小人族の聖女   作:柔らかいもち

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 前回二つ名についてどうこうと書いてたので神会を期待していた方がいましたが、正直書くことがなかった。なので神会はないです。そして言うほど二つ名についてもないです。

 ではどうぞ。


十話

 仲間を増やす。ベルがLv.2に【ランクアップ】する前からいくつかある優先事項の一つである。ベルが強くなることを望んだ時から考えていたのだ。『中層』に進むなら最低でも一人、信頼できる人物をパーティに加えると。

 

 今の時代、手っ取り早く強くなる手段はダンジョンに潜ることだ。自分に匹敵する怪物達を屠って【経験値(エクセリア)】をがっぽがっぽ手に入れ、格上を倒して【ランクアップ】する。『神の恩恵(ファルナ)』の特性に最も適した環境はオラリオだろう。

 

 そんな訳でLv.2になったベルが『上層』に籠っていても【ランクアップ】することはほぼ有り得ない。故に『中層』に踏み入れなければならないのだが、経験者であるリリは『上層』と『中層』は違うと思っている。

 

 モンスターの強さが上がることは当然、出現間隔(インターバル)も短くなり、『上層』のモンスターにはなかった遠距離攻撃を仕掛けてくる。ダンジョンの迷路構造や罠もより複雑に狡猾に、冒険者を追い詰めるものになる。Lv.4になった今に至るまでベル以外とはパーティを組まなかったリリが口にしても説得力がないが、単独(ソロ)では対処しきれなくなるのだ。二人一組(ツーマンセル)でもだ。

 

 Lv.4のリリがいれば『中層』で死ぬようなことはない。仮に中層域のモンスター全てが襲ってきたとしてもベルを守りきる自信がある。しかし、それはベルの成長の機会を奪うことになり、強くなりたいという彼の夢を邪魔してしまう。故に一方的に寄りかかるようなパーティではなく、役割を分けて助け合えるようなパーティにするために仲間を増やすのだ。ベルもリリにおんぶに抱っこは嫌だと賛成した。

 

 ――というのは八割建前で。残りは好奇心に逆らわない神々(ゴミクズ)と嫉妬にかられる冒険者対策である。

 

 試練という余計なお世話をベルに焼き、その邪魔をさせないためにリリに都市最強……訂正、元都市最強を送り込んだフレイヤ然り、【ランクアップ】するなり手の平をひっくり返して勧誘してきた連中然り、神々は欲望のままにちょっかいをかけてくるのだ。世界最速兎(レコードホルダー)となったベルは暇を持て余している神々の注目の的になり、同業者からも目を付けられている。

 

 神じゃなくてもピンとくる。絶対に面倒なことになると。

 

 そんな面倒事に巻き込まれた時、狙われたベルや彼を守るリリは動けなくなるかもしれない。その時にギルドにチクリに行けるメンバーが欲しいのだ。ぶっちゃけ、ないよりマシ程度の考えである。

 

 ちなみに仲間探しは全部ベルに任せている。リリがやると噂に踊らされて組もうとしないか、漁夫の利を狙う輩しか集まらないのである。ベルもベルで人は皆善良みたいに思っている節があるため、最終手段として【ソーマ・ファミリア】から助っ人を連れてくるというのがあったのだが……杞憂に終わった。

 

「どちらも好きなように動いて下さい。ベルはもうこの階層では危なげないですし、いざとなれば私が処理して助けます」

「わかった」

「おう」

 

 11階層。Lv.2になったベルの肩慣らしがてらに探索を決めていた階層のスタート地点で、リリの前にはベルの他に黒の着流しを身に付ける赤髪の青年がいた。

 

 ヴェルフ・クロッゾ。昨日防具を買いに行ったベルと直接契約を結び、新たなパーティの一員となった鍛冶師だ。

 

 紹介されてすぐにリリとヴェルフは仲良くなった。なんなら無言で固い握手まで交わした。わかるのだ、『魔剣鍛冶師(クロッゾ)』とか【小人族の聖女(フィアナ)】のような家名や二つ名に苦労してきた仲間だと。自分自身のことを認めてもらえなかった者同士であると。似たような感性(残念なネーミングセンス)であると!

 

 そもそもリリは二つ名自体が嫌いなのだ。背中に刻まれる軌跡を知る主神に授けられるならまだしも、書類の上でしか知らない奴等に決められるのは腹が立つ。品定めをされているも同然だし、ニマニマとゲスい笑みを浮かべる神々にこの名前通りに生きろと指図されている気分になるのだ。唾を吐きたいが下品だし変態を喜ばせるだけなので思いとどまっている。

 

 ちなみに二つ名は【小人族の聖女(フィアナ)】から変更はなかった。変えられるとムカつくのでいいが、実際はソーマが頑張った。破滅的に生きる(アホ)が出した新しい二つ名の候補が【魔槍少女(マジカル☆リリカル)】や【傲慢女王(メスガキ)】、【合法幼女(ロリババア)】や【調教女帝(済)(ワカラセ)】だったが故に超頑張った。本当は根が陰キャで滅多に『神会(デナトゥス)』に出席しないソーマをからかっていただけなのだが、そうとは知らないソーマは家に帰るなり心労で寝込んだ。ギリギリで【勇者(フィン)の嫁】にならなくてよかったと安堵しながら。

 

 そんな苦労をした主神を見舞ってからダンジョンに来た少女は『インプ』や『ハード・アーマード』に無双する少年に微笑みを零しながら、青年を囲っていた三匹の『シルバーバック』の内二匹を瞬殺した。瞬く間に『魔石』だけを残して消えた同胞に『え?』という表情になって固まる銀猿を前に、ヴェルフは礼を告げる。

 

「ありがとよ。しっかし、ベルもとんでもなく速いが、リリスケのは次元が違うな」

「それほどでもありませんよ」

 

 淡々としながらリリは壁に向かって槍を投げる。目にも留まらぬ速度で投擲された槍は今まさに産まれ落ちようとしていた『インファント・ドラゴン』を貫いた。和気藹々としながら上層部から下りてきたパーティは、壁から頭だけを出して死んだ竜種を見て速攻で引き返した。

 

「しまった……あれでは『魔石』が回収できません」

「それよりも何人かの冒険者の自信を喪失させたことを反省するべきだと思うけどな、俺は」

「あの程度で粉砕する自信なら冒険者はやめた方がいいです。ダンジョンは『上層』だろうとLv.8相当の猪が出現したりするのですから」

「流石に嘘だって俺でもわかるぞ……っと!」

 

 あからさまな冗談に苦笑し、こちらの緊張をほぐそうとする気遣いを見せる少女に感謝しながら、ヴェルフはシルバーバックを数合の交戦の末に倒した。大量のインプを倒し終えたベルもこちらに駆け寄って来る。

 

 初めてのパーティの戦いはこうして幕を閉じた。

 

 

 

 数日後。ベルの【英雄願望(スキル)】や新しい装備の確認が終わった一行は、『中層』に足を踏み入れた。

 

 

 

 ♦♦♦

 

 

 

「あぁん?」

 

 秩序に従って生きる者は知りもしない、悪の温床と成り果てた稀代の奇人の系譜達の迷宮。そこで一人の女が声を漏らした。

 

「おい……おいおいおい!? 生きてやがったのかこの女! まったくよ~、上げて落とすなんて酷いことしないでくれよなぁ。あのスカした勇者様への嫌がらせにぴったりの玩具がいなくなったって知って、私がどれだけ悲しんだと思ってんだ!? 殺し合いをさせてもいい、バラバラ死体にしてもいい、剝製にしてもいい最高の玩具!」

 

 仮面を被った無表情の小人族(パルゥム)の似顔絵が描かれた情報誌にナイフを突き立てながら狂笑で顔を歪める女。彼女は自分の言動に怯える部下にギラつく目を向けながら命じた。

 

「あの化物女に言ってこい! このガキを生きていても死体でも構わねえから連れてこいと!」

 




 おや、前世の因縁の様子が……?
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