死なない政治家~転生した女の子は不幸に耐え抜きながらも、治安最悪の街を何とかしたい 作:あいく
日の出の時刻。太陽が水平線から顔を出し、日光が辺りを照らす。暗闇によって、見えていなかった光景が太陽によって暴かれた。生まれた時から住んでいた我が家は、ボロボロになっていた。床は泥でまみれ、扉は蝶番を残して消失していた。
おぼつかない足取りで、家から出る。山の斜面に建てられた家はどれも泥にまみれていた。屋根のなくなった家もちらほらと見える。不自然に山肌が露出したところは、家ごと吹き飛ばされたことでできたものなのだろう。山のふもとでは、昨日まではなかった小さな湖が存在していた。
昨晩、大きな嵐が町を襲った。年々大きくなっていく嵐の中でも、一番大きな嵐だった。嵐は夜に私たちを襲い、街を破壊していった。巻き上げられた土や海水、木々が街中に落ち、家に突き刺さり、人を殺した。
唸るような暴風にかき消すことができないほどの、絶叫が一晩中鳴り響いていた。
おかしい、おかしい。なぜ、こんなに不幸な目に合うんだろう。私は、自分の半生を振り返りだした。
「あなたには、人生をやり直してもらいます」
真っ白な頭、マジックで描かれた立派な髭、全身タイツの変態。めっちゃくちゃイケボの変態が、急に話しかけてきた。
やばそうなおっさんなので、無視しようとしたが、勝手に口が開いた。
「嫌です。そして、きもいです」
「え、本当ですか。ありがとうございます。では、人生をやり直していただきます」
「勝手に話をすすめないでください。そして、臭いです」
「詳細ですか? もちろん説明させてもらいます。簡単に言いますと、あなたは死んでいます。そして、私たちは、特に意味はありませんがあなたにもう一度人生を過ごしてほしいのです。特に意味はありませんが」
「私死んでいるんですか? いつ? いつの間に?」
「今回のあなたの人生は、不慮の事故により老衰で死ぬことができませんでした。次回も、途中で死なれると、少々めんどくさいことが起きてしまいます」
「あれ……? 私って生きてたの? 何も思い出せない」
「そこで、あなたが絶対に途中で死ぬことがないように、多少のマジナイをかけました。人には過ぎた、不可思議なマジナイを」
「あれ、あれええ。 私って、私? 私って何?」
「ご安心ください。これで次回は老衰で死ねますよ。私たちも、たまにはいいことをしますね(ほっこり)」
「なんで体がないの? 腕は? 眼は? なんで喋れ」
「それでは、生まれなおしていただきましょうか。心の準備はよろしいですか?」
「……」
「ああ、言い忘れていました。先ほども言った通り、あなたにかけられたマジナイは人に過ぎた代物です。その代償にあなたの記憶は消失しています」
「そして、死を自覚するのはやめておいたほうがよろしいですよ? 追いついてきてしまうので」
「心の準備ができた、って感じですかね? よくわかんないですけど。じゃあ、転生させていただきますね」
「ごきげんよう」
「おぎゃあああああああああああああああああああああああ」
「生まれましたよ、お父さん」
「おめでとう、お母さん」
「お猿さんみたい。でも、とっても可愛いわ」
「俺たちの子だ。なんて元気な子なんだ」
「名前はもう決めているわ。男の子なら、ブラウン。女の子なら、アシュリー」
「ああ、アシュリー。かわいいわが娘」
「幸せに生きれるように、神様にお祈りしましょう」
『ああ、美しき貴婦人よ。我が娘に、平穏な死アレ』
処女作です。更新は遅いですが、簡潔はさせようと思っています。よろしくお願いします。