小人族の聖女   作:柔らかいもち

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 あくまでリリはリリです。完全にフィアナではありません。
 ここから先は蛇足です。


九話

 背中に一滴の血が落ちて波紋を起こし、水面のように震える肌に指が走る。血も指も信頼を預けるに足る神のもの故に、彼女がこの行いを不快に感じたことはない。

 

 人類では解読できる者が圧倒的に少ない【神聖文字(ヒエログリフ)】が肌の上で踊っては刻み込まれていく。やがて手を止めた酒を司る神は、もう彼女にかけることはないかもしれないと考えていた言葉を僅かばかりの感慨とともに告げた。

 

「おめでとう……【ランクアップ】だ、リリルカ・アーデ」

 

 

 

 ♦♦♦

 

 

 

「うふふ、ふふっ、あはははは!」

 

 もしかしたらミノタウロスに殺される直前に夢でも見ているんじゃないだろうか? それとも初めてのお酒に酔ってしまったか。摂取したばかりのアルコールを全て排出してしまわんばかりの汗を流しながらベルは自分の頬を抓っていた。

 

 ミノタウロスとの対決から三日後。お互いに疲れが大きかったのかリリと抱きしめ合いながらバベルの治療室で寝落ちしたり、見舞いに来たヘスティアが目撃して嫉妬にかられてツインテールを振り回したり、【ランクアップ】と一緒に【英雄願望(アルゴノゥト)】なる羞恥で死にそうになった『スキル』が発現したりと、ベルにとって休息のはずなのに休めているのかわからなくなる日々が続いていた時、ベルの【ランクアップ】のお祝いを『豊饒の女主人』で開くことになった。

 

 なんやかんやあって予定時刻を少々過ぎて『豊饒の女主人』に辿り着き、パーティーのためにベルの特等席近くに準備されたテーブルまで進んだベルが見たのは、

 

「まったくぅ~、神に追い回されて遅刻しちゃうなんてぇ……ダメな子ですねぇ、ベルはぁ……」

 

 べろんべろんに酔っぱらったリリだった。完璧で知的な振る舞いを心がけていた少女のまさかの姿に思わずベルは目を擦った。

 

 ちなみに犯人はソーマである。【ランクアップ】のお祝いに品質の上がった『神酒』を開け、ベルに受け入れられて我が世の春を満喫していたリリは一息に飲んだのだ……酒が弱いにも関わらず。幼い頃、彼女が急性アルコール中毒で死にかけたのは、一気にアルコールを摂取した以外にも理由があったのである。

 

 どうやってこの酒場に辿り着いたのかは、天界の神々にしかわからない。

 

「【ランクアップ】するなり擦り寄ってきた連中なんてねぇ、腎臓は二つあるから片方いらないよねって言えば簡単にいなくなるんですよ! それでも消えないなら本当にやっちゃえばいいですしー」

「相手は神様だから不敬っていうか、人が相手でもやっちゃ駄目でしょ!? というかリリ、目を覚まして! このままだと取り返しのつかないことに……!」

「えへへぇ、酒の神の眷属にピッタリの脅し文句(ジョーク)じゃありませんか、リュー?」

「アーデさん、アルコールを分解する働きをするのは肝臓だ。そして貴方が見ているのはシルだ」

 

 酔っ払いの面倒臭さを知るソーマが『やっべ』と言ってしまうくらいに今のリリは無敵だった。果実酒を注文したのに水が注がれたジョッキの中身を気にすることなく振り回しながらベルに抱き着き、兜がずれるのも気にせず頬擦りをする。そして頻繁にだらしない笑い声を零していた。

 

 抱き着かれるベルは真っ赤になっていた。少女から香る甘い匂いとか、押し付けられる胸や四肢の柔らかさとか、ずれた兜から覗いた蕩けた瞳や濡れた唇などが心臓を跳ねさせる。誤魔化すようにエールを飲んでも味がしないし、酔える気もしなかった。

 

「もう醜態どころか末代までの恥になりそうですね……アーデさんは絡み上戸か甘え上戸だったのでしょうか?」

「ちーがーいーまーす! ベルには抱き着きたいから抱き着いてるんですぅー! それにいいことが沢山ありましたからっ、へへへ」

「こんなアーデさんの姿は見たくなかった……いいこと、とは?」

 

 目を背けたくなる行動をする友人に鋼の精神で向かい合い、二番目に手を握った少女の伴侶になる予定の少年を助けるべく酔っ払いの相手をするリュー。にへらっと相好を崩しながらリリは口を開いた。

 

「これまで散々あの色ボケゲス女神に煮え湯を飲まされてきましたからね。もうあんな思いをしないでいいどころか、自慢のマザコン変態猪をギタギタにしてやれました。奴の武器も全部破壊したので貯金も結構減ったでしょう。おまけに私の【ランクアップ】の報告を受けてやって来た時のギルドの豚の面と言ったら……思わずスキップでギルドから出てしまいました。ああ、今も空気すら美味い!」

「リリがかつてないほど浮かれてる……」

「調子に乗っているの間違いじゃないですか?」

「シル?」

 

 気に食わない鈍色のウェイトレスがジト目で皮肉を零すが、リリはまるで気にならなかった。とある美の神が狐人(ルナール)の法外の妖術を発現させた時のような笑みを浮かべ、煽るようにベルをより強く抱きしめる。

 

 言葉を暴力で捻じ伏せるのは愚者の行いだが、最後に意志を通すのは力だ。そのための力を手に入れた今、ギルドやいくつかの【ファミリア】に借りを返させることは容易い。面倒だから今すぐはやらないが、必要になれば遠慮も容赦もしない。馬車馬よりも働いてもらおう。

 

「……なんとなくですが、先日都市を揺らした轟音と衝撃の正体がわかりました」

「今のでわかるんですか? 僕もリリに尋ねたんですけど知らなくていいの一点張りで……」

「彼女がそう言うなら今は知る必要はないでしょう。私も七年前にオラリオにいなければ想像もできなかった」

 

 そんなリューとベルの会話を最後に、アルコールが回りに回ったリリの意識は途絶えた。

 

 

 

 ♦♦♦

 

 

 

「頭が割れるように痛いです……」

 

 一夜が明け、ベッドの上で目覚めたリリはとんでもない頭痛に襲われて悶えていた。

 

「昨日の記憶がさっぱりありません……ソーマに酒を振る舞われたような気がしますが、ベル、私は変な真似をしていませんよね?」

「えーと……酔っ払ってたけど、変な真似は多分してないよ」

「そうですか? しかし、本当に物理的に頭が割れそうなくらい痛いです。もしかして記憶がないのはとんでもない力で頭をぶん殴られたせいなのではないかと思ってしまいました」

「……」

 




 ダンメモではリリが調子に乗りまくる話があったりします(個人の感想です)。

 リューさんしかり、アナキティしかり、酔っ払ったクールキャラは痴態や醜態を晒すのがテンプレ。

 ちなみに酒場ではモルド達がベルに加えてリリを侮辱し、リューが「友人への侮辱は許さない」と怒り、リリがベルへの悪意に反応して椅子やテーブルごとモルド達をぶっ飛ばし、最後はミアがリリを拳骨で沈めました。

 リリのランクアップの経緯はギルドが伏せてベルと同じように詳細不明になってます。公開すればLv.4になるためにLv.7に勝てとかふざけてんのかってなるので。

 二つ名とかは次ですかね。
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