ありふれないクラスメイトと平行世界のクラスメイトのトータス入り 作:ユラシ仮面氏
医学書、魔法の指南書、世界の可能な限りを記した地図、魔物の特性を記した書籍等のありとあらゆるジャンルの本が集められた真央の部屋で、真央は本を読む手を止める。
「その内容を続けろ」
真央はココで要約ハジメと目を合わせ、読書の為に酷使して血走った眼球でジロリと睨む様にハジメの目を見た。
(よしっ!真央の興味を最大限に引けた!幾ら本に脳味噌乗っ取られている様な真央でも、流石に王国側とのガチンコバトルは避けたい筈!)
蛇に睨まれた蛙の様に震え上がってもおかしくないのに、ハジメはむしろ内心で喜びすら見せていた。ハジメにとって、そんな精神面での攻撃等痛くも痒くもない。
(今回は仕方無く、本当に王国側に胸糞悪いけど真央の本は返却させてもらう。だから真央には謝りきれないのは理解してるけどハッタリを使わせてもらうよ)
王国側への印象が勝手に攫っておいて、非協力的だと殺意を向けてくるキチ○イ連中という最悪な印象しかないので、ハジメは本当なら王国側に味方するのは腹ただしいがコレも日本への帰還の為。
真央には日本に戻ってから図書商品券一万円で許してもらうとして、今は盛大にハッタリと嘘を真央に使わせてもらおうとハジメは舌を忙しなく動かす。
「もし成果を何も上げていないし、転移からそれ程の時間が経過段階で協力を断ったりしたら使徒としての立場を白紙にまで追い込まれる」
今のハジメが話した事には嘘と事実が入っている。
使徒として既に国内や国外に広めているのに、非協力的だからと使徒の立場を無かった事にすれば神からの役割を徹しなかったからとはいえ、全員に動揺は広がる。
頼みの綱が突然居なくなれば、民草や魔人族との戦闘を継続する役割を持つ将校達の間で絶望がより広がる。そうなれば必然的に、その情報を知った魔人族も勢い付く。
人間側は希望を一度与えられてから奪われるのだから、確実にその判断をした政権や教会への不満が内心で高まっていくだろう。
ソコをイシュタルも把握しているからこそ、堂々と神の意志に背いた愛子先生へは監視を強くするだけに留めているのだ。
しかしこの考えは、エヒト神が無尽蔵に神の使徒としての能力を与えてトータスに送り込めないという前提での話だが。
(イシュタルの爺さんがその事実を神託とかいう邪神エヒトとの通信で知らされてないから生かされているだけの可能性だって充分考えられる)
もしその考えが正しいのなら、エヒト神が不要と判断すれば簡単にハジメ達の使徒としての立場は崩壊されて次の使徒を召喚される。
そうなれば、ハジメ達の処遇は奴隷が一番マシ。最悪なのが神への反逆者として処刑される事だ。
(実際に地球でも、中世時代に教会が当時の政権に対して強い発言権を持っていた時に異端者として殺された連中は沢山いた)
このトータスでも同じく教会が政治に大きな影響を持つのだから、神への冒涜をやった者には容赦の無い末路が待っているのは想像に難くない。
だからその可能性も検討しての発言だ。確定では無く、あくまで可能性の話だが有り得る末路でも有るのだから決して世迷い言も嘘も言っていない。
「その可能性の具体的なパーセンテージは算出済みか?」
そんな屁理屈で並べられた話だとは気付かずに真央は、ハジメに何割の確率で起こり得るのかと聞いた。聞いた、という事は真央も不安に感じたからハジメに聞いたのだ。
もし真央が気にしていないのなかったのならサッサと出ていけコールを繰り返すか、大好きで止まない読書に戻っている筈だ。
真央の質問に、心の中で
「勿論さ、トックの昔に済ませてるよ」
「結論から言うとほぼ百%間違い無く白紙、もしくは今回のを貸しにされて向こう側に有利な条件を付けられるか明確な首輪を着けられる」
無論ハッタリである。真央はどうやら気が付いていない様子であるが。
使徒としての立場がより不安定になれば、今ハジメが言った処遇にされる可能性はある。だからこそハジメの言葉に説得力をもたらせる。
ソレが例え屁理屈であったとしても。
「つまりは使徒様からワンワン鳴く飼い犬に身分をランクダウンされるって訳」
使徒という立場が没落すればハジメ達は強いだけの子供の集まり。数の利や人質を取られれば容易に従う以外の選択肢を無くす弱者に過ぎない。
戦争奴隷としてその身を酷使され、最悪捨て石として最前線に立たされる事だって想像に難くない。
「百%とは大きく出たな本来なら腹黒い貴様の口八丁と容易く切り捨てたい所だが」
真央は一度目を伏せ、不愉快気にため息をする。
「我等を取り巻く今の現状を考えれば、貴様のその数値もあながち間違いと容易く切り捨てれん」
真央も最悪のシナリオを想定はしていたのも手伝って、ハジメの言葉を信じた。
真央もハジメの本性は知っているので確実に何割かの虚言は混ぜ込まれているとわかっているが、使徒の立場を取られるという点に信憑性があると感じてしまった。
「本当に忌々しいが、今の我には王国全土を相手取る実力は無い」
裏を返せば王国全土を相手取る力を持てば、本を強奪するのも辞さないという真央の書物に対する執着心。ソコがハジメをして末恐ろしく感じさせる。
しかし今回は不本意で不満タラタラであっても諦める選択を選んでくれたのだ。
「故に大きく譲歩して、既に3度読み果たした書物を返す」
訂正、全然諦めていなかった。何なら欲張りにも三度も読み終えた物しか返却しないという盗んだ犯人側とは思えない要求をしてきやがった。面の皮が厚すぎる。
しかも本当に悔しそうに言うのだから、真央本人は今回の件で全く懲りてないのが容易に分かってしまう。
「ハハァ…真央大明神様のご要望の通りに進めますよー」
しかしハジメも真央の要求も一部しか返却されないのなんて想定の範囲内。予め王国側には一部を継続的に返す方針を伝えて、ソレを了承させている。
王国側もまだ有用な手札を捨てる事はしたくない様で、アッサリとハジメの伝えた方針も了承してくれて話はトントン拍子に進んでいたのだ。
だが、コレを今の真央に伝えたらもっと要求を強めて、返却される本の数が減ってしまう可能性があったのでハジメは伝える気が無いが。
真央が2本の指を擦り合わせて鳴らした音を合図に、積まれた本の一部が独りでに空中を浮遊してハジメの目の前に集まり始めた。その数は50冊はくだらない数だった。
「今集った書物が既に3度読み果たした物だ。好きに運べ」
"好きに運べ"とは言うが、ハジメは筋肉を積極的に付けるタイプではない。
生活する上で最低限の筋トレしかしておらず、とても一度に何十個もの本を持って書庫から真央の部屋を何十回も往復する体力なんて毛頭ない。
(端っから僕だけで運ぶのは無理だって分かって言ってるな!!この本狂いのドSめがぁ!!…ハァ、僕一人じゃまず片付けるのには時間掛かるだろうなぁ)
真央の地味ながら効く嫌がらせにハジメは心の中で激しく吠えながら、目の前の本の山達は一先ず他の生徒達に協力を要請して書庫に返却するしかないと結論付ける。
一方の真央は要件はもう済んだとばかりに椅子に座ってまた読書を再開した真央は、目線もハジメから外して、一番最初の読書をしながら会話をする状態に逆戻りした。
「参考程度に聞きたいんですけど、コレって幾ら位あるのかなー真央さん…?」
引き攣りそうな頬を必死に意思の力で抑え込みながら質問するハジメの声色は、心なしか最後ら辺の台詞で尻すぼんでいた。
読書に集中している真央は、ハジメのそんな様子も気付かずに目を本に釘付けにしながら問いの返答をする。
「193冊ある。今後も3度読み終えたら返還するのだから、コレ以上の要求はするなと伝えておけ」
3度読み果たす事は普通なら相当の時間が掛かるが、真央は本一冊を僅か5分で読破して内容も全て頭に入れれる特技を持つ合わせているので、今後も193冊を超える本が返却されるのは保証されている。
だからと言って、盗まれた側の王国側に真央の言った発言をソックリそのまま言うのは間違い無く心象を悪くさせるし今後も同じケースの問題を起こせば、次は今回よりもキツイ条件を突き付けられる可能性もある。
「その言葉をどストレートに伝えると間違い無く言った僕が気不味くなるから却下!オブラートに包んで伝えておくよ」
そのハジメの返答に真央は嘘を付くなとばかりに言葉を立てる。
「貴様に気不味くなるという概念は無かろう。貴様のお得意な口八丁と丁寧語を活用するというニュアンスを察せぬボンクラでもあるまいに。白々しく聞き返すな」
「苛立ちと関心を示すの中間を攻めるのが僕の会話術の基本なんだよ!白々しくてもやるのだよぉ!!」
ビシッと指を真央に向けるハジメに対し、真央は感情の起伏も見せずに淡々と言い返す。
「そうか。ならばサッサと王国側にその会話術とやらで言ってみろ。知識の収集を普段から怠り、怠惰に過ごす愚物共が失うと分かった途端に慌てるのはどんな気分だ?、とな」
真央は完全にハジメをおちょくる体制に移行している。声色も何処か虐めがいのあるペットを見つけた女王様の様な声色だ。
「ソレはどう丁寧語と丁重語と尊重語の辞書を引っ張り出しても、一言一句全てを伝える為には最終的に相手に煽りとしか受け止められない言葉にしかならないよ!!」
完全に遊ばれているハジメ君は必死に抵抗する。
「文字通り煽るのだから何の問題もあるまい」
しかし、返される答えはとても王国側には聞かせられない内容過ぎて、ハジメは自分に監視の目が今は付いてない事に安堵する。
「やったらソレこそ信用失墜待ったなしだよ!?僕の胃袋をコレ以上痛めないでほしいんだけどねぇ…!」
「勝手に気負ってくだらん理由で胃を痛める貴様にどう心遣いをしろと?」
「主に君達が粗相をしないか心配をして気負うんだよ…主に重吾とか
重吾が2回呼ばれる位には毎日毎日問題を起こしてくれやがるので、今回のやらかしをやってくれやがった真央も重吾と同等の問題児だと言うが真央は「ハッ」と鼻で笑う。
「我を重悟と同じカテゴリ内に収めるとは、随分と自分の行動を普通と考えるな。謙虚とは真反対に位置を陣取る貴様こそ、表立っての行動をせんのだからクラスで一番厄介者だというのに気付かんとは」
確かに真央の言葉にも一理ある。ハジメのクラスメイト全員が一癖も二癖も揃え過ぎたアクの強い個性派集団。
表立って行動を起こす彼等彼女等に比べ、ハジメは表では普通の苦労人を演じて裏で暗躍するタイプなのだから他の生徒達よりも敵に回せば真央の言う様に一番厄介な存在となる。
「ナッなんのコトかなー!」
必死に誤魔化しを図るハジメの猿芝居を無視し、真央は不満を漏らす。
「そも、知識の増幅はこの世の人間全てがやるべき行いであろう」
読書をして他の人物の思考、情報を理解して覚える事は無知や間違いを訂正して認識を改め、ソレまでとは違う考え方を持つ為の重要な作業だと真央は考えている。
しかしどうだ?世の中、普通に生きていく中で生じる無駄を全て無意味に使って娯楽やらゲームやらに入り浸って、知識の収集を怠り時間の無駄遣いをする者ばかり。
「その為に普段から閲覧等を特にせずに、他の事ばかりにかまけた人生の無駄遣い共より有効活用出来るのだから我が集めたに過ぎん。何処に問題点があるのだか」
だから本を盗んでも悪くないもん!理論を展開している真央に対し、今回何度目かになる呆れを内心で吐露するハジメさんであった。
(コレなんだよなー…ウチのクラスの問題点は。自分がやった行動が周りに"異端だ"とか"恥ずべき行為だ"って言われようが顧みない)
ゲームの台詞だって格好良く感じても、人前で大声を上げて台詞を朗読するのは恥ずかしいと感じてしまう者が多いが、ハジメのクラス連中はその恥ずべきという感情を無視して大声を出しまくるタイプだ。
(だからこそこんな濃い変人集団に仕上がってるけど、僕はちゃーんと自覚してるし周りから隠してるんだからマトモだろ)
個性が強過ぎなハジメは自分は表に出さずに最小限の相手にしかやってないのだからと、余り言い訳になってない事を内心で思う。
(嘘なんて上手くない奴とか悪党が使うから嘘=悪の定評が付くけど、交渉事や誰かを救う刃としての姿が本来の嘘の使い方だ)
誰かを騙すのは確かに良くないが、そんなのは使い方次第だ。コレは火でもナイフでも言える事だ。
要はその使い道が誰かの幸福や便利さに結び付くのでは無く、誰かを不幸にしたり欺くのだから誤解されやすいだけで使い方次第では大きな人助けとなる。
余命が短い患者に「治る兆しはまだ充分有り得ます!最後まで諦めないでください!」と最後まで患者の希望を絶やさせようとしない嘘を着く医者は悪者か?
お腹を空かせている誰かに食料を渡し「買い過ぎたからお裾分けする」と善意の嘘を着いて誰かを助けるのは悪か?
(皆バレたり悪事によく使われるから知った人からの印象が悪くなるだけで、気付かない位の高度で自然な嘘を使えば悪だって思われない)
嘘なんて悪事にしか使われないイメージしか無いが、そんなのはどの事柄にも適応される。問題はその嘘を使う人物の目的が重要だ。
(ソレを活用して円滑に事を進めたり、守る為にしか使わないんだから僕は至ってマトモだぜ?むしろ)
最後に自分はマトモですよ!発言をして自分の思いを締めくくったハジメは真央の部屋全域を見渡す。
(こんだけの本を利益じゃなく、自分が読む為だけに集めて記憶するのに命掛ける様な真央の方が変人だろ確実に)
吉野真央 二つ名:動かざる図書館の暴君
見た目の変化:目の血走りと、切る時間を惜しんで読書に集中した事で伸びた長髪
好きな事 知識の収集行為(読書) 本で埋め尽くした部屋に居る事
経緯:本を読む事で広がる知識は役に立つのに、大多数がその事を知っていても面倒くさいという理由だけで、暇な時間はあるのに文章のある本を手に取らない事に対して理解が出来ない感情で埋め尽くされた幼少を過ごしていく。
その内に、本を読まない者を限られた人生の時間の中で無意味に無駄使いをする者と思う様になり、内心で蔑む様になる。しかし、今の高校のクラスメイト達へは不思議とその軽蔑は向けられない。