TS転生美少女 音虎玲子は寝取られたい(旧題:TSクソビッチ少女は寝取られたい)   作:二本目海老天マン

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142.そして歯車は狂いだす

「神田くんってさぁ……そんなに私のこと嫌いなの?」

「はぁ!? い、いきなり何言い出すんだよ!?」

 

 自室に上がり込んできた音虎の言葉に、俺は思わず声を上げてしまう。

 嫌いな訳があるものか。

 むしろ彼女を好意的に思っているからこそ、俺は……

 

「……だって、大して親しくもない人達にちょっと陰口を言われたぐらいで、私達と友達やめるって言い出しちゃうんでしょ? そんな簡単に手を切れちゃう程、私達の関係って薄っぺらかったのかなーって」

「そ、それは……」

「あーあ! ショックだなぁー! もう結構長い付き合いなのに、私は思ってるより神田くんと仲良くなれてなかったんだなぁー!」

 

 ジタバタとベッドの上で暴れ出す音虎を、俺は半ばパニックになりながら取り押さえようとする。

 

「ひ、人のベッドの上で暴れんな馬鹿っ!」

「友達じゃない人の言うことなんて聞きませーん」

「あークソッ! 友達じゃないわけねえだろ! 俺は、お前のことが……」

「……私のことが?」

 

 ピタリと動きを止めた音虎が、ニヤニヤと笑みを浮かべながら俺を見つめる。クソッ。分かっちゃいたけど、こいつやっぱり結構性格悪いぞ。

 

「……お、俺は、お前のことが好きだし、親友だと思ってるよ」

「……うん。私も神田くんのことが好きだよ」

 

 優しく微笑む音虎の姿に、俺の心臓が破裂しそうになる。

 彼氏いる奴が、軽々しく男に向かって好きとか言うんじゃねえよ……

 音虎にそういう気が無いのは分かっていても、心臓に良くないんだよ本当に。

 

「……なら分かれよ。好きだから、俺のせいでお前に迷惑をかけたくないんだ。お前も立花も、俺のせいで悪い噂が付いたりしたら……」

「別にいいよ。神田くんのことをよく知りもせずに、悪口言うような人達と仲良くするよりも、神田くんがそばに居てくれた方がずっと嬉しい」

「音虎……」

 

 その言葉に、胸がつまりそうになる。

 

「神田くん……」

 

 上手く返事が出来ずに固まっている俺の頭を、音虎はそっと抱えるように抱きしめ――

 

 いやいやいやっ! 流石にこれは友人のライン越えてんだろっ!? 

 

 甘い香りのする音虎の胸に包まれる前に、俺は理性を総動員して、慌てて彼女から距離を取った。

 

「チッ」

「……えっ、音虎?」

「元気、出たみたいだね?」

「お、おう……」

 

 いや、今こいつ舌打ちしなかったか? 

 ……無いか。音虎がそんな品の無いことをしている場面を、俺は見たことがなかった。

 きっとテンパっていたから、何か見間違えたんだろう。うん。

 

「……私は外野から適当な悪口を言ってくる人達よりも、神田くんの方が大事。だから神田くんも、そんな人達の無責任な言葉よりも、私達のことを大事にしてくれたら嬉しいな」

「……ひでえ身内贔屓だな」

「そうだよ? みんな少し勘違いしてる気がするけど、私ってそんなに良い子じゃないんだから」

「……まあ、確かにお前は普通の良い子ちゃんってタマではねえか」

「そうそう。最近、よそのクラスの人とかに女神様みたいに言われたりしてるの、普通に恥ずかしいし止めて欲しいと思ってるんだよね……」

「ああ、"御影一年の三女神"だっけ? いいじゃねえか、お節介でお優しい音虎さんにはピッタリだろ? メガミサマ?」

「そういうのが嫌なの! 同い年の子達から女神様呼びとか普通に嫌がらせでしょっ!? そんな愛称で呼ばれてサラッと受け流せるのはサトリちゃんぐらいだよっ!」

 

 音虎の軽口に俺が軽く吹き出すと、音虎もつられて笑った。やっと場の空気が軽くなった気がする。

 

 ……そうだな。

 本当に大事に思っているなら、切り捨てるのは違う。

 何が有っても、苦しくても申し訳なくても手放せない関係こそが、本当に大事な繋がりなのかもしれない。

 

「……すまん音虎。またお前達のグループトークに招待してもらってもいいか?」

 

 俺はスマートフォンを取り出すと、気恥ずかしさを誤魔化すように頭を掻いた。

 

「もちろん! ……と言いたいところだけど」

「はっ?」

「そういうのは、私の一存じゃ決められないかなー」

 

 そう言うと、音虎はぐいぐいと手を引っ張って俺を自室から引っ張り出そうとする。

 連れられるがままに音虎の後ろを歩くと、行先はリビングで……

 

「――レイちゃん!」

「おっ、終わったか?」

「うん、バッチリ!」

 

 リビングでは立花に来島、それに白瀬と新城が待っていた。

 

「んなっ……! なんでお前達が……!?」

「あのなぁ、あんなメッセージ送られといて『はい、そーですか』とはならねえだろ。普通に考えて」

「僕もメッセージだけじゃなくて、神田くんとちゃんと話がしたかったから……レイちゃんが先に話を付けてくるって言うから、ここで待たせてもらっていたんだよ」

 

 来島と立花の言葉は実にもっともではあるが、それでもまさかその日の内に自宅に押しかけてくるとは普通は思わないだろ? 

 動揺している俺の姿を見ながら、新城が薄く笑う。

 

「君が思っているよりもずっと、みんなはコーイチのことを大切に思っているってことだよ」

「新城……」

「君に少し悪い噂が付いた程度で、君のことを見放すような人間達だと思われていたのなら、それこそ心外ってやつだな」

「……悪い」

 

 一から十まで皆の言う通りだ。

 自分の視野狭窄を恥じるように、俺は素直に頭を下げると、新城はニッコリと微笑んで俺の肩に手を置いた。

 

「だからまあ、今後は自分を過度に悪者と決めつけて、悲劇のヒロインみたいに振る舞うのは止めた方がいいかな。中二病みたいで見ていて少し恥ずかしいよ?」

「ごふっ!」

「すまん光一。俺も正直ちょっと思ってたからフォロー出来ない」

 

 急に刺してきた新城と、来島の死体蹴りで俺は羞恥心に崩れ落ちた。

 

「まあまあ、神田くんへの制裁はこれぐらいでいいでしょ。はい仲直りー」

「別に喧嘩してたつもりはねぇんだが……」

 

 仲直りの儀式のつもりなのか、音虎が満面の笑みで俺とブンブンと握手を交わす。

 その屈託のない様子に、俺は自然と微笑を浮かべてしまう。

 

「……本当に、お前には敵わねぇな」

 

 

 

 ――音虎玲子。

 

『ふふ、おっきな欠伸。窓際って眠くなっちゃうよね』

 

 初めて会った時から、俺を怖がらない変な女で。

 

 

『学校、きっと楽しくなるから。これからもよろしくね?』

 

 こいつに引っ張られるように、真面目に学校に通うようになって。

 

 

『分かり合えないって決め付けて、諦めちゃうのは勿体ないよ』

 

 友達が増えて、ギクシャクしていた両親とも和解して。

 

 

『……僕とレイちゃん、付き合うことになったんだ』

 

 ……好きになって、失恋して。諦めきれなくて。

 

 

「……音虎」

「うん?」

「……色々ありがとな」

「ふふ、どういたしまして」

 

 俺は音虎のことが好きだ。

 

 

 ――好き過ぎて、俺の気持ちなんてどうでもいいと思える程に。

 音虎が幸せなら、それだけでいいと本気で思える自分が、少しだけ誇らしかった。

 

「……俺はもう大丈夫だから。立花のこともちゃんと見てやれよ?」

「えっ? どういう意味?」

「彼氏以外の男とあんまりベタベタするなって言ってんだよ。立花もアレで結構心配性なんだぞ?」

「うーん……?」

 

 イマイチよく分かっていない様子だったが、こういう無邪気で純真な奴だからこそ、周囲に好かれているのだろう。

 ならば、危なっかしいところは近くにいる奴が支えてやればいい。

 

 音虎も立花も、俺の大切な親友だからな。

 

 

 ***

 

 

 それから数日後、学内での俺の悪い噂は奇妙なほどに素早く消えていった。

 

「言っただろう? デタラメな噂なんて放っておけばすぐに消えるって」

 

 新城はそう言うが、それにしたってこんなにも簡単に悪評とは消えるものなのだろうか? 

 ……まあ、いくつか不可解な点はあるが、自分にとって悪いことでは無いのならば、素直に受け入れるとしよう。

 夏の茹だるような暑さから逃げるように、俺は空調が効いている教室の扉を開ける。

 

「あっ! 神田くん、おはよーっ!」

 

 朝から元気な奴だ。

 苦笑しながら、俺は音虎の席へと近づく。

 

「おう、おはよう。音虎、立花も」

 

 親友で、想い人で、恩人で。

 何よりも大切な少女と、その恋人の行く先を支えたいという願いを胸に秘めながら。

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