死なない政治家~転生した女の子は不幸に耐え抜きながらも、治安最悪の街を何とかしたい 作:あいく
「いってらっしゃーい」
仕事のために、パパやママ、他の兄弟たちが家を出る。十二歳以下の私たちは、仕事がまだできないので、家でお留守番だ。
「ごめんて姉さん、ほんとう、この通り」
「ベス、もっと頭下げんさい」
「いいよ、ミザリーねえちゃん。ありがとう」
家に取り残された私たち三人。ミザリーお姉ちゃん、愚弟、そして私。私たちは、部屋の掃除をしたり、食器を片づけたり、子供ながらできる家事をこなしていた。
「ベスー、そこの雑巾つかって床拭いといてー」
「えー」
「アシュリー、像磨いといてー」
「わかったー」
「僕が磨くの変わろうか?」
「あんたは黙って床磨きんさい」
「ちぇー、楽でいいなあ。姉さん」
「ざまあないわね」
真っ白な布を手に取り、リビングにおいてある大きな机の下へもぐりこむ。
「あ、バールわすれちゃった」
「ほら、姉さん」
かがんだベスの手には、パールが握られていた。
「いいタイミングね」
「しっかりしてよ。五歳だぞ、僕。なんで僕が姉さんをたすけてるのさ」
「そんなこというなら、ワタシだってナナサイよ」
呆れたベスの顔を尻目に、手探りでくぼみを探す。数分し、ようやく見つかったくぼみを、パールとテコの原理を用いて、開けようとする。
「姉さん。机動かさないと開けられないよ」
「……うるさいわね。しってたわ、そのぐらい」
「三度目はあるかな。二度あることは、っていうし」
「うるさい、ばーか! ガキのくせにナマイキいってんじゃないわ!! ミザリーねえちゃん! こっちきてー!」
「どうしたの? 大きな声なんか出して」
「つくえどけるのてつだって! そっちはこのガキがもつから!」
「はあ、子供だなあ。姉さんは」
「いま洗い物の途中なのにねえ」
大きな机を、脚を引きずりながら動かすと、巧妙に隠された地下室の扉が現れる。パールを使うと、地下室の扉は開いた。コンクリートで作られた階段が現れた。
「はい、懐中電灯。忘れてたでしょ」
「三度目だね」
「さっさとどっかいって!」
二人を無理やりリビングから追い出し、地下室に続く階段を下っていく。
「やっぱりさむいわね」
さきほどまで、うだるような暑さが続いていたが、今は肌寒く感じる。階段は緩やかだが、湿っている。
「1,2,3,4」
「9,10,11,12,13」
「19,20、21、22」
「38,39,40,41」
「58,59,60,61,62」
「81,82、83,84.85」
「123,124,125,126」
「ながい」
すでに階段を下りた数は百を超えた。いまだに地下室にはつかない。
「つかないな、かいちゅうでんとう。いつもどうりだけど」
真っ暗闇の中、壁に手を伝いながら下っていく。何かが足元を通る。何かが私の後ろにいる。何かが私の足にしがみついている。
「あー、おもた」
それから、何百段と下った。手に持っていた懐中電灯はなくなっていて、顔の真横に何かがいた。足元からは、軋んだ音が聞こえてくる。
「ついた」
何かは消え去った。おそらく地下室についたのだろう。なにも見えない。前後左右どちらがどの向きかわからない。前に足を踏み出すと、ガラスを踏んだ音がした。
「あれ、いつのまにおとしたっけ」
ガラスの正体は布に張られた氷だった。おそらく私がなくした白い布だろう。凍えるような寒さによって、濡れた布は凍り付いたのだ。
「よし、ふこう」
さらに寒い方向へと進むと、何かにぶつかった。おそらく像だろう。なにもかも凍りつく空間で、像はいつも濡れている。白い布で濡れをふき取っていく。拭き切ると、いつのまにか地下室の扉の外にいる。
「あら、早いわね。もうおわったの?」
「せっかく扉閉めて出れなくしてやろうと思ったのに」
「ベースー? 床磨きに加えて廊下磨きたい?」
「玉石混合ってやつだね。知らないけど」
「覚えた言葉を使いたがるのは、悪いことではないけど、もう少しちゃんと使いなさい」
「五感で言ってるからいいの。僕将来ラッパーになりたいからこれでいいよ」
「浅はかね」
「あれ、姉さん。懐中電灯とか布は?」
「……」
「忘れたの? 四度目じゃん」
「……」
「いいわ、私がとってくる。アシュリーはゆっくり休んでおいで」
「そんなことする必要は……。うん、姉さん。寝たほうがいいよ。なんてひどい顔」
「ベス、一緒についていってあげて」
「うん……」
ベスが私の手を引っ張ってベットまで連れていく。途中に鏡があった。鏡に映る私の顔は、いつかの誰かの死に顔のようだった。