仮面ライダーハーメルンジェネレーションズ MIRACLE FESTIVAL!   作:大ちゃんネオ

2 / 8
執筆 マフ30さん 監修 春風れっさーさん


男女逆転饗宴 白昼の幻想少女

 妙な息苦しさで目を覚ました。

 どうやら公園のベンチに座ったまま眠ってしまっていたらしい。

 ズレた眼鏡を掛け直しながら歩き出す。

 体力には人一倍自信があるつもりのはずだが何だか全身が気だるい。

 というか上半身が重苦しい感じだ。

 

「あぁ? おっかしいな」

 

 目的地を目指して商店街を進んでいるとふと自分が奇異の視線を向けられているような気配を感じ取る。さり気なく視線を巡らせてみるが皆分かりやすく俺から顔を背ける。

 まあ、良い気分じゃないがこれぐらいなら別にどうということはない。

 むしろ、異物扱いされるのは小学生のころから慣れている。

 それに今更赤の他人にどう思われようと些細なことだ。

 いまの自分には掛け替えのない友人や世界を超えて縁を結ぶことに至った仲間たちがいるのだから。

 

 

 喫茶Hameln。

 ひょんなことから別世界からやってきた仮面ライダー達が集まることとなった極々普通の喫茶店である。そう、極々普通の。

 

「お客さんこないなー……いや、いま来ても困るんだけどね」

 

 レトロな雰囲気の店内には少女が一人だけ。

 脱色した茶髪と緑のカラコンが印象的な彼女の名前は更科朔月。

 仮面ライダー銀姫。

 七人の少女たちが己の願いを叶えるために殺し合う、禁断の遊戯に挑む銀姫の世界からやってきた求道の戦士だ。

 

「誰もいない喫茶店ってこんなに静かなんだ。いつもなら、誰かほかのライダーの子もいるんだけどなぁ」

 

 おっかなびっくり、どこかそわそわと手持ち無沙汰にしている朔月はお客や自分たちが使用するテーブルではなくカウンターの内側――つまり本来ならこの店の店主がいる定位置にいる。というのも数分前に喫茶Hamelnに訪れた際にマスターの藤堂権兵衛に店番を頼まれてしまったのである。

 

「ずっと、このお店のみんなと一緒にいられたらいいのに……なんて、夢見すぎか」

 

 権兵衛からはこの時間はお客もまず来ないからただここにいて座っていてくれればいい。と言われていたが気が付けば自然と体が動いていた。

 見知らぬ他世界でお世話になっているのだからと簡単に店内の掃除をしたり、雑誌の整理整頓をこなして時間を潰す朔月は微かにほろ苦い微笑みを浮かべて呟いた。

 彼女にとって仮面ライダーとはただ一人だけに与えられたどんな願いも叶えられる至高の席を奪い殺し合う凄惨たるデスゲームの参加者たちを指し示す言葉だった。

 けれど、数奇な運命でこの世界に導かれそこで出会った他の仮面ライダーたちは助け合い、苦楽を一緒に乗り越える大切な仲間と言うべき存在だった。

 この世界でも戦いは怖くて辛くて大変なこともあるけれど、この世界とこの店で触れあう時間と仲間たちのことを彼女は好ましいと思えた。

 

「よしっと、けっこう綺麗になったよね? あと他に私でもやっておけることはないかな?」

 

 というわけで朔月が制服のブラウスの上から飾り気のないエプロンを纏ってどこか物寂しくも平和な午後の時間を過ごしていると運命の悪戯か店のドアが開き、カランコロンと呼び鈴が軽やかな音色を響かせた。

 

「ふぇ? ホントにお客さん!? い、いらっしゃいませ!」

「よぉ、朔月じゃん。おー店番中か? お疲れー! おやっさん居ないの? そんじゃあ、とりあえずコーヒー頼むわ」

「へ? あの、その……あれ、いま私の名前?」

「冗談だよ。飲みたくなったら自分で淹れるさ。なんなら賄いってわけじゃないけど、何か軽めのもん作ってやろうか? 足のはやい材料ならちょっと拝借しても大目に見てもらえるだろう」

「ごめんなさい……どちらさまでしょうか?」

 

 何故だか馴れ馴れしい態度の見知らぬ来客に朔月は驚きと戸惑いを感じながら怪訝な表情でそう尋ねた。

 

「どちらって……ムゲンだよ。見りゃわかるだろ?」

「ムゲ……へ? えぇ!? あなたムゲン? 双連寺ムゲン!?」

「朔月、大丈夫か? 具合でも悪いなら店番代わってやるから休んだらどうだ?」

 

 告げられた名前と目の前の光景から齎される衝撃にくらっとよろめいたかと思えば、鞠のように体を弾ませて声を荒げる彼女に相対する人物は少しハスキーだが可愛らしい声で心配そうに話しかけた。

 双連寺ムゲン。

 仮面ライダーデュオル。デュオルの世界から訪れている長身痩躯からは想像も出来ない非常識な怪力の持ち主である少年……なのだが。

 

「もしも」

「ん?」

「もしも、あなたがムゲンならだよ? 何も言わずに一回そこの鏡で自分のこと見てごらん」

「鏡ぃ~?」

 

 朔月に促されて件の人物――ムゲンは喫茶Hamelnの店の奥に置かれた大きな鏡を覗き込んだ。

 鏡は偽ることなく、ありのまま現在のムゲンの姿を写し出す。

 そこには学ランをラフに着崩した長い灰髪に自分と同じ眼鏡を掛けた美人だがガラの悪そうな雰囲気の少女が写っていたのだ。

 

「誰だぁあああ!? 俺かぁあああ!?」

「嘘でしょ……」

「やべえよ、大胸筋がおっぱいにフォームチェンジしちまった」

「私含めたフォームチェンジできる全てのライダーに謝って」

 

 そういって学ランのシャツの下で窮屈そうにしている推定Cカップの自分の胸を揉みしだきながら愕然とするムゲンに汚いものを見るような朔月の冷たい視線が突き刺さる。

 絶叫と狂騒と辛辣なツッコミが喫茶Hamelnを駆け廻る。

 どういうわけか女体化してしまったムゲン♀の爆誕に朔月の平和な午後の一時は脆くも崩れ去ってしまった。

 

 

 

 

「……待たせたな」

「あ、うん。どうだった?」

 

 女体化という衝撃的な現実を突きつけられてから数分後。

 他に身体に異常をきたしているところはないか確認していたムゲンは化粧室から出てくると静かに朔月と対面するようにカウンター席に腰を下ろした。

 

初めてみた(・・・・・)けどモザイクの重要性ってすげえ……ッ!!」

 

 顔を真っ赤にさせて、金色の瞳を爛々と充血させながら美少女状態のムゲンは噛み締めるようにそんなことをのたまった。

 

「なにを大真面目に確認してきたの!? バカなの」

「違うんよ! おかしなところがないかはちゃんと見たんだよ? でも、最終的に一番インパクト感じたのはあそこだったってだけで! お前だってある朝いきなり男になってたら絶対に最優先でチェックする部分は決まってるだろう!」

「し、知らないし!」

 

 深刻なのかそうじゃないのか思春期の青少年の知的好奇心や生命と人体の神秘を目の当たりにして、興奮して冷静さを欠いているムゲンに朔月は赤面しつつピシャリとこの話題を打ち切った。

 

「と、とにかく何とかしないといけないでしょ? その、女の子になっちゃった原因に心当たりとかないの?」

「いきなり言われてもなー……なんかあったかぁ?」

 

 一日の行動を思い返そうと思案するムゲンだが椅子に勢い良くもたれかかったところ、胸からぶらさがった二つの豊かな実りが奔放に揺れ動きその反動で間の抜けた呻き声を漏らす。

 

「……乳ってこんなに邪魔くさいものなのか。朔月たちはよくこんなのぶら下げていつも戦ってるな。すごいな、えらいな、尊敬するわ」

「あ、ありがとう。っていうか、フツー女子高生ならブラするし。してなかったら当たり前に痛いでしょ?」

「俺が常日頃から男性用ブラジャーを愛好しているヤツにみえるか?」

「~~っ、ごめん。いまのは私の質問が悪かった」

 

 見た目も声も完全に同世代の少女なのに仕草や言動は男子のそれなTSムゲンの珍妙さに困った事態とは思いながら朔月はたまらず笑ってしまいそうになるのを何度も答えるので必死だった。

 そんなやり取りを繰り返していると再び店の扉が開き、雪崩込むように一人の少女が駆け込んできた。

 

「はぁー、はぁー! あぁ、よかった……知ってる人がいてくれたぁ」

「い、いらっしゃいませ?」

 

 店に飛び込んできた少女は日本人形のような雰囲気の小柄な、けれど凹凸のくっきりしたスタイルの持ち主のようだった。

 生まれたての小鹿のように震えた挙動。顔に恥じらいの色を浮かべながら怯えたように自分の身体を抱きしつつ朔月たちの方へと寄ってくる少女もまたサイズの合わない学生服を着ている。

 

「お願い助けて朔月さん! 信じてもらえないかもしれないけど大変なことが起きちゃって……あの! 沙夜さんや他のみんなは?」

「もしかして、あなたも!? えっと、誰? 燐くん? それとも翔くん? まさかとは思うけど一登じゃないよね? うーん……頼人くんだったり?」

 

 黒髪少女の違和感のある格好と朔月のことを知っている口ぶりから二人は目の前の少女もムゲンと同じパターンだと察した。

 今にも泣き出してしまいそうな表情で自分たちに縋りつく少女に思いついた正体の候補の名前を挙げていく朔月に対して、野性の勘染みた直感である人物の名が浮かんだムゲンはポツリと呟く。

 

「いや――お前、若だろ」

「その呼び方……は? え? マジ? そっちのムゲンかよぉおおお!?」

「だっははは! やっぱり若だ! 」

 

 正体判明。

 黒髪少女が本来在るべき姿と名前は常若永春。

 ビャクアの世界の住人であり、数奇な運命から人魚の呪いを受け継いだことでちょっと不死身なだけのどこにでもいる男子高校生である。

 

「こんなのってあり? 悪い夢なら覚めてくれぇ……っ」

「まさかお仲間ができるとは思わなかったぜ。ようこそ、美少女の世界へ」

「はぁ~……沙夜がいたら気絶するかもね」

 

 信じたくないが目の前の灰髪のメガネっ娘の挙動が明らかに自分の知る人物と全く一緒な事実に愕然とする永春♀。

 そんな彼女を見てケラケラ笑っているムゲン♀という混沌とした光景を遠い目で見つめながら朔月は疲れ切った溜息を隠すことなく吐いていた。

 

「こんにちは~! にはは! 誰か助けてくれないかーい! 男の子になっちゃった!」

「「「今度はだれーーーッ!?」」」

 

 第二の衝撃から間を置かず喫茶Hamelnを襲う三度目の衝撃。

 無駄に明るく人懐っこい笑顔を見せるボサボサの銀髪をした爽やか系の少年(セーラー服装備)の登場に三人はまたかと自棄になって叫んだ。

 

「いやぁ~気が付いたらなんか男の子の体になっててさ。お巡りさん呼ばれそうだったんだよね~! 喧嘩で捕まるならまだしも、変態さん扱いでご厄介になるのは嫌だよね」

「ああ……お前、遊だな」

「そういうメガネちゃんはムゲンだよね? 気配で分かったとも♪ 折角だから裏でちょっと殴り合ってみない? 女の子の身体でする喧嘩もきっと楽しいよ♪」

 

 ウキウキでそんな物騒なことをいう彼――ではなく本当は彼女の名前は喜多村遊。

仮面ライダーレイダー。

 御剣燐と同じくツルギの世界の住人であり、殴り合いの喧嘩をするのが何よりも大好きな朗らかバトルジャンキーである。

 

 

 

 

 喫茶Hamelnの四人がけのテーブル席には異様なオーラが醸し出されていた。

 学生服を着た女子(元男子)とセーラー服姿の男子(元女子)更には不運にもこの謎の男女逆転現象に巻き込まれてしまった正真正銘の女子高生の四人が座っているのだから無理もない。

 

「で……これからどうするよ?」

「いや、早く元に戻る方法探さないとヤバいでしょ」

 

 小腹満たしに在り合わせの材料で四人分作ったサンドイッチの一切れを齧りながら口火を切ったムゲンに相変わらず恥ずかしそうに肉感的な身体をもじもじさせながら永春が反応した。

 

「わたしはもうちょっとこのままでもいいけどなー。男だと不良くんたちも簡単に喧嘩売ったり買ったりしてくれるしさ! バーゲンセールだよ♪」

「喧嘩するのもダメだから。それに遊も女子なんだから、その……男子の身体じゃ勝手が違うし、恥ずかしい部分があるでしょ?」

「んあ? ああ、おち――」

「言うな! せめてソードベントって言えっ!」

「それもどうかと思うけどねぇ!」

 

 ボケかツッコミかカテゴライズするなら大ボケと二刀流に分類される遊とムゲンのマイペースな言葉に残された常識人二人の懸命のツッコミが炸裂する。

 

「うぅ、ふぅ……もう、ほんとヤダ……無理ぃ」

「朔月さんキツイと思うけど、ボクも頑張るからあきらめないで!」

 

 しかし、集まってしまった色物たちの相手をほぼ一人でこなしていた朔月のメンタルは既にかなり消耗しており若干涙声で嘆息するほどだ。

 

「ちょっと男子ぃー! じゃなかった……ムゲンも喜多村さんも真面目にやろうよ――」

 

 項垂れる朔月を健気に励ましながらフリーダムなムゲンたちを窘める永春だったがその瞬間に女体化したことでけしからん大きさになった胸の膨らみに学生服が耐え切れず、シャツのボタンがパアァァンと弾け飛んだ。

 

「ひゃぁぁぁっ////」

「おー、せくしーだいなまいとぼでぃだねえ」

「おいおいおい。この若……スケベ過ぎる」

「や、やめてよぉ! 好きでこんな体型になったんじゃないからね」

「うそつき」

「はい!?」

 

 胸元を隠しながらはわはわと慌てふためく永春の耳元にぼそりと小さく侮蔑の言葉が投げつけられた。それは紛れもなく朔月の声だ。

 

「結局、永春もそっち側にいくんだね。私一人に真面目な役割を押し付けて変なことするんだね」

「いや! いやいやいや! そんなつもりは決してないからね」

「……そのカッコ、写真撮って沙夜に送ってやるぅ」

「それだけはやめてぇええええ!!」

「あは、は、へ、へへ……あはは。動画も残してのHamelnのグループLINEにも流してやるぅ」

「それも許してぇええええ!!」

 

 慣れないツッコミ役に疲弊し、この世界でも軽い裏切りを体験した朔月は限界を超えてしまった反動か渇いた笑みを浮かべながら虚ろな眼差しを向けて永春に囁いた。

 小悪魔っぽい微笑みを振り切り、悪魔に魂を売り渡した魔女のような笑顔だったと後日、永春は回顧したとかしないとか。

 

「朔月にここまで苦労かけちまった以上はいい加減本気で何とかするか。お前ら二人とりあえず服脱げ」

「へ、変態」

「わたしいま男だけど、それでも見たいのかい?」

「誰もお前らの裸なんて求めてねえよ。いま俺の方が美少女だしな。外に出て調べるにもいまの俺たちじゃ変質者そのものだろ? 見た目から違和感を無くすぞ」

 

 男女逆転現象という狂騒の熱にやられておかしな言動ばかりで一向に事件解決に向けて進展していかない自分たちの状況にマイペース故に正気でもいたムゲンがようやくやる気を出し始めた。

 

「つまり……いまの性別に合った服に着替えると?」

「そういうことだな。まあ、堂々としていれば案外怪しまれないだろう。カナタも言っていたぜ……恥じない。媚びない。躊躇わない。それがコスプレ三原則だ」

「にはは! コスプレって言っちゃた」

「あと、朔月に一つ助言をもらいたい。とても大事なことだ……お前にしか頼れない」

「な、なに急に改まって?」

「――下着も交換した方がいいと思うか?」

「好きにしたらいいんじゃない」

 

 比較的背丈が近いムゲンと遊はいま着ている服を交換して、永春は喫茶Hamelnに滞在している女性陣の誰かの衣服を借りさせてもらう。とムゲンは朔月からげんなりした視線を受けながら二人を連れて店の奥へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、あれ……!」

「わは! 超可愛いじゃんあの子たち! どこの高校の娘たちかな」

「一緒にいる銀髪男子くんもグッとくるものがある」

 

 スカートを翻し、ある者は可憐に、またある者は愛らしく、あるいは堂々と街並みを歩く四人組の男女は行き交う人々の視線を釘つけにした。

 言うまでもなく、現在の性別に相応しい服装に着替えたムゲン達である。

 

「まさか、俺ら以外にも性別逆転している人たちがいるだなんてな」

「そ、そうだね……教えてくれた章太郎くんに感謝だよ」

「うん。思ったよりも大事になっているみたいだから、急いで原因を突き止めないとね」

「よーし! はりきっていこー!」

 

 あの後、ちょうど三人が着替え終わったと同時に帰宅した章太郎と権兵衛から街の人々の一部の性別が入れ替わり小さな騒動になっていると言う情報を聞いたのだ。

 なんらかの怪人か組織の暗躍を疑った四人は即席のパーティを編成して、こうして事件解決のために外へと繰り出したのである。

 

「ところで若はどうしてそんな歩き方ぎこちないんだ? 靴擦れでも起こしたか?」

「だ、だってぇ……スカートなんて初めてで解放感がこそばゆいっていうか……気をつけないとその、見えちゃうし///」

「ムゲンはもうちょっと慎みを覚えなよ。ほら、足開きすぎ」

 

 セーラー服を我が物顔で着こなし、白い足を惜しげもなく晒すムゲンに対して最後尾をたどたどしい歩調で歩いていた永春は羞恥心に頬を赤らめ、恥じらいで汗ばむか細い手で天風カナタが置いていったサスペンダースカートの裾をぎゅっと掴んでいた。

 

「なぁんで心まで乙女に寄っちゃってんだよ!? 自分をしっかりと持て!」

「あはは……私が教えたわけでもないのに所作が完璧に女の子なんだよね。才能かな?」

「にはは! あざとい女だぜ」

「うえぇ……お陰さまでアイデンティティがボロボロだよぉ~」

 

 そんなやり取りを交えて周囲の注目を集めながら男女逆転事件の真相を探る四人であったがなかなか目立った手掛かりを見つけられないで時間ばかりが過ぎていった。

 

「くそ~プチパニックが起きてるんじゃねえのかよ? 平和な夕暮れ時じゃねえか」

「ねえ、四人もいるんだし手分けして探してみない?」

「そうだな。よし、二手に分かれるぞ。俺と遊は駅裏や人気の少ない場所を探す。朔月と若は表通りなんかで聞き込みしたりして情報を集めてくれ」

 

「分かった。なら、とりあえず30分後にここに集合って感じでどう?」

「おう、それでいい! いくぞ遊!」

「りょーかい! ムフー! 犯人強い奴だといいなぁ!」

 

 こうして朔月、永春と別れたムゲンと遊は通りを一本外れるとお互い無尽蔵な体力を武器に怪しい人物や気配はないかと広範囲に探索を開始した。けれど、手当たり次第に胡散臭いと感じる場所を見て回るが成果は全て空振りという始末だ。

 

「だは~……勘を頼りにしてもやっぱり、警察犬や猟犬みたいにはいかねえか」

「一応人間だからね、わたしたちも」

「半分は違うみたいな表現はよせやい」

「にはは! そうはいってもねえ」

「お前まさかこの状況で俺と喧嘩したいとか言い出す気じゃないよな?」

 

 疲れた様子で肩を落とし、成果ゼロのまま朔月たちと合流すべく薄暗い路地裏を歩くムゲンと遊。不穏な空気を醸し始めた遊の口角が血に染まった三日月のように吊り上がる前にムゲンが釘を刺した。

 強い喧嘩相手になりそうなら老若男女問わず、何なら味方陣営であってもウェルカムな遊にとってムゲンもまた最高のごちそうの一人なのである。

 

「うーん……ムゲンと二人だけなら間違いなくそうしてただろうけど、今回はガマンするよ。堅気の子たちに迷惑かけるのはちょっとね」

「殊勝じゃないか。けど若はまだしも朔月もライダーの一人だぞ?」

「キミってば案外と性格捻くれてるねえ。あの子はきっと本来こっち側の人間じゃないでしょ? 誰かを殴ったり蹴ったりってすごく似合わないと私は思うよ」

「……同感だ。さて、お前がそう言うならこの話題は打ち切りだ」

「あの二人が何か良い手掛かりを見つけてるといいけどねえ……おや?」

 

 一時緊迫した空気を解きほぐして合流場所へと近付く二人だったが人通りから聞こえてくる穏やかではない空気の喧騒に首を傾げた。

 目を凝らすとどうやら別行動中だった大事な仲間たちが複数人の若い男たちに絡まれているのが遠目に見えた。

 

「なあ、善良な女子高生にうざ絡みするような連中は堅気って言わないよな」

「言わないねえ。ちょっとキツめのお仕置きをしてあげようじゃないか♪」

「あんまり羽目外すなよ。俺ぁもう警察の厄介になるのは十分間に合ってる」

 

 そう言って、獲物を見つけた肉食獣のような笑みを浮かべた二人は暗がりからゆっくりと街灯の灯りが眩くなり始めた表通りへと舞い戻っていった。

 

 

 

 

「君たち可愛いね~この辺じゃ見かけない制服だけど、東京は初めて?」

「良かったらいい遊び場とか紹介してあげようか? 立ち話も何だしどこかでお茶しようよ」

「や、やめてください……私たち用事あるので」

「ボ、ボクたち友人たちを待っているだけなので他を当たってください」

 

 四人が決めた集合場所では朔月と永春がいかにも遊び慣れた風の柄の悪そうな男たちに絡まれてナンパされていた。

 二人とも気丈に拒絶の意思を示すが朔月はもちろん永春まで少女の姿をしていることもあって男たちは下心を隠そうともせず執拗に二人へとアプローチを仕掛けるのをあきらめない。

 

「なになに? 君ってボクッ娘っていうやつ? 可愛いねー俺あれだオタクくんだからさ色々と趣味が合うと思うんだよね」

「そっちの君もお兄さんたちが楽しくて気持ちの良いこと教えてあげるからさ。美味しいご飯も奢ってあげるよ」

「ちょっ……ホント、いい加減にしてください! そういうの興味ないので……っ!」

「それ以上しつこいことするなら警察呼びますよ!」

 

 鬱陶しく食い下がる男たちの一人が朔月の手を掴もうと伸ばした腕を永春が遮り立ち塞がる。彼なりに凄んで見せるが不慣れな様子が丸分かりなので却って男たちの嗜虐心を刺激する始末であった。

 

「聞き分けのない子たちだなぁ……どれ、ちょっと大人の怖さを教えちゃおうかな?」

「ひっ……やだっ」

「――おい」

 

 わざとらしい声で恫喝して凄む男たちの態度に気丈に振る舞って入るものの思わず朔月の口から小さな悲鳴が漏れそうになった時だった。

 背後から突き刺すようなドスの効いた別の少女の声が両者の動きを制止させた。言うまでもなく騒ぎを見つけて駆けつけてきた敵意100%のムゲンである。

 

「おっと……へへ。もしかして君がこの子たちが待ち合わせしてるお友達ぃ~」

「そのメガネ似合ってるよ。君からもお友達にお兄さんたちと一緒に遊ぼうって誘――」

「イカくせえ手で気安く俺の連れに触るんじゃねえよこのサオ師擬きが」

 

 事情を知らない者からしたらちょっと目つきの悪い灰髪の美少女が友達を庇って健気に啖呵を切っているような光景。

 舐め切った態度のにやけ面の男が言い終える前にムゲンは鬼のような剣幕で詰め寄ると女体化しても健在な怪物めいた握力で相手の鼻ピアスを粉々に握り潰した。

 信じられない現象に男たちの頭は恐怖さえも知覚出来ずに真っ白になってしまう。

 

「は? え……ぐえええ!?」

「なんで鼻輪つけた豚がこんなところにいるんだよ? ソーセージ工場から脱走してきたのかオイ? 職人さんに代わってお前ら全員この場で挽肉にするぞ!!」

 

 人間は大きな音と不測の事態に弱い。

 このことを熟知しているムゲンは間髪入れずに男の胸倉を掴んで高々と持ち上げると近くの街路樹に力一杯に押し付けた。激しい動きにスカートがかなり際どい位置まで翻ってもお構いなしだ。

 

「日本語理解できてんのかオラァ! この■■■■野郎共! いまから五秒以内に俺らの視界から消えろコノヤロー! 六秒後に俺の目に写ってたらテメエらの××を踏み潰してそこらへんの野良犬に食わすぞ!?」

「「「ひぃえええっ! すみませんでしたー!」」」

「そこの路地裏から失せろよ! いいなぁ!!」

 

(ムゲン……怖っ)

(あーあーあー……あんな汚い言葉使ってムゲンったら、朔月さん平気かなぁ?)

 

 荒んだ小中学生活で培ったノウハウを惜しげもなく用いたムゲンのナンパ男撃退術は効果抜群で男たちは泣き喚きながら言われたとおりに指定された路地裏を使って逃げていった。

だが男たちが逃げ失せてからしばらくその路地裏から「にはは!」と楽しそうな少年の笑い声と強烈な打撃音が響いていたことを知る者は少ない。

 

 

「ふー♪ そこそこ満足♪ できたらお兄さん達にはもうちょっとガッツが欲しかったな」

「後片付けサンキュー。災難だったな二人とも大丈夫か?」

「あ、ありがと」

「助かったよムゲン。ごめんね、ボクもいたのに大して役に立てなかったよ」

「若ぁ」

「え……あっ」

 

 ちょっとしたトラブルを経て合流した四人。

 不甲斐なさを悔やむ永春をムゲンは優しい声を掛けながらちょっと乱暴に自分の胸に抱き寄せた。

 

「ちゃんと見てたぜ。若は立派に勇気を振り絞ったじゃねえか……上等だよ」

「ムゲン……うぅ、ぐっ、ボク……もっと強くなるよ」

「そうか、楽しみだ。その時が来るまでは俺が守ってやる。安心しろ、ま……二番手かもだが」

「ありがとう、ムゲン」

 

 言葉だけ見ればややディープな男の友情のやり取りかもしれない。

 しかし、視覚的にはラフな感じのメガネッ子と小動物系黒髪少女が往来で仲良く湿度高めでイチャついているという自分の理解を超えた光景に朔月は虚無に近い表情で立ち尽くしていた。

 

「えぇ……なにあれ」

「造花の百合ってやつかな?」

「そういうのは知らなくてよかったかな~あはは…………はぁ」

「朔月ちゃん」

 

 そうして、今日何度目かの深い深いため息をついた。

 すると隣にいた遊は何気なしにぽつりと彼女に声を掛ける。

 

「ふぇ?」

「君も強かったよ」

「え、あ……ども」

「にはは! それでそっちはなにか手掛かりあったのかい?」

「うん。それがね……」

 

「全く、若たちが無事だったから良かったけど気分悪いな。途中でなんか気分転換していくか? プリクラ撮るとか」

「なにそれー!?」

「四人だけの思い出作りと普段は経験できない社会勉強みたいな?」

「なにバカ言ってるのさ~ムゲン。けど、まあ四人で記念に写真撮るのは悪くないかも……他のみんなには内緒ってのが絶対だけどね!」

「そりゃそうだ。おーい朔月、お前の女子力の出番だぞ! どっかいい感じのところ教えてくれ」

「ふふ……なに言ってるんだか。まったくもう……あはは」

 

 お互いの意外な一面を知りながら、あまり接点のなかった四人は徐々に結束を深めていく。そして、別行動中だった朔月と永春の方は事件解決のための有力な情報を手に入れていた。

 幸運にもムゲン達のように突然性別が変わってしまった一般人に出会い話を聞くことができたのだ。その人の証言によると近くの公園で路上販売を行っていた変わった飲み物の試飲をしてから急激に眠たくなり起きたら身体に異変が起きていたという。

 その言葉を聞いて、永春そしてムゲンと遊も同じものと思われる怪しい飲み物を飲んでいたことが判明したのだ。

 一縷の望みを託して四人は件の公園へと急行した。

 

「かぁー! 確かに不細工な着ぐるみがおかしなもの売ってるなってちょっと不思議だったんだ。なんというか妙にリアルっぽいというかヌメッとしてるっていうか」

「なんでそんな変てこなのが売ってる物を疑いもなく飲んじゃったのよ? それも三人ともだなんて」

「いやぁ……試飲だから金は取らないって言われてつい」

「強く勧められて断れなくて」

「喧嘩の後で喉が乾いちゃってて~」

 

 三者三様にしょうもない理由を白状しながら公園に到着すると目的の不審者はすぐに発見できた。

 

『ぬっふぇふぇふぇ! おいしいドリンクはいらんかね~! 新世界がみえるよ~!』

 

 そこにはナメクジを擬人化したような全身ヌメヌメした怪しい存在がトロトロした胡散臭いドリンクを売り捌いていた。売れ行きはお世辞にも好調ではなさそうではあったが。

 

「見つけたー!」

「うん。見覚えがあるよ」

「よく逃げずにいやがったぜ」

「あのさ……すっごく怪人じゃないアレ! どうして疑問に思わなかったわけ!?」

『ぬめっ!? お前たちは!?』

 

 朔月の最も過ぎる指摘に何も反論できない三人は誤魔化すようにナメクジの怪人と対峙する。四人のただ事ではない雰囲気に向こうも敵襲に察知したようで――。

 

『貴様たちさては仮面ライダーだな? おのれぃ……人間どもの性別を逆転させることでその価値観や倫理観を崩壊させて徐々に人類を性で縛られない無垢な動物のように堕落させることで世界征服を完遂せんとしたこのスラッグメタローの企みに勘付くとは!』

「ちょっと長い目で見すぎじゃないのその計画?」

「こんなバカなメタローがいたのかよ……もっとシリアスな組織だと思ってた」

 

 勝手に見バレして更に頼んでもないのに回りくどく冗長な侵略プランを暴露したスラッグメタローにこの一日で研ぎ澄まされてきた朔月のツッコミが炸裂する。

 一方で自分が戦う悪の組織に信じられないぐらいのバカもとい滑稽な怪人がいたことに複雑な顔をするムゲン。

 しかしながら、ついに成すべきことを見定めた彼らは戦士の顔になると闘志を燃え上がらせる。

 

「公園にいる人たちはボクが避難させるから頼んだよみんな!」

「いくよ……二人とも!」

「おうよ!」

「にはは! 喧嘩だ喧嘩だーい!!」

 

 非戦闘員のため裏方に回る永春を尻目に三人はそれぞれの変身アイテムを手に取り、一斉に変身を開始する。この騒動に幕を下ろすために。

 

 朔月がブラウスの胸元からマリードールを引き出すと決意を固めて鎖を引き千切った。同時に、腰元に黒いドライバーが出現する。

 

「――変身!」

 

 マリードールがドライバーに装填され彼女の身体は銀光に包まれ、問うような歪んだ電子音が鳴り響く。

 

《 Silver 》

 

《 戦いは止まらない 何故?

  運命は変わらない 何故? 》

 

 黒いアンダースーツに覆われた肢体の上には銀甲冑が装着され、ショルダーアーマーから死神めいた襤褸がたなびく。鈍く光る鉄仮面と昆虫じみた複眼はどこか虚ろな空気を漂わせる。そこには堅牢なりし銀を纏った少女騎士が一人。

 

 

 ムゲンはデュオルドライバーを腰に装着すると歴代ライダーの力が宿った二枚のライダーメモリアを二基のスロットへと装填して、演武のような動きを取る。

 

【1号!×クウガ! ユニゾンアップ!】

「変身――!!」

【マイティアーツ! GO! GO! LET’S GO!!】

 

 電子音声が高らかに鳴り響き、双つの風車が唸りを上げるとベルトから溢れる緑と赤の二色の眩い光の奔流がムゲンに纏わり、彼の肉体を戦うための存在へと変えていく。

 変身完了――真紅の装甲、白銀の具足。

 そこには無尽の技を駆使する不撓不屈の戦士が一人。

 

 

 遊は噴水を水鏡としてデッキを映す。Vバックルが腰に巻かれるとデッキをガンスピンのような動きでこめかみに押し当てる仕草を経て、バックルへと勢い良く嵌め込んだ。

 

「変身!」

 

 鏡像が彼女に重なり、その姿が仮面の戦士へと変わる。

 ゴリラを模した分厚く無骨なメタリックグリーンの装甲を纏う剛力自慢の闘士が一人大地に立つ。

 

「これ以上被害が出ないようにここで倒すよ、二人とも!」

 

 細剣を構える仮面ライダー銀姫が倒すべき敵を見据える。

 

「ひゃっほう! 今日も元気にヤッちゃうぜ!」

 

 剛腕を振り回し仮面ライダーレイダーは惜しむことなく闘争に歓喜する。

 

「いくぞライダー! ゴング鳴らせ!!」

 

 そして、仮面ライダーデュオルのカチ合う両の拳が合図となって戦いが開始された。

 大砲の砲撃のように駆け出したデュオルとレイダーが先陣を切って容赦なくスラッグメタローを殴り抜く。

 

「フウン!」

「オオオリャアッ!」

『そんなもの効かぬわ!』

 

 二人の鉄拳が炸裂して胴体に大きな風穴を幾つも作るスラッグメタローだがまるでダメージを受けている様子もなく全身から触手を伸ばして反撃に転ずる。

 

「うわっ!? わたしたちの拳が体に大穴空けたのに生きてるよ!?」

「二人とも一度下がって! っ、やあぁ!」

 

 だが敵の攻撃が仲間を傷つける前に得物を振り上げた銀姫が最前に躍り出る。

 高い防御力を活かして自らを防壁として触手を受け止め、冷やかな輝きを放つ細剣を操り片っ端から切り裂いていく。

 

「すまねえ、銀姫! 助かった!」

「むー……でも、あの再生力みたいなのは弱ったねえ」

『ヌハッハッハッハ! 見たかライダーども、手も足も出まい!』

 

 高笑いを上げて勝ち誇るスラッグメタローにデュオル達は仮面の奥で表情を曇らせる。奇しくもこの場に揃ったライダー達は見事なまでに殆ど物理攻撃に特化しているため、この特殊な体質を持つ怪人を倒し切る攻め手がすぐに思い浮かばないのだ。

 

「大丈夫だよみんな! 順番さえ間違えなければ三人で倒せる相手だよ!」

 

 怪人に好き放題にさせないため兎に角格闘を仕掛けてその場に押し留めて勝機を見出そうとするデュオル達に戻ってきた永春が突破口を仄めかす。

 

「どういうこった若ぁ?」

「いくら再生力がすごくても一発で消し飛ばせばそうはいかないでしょ? それにあいつ身体自体が丈夫ってわけじゃなさそうだ!」

「――その手があったか!」

 

 永春のアドバイスを受けて、デュオルが即座に閃いた。

 

「俺とレイダーであのナメクジをジグソーパズルもビックリなぐらいに八つ裂きにする。そうしたら銀姫、お前が本命……薙ぎ払え!」

「わかった。やってみるよ」

「なるほど。つまり、わたしは殴りまくればいいんだね」

「大正解だ! さあ! ぶちかますぞ!!」

『何をごちゃごちゃと……お前たちなど敵ではないわ!!』

 

 どんな小細工も受けて立つと仁王立ちするスラッグメタローに三人は気合を入れて連携攻撃を仕掛けていく。

 

「そりゃそりゃぁあああ!」

「だぁああああありゃッ!」

 

 デュオルの一人多国籍軍の如き千変万化な豊富な格闘技と力こそパワーを地で行くレイダーの我武者羅な拳打がスラッグメタローをバラバラに破砕していく。

 

【FULL SPURT! READY!!】

「スペリオルライダァァァパンチィイイイッ!!」

 

【FINAL VENT】

「いっくよ相棒! うりゃああああああああ!!」

 

『ぐぎぃいああああ!? だが、しかし! これぐらいのダメージ……ぬっ!?』

 

 デュオルとレイダーの必殺拳がスラッグメタローを細切れレベルにバラバラにして上空へと吹き飛ばす。しかし、恐るべき再生能力はこれだけの損傷を与えても未だメタローを蘇生させようとしていた。けれど、此度は怪人の思惑通りにはいかない。

 

《 Silver Execution Finish 》

 

 歪な電子音声が宣告する。

 お前にこれ以上の生も狼藉もない。ここが終焉だと云う処刑宣告。

 

「はぁっ……!」

 

 少し離れた場所にいる銀姫が八双に構えた細剣に銀の光が漲る。夕闇に煌めく月の光にも似たそれが刀身全てを埋め尽くした瞬間、細剣は上段から斜めに振り下ろされた。

 

「やああっ!!」

 

 何も無い空間を斬る。だが空振りにはならない。その剣の軌跡が、銀の光となって迸るからだ。

 細剣の斬撃は刃状のエネルギーとなって宙を裂きスラッグメタローを飲み込んだ。

 

『そんな馬鹿なァアアアアアアアアア!?』

 

 銀姫が繰り出した銀の斬撃リーパークライム。

 必殺の刃たる極光が肉体を再生する時間も与えぬままスラッグメタローを綺麗さっぱり掻き消したのだ。

 怪人の断末魔が黄昏の空に残響して、やがて静寂が戻ってくる。

 しばしの間を置いて、メタローが撃破されたことでその凶行を無かったことに塗り替える世界修正の風が吹き始める。

 それはすなわち仮面ライダーたちの勝利の証拠である。

 

「ムフー! たくさん殴れて大満足♪」

「片付いたな。まったく大変な目に遭ったぞ」

「三人ともお疲れ様」

「うん。永春もアドバイスありがとう」

 

 三人は変身を解除しながらアシストをしてくれた永春と共にそれぞれの健闘を称え合う。

 ひょんなことから結成された即席パーティではあったが終わってみればなかなか息の合ったチームになっていたと自然と四人からは笑みがこぼれていた。

 

「いっぱい動いたからお腹空いたねー」

「おっしゃ、ここまで来たら四人で勝ち祝いの打ち上げするか!」

「いいけど、ボクそのバイトの給料日前だから懐が……そのねえ」

「っ……私も実はあんまり」

「俺だって金なんざ微々たるもんだよ。帰り道に安く食材買って美味いもん作ればいい」

「あ……いいね、それ。けど、わたしそんな誰かに食べさせられるようなもの作れる自信は……」

「みんなで一緒に作って、一緒に食べればそんなの関係ないよ。わたしだってよく友達にお前は妙なものしか作れないな!ってボヤかれるしね」

 

 すっかり戦士からただのどこにでもいる高校生に戻った四人で交わされる会話に特に朔月は満ち足りたような安堵な気持ちを感じていた。

 

「ムゲーン! わたしお肉食べたいでーす!」

「あの、喜多村さん予算……いや、ボクもできれば食べたいけど」

「そうだな。朔月、お前なんか苦手な食べ物あるか?」

「そんなにないけど? 食べるのは好きな方だし」

「よし! なら、餃子パーティするぞ! あれならキャベツでいくらでもかさ増しできる」

「決まりだね。いこう、みんな」

「はは。男子ってこういうときホントに迷わないであっさりしてるよね」

 

 おかしな事件を無事解決して、あとは仲間たちで美味しいものを食べて一日を終えようとしていた四人だったが大事なことを忘れていた。

 スラッグメタローの悪事が無かったことに修正されるということはTS化していた彼らも晴れて元に戻るということを。

 公園から出ようとした瞬間にムゲン、永春、遊の体が淡く発光して――性別が元に戻った。

 

「「「ぎゃあああああああ!?」」」

「うわぁ……ひどい絵面」

 

 当然だが着ている衣服まで入れ替わるだなんて都合のいいことはない。

 よって、朔月の目の前にはパツパツのセーラー服やスカート姿の女装男子二人と胸周りが苦しそうな学ラン姿の女子が出現するという破壊力強めの光景が展開されていた。

 

「よりによっていまかよぉおおおおお!?」

「らめぇえええええ! こんな姿誰かに見られたらもう沙夜さんに顔向けできないよぉ!」

「にはは! 変態さんとしてお巡りさんに補導されるのはちょっとやだなぁ」

 

 阿鼻叫喚に陥った三人をしばし呆然とした様子で見ていた朔月だったがやがて困ったように笑い始めた。

 

「たはは。みんなしょうがないなぁ、もう……さて、どうしようか」

 

 

 この三人に散々振り回されて、慣れないことばかりでとても疲れた一日だった。

 だけど、同時に信頼できる仲間たちと分かち合った楽しい時間だったと朔月は噛み締めて、こんな夢のような日々が少しでも多く続けばと心の片隅で願ったという。

 その後、四人はどうにかこの窮地を切り抜けて、無事に愉快な打ち上げを行えたとか行えなかったとか真実は彼ら四人の思い出の中だ。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。