えさせる。
ハジメから言わせれば、衣装と背筋の変化での印象操作、更に普段からその姿を多くの者に見せる事でイシュタルの役職も合わさって貫禄が見える様になっているだけにしか思えないが。
「ソレとハジメ様。私の事は気軽に呼び捨てにしてよろしいのです。神であるエヒト様より授けられた貴方様に恐れ多くも様付けされる等、私には身に余る行為でございます」
「いえいえ、そんな…僕達の国では、如何なる相手にも礼節を重んじるのでイシュタル様をさん付けは兎も角呼び捨ては…」
(親しみを相手に持たせて、今後の関係に少しでも進展させたかったのか?それとも別の思惑があったのかなー?爺さん)
困った顔を作りながらやんわりと断りを入れるハジメと"それならば…"と無理強いをせずに大人しく引き下がるイシュタル。
至って普通の会話にしか見えないが、その裏ではハジメは冷めた考えでイシュタルと接していた。
少しでも会話を発生させれば、イシュタルは今後不利になる様な会話の罠を何個も設置する。
糸で獲物が囚われるのを虎視眈々と待つ蜘蛛の様に。
(蜘蛛みたいな爺さんだな本当に。でも、僕が率先して聞いとかないと、他の皆がこの爺さんと会話をしたら不味い)
今の様に、イシュタルと会話をするだけで向こうの思惑にまんまと乗せられてしまう。
思惑が有効打となるのは遅い故に、遅効性の毒の様に思い返しても簡単には気が付けない恐ろしさを持つ。
(この爺さんの思惑が一つだけじゃなく、何個も込めて会話をするから一つを見破っても別の思惑で雁字搦めにされたら敵わない)
故にイシュタルに積極的に会話をし、皆が疑問に思うであろう事を先にハジメが率先して解決するのだ。
(皆の平穏を脅かされる訳には行かないから、僕が爺さんにこの世界の事を聞いては見てるが…たまらないねぇ!騙し騙される間柄のスリルとこの緊張感!)
またハジメの欠点が現れた。
相手との騙し合いを心の底から楽しむのが病み付きとなり、非常事態だというのに受かれてしまっている。
もし、ハジメにポーカーフェイスの技術がなければ自然と口が不気味に微笑んでいたであろう。
「うぉぉ!コレがファンタジー世界か!」
「凄い綺麗!」
(ソックリ連中は呑気に景色を堪能してるなー。コレから死ぬ選択を強いる連中の親玉の一人と会いに行くのに)
窓の外で広がる緑豊かで中世風の町並みに心を打たれている別世界の生徒達は拐われたというのに呑気にはしゃいでいた。
いや、拐われた現実から逃避しているだけなのかもしれないが。
一先ず、敵地に居る様な物なのだから、単なる能天気か現実逃避のドチラでも良いが警戒心を一人一人で少なくとも持っていて欲しいモノだ。
(あの台詞も感情の起伏も全部演技なら心強いんだけどねぇ。全部素の反応だったらコッチ側としては協力関係築く案は白紙にしておかないと。無能な味方なんて、足を引っ張るだけだ)
(囮に使えそうなラインに入るのが数人…ハァ、数十人なら兎も角5人にも満たない人数だったら、囮として使うにも微妙なラインだな。仮初めの協力関係を作るメリットも無さそうだね)
冷めた心で損得を計算し、別世界の生徒達をイシュタルを筆頭としたトータス勢との対立時に別世界の生徒達を囮として使い使い捨ての道具として利用したり。
別世界の生徒達にさり気なくトータスとの対立を誘導させて、その裏ではトータス勢や別世界の生徒達両方を支援してドッチが勝っても弱っていれば容赦なく刈り取る。
弱っていなければ"僕達は最初から君達を支援していたから味方だよ!"とアピールするのに利用しようかと思ったが、そんな事にも使えなさそうな位に平和ボケしているのが多数を占めている。
使えそうなのは永山と南雲と八重樫と園部の4名位。
圧倒的に人数が少ないのでワザワザ貴重な時間を咲いてまで仮初めとはいえ、協力関係を結ぶのは時間の浪費に過ぎない。
リターンも薄く、大した戦略的な利用価値も無いと判断してハジメは別世界の生徒達から興味を失う。
思考の対象外にしようとするが騒がしい声は嫌でもハジメの耳に響く。
「スゲェ…本物の騎士とかがそこら中に居る…!」
「こんな偉い人達にエスコートされるのって何か偉くなったつて勘違いしちゃいそうなんですけど…っ!!」
(まだはしゃいでるのかよ。何で観光気分になってるのお前達?拐って来た癖に国の為に殺し合えって命令する連中に囲まれてるのに、呑気すぎない?)
「…帰りてぇよ…何で戦争なんかに同意したんだ。巫山戯るなよ天之河の野郎…!」
「何なの…何で…戦争なんてやらなきゃいけないのよ……勝手に巻き込まないで私を…」
能天気にはしゃぐ生徒とは対象的に、別世界の生徒達の中で数人は周りの目も気にせずに呪詛じみた深い絶望、戦争への協力を宣言したハジメと天之河への怒りを隠そうともしない声がチラリとハジメの耳に聞こえてくる。
(馬鹿じゃねぇの?戦争反対意見なんて心に留めておけよ。もしトータスの連中に気付かれたらどうするつもりなの?不快感抱かれたら僕達の心象最悪になるだろうが)
不満を隠そうともせず、現状を理解してる癖に更にトータスの住人との間に不和をもたらす台詞を無責任に吐く生徒達にハジメは心の中で苛立ち混じりに馬鹿だと吐き捨てる。
(そもそも、爺さんに真っ向から戦争反対を表明をしたら間違い無く僕達は敬う対象から神の役割を全うしない粗大ゴミになるだけだっての。奴隷落ちか、神の威光に背いた背信者として殺されるだろが)
(愛子先生みたいに、トータスの人間でも殺すって選択肢が出ない位の恐ろしさを持たせるなら兎も角、召喚されたあの時に戦争反対を言うのは愚策だろがい)
トータスの者達は、勝手に自分達の問題に未成年が大多数を占める子供達を巻き込んでおいても罪悪感も感じず。
それどころか、生徒達が戦争に対して怯えただけで不快感を顕にする様な身勝手で子供の様な癇癪の持ち共だ。
そんな者達へ戦争反対を主張すれば、神から与えられた崇高な使命を果たそうとしない愚か者と見なされ、トータスの民か次に召喚された使徒達の前で処刑されるだろう。
神に従わなければこうなると脅す為の使い捨ての道具として。
(ココは、爺さん以外のトータス人共に良い子ちゃんぶる模索するのが得策。てかっこんな簡単な事にも気付けないのかな?向こうの生徒さん方は。)
"状況を正しく理解する"だけで留まり、ソコから先の事を考えない者も、状況を理解してない脳天気な者と同じ愚者としかハジメには見えなかった。
(ほっておきたいけど、流石にトータスの連中にバレたら好感度最悪に振り切られるしコッチのクラスの皆に何とかしてもらうか)
ハジメは周りのトータスの人々が自分から視線を外した瞬間に、後方に居る雫と光輝に目線を合わせてから、陰鬱とした雰囲気を漂わせる生徒達の方へ目線を動かしてウィンクする。
直ぐにハジメは周りのトータス人に気付かれぬ様に前に向き直ったが、ウィンクをされた雫と光輝はそれだけでハジメの意図を理解した。
(なるほどね。コッチは任せなさいハジメ)
目元を細め、静かに微笑む雫。
(分かった。ハジメ)
表情に変化の起伏は起こさず、何を考えているか分からない無感情な瞳で憂鬱な雰囲気を漂わせる生徒を見つめる光輝。
早速、雫と光輝は自然な足取りで強個性組へと近付き、ハンドサインや目の動きで視線を誘導して等の方法を駆使し、伝達していく。
直ぐ様、陰鬱とした生徒達の周りを自然と香織や雫等を筆頭とした女子組と光輝と龍太郎を筆頭とした男子組が囲む様に移動し、雫が懐から忍ばせていた圭○の人形を取り出して女子組に見せ始める。
「見なさい!このちょ~可愛くてデフォルメチックな圭ちゃんを!」
軽快な笑みを浮かべながら強個性組全員に見える様に見せびらかすのは、ハジメ氏ハンドメイド作であるひぐ○しシリーズの主人公の圭○であった。
「ソコは主人公なのに最終盤で出番もらえなかった人じゃなくて、美少女で愛くるしいレ○ちゃんか梨○ちゃんじゃないの!?」
サラリとハシメの様なディスリを入れる優花は、梨◯ちゃんが来なかった事への八つ当たりをしているのか中々にドギツイ事を言った。
「優花、貴方もそんな事言うの!?」
ガーンッ!と効果音が付きそうな勢いで落ち込みを見せる雫。味方は誰も居ないのか、周りのクラスメイトは優花へ同意する様にウンウンと頷いていた。
ソコへ助け舟がやってくる。
「愛とは人それぞれによって形の変わる純粋なる結晶である。自分以外の愛を理解するのもまた由緒正しき大人への一歩であるぞ!」
ビシッと優花を指差しながら宣言する大介。周りの反応は対して変化しなかったので、その宣言は他の強個性組の胸に響かなかった模様。
助け舟はどうやら一瞬で沈む泥舟だった、という事実にまた雫は落ち込む。
「ココに沙都○ちゃんのお兄ちゃんの悟○君が居れば完璧だったのに…アッ想像したら鼻血が…//」
「妙っち…ソロソロ自重しよう?」
台詞の前半を言い終えた辺りで絡み合う圭○と悟○を妄想して鼻血を出した妙子は一体、何処まで妄想をしたんだよ!?と周りは戦慄する。
妙子の相方ポジである奈々が肩に手を置いて自重を覚えろと言うが、果たして何処まで効力があるかは不明である。
「時代は女同士が絡み合う新時代だというのに、何故男×男なんだか…全く理解出来ないよ」
ヤレヤレと言ったポーズを取るが、奈々の考えも中々大概だった。心なしかその話が聞こえた女性陣が引いている。物理的な距離的にも心情的にも。
周りのトータス人は自然とハジメ達の強個性組達へ意識が向き、憂鬱とした生徒達の言葉は幸いにも聞かれなかった。
反面、囲まれている憂鬱とした雰囲気の生徒達はイライラした様子を見せる。
「何でこんな呑気なんだよコイツラ…理解してんのか、何させられるかを…?」
「馬鹿ばっかり…どいつもこいつも能天気過ぎるのよ…!!」
お気楽な様子を見せた強個性組へ苛立ちの感情と目を向けるが、ソレはお門違いも良い所だ。
そのお気楽な様子を見せなければ自分達の爆弾発言がトータスの人々に聞かれていたというのに。
他人には呑気だと罵倒するが、一番危機管理意識が低くて呑気なのは言った生徒自身である。
(脳天気なのはその絶望ばっかして、前をむこうとしないお前達でしょうに。な~に、僕の友達に責任転嫁して怒ってんだか)
能天気だと罵っていた憂鬱な生徒へ"むしろ脳天気なのはお前等だろ"とハジメは呆れながら、強個性への暴言と罵声への怒りを心の中で見せる。
(皆僕の指示を聞いてくれてありがとうって絶対に言おう!)
「イヤー…すみません。騒がしくて」
ハジメの指示通りに動いてくれたクラスメイト達へ感謝の意を表明したいがそうも行かないので、心の中で感謝しながらイシュタルへ騒がしき事への謝罪を入れる。
苦笑いの表情を作ってから、困ったと言いたげに頭をポリポリと搔く仕草をしてイシュタルや周りのトータスの人々に親近感をもたらす様にする。
とはいえ、イシュタルには効果は見込めないが。
「ホッホホ。子供は元気こそが美徳ですから、あの様な活発の良さは素晴らしき事ですよ。しかし、あの笑顔が明日にも曇るかもしれない、そんな状況を変えたいのです」
イシュタルの話はとても耳障りが良く、聴く人の殆どは共感の嵐を巻き起こしそうな内容だった。しかし、ハジメは終始そんな言葉を信用しない。
(爺さん流石にソレは無理ありすぎるわ。その曇らせない子供の対象に僕達を入れてるのなら戦争に加えるなよって話。)
イシュタルの話が事実だとすれば、その笑顔を作る子供であるハジメ達を戦争に行かせようとしてるのに随分と矛盾しているではないか。
せめて、使徒様方を覗いてと付け加えていたら説得力は増してたとは思うが。
どうせ回りのトータスの人々もイシュタルみたいに使徒を都合の良い道具位にしか思ってないのだから、不快に誰も思わないだろう。
何なら賛美するのではないか?とさえ思える。
(演技は良くても、そんな分かりやすい欠陥を晒すなんてね。こんなクッサイ台詞に騙される奴なんて居ない_)
「イシュタルさん…!必ず、俺が、いや俺達がこの世界を救って曇らせはしません!」
天之河はとても感動しました!という面持ちでイシュタルの台詞に感化されていた。
流石にこの台詞に騙される奴はおらんやろと思っていた矢先の出来事だったので、フリーズしたかの様に固まってしまう。
(いたよ…感化される馬鹿一人が。光輝のソックリの癖に、何でコイツはあんな台詞に感動してるの?光輝の良い所を少しはラーニングしてよ!)
普通の人でもおかしいと疑問に思うだろ!っとハジメはお人好し過ぎるお馬鹿さんを見る目で天之河に意識を向ける。
しかし、ソコでハジメは気付く。
(イヤ、待てよ?あの欠陥だらけの台詞も全部コイツに共感させる為の演技だったって事?)
ワザワザ、あの様な台詞を言ったのもハジメに言う為では無く他の生徒である天之河に聞かせる為。
天之河が正義関連に関しては、自分の損害を度外視して誰かを助ける性分であり、正義を信奉しているのをイシュタルはハジメと交渉する前に天之河が言っていた台詞の節々で確信していたのだろう。
(欠陥をワザと残したのも無警戒に信頼を置いてるか警戒してないかを調べる為の判別会話だったんだね!クソッ出し抜かれたよ!!)
"普通に聴いても疑問を抱く"とハジメは考えていたが、ではその疑問をどうやってイシュタルを疑う行動に繋がる?
確かにハジメの様に端からイシュタルには信用を一切置かず、言葉の全てを疑っていたのであらばまだ疑問を確信に変えられていた。
しかし信用をある程度抱いていれば、今の台詞は少しおかしいな程度で済ませてしまう。
故に、苦笑いかあっそうですかーという白けた心情を表した表情をする生徒以外、疑心や嘘を付け!と苛立つ感情が混じった表情の生徒達を容易く炙ってしまう。
(少なくとも僕以外で爺さんの話を聴いてた連中は…あぁ、あの憂鬱な野郎共の話を誰にも聞こえない様に騒いでもらってたんだ。殆ど聴いてないっぽいね)
ココで疑いの目を向ける者を使徒の中から炙り出そうと考えていたのであろう。幸いにも生徒達は会話に夢中でイシュタルの今の台詞を聴いてた者は少なかった。
だが決して0ではない。耳聡く聴いていた龍太郎と雫はイシュタルの炙り出しに引っかかってしまったようだ。
元の生徒の数からすれば二人だけというのは少ないだろうが、こんな炙り出しの機会なんて幾らでもある。最初は少なくても徐々に炙っていけば、イシュタルにとって生徒全員を調べ終えるなんて造作てもないだろう。
「ハハッ…」
(本当にさぁ…爺さんには利益で、僕には損害の結果かぁ…被害を出した時点で僕にとっては負けなんだよねぇ、辛いなぁ…。でも、)
思わず頭を抱えそうになるハジメだったが、その声色は何処となく喜びの感情が見え隠れしていた。ソレもその筈。
(最高じゃないか!!)
ハジメは笑っていた。
頬を赤くし、口の端が裂けるギリギリまで不気味に笑った。勿論、他の誰にも見られない角度、時間を計算した上で表の表情で笑ったのだから誰にも見られてはいない。
イシュタルでさえ見れば思考を停止し、何か得体の知れない怪物を見るような嫌悪が僅かに湧き上がっていただろう。
それ程異質で、笑っているその姿は不気味だった。童顔なのに猛獣さえ一目散に逃げる歪んだ笑みを数秒で収めて、元の普段通りの表情に戻る。
(騙されたこの不快な感覚も、今は心地良いや。)
重吾の様な変態発言を述べている事に気付かないハジメだったが、後で気が付こうと何とも思わないだろう。
重吾を普段から変態と思っているハジメも、騙し騙されの場面では騙されようが騙そうが幸福感情が芽生えるのだから。
(だって、こんなに騙すのが上手くて僕達を本気で手玉に取りに来る奴が居るんだから。)
騙されたら自分を出し抜く強さを持つ事に喜びを持ち、そしてその騙した人物を徹底的に騙し、その瞳に本物の恐怖が植え付けられたその瞬間を想像して悦に浸る。
人の不幸を喜ぶのと性質が似ているが、その不幸を自分自らで引き起こして絶望と怒りで暴力という手段しか残されなくなったその哀れでちっぽけな姿。
ソレを考えるだけでも絶頂モノだ。
(あぁ、早く騙したい…騙し尽くして全てを奪って、その時に出す表情を見たいなぁ!)
歪んだ欲望を持ち、不幸で人を陥れようとする男。ソレが南雲ハジメという人物だ。
「ハジメ君が喜んでる…でも、その喜びを提供してるのは私じゃない…何で、かな?'カ'ナ'カ'ナ'、'カ'ナ'?」
ハジメの心情に気付いた香織が台詞の後半辺りから黒い殺意の波動を漂わせて、すわっ!敵襲か!?とトータス人に恐怖を与えていたとか。いなかったとか。
因みに喜びに顔を綻ばせていたハジメはこの後、ものっすごく香織に土下座して謝り倒したとか何とか。
イシュタルとハジメの一見普通に見えた会話では、その意味を汲み取れなければアッサリと食い物にされる騙し合いが繰り広げられていた。
交渉の序盤から中盤にかけてはハジメが優勢で話は進んでいたが、ソコから終盤までにもハジメ優勢に変わりは無かった。
と、目敏く会話内容と嘘と話術での交渉を繰り広げているのに気が付いていた生徒やハジメ自身は"思い込んでいる"。
実際は、序盤から中盤まではハジメが優勢だったがソコから終盤まではイシュタルが交渉の主導権を握っていた。ソレを周りの誰もが気が付いていない。
序盤から中盤で優勢をハジメに取られたとしても、イシュタルには対して損害はやって来ない。精々、微細な被害のみ。
ソコに目を瞑れば、中盤から終盤まではずっと利益を出し続けていたのだからむしろ儲け物。
(だが、どうにも腑に落ちない)
しかし、イシュタル自身は何処か浮かない心情を誰にも見せぬ事なく抱いていた。
(あの使徒"南雲ハジメ"なら、必ず被害を最小限に留める事も可能だった。いや、出来なければおかしかった)
単純にハジメの実力を高く見積もりすぎていたでこの話は終わりになるのだらうが、イシュタルにはどうにも納得が行かない。まるで小骨が喉に刺さった様な不快な気持ちが残る。
何処まで考えても答えが見えてこない謎。ソレを上手く自分の中で消化する事が出来ないを永遠にこびり着いて、イシュタルの頭から離れない。
(何処だ。私は何処で南雲ハジメの動きを見落としをしてしまった?思い返せ…)
思考を一つ一つ整理してから、記憶を確実に掘り起こしてハジメとの騙し合いを始めた所から思い返していく。序盤から中盤まではまだ違和感も感じず、出し抜かれた感覚だけが残っていた。
だが、ハジメが数秒にも満たない間にだけではあるが瞼を閉じ、再び空けられたトキには僅かばかりではあるが戸惑いの感情が見え隠れした。
(そうだ…アソコで何を戸惑う必要があった?何故、愚かにもそんな感情を私の前にさらけ出した?)
自分の予想とは違う嘘や単語を並べた会話をイシュタル自身がしたからか?違う。何か失策に気が付いたからか?違う。
(その程度の事で戸惑いの感情を相手に見せる等ありえん…何か、ソコで何か南雲ハジメ自身に……待てよ?)
ソコで突然、答えに迫るヒントがイシュタルの頭に天啓の様に湧いてくる。
(その後の南雲ハジメは私が予想出来る範疇での嘘や交渉しか見せなかった。あの時の私は、その点で向こうを出し抜いたと勝手に勘違いしていたが不自然ではないか?)
イシュタル自身の騙し合いに関する技量は高いほうだと自負するが、周りの誰にも負けないと自惚れずに常に自分を出し抜く猛者が居ると警戒していたからこその気付き。
イシュタルは、徐々に気が付き始める。まんまとハジメの手の平で踊らされていた事実に。
(突然、私が有利な発言が出来すぎていた所があった。が、ソレ自体が罠だったと考えたら?)
イシュタルも騙し合い時にはその点を疑っていたが、ハジメから演技時特有の反応であったり声色であったりの予兆が見受けれずに切り捨てていた。
だが、改めて今考えてみるとその思考通りなら解決出来る疑問も増えてくる。
(しかし、そうなったとしても南雲ハジメ自身の戸惑いは…?アソコで演技をしてそんな様子を見せる理由もメリットも無い。何だ?何がまだ隠されている?)
その思考で、論理的な答えを探し求めるイシュタルとて、まさか記憶を自己暗示により一時的に忘却させた等という方法は予想だにしないだろう。