穴から出てきた巨大な腕。
その手のひらの、親指の上には、銀蠅の体が
半ば同化する形で癒着している銀蠅の体は、時折痙攣しており、自らの意志で動く様子はない。
「なんだよアレ……」
転生者呪霊と呪術師らはそのあまりの巨大さにあっけにとられ我を失う。
「五条のガキ!今出せる最大威力は!釘崎殿!アレに反転術式は?」
直毘人はいち早く我に返り、指示を出す。
「反転エネルギーがあるなら"赫"……いや、"茈"を試してみる」
「アレは呪霊ではない、反転術式はおそらく効かんな」
「釘崎殿は五条悟に全力で反転エネルギーを!五条はそのムラサキとやらを奴にぶち込め!五条以外は退避!」
五条悟の前面に"赫"と"蒼"、正反対の方向性を持つ二つの無限が生成され、それが衝突することで仮想の質量が発生する。
発生した仮想の質量を撃ち出し、五条悟はあの手のひらに穴を開けようとしたが、しかし。
五条悟の虚式"茈"は、その手の甲の表面を僅かに焼くことしかできなかった。
皮膚が焼けた不快な苦痛に巨腕は反応し、手のひらをこちらに向けて、右の人差し指一本で叩き潰そうとしてくる。
(受け止め……切れない!?)
あまりの巨大質量が自身に迫ってくることを感じ取り、五条悟が走馬灯の状態に入り、体を硬直させる。
五条の無限で受け止められないと察した直毘人は、五条悟の襟を掴んで放り投げ、自分も別方向に跳躍して逃げる。
「五条悟!なんとか威力を高められないか!」
「……分かった」
走馬灯によって、五条は何かを思い出したようだ。
五条悟は"赫"と"蒼"を同じ数だけ数十個生成する。まるでその数だけのお手玉をするような所業だが、五条悟は成し遂げた。
さらにそれをぶつけ合わせ、仮想の質量を生成する。だがそれでは先ほどの二の舞になると考え、最大威力の"蒼"を一つ生成し、仮想の質量を吸引圧縮する。
「虚式"茈"、"百斂"。これで……穿つ!」
放たれた、圧縮された"茈"。それは巨大な腕の掌に、小さな、本当に小さな穴を開けた。
それを横に流し、銀蠅の体が癒着している親指を切断した。
その激痛に、 手のひらは一瞬硬直した後、穴に潜って異戒に戻っていった。
銀蠅の体と親指は、穴の中に落下していった。
その後。日本は大混乱に陥っていた。
旧新宿御苑周辺、半径1kmの人間の99%が死亡し、残りの1%が得体のしれない力に目覚めたのだ。
日本政府はこの事件に対応し、新宿御苑半径3kmの地域に避難勧告を出し、そのまま一時閉鎖。穴は"新宿深淵"と名付けられることになる。
呪霊の存在が世間に明かされ、大騒ぎとなるも、新宿深淵内部でしか発生しないという虚偽の情報を流し騒ぎは収まる。
呪術総監部は周囲の呪霊によって穴の拡大が防がれていることを鑑み、3交代制による穴の維持を"仄"経由で依頼。カタツムリ観光客はこれを受諾し、転生者呪霊の多くはこれに従事することとなった。
ついでに得体のしれない力という名の術式に目覚めた1%の人々は総監部が保護という名の飼い殺しにすることになる。
だが、封鎖するだけでは穴の内部に呪力が澱のようにたまっていくばかりだった。それゆえに1年後、さらに事件が起きる。
呪霊群噴出。数億の蠅頭から、数万の二、三級呪霊、そして数百の一級呪霊、そして5体の特級呪霊。ついでに十数体の"異戒天将"が現れる。
事件の対処に投入されたのは高専生、九十九由基および小学生五条悟と釘崎野菊。そして最近発見保護された小学生夏油傑の四人の特級術師である。
釘崎野菊は対処の終盤に致命傷を負い、「自分の治癒に反転術式を使わない」という縛りを破って自身を治癒して離脱。この縛りを破ったペナルティによって弱体化し、特級指定を解除される。
夏油傑は"五感を自在に麻痺させる"準一級呪霊を支配下に入れ、味覚と嗅覚に限定して自身に使用させることで大量の呪霊玉の丸呑みに成功。トラウマの形成を回避した。
他の二人は特筆する事項なく帰還した、が。異戒天将を倒した際に体内から"赤い宝玉"が出てきた。そのうち三つが政府に回収され、残り二つは秘密裏に九十九の懐に入った。
蠅頭は全世界に散らばったが、二級以上の呪霊の殆どは祓除された。
その後、総監部は定期的に特級術師を穴の内部に派遣して呪霊を祓除させると決定した。
穴の内部は月日が経つにつれ徐々に変質し、階層が作られ、複層の異空間を持つ地下迷宮のようになっていった。異戒存在から得られる赤い宝玉だけではなく、術式持ちの呪霊から得られる呪具もあることが判明している。
特級の一人や二人では祓う効率が悪いと判断した呪術総監部は、銀蠅からカタツムリ観光客が保護し呪術総監部に引き渡した五条悟クローン107体を投入することを決定する。だが、存在をオリジナルの五条悟にも秘匿されていた、一級最上位程度の実力を持つクローン五条悟の存在が明らかになった。彼らを呪術総監部の手から奪還するために、五条悟は総監部に反逆した。
呪術総監部は簡単に鎮圧されたため描写は省略する。
呪術界のトップを掌握した五条悟(中学生)は、その間に独断で呪術と呪霊の存在、そしてその歴史を世間に全面開示する。そして同時に、"施術"を受ければ呪霊に対処する力を得ることが出来ると表明した。
そう、"施術"である。赤い宝玉の粉末を水に溶かし希釈した水溶液を注射し、そしてカタツムリ観光客の術式によって培養された"眼"を移植することで呪力と呪霊を見る眼を得られる。赤い宝玉については九十九の研究成果である。
これを表明し、さらに新宿深淵の開放とそこから得た物資の高価買取を発表した。
"施術"を受けた多くの市民のうち、一攫千金を狙うものは、命をチップにして新宿深淵に戻ることになる。
発表と同時に、
そして時が過ぎ、2018年2月、仙台。虎杖家。
ピンクに近い茶髪の少年が、額に縫い目のある女性に土下座していた。
「母ちゃん、頼む。俺って
「悠仁。呪霊は、深淵は危険だよ。母として、君を止めているのさ。だがそうは言ってもその様子じゃ止めても勝手に言ってしまいそうだ。じゃあ、条件を出そうか」
「条件って……?」
「"術式持ち"の仲間を見つけること。それが出来たら、東京に行くことを許す」
それを聞いて虎杖悠仁の顔つきが変わる。
「ああ、分かった。母ちゃん。俺は必ず仲間を見つけて見せる」
といってどたどたと母の部屋から出る悠仁。母はそれを眼を細めて見ると、鍵のかかった引き出しを開ける。
中から取り出したのは、血肉で紡がれたような紐。そしてネックレスのように、眼球が一つその紐に癒着している。
「黒い混沌は、私の知らないところで出来ていた。だったら私はそれを世界各地にばら撒くだけ。……一国に一つという決まりは破るけど、悠仁のために仙台に作っても良いかもね」
次回作。
虎杖悠仁の迷宮探索!~ママはダンジョンメーカー?~
※始まりません
手のひらの正体について。
手のひらは異戒における人間のような存在です。現世に通じる穴を見つけて偶然手を突っ込んでみたら二回目で親指切られた、という感じですね。
銀蠅の末路について。
自我は死んでいます。生きているのは深淵の最奥で孔と一体化している肉体だけで、脊髄反射で術式に刻まれた叡邪と二源流素で只管呪具と赤い宝玉を生産する装置になっています。実は深淵の最奥はどの国の深淵でも繋がっており、そこから呪具と赤い宝玉が供給されている感じです。呪具は呪力を供給しなかったら10年くらいで水銀に戻って消失します。
その他何か裏設定で教えてほしいことがあれば感想欄への返信でお教えします。
以下反省文
プロットを作らずに情動と妄想だけで書き連ねた数か月、数万字でした。今後はマジで物語創作のノウハウ本とかを参考にして、ちゃんとプロット作って描こうと思います。徐々に成長していくつもりなので、今後ともよろしくお願いします。