転生したら呪霊だった件について   作:砂漠谷

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そろそろ風呂敷を畳まなければ……
次回か次々回までには完結すると思います。


Divergent Sila

 落下する銀蠅はその紅く小さな星を見て、感涙の涙を流した。

 

「ああ、ついに覚醒したのか。初めての共同作業だ、オリジナル」

 

 "赫"が炸裂する直前、三つだけ残った弐繰弩を掲げる。

 

 無限の発散は、全てその物質化した黒い閃光に吸収された。そして、その三つの黒い塊は"赫"い輝きを放ち始めた。

 

「紅装・叡邪(エイジャ)。ハッピーバースデー」

 

 同じく落下している途中でアンゴルモアの光線に貫かれた裁屠は、自身の術式のコントロールが効かなくなっていることを悟る。

 術式を奪われたわけでも消されたわけでもない。ただ、自身の術式が危険な欠陥品になっていることは理解できた。

 

「あのクソガキ……こっちは味方だってんだよ!このままじゃ術式が暴走する!ワンロク!希依子さんに仲介頼んでくれ!俺はこのまま銀蠅を……ッ!?」

 

 極端に冷たい……ような呪力を銀蠅の方から感じる。いや、今まで自分が感じてきた他者の呪力が羊水のようなぬるま湯だったのかもしれない。

 外気、と呼ぶのに相応しい外界、否、外戒の呪力エネルギーが銀蠅の方面から溢れ出る。

 

「水銀妖精ィ、何しやがった!」

 

「ああ、あくま君か。君はもうアウトオブ眼中なんだよ。今から私は」

 

 銀蠅の目の前に、アンゴルモアを手に持った五条悟が現れる。"蒼"による瞬間移動を、彼はアンゴルモア戦でモノにしていた。

 

「今から私は、何だって?」

 

 術式順転、"蒼"。収束する無限は、銀蠅を飲み込もうとするが、瞬時に再生したその翅は今までの気配では考えられない呪力量を噴射し、"蒼"の引力から逃れる。

 

「チィ」

 

「ちょっと五条悟ゥ!俺も巻き込むなァ!」

 

 落下しながら裁屠が文句を言うが、五条悟は釘崎野菊から渡された太い針というより杭を突きつけ、脅す。

 

「お前"仄"の戦力だろ。人語喋れるなんて聞いてねぇぞ」

 

「その話は後!アイツはクソヤベェマッドサイエンティストであんたの」

 

 水銀の触手に叩かれ、地面に叩き落される裁屠。

 

 銀蠅はすでに全身を再生させ、外気のように冷たく、海の水のように大量の呪力を放っている。

 

 五条悟が問う。

 

「なんだその呪力の質と量は。さっきとは随分違ってんな」

 

 銀蠅は、抱え込んだ赤い宝玉を見せつける。

 

「ああ!これはね!君と私の共同作業の成果さ!物質化した黒閃に君の発散する無限をぶつけた。それはね、異戒から無限の呪力を取り出す"孔"を作ったんだ」

 

「異戒……禪院家の異戒神将。あれの出力を再現したのか。だがこっちには特級術師が二人いる。敵う訳が無い」

 

 釘崎野菊を一瞥し、五条悟は言い切る。

 

「叶うよ?無限の呪力の蛇口が三つ。出来ないことなんて、無い。『流銀創装 極の番 二源流素』」

 

 銀蠅の水銀が体積と質量を急速に増大させ、御苑の中心部を満たす。さらにその水銀は色と形を変え、刀や縄、槍や弓に姿を変える。

 

 水銀の泉の上に浮かぶ数多の武具。まるで領域のようで、しかし領域ではない。

 

「昔の偉い人は言いました。『水銀と硫黄を混ぜて加工すれば、あらゆる物質を作れる』と。硫黄が燃える時の青い炎は、呪力が放つ青い光に似ています。硫黄は呪力の隠語であり、水銀は具現化した水銀でなくてはならなかったのです。故に『二源流素』は水銀(術式)硫黄(呪力)を混交して、私が今まで解析したあらゆる呪具を具現化できる術式。呪力が足りなかったから今までは出来なかった。これからは、何でもできる」

 

 黒い縄が五条悟と、湊千尋を背負う釘崎野菊の方向に延びる。五条悟は術式で縄を弾くが、しかし目を顰め縄から逃れる。

 

 釘崎野菊は針を呪力で射出して応戦するが、縄は針をするりと避けて二人を捕らえる。

 

「さて、反転術式使いは要るけど、この式神使いは、もう要ら」

 

『ダァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛イ゛!!!』

 指向性の爆音が銀蠅に向けて響き渡る。ワン・ロク・ロックの攻撃だ。追い打つように、チクタクロックの爆弾が銀蠅に投げつけられる。チクタクロックの体から爆弾をもいで投げているのは禪院希依子だ。

 

「チィ、面倒だな。貫け、釈魂刀レプリカ」

 

 ワン・ロク・ロック、チクタクロックの頭と、禪院希依子の心臓が大刀によって貫かれる。

 

「ガッ……」

 

 呪霊たちの消失反応。同時に、希依子の体が地面に崩れ落ちる。

 

「あ、■■■■(マキマイ)生まれなくなっちゃった。けど元の世界で原作読むからい」

 

 禪院希依子が死亡する。その瞬間、何か形而上的なものが破られる音がした。

 

 衝撃波、超音速の拳が銀蠅の頭に激突する。銀蠅は風圧による感知すらもできず、全身を覆っている呪力防御を貫き拳は銀蠅を吹き飛ばした。

 

「ようやく"縛り"を破ったな、銀蠅!よくやった希依子!」

 

 銀蠅を殴ったのは、直毘人()()()何者かだった。らしき、というのは、迸る呪力の性質も、肉体の強度も以前の直毘人とまるで別人、次元が違っていたからだ。

 

 直毘人は禪院希依子の傍に疑似的に瞬間移動し、遺体に触れるとその状態を保存したまま二次元空間に固定する。固定は手を放しても解除される様子はない。

 

 次に釘崎野菊ら二人を縛る縄を手刀で切断し、その近くに固定された希依子を平行移動させる。

 

「釘崎特級術師殿。希依子の蘇生、頼めるか?」

 

「……死体の損壊が少なく死後一分経ってない、出来るじゃろうて」

 

「わかった。頼んだ。俺は今から……アイツを殴りに行く」

 

 上空を見上げる直毘人。

 

 打撃のダメージから回復し、銀蠅はふらふらと高空に浮く。

 

「あ゛、何が、起こった?」

 

 銀蠅は心の中で混乱し思考が加速する。

(縛りを破った?あ、そういえばそうだ、そうだったんだ。『禪院扇と希依子を生かす対価に直毘人の生殺与奪を握る縛り』だ。それを破ったから、殴られた?ちょっと待て、今の私は投射呪法を使っても簡単に殴れるような反応速度してねぇぞ。他者間の縛りを破ったペナルティはあまりにランダム過ぎてわからなかったが、こういう形もあるの、か?)

 

「いずれにしたって、今の私に勝てる道理はないはず。呪銃百選、全弾発射(フルバースト)

 

 水銀の湖面に呪具の銃や大砲が大量に生成され、その全てを直毘人に向けて呪力をエネルギーの弾丸に変えて撃ち出す。

 

 しかし弾丸は全て躱され、固定した空気を足場にして直毘人は銀蠅に迫っているようだ。

 ようだ、というのは銀蠅どころか五条悟にすら高速で動く直毘人を見る動体視力は備わっておらず、足場しか見えないからだ。

 

 殴打と蹴打の連打。銀蠅は回避を諦め、全身を"叡邪"から湧き出る呪力で防御するが、それでも数撃喰らえば死ぬ程度のダメージにしか抑え込めない。

 呪力による再生と防御の最適な比率を銀蠅は即座に叩き出して実行するが、しかしそれでも数秒で肉体の欠損が目立つようになる。

 

「クッ、そ、がぁああああ!領域展開!」

 

 水銀面が幾百もの手を象り、それぞれが思い思いの印を組む。

 

『領域展開 煉丹廃毒溝』

 

 水銀が結界の代わりとなり、上空にいる全員を包み込む。

 

 すなわち、直毘人と五条悟、そしてその手に持たれたアンゴルモアである。

 

 

 

 吐き気を催す虹色の人工河川に、煙突から出た煙が雲になる空。

 

 その内部に直毘人と五条悟は放り込まれる。

 

「カァ!五条のガキ!領域対策は!」

 

「近くに!」

 

 直毘人は固定化した空気を足場に五条悟の隣に移動する。領域の必中効果が発動した直後に、直毘人は五条悟の無限の内側に収まった。

 

 禪院の名を失ったただの直毘人は策を練る。10年もの間、銀蠅のパシりとして酷使されてきた彼は、銀蠅の手の内の全てとは言わなくても、八割方知っている。その中には領域の効果も含まれる。

 

(奴の領域の必中効果は、大気中に含ませた水銀蒸気を皮膚や吸気から吸収させ、体内の水銀を操作して急性脳障害を引き起こすものだ。呼吸は止めたが一瞬水銀蒸気に皮膚が晒されたな。この微小量の水銀が脳に到達して悪さをするまで、奴の能力向上と俺の能力向上を相殺して3分と言ったところか。呼吸を止めて無限の外側で活動するなら、今なら20秒は行けそうな気分だ)

 

「五条のガキ。俺は奴が"縛り"を破ったペナルティで術式も肉体も強化されている。この無限の防御と同時に"蒼"は出せるか?それで領域の破壊を試みてくれ。逐次お前の側に戻る、無限を解除するなよ」

 

「わかった。おっさんは?」

 

「俺は、術者を殺る。恨みもあるが、それ以上に義憤がある」

 

 五条悟は"蒼"を結界の縁に向けて発動し、直毘人は加速を始める。

 

 銀蠅は領域の中心で、三つの叡邪から溢れ出る呪力を、防御に回す分を除いて全て領域の術式効果の向上に注ぎ込む。

 

(クソ、10年前の"縛り"なんか持ってきやがって……呪術に時効は無いのかよ。まあいい、どうせ直毘人はもう要らないから処分する。五条悟を捕らえて叡邪を量産する。それをこの領域で、成す)

 

 そこに、直毘人の拳が襲い来る。数瞬で最大速度に到達した拳は、銀蠅の眼前に出現した盾に防がれる。盾は砕かれるがそれにより拳の威力は殺された。

 そのまま直毘人の周囲に具現化した黒縄をゴムのように縮ませて縛ろうとするも、縛られる前に直毘人は抜け出す。

 

(銀蠅の奴、領域内でも極の番を使用できるのか。それもあらゆる場所から呪具を具現化することもできる、厄介だな)

(盾は砕かれること前提の呪具だからそれは良い、あのゴム紐黒縄すら避けるか。速すぎんだろ)

 

 徒手で猛攻を繰り出す直毘人とそれを盾や縄で防ぎ、あわよくば拘束しようとする銀蠅、しかしそれは直毘人にとっても魏蠅にとっても時間稼ぎでしかなかった。

 

 直毘人にとっては五条悟による領域の脱出の時間稼ぎ、そして銀蠅にとっては領域の効果が発揮されるまでの時間稼ぎ。

 強化された肉体を息を止めて全力で動かした直毘人は、体内の酸素を急激に消費したため十秒ほどで息が苦しくなった。防御をくぐり抜けて一撃を銀蠅の右肩に入れ、相手を1秒硬直させた隙に五条悟の無限の中に戻る。

 

 五条悟の無限の中で一呼吸し、再度銀蠅を殴りに行こうとして、直毘人は血反吐を吐く。

 

(何……?まだ肉体に致死量の水銀が蓄積する時間ではないはず……)

 

 吐いた血が、否、血の中に含まれた水銀が無限の内側で()()()()を象る。固定された銀蠅の顔だけが表情を変え、口を動かす。

 

「天逆鉾の欠片・レプリカ。五条悟を撃て」

 

 咄嗟に五条悟は無限の内側にさらに無限の防御を展開するが、その金属片は術式を無効化して無限を貫通し、五条悟の腎臓を貫いた。

 

「がッ……!」

 

「くふふ、ははははは!本体は見つけられなかったが、火山掘り返してでも欠片を見つけて良かったよ!この時のために!あれを解析した!」

 

 だが、五条悟の無限の防御は解除されても、結界を破壊するための"蒼"は解除されなかった。結界の維持に回す呪力を、天逆鉾の欠片を具現化するのに使った銀蠅とは対照的に。

 

「ブチ抜くッ……ああああああ!」

 

 領域によって遮断されているため、反転エネルギーの流入はまだ起こらない。腎臓を治すためにも、いち早く領域を脱出しなければならない。その一心で、五条悟の"蒼"は銀蠅の領域に孔を開ける。

 

(抜いた!)(クソ、抜かれた!)

 

 孔をくぐり、直毘人と共に領域から脱出した五条悟と頭だけのアンゴルモア。

 しかし、そこには、荒らされた新宿御苑という地形の代わりに奈落があり、そこからは"冷たい"呪力が先ほどの銀蠅から放たれていた量とは比較にならないほど溢れていた。

 

「これは……」

「一体どういうことだ?とにかくこの大穴?の外に行かなければならんだろう」

 

(クソ、なんという呪力だ。縛りで強化されていなかったら高専生でも当てられて気絶していたぞ。この分だと、半径1キロの非術師はおそらく死んでるな)

 

 領域から脱したことで、五条悟の首筋に刺さった針から反転エネルギーが流入し、脇腹の傷と腎臓が目に見える速度で癒されていく。

 それを見た直毘人は、釘崎野菊の生存を確信しやや肩の力を抜いた。

 

 空に足場を作って駆ける直毘人と、慣れない瞬間移動を繰り返して直毘人に追いつく五条悟。

 五条悟は瞬間移動に邪魔だとアンゴルモアの頭を両手の無限で挟んで潰す。アンゴルモアは抵抗しなかった。

 

 彼ら二人に、領域を解除した銀蠅が迫る、が。

 

 奈落の底から巨大な、それこそ奈落の穴全てを覆えるほどの大きさの手のひらを持つ腕が上昇してくる。

 

「うお?」

 

「待て、絶対に、五条悟を捕r」

 

 一瞬呆けて、その後全速力で逃げる五条悟と直毘人。銀蠅は気づかずに二人を追う、が。

 

 その腕は、疑似瞬間移動や極限まで強化された投射呪法の速度には劣る銀蠅を握って捕らえ、奈落の中に潜っていった。

 

「一体、なんだアレは……」

「ヤベェな、アレ。大人の俺が20人いてようやく五分に持ってけそうなレベルだ」

 

 逃げるように、奈落の縁にたどり着く。

 奈落の縁には、呪霊が数メートル間隔で並んでおり、それぞれ穴の底を凝視していた。

 そのもう一つ外側には大量の、それこそ見る限りだけでも数千人単位の野次馬が気を失って倒れていた。全員が適当なところに針を刺されており、死んでいるものは2割程度しかいないようだ。

 

 "蒼"で呪霊を一掃しようとする五条悟を直毘人は手で制止する。

 呪霊の中の一体、異様に肥大化した虹色の目を持ち、殻の渦巻き模様の中心に人間の瞳がある合計で四ツ目のカタツムリ型の呪霊は、直毘人を見かけて声を掛けた。

 

「ああ、直毘人さん!ちょっと情報交換しませんか?」

 

「直毘人……たしか、10年前失踪した禪院家の元次期当主だったか?失踪した後呪霊と通じてたのかよ」

 

 やや不信と敵意を含ませた呪力を直毘人に放つ五条悟。

 

「その辺も込み入った話がある、後で話すから今は待て。久しぶりだな、カタツムリ。正直俺の方はよくわからん。銀蠅にタクシー代わりにされたんだが、その途中で相手が"縛り"を破ったようでな。で、銀蠅と戦って領域から出たらこうなってた」

 

「そうですか。こちらは緊急討伐本部を襲って御三家の重鎮を人質に取って我々の権利を認めさせようという"霊権運動"をしてたんですが、人質にとれたところで謎の穴が拡大してきてですね。我々の『眼』の力で抑え込んでいる形です」

 

 直毘人はそれを聞いてため息をつく。

 

「そんなことを……まあ銀蠅の奴よりは億倍マシか。お前の眼にそんな力あったのか?」

 

「私の術式は眼球限定の完全な再現とそれらの支配ですよ。幼稚園児の禪院蘭太さんの涙を核に停止の魔眼を複製して配布させていただきました」

 

「そういや蘭太が数日間迷子になったと扇から愚痴を送られてきたな……涙って、まさか変なことをして泣かせたんじゃあるまいな」

 

 やや殺意が漏れる直毘人に、カタツムリ観光客は笑顔(?)で返す。

 

「ええ、しましたよ。子供包丁でひたすら玉ねぎを切らせる拷問に掛けました」

 

 それを聞いて殺意を収め、直毘人は苦笑する。

 

「クックック、愉快な奴らだな。まあこんな感じで互助会の奴らは気のいい奴らだ、カタギや真っ当な呪術師にはな」

 

 振り返り語り掛けてくる直毘人に五条悟は呆れる。

 

「未成年略取に監禁って、よくはねぇだろ。まあ普通の呪霊よりはマシか……、で、この穴の正体に見当はついているのか?」

 

「それは……」「それは私が説明します」

 

 よたよたと釘崎野菊に支えられて歩いてきたのは禪院希依子である。

 

「希依子!復活したか!」

 

 笑顔で希依子を迎える直毘人。

 

「ええ、義兄様。おかげさまで。私はお飾りとは言え"仄"のリーダーです。彼の術式についても詳細を伝えられました。彼の『失楽園』は『異戒への"孔"を(ひら)ける穴』を開ける術式。ただし、穴の底に何か呪力を持つモノが入った瞬間だけ"孔"が開き、その瞬間だけ異戒からもこちらに入れる、という術式だったはずです。が……おそらくアンゴルモアとやらの術式で穴の無限拡張と終了機能喪失という欠陥(バグ)が発生したのでしょう。そして穴が大きくなりすぎて、"孔"を向こう側から無理やりこじ開けられるようにもなってしまったようです。術式が暴走して、私の目の前で裁屠さんは穴と一体化して……」

 

 瞳を潤ませつつ希依子は詳細を伝えた。

 

「え……あのアンゴルモアの術式って相手の術式を消す術式じゃなかったのかよ……」

 

 五条悟は頭を抱える。だが、釘崎野菊が呟く。

 

「呪霊の術式なら、本体を祓ってしまえば良いのではないか?私は野次馬共の生命維持で手一杯だが……、穴の縁にある血肉の糸を全て潰せば問題ないじゃろう」

 

 その言葉にカタツムリも含めた全員が考え込む。

 

「あくまさんにはいろいろお世話になりましたからねぇ」

 

「裁屠はガキ思いだから少々躊躇うが、やるしかなさそうだな」

 

「智礼さんには恨まれるしかないですね」

 

「やるしかねぇな」

 

 最後の発言をした五条悟に『お前が原因だろ』の視線が集中するが気にも止めない。

 

 穴の拡大を防ぐ呪霊に割く要員を数割ほど削って、減らした分を呪力に当てられた非術師や一部の術師を穴の影響圏外までもっていく。

 呪霊の肉体は呪力で出来ているので、大気が呪力で満ちている環境はむしろ元気だ。

 

 穴の縁にへばりついている血肉で紡がれた紐を五条悟と直毘人で剝がそうとするが、強化された直毘人の筋力や、広範囲に影響が出ない無下限術式を使ってもようやく僅かに剥がせて、しかもすぐに再生する。

 へばりついている地面ごと消し飛ばそうとしても、血肉の紐だけが宙に浮いて穴は維持される。

 

 色々やっているうちに避難が終わったため、釘崎野菊の手がようやく空いた。

 

「うむ、やってみるか。避難中に約1メートル間隔で釘を刺させておいた。これに反転エネルギーを流すだけ……む?」

 

 エネルギーが釘を通して血肉の紐に流し込まれ、反転エネルギーによる対消滅と穴から流れてくる呪力による再生が拮抗する。

 

 刺激された穴から流れ出る呪力がさらに増える。気絶する希依子。

 大気中の呪力量が基準点を越えた瞬間、蠅頭を含む四級呪霊や三級呪霊が空中に瞬間大量発生した。飛行能力を持たない大多数の呪霊は、穴の中に落下していく。

 

「まずい!穴の底に入れたら!」

 

「させねぇ!」

 

 "蒼"を発生させて呪霊を吸収圧壊するが、それで吸い込めたのは呪霊の何分の一かに過ぎない。その他は自由落下し、遥か下の穴の底にたどり着いて、自身と引き換えに"孔"を開けることになる。

 

 同時に多数落下した故か、開いた"孔"はただ一つの巨大なものだった。

 

 そこから、再度、巨大な手のひらを持つ腕が、今度は両腕分、窮屈そうに出てきた。

 

 




銀蠅の領域には実は必中効果は無いです。直毘人にあると伝えたのはブラフで、実際は「本来操れない水銀蒸気も操れるようになる、水銀の三態や二源流素を自在に操れる」という術式の強化(バフ)効果しかないです。

裁屠の自我は今もう完全に術式に飲まれて消化されていて、肉体だけが維持されている感じです。精神的にはほぼメロンパン入れ状態、首がもげたトンボ状態ですね

この後に及んで帳を下ろしても、結界内が呪力でギチギチになって特級呪霊大量生産機になるだけなのでもう下せません。呪術呪霊の存在バレちゃったねぇ。
ん?今までなんで下さなかったかって?下せる人が逃げてたか他のこと(霊権運動への対処)にいっぱいいっぱいだったか、ですね。作者がその描写を入れるのを忘れてた?そんな訳……アルカモネ

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