仮面ライダーハーメルンジェネレーションズ MIRACLE FESTIVAL!   作:大ちゃんネオ

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執筆:マフ30


アリスちゃんグランプリ編
エキサイティングサマーファルス~開幕アリスちゃんグランプリ~


 

 熱い八月のある日、仮面ライダーブリランテこと掃除屋キッドは異世界の東京で夏を満喫していた。満喫しすぎていたのかもしれない。

 

「いやぁ~ツラいわ♪ 近所のいたいけなキッズたちの純情に消えない傷を刻んでいくのツラいわ♪」

 

 喫茶Hamelnがある商店街の片隅で営まれているレトロな駄菓子屋の店先にてサマーベッドで寛いでいるキッドはアロハシャツにショートパンツというラフな格好にセレブがしているようなデカいサングラスをして、キンキンに冷えたラムネで喉を潤しながら最高にだらしなく浮かれた笑顔を見せる。

 

「キッドねえちゃーん! 遊ぼー! 今日こそびしょ濡れにしてやるぜー!」

「フフン♪ それは楽しみだ。でも、いまヤン●ャン読んでるからちょっと待ちなよ。その間に水分と塩分をチャージするんだ。マスター(おばちゃん)!この子たちに麦茶とカリカリ梅をヨロです!」

 

 遡ること数日前――こちらの世界では掃除屋の仕事も無く暇を持て余して東京観光に精を出していた彼女は偶然にも公園で水鉄砲の撃ち合いをしている子供たちと遭遇。

 最初は物好きなギャラリーでしかなかった彼女だが子供たちの水鉄砲捌きに愛のあるヤジを飛ばしている間に気が付けばガンマンの血が騒いだのかちびっ子たちの輪の中に混じり、本職の銃技を大人げなく……もとい惜しげもなく披露して真夏のスーパーヒーローとして君臨していた。

 

「キッドちゃんがいるとお客がたくさんで夏バテなんてしてられないねえ!」

「そうでしょう、そうでしょう♪ ボクは招き猫より遥かにお得だよ。なにせ悪い客はネズミのように追い払うことも出来るからねえ」

 

 キッド目当てに次々と集まって来た子供たちの接客をしながら汗を拭う初老の店主に得意げに言いながら彼女は小さなファンボーイから献上された漫画雑誌のページを優雅にめくる。

 まだ思春期すら迎えていない子供たちにとってキッドという存在は劇薬だった。16歳という大人と少女の中間の年頃にある明るくフレンドリーなお姉さんが距離感近めで遊んでくれるという甘酸っぱい幸せイベント。

 しかも水鉄砲でありながらアニメや特撮のようなガンアクションを披露し手足には意味ありげな無数の縫合傷。シャツからチラリと見え隠れするお腹や腋、胸元にドギマギする子もいたがそれ以上に掃除屋キッドは小学生男子にとって可愛いよりも無数のカッコいいが合体したすごくすごいナニかだったのである。

 

「あっははは! 日本の夏サイコー!!」

 

 喫茶店の手伝いには殆ど顔を出さずにこれである。

 だが、そんな彼女の極上時間は突如として終わりを迎えることになる。

 

「WOOOOOOOOOOO!!」

 

 謎の気勢を轟かせながら駄菓子屋目掛けて突っ走ってくる半裸に三角の覆面で顔を隠した得体の知れない筋肉のエントリーによって。

 

「は? え……なに? え、え、え!?」

「キッドチャンアーソーボー!!」

「はああーーっ!?」

 

 まるで現代に蘇った原始人のような荒々しさを全開にしてダッシュしてきたその不審者は唐突過ぎる事態に困惑しつつ咄嗟に反撃を試みたキッドの動きをまるで知っているかのように難なく受け流すと彼女の頭からズタ袋を被せそのまま何処かへと連れ去って行ってしまった。

 白昼堂々と行われた誘拐事件にパニックが起こる駄菓子屋だがその混乱は居合わせた子供たちの目の前に音もなく現れた黒髪の少女が「カンラ」と一言唱えるとあっという間に静まり、何事もなかったように何気ない一日が再開されていった。

 

 

 

 

「……――い。おーい、キッドー!」

「うぅ……暑ぅ……え、砂ぁ?」

 

 吹き抜ける風と熱砂の感触、そして自分を呼ぶ声でキッドは目を覚ました。

 鼻孔をくすぐる潮の香りと聞こえてくるさざ波、更に遠くからはカモメの鳴く声。

 どうやら海辺のどこかへと連れてこられたようだ。

 

「あれぇ……深紅じゃん? なんでいるの?」

「なんでだろうねえ。私も知りたいさ」

「ボクは覆面被った変な筋肉に拉致されたんだけど……同じってことかな?」

「正解」

 

 まだ寝惚けていたキッドだが目の前に知っている顔がいたことで意識が徐々に鮮明になっていく。そこには鮮やかな赤い瞳を持つ気風の良さそうな佇まいの女性がいた。彼女の名は皇深紅。またの名を仮面ライダーローサー。自分と同じく異世界からやって来た仮面ライダーの一人だ。

 

「というか、深紅のソレ水着でいいよね? ニンジャガールのコスプレじゃなくて?」

「黒の網編みが何でもかんでも忍者の服と思ったら大間違いだよ!」

 

 恐らくわざと言っているであろうキッドの言葉に炸裂する切れ味の良いツッコミ。

 元いた世界で一癖も二癖もある仲間たちに囲まれて鍛えられた深紅の固有スキルは今日も健在だ。それはともかく、キッドが言うように目の前の彼女は確かに華やかな水着姿だった。

 

「起きたらこの水着に着替えさせられてたんだよ。ホント、何が何だか……」

「身ぐるみ引っぺがされてることを思えばマシでしょ? それに似合ってるよ」

 

 灼熱の日差しに当てられて首筋を伝う汗を拭う深紅はパッションオレンジのビキニの上から黒いメッシュのラッシュガードを羽織っていた。

 可憐さよりも麗しさが先行する彼女によくマッチしていると思われる水着だった。

 恐らく普通の海水浴場ならば男たちの興奮の声以上に同性からの黄色い悲鳴が上がるだろう。

 

「気付いてなさそうだけど、あんたも水着なんだよ」

「わおっ!? 本当だ!」

 

 深紅からの指摘を受けてようやく自分の格好の変化にも気付いたキッドは飛び上がった。

 白いビキニに薄い生地で作られた浅黄色のマフラーの組み合わせ。普段が外套を纏って低露出なだけに新鮮な印象を与えている。

 

「あ! キッドと深紅さんもいた! おーい!」

 

 自分たちの衣服が変わっていたことに驚きながらこれからどうするべきか二人で考えていると聞き覚えのある声が自分たちの名を呼んだ。

 声の方角へと視線を向けるとやはりというべきかこの謎の海辺に拉致されてきたのはキッドと深紅の知り合いばかりのようだった。

 自分たちを見つけて小走りで駆けてくるのは更科朔月、仮面ライダー銀姫。一見するとクールでミステリアスな雰囲気だが感情表現豊かな普通の女子高生である彼女も白と青のボーイレッグというスポーティな美しさが目立つ水着姿をしている。

 

「やあ朔月、会えて嬉しいよ。誘拐されてちょうど途方に暮れてたところだったからね」

「じゃあキッドたちも……」

「その様子だと全員ここにいる原因は一緒って感じかい?」

「はい。私たちもそれぞれ頭巾被った変態みたいなのにラチられて気が付いたらこの島にいたんです」

 

 息を整えて朔月が深紅の質問に頷いてから数秒後には後ろに見えていた残りの面々が到着してざわざわと自然にこの事態をどう解決するかの話し合いが始まった。

 

「どっかの怪人の仕業だと思うか?」

 

 サマーパーカーを羽織ったニヒルな雰囲気の少年が険しい表情で口火を切った。

 彼は黒道士郎。仮面ライダーディガルムに変身して欺瞞に満ちた正義に牙を剥く地獄の番人だ。

 

「私の直感になるんだけど、今回は違うんじゃないかしら?」

「そうだな。もしもオレたちを始末する意思があるのなら既にやっているはずだ」

 

 士郎の疑問に対して、深い水色の髪をポニーテールで纏めた人魚のような美貌の女性が所感を述べ、その隣で周囲を警戒する刃のような鋭く冷やかな佇まいを帯びた美少年が同意する。

 仮面ライダーテテュスに変身する大梅瑠璃と仮面ライダームラサメへと変身する行雲紫乃もそれぞれ黒いビキニとアクアマリンのパレオの水着姿とスパッツタイプの海パンに水兵(セーラー)風の上着を纏った海辺の装いになっていた。

 

「もしもみなさん(ライダー)が目的なら、私じゃなくて頼人を攫ってるはずですし……さては夏の妖怪の仕業だったり!?」

 

 可愛らしいフリルが腰回りについた黄色のワンピースタイプの水着を着た栗毛のショートヘアの少女がおっかなびっくり、後半はどこか好奇心にざわめきながら声を上げる。犬山春歌、仮面ライダー妖狐として戦う篝火頼人の友人だ。

 

「さ、攫った人間を水着に着替えさせる妖怪さんがいるのかは分かりませんけど、士郎さんと一緒にいた私はともかく、春歌ちゃんまで連れ去られてしまったと言うのはやっぱりおかしいです」

 

 春歌と同じく仮面ライダーに変身しないにも関わらず拉致されたもう一人の少女が戸惑いながら自分たちが置かれている状況の異常性の一つを指摘した。

 陽光に輝く美しい銀髪を風に揺らすのは白金マリア。数奇な縁で士郎を居候させることになった教会でシスターをしている心優しい少女だ。

 彼女は豊満な胸を純白の競泳水着に包み込み、士郎の傍らに寄り添っている。

 

「うーん……確かに俺たち(ライダー)が狙いなら、マリアたちまで攫う必要ないわけだしな」

「もし、みなさま。こちらに来ていただけないでしょうか?」

 

 不幸中の幸いにも全員無事に集合出来たことに安堵しながらも、いまだ根本的な問題を解決するための妙案が思い浮かばないでいた一行の輪を呼ぶ声がどこからか聞こえてきた。

 

「薫。気配が離れていると思ったら、どうしたんだ?」

「ふふ……夏は蝶が生き生きとする季節ですので。冗談はほどほどに、恐らくですが事件の首謀者に繋がる手掛かりを見つけました」

 

 小高く盛り上がった砂の丘の上、陽炎に揺られながらもたおやかな笑みを崩さないのは大和撫子という言葉を人の形にして命を吹き込んだような美少女にして美少年。

 御伽装士/仮面ライダーマイヤへと変身する夜舞薫は大きな麦わら帽子と白いワンピースという出で立ちでみんなを自分がいる方向へと手招いた。

 

 

 

 

「これは……」

「なるほど、アイツ(・・・)の仕業なら頷ける」

 

 それを見つけた紫乃はあからさまにうんざりした顔を見せた。

 薫の案内でまだ探索していなかった砂浜の奥へと進んだ一行はそこでモノリスのように鎮座した姿見のような大きな鏡を見つけて、ある者は溜息をつき、またある者は憤慨し、またある者は一抹の安心を得た。

 

「どういうつもりアリス? いるんでしょ、出てこい」

 

 代表して深紅が鏡の前に立ってある少女の名前を呼んだ。

 すると直ぐに変化が起きた。まず最初は鏡にではなかったが――。

 

「AOOOOOOOOON!」

「「「出たぁあああ!?」」」

 

 一体どこに潜んでいたのか何処からか大ジャンプをしてあの三角頭巾に半裸の変質者が上空からエントリーしてきたのだ。変身できずとも腕に覚えのある者は即座に臨戦態勢になるが三角頭巾は持参してきたビーチパラソルを鏡の傍に設置するとまるで召使のように背負っていた大きな団扇で扇ぎ始めたのだ。

 

「ようやくここに辿りつきましたか~? 全くぅウミガメさんのようにのろまなものなので折角のイベントの時間が無くなってしまわないか心配しましたよぉ」

 

 キッドたちが三角頭巾の思わぬ登場で意識が逸れた一瞬のうちに、鏡の中には長い黒髪をたくわえた蠱惑的な美少女が姿を見せていた。

 アリス――ツルギの世界で行われるライダーバトルの管理者。

 数多の異世界から仮面ライダーたちが集ったこの世界では期間限定の協力者を自称する彼女もまた普段のセーラー服姿からホワイト&ゴールドの刺激的なデザインをしたクリスクロス・ビキニへと着替えて、優雅にトロピカルドリンクを飲んでいた。

 

「なにを企んでいるのかしら?」

「そんなに怖い顔をしないでくださいよぉ。折角の美人が台無しですよ? まあ、私には勝てませんけどね♪」

 

 冷やかな視線を送りながら、謎だらけのアリスの目的を問い質す瑠璃に当の彼女は相変わらず人を食ったような態度を崩すことなくニヤリとほくそ笑む。

 

「別に皆さんをミラーモンスターの餌にしようとか危険なことを考えているのではないのでそこはご安心を♪ 寧ろ、今回の私はイケてない夏を過ごしているであろう皆さんに笑顔と幸福を届けに来た真夏の女神と思ってくれて構わないんですよ」

「余計なお世話だ。さっさと本題を話すか俺たちを帰せ」

「全く無粋な野良犬さんですねえ……確かに手荒な招集になってしまったのは謝りましょう。そこまでムーに指示をしていなかったものでしてね」

「ムー?」

 

 士郎を筆頭に厄介事に巻き込まれたくないと一部の面々は怒気が強まるが謎のワードに首を傾げた。

 

「紹介しましょう。今回雑務を担当している下僕のムーです。哀れで救い難い蛮族なので適当に呼んであげてください」

「ゲボクジャナイ。オレ、バイト。黒髪ガキレイダカラッテオモイアガルナ」

「うふふ。そういうことなら即解雇、お給料の前払い分も全回収しますけどよろしいですね?」

「……アリスチャンサイコーカワイイヤッター」

「よろしい」

 

(((こいつムゲンじゃん)))

 

 吐き捨てるようなカタコトで感情の籠っていない言葉を発した三角頭巾の声を聞いて、一同は真正面から自分たちを拉致してみせた不審者の正体に気付いた。

 個人の名誉のために詳細は省くが彼もまたこの世界で共に戦う仲間の一人だった。

 

「なにやってるのムゲン」

「今月ピンチ、クーサンタチトBBQデ豪遊シスギタ。夏ノ誘惑ニヤブレチマッタ」

 

 中の人が判明したことで危険が無いと分かった朔月はなんでこんなことをしているのかと呆れながら質問して、しょうもない回答を返されたことで更に呆れ果てた。

 

「バカじゃないの」

「モウスコシ、優シイ言葉ヲカケテホシイ」

「じゃあおバカだね」

「チガウ。ソウジャナイ」

 

「話が逸れましたが皆さんには私がとある発注を受けて企画・準備をしたレクリエーションに参加してくれれば終了後に解放してさしあげますよ。シンプルな話でしょう?」

「アリス様……はてさて貴女の狙いは何なのでしょうか?」

「心外ですね~私は皆さんの夏が忘れられない素敵な夏になるように一肌脱いであげただけですよぉ? 優勝者には豪華賞品までご用意させてもらったんですからねぇ?」

「まあまあ」

「それでどうします? このままこの無人島で干からびるのを待ちますか? それとも一縷の望みを信じて試練(ゲーム)に挑みますか? 返答はいかに?」

 

 穏和な口調ながら針を忍ばせたような気配で問う薫を煙に巻きながらアリスはあべこべに参加の是非を問いかけた。

 

「どうする?」

「色々とまだ裏がありそうではあるがムゲンもあんな風に協力しているのなら安全は保障されているとみていいだろう」

「それにあそこまで煽られて挑戦しないだなんて、仮面ライダーやっている者の名がすたるってものだよ!」

「戦いではないのなら私たちも士郎さんたちの力になれますしね」

「はい! みんなで力を合わせてこの島から脱出しましょう!」

 

 相手が相手だけにまだ油断はできないが突きつけられた困難を前に気合と闘志に満ちた声が次々に飛び交い、彼らの心は一致した。

 

「アリス! あんたのイベントとやらに乗ってあげるよ!」

 

 鏡の前に勇ましく立って啖呵を切った深紅にアリスは夏の暑さを忘れるような涼しげで不敵な笑みで答える。

 

「よろしい! 流水飛び交う夢の大決戦場! 超大規模水鉄砲サバイバルゲーム! 名付けて、アリスちゃんグランプリの開幕を宣言します!!」

 

 

 

 

「えーそれでは第一回アリスちゃんグランプリのルール説明を始めます。皆さまお手元の資料をご確認ください」

 

 あれだけヒロイックな決意表明と祭典の開幕を宣言した両者だったがハージェネライダーの面々は熱中症予防のため涼しい日陰のある場所へと移動させられて、ムーが持ち込んだスポーツドリンクを飲みながら詳しいゲームの説明を受けていた。

 こういった細やかな気配りと行き届いた配慮はツルギの世界で多数の少女たちが入り乱れるライダーバトルを公平に管理してきたアリスの優れた運営手腕の妙である。

 

「基本ルールは簡単です。会場はこの無人島全域。参加者は他の選手の水鉄砲に入った色水に当たったらリタイア。後はどれだけ濡れようが汚れようが問題ありません。また安全や不正行為が無いかの確認のために島のあちこちには定点カメラを設置して参加者の行動を撮影していることは了承していて下さいね」

「一つ質問していいかしら? もらった地図によると島には川が流れているようだし、海や河川を泳いで移動するのはOK?」

 

 泳ぎに自信がある瑠璃にとって海辺や水辺での活動制限の程度は大切な情報だ。

 

「許可しましょう。但し安全性に配慮して海に関しては陸地から10m離れた場所まで移動した場合失格です。誰もが大梅さんのように泳ぎに秀でているわけではありませんからね」

「ありがとう。よく覚えておくわ」

「では、説明を続けます。参加者の装備は武器になる水鉄砲と予備の色水が入ったボトル。島の地図アプリが入った端末となります。島の各地には給水ポイントやお助けアイテムが入った宝箱を置いてあるのでそれらを駆使して勝利を目指してください」

 

 マリアたちが説明に従って地図を見てみると端末の画面に映った島の全体図には色んな場所に赤い印がマーキングされている。

 

「こういうのは詳しくないが翔たちが遊んでいるTVゲームを現実を舞台に生きた人間でやっているようだな」

「そう言う認識で結構ですよ。紫乃くんのように生身でも動ける方には是非とも柄になる立ち回りを期待しまぁす♪ それでは参加者それぞれのスタート位置を決めるためのくじを引いて……あ、そうでしたぁ」

 

 予想以上にしっかりと作り込まれた水鉄砲サバイバルゲームの概要に感心すら覚えつつ、いよいよゲーム開始とキッドたちが動き始めたところでアリスはわざとらしく、伝え忘れていた重要なルールを口にする。

 

「アリスちゃんグランプリはライダーバトルと違って命の危険のないクリーンなゲームです。な・の・で……協力、裏切り、策謀なんでもありで存分にゲームを盛り上げてください♪」

「……ヤなこと言うね、アナタ」

「気にした方が損だよ、朔月。ストレス発散だと思って気ままに暴れてやりなよ」

 

 有能ではあるが一癖あるのに変わりはないアリスの意味深な言葉にライダーバトルと酷似した狂気の祭典の参加者である朔月は微かに表情を曇らせる。

 だが、そんな悶々とした朔月の気持ちをキッドは軽く彼女の背中を叩きながら砕けた態度で取り払う。

 

「ありがと。ねえ、良かったら私と組んで戦わない?」

「あー……気持ちは嬉しいんだけど、ボクってば今回のメンバーの中だと唯一の銃ライダーじゃん? 銃の取り扱いには一日の長があるっていうかさ」

「う、うん……まあ」

 

 体をくねくねさせ、マフラーをねじねじさせ、もったいぶった言い方をするキッドに朔月は彼女の本音を何となく察した。この女、本気だと。余計な味方とかノーサンキューで本気で勝ちにいく気なのだと。

 

「でしょう? 言っちゃえばボクってば優勝候補なわけだから徒党まで組んじゃうのは他のみんなが大変かなってキッドちゃん思うわけだよ」

「つまり、私とは組みたくないと?」

「ごめんねー朔月。アリスは胡散臭いけどゲーム自体は面白そうだから、すぐに終わっちゃうのはイヤだなって。そういうわけだから、君の武運を祈るよ! じゃ☆」

 

 最高に勝ち誇ったドヤ顔を見せてキッドは朔月のところを離れてくじを引きに言ってしまった。残された朔月はと言うと――。

 

「あのドヤ顔絶対ビシャビシャにする」

 

 珍しく戦いという行為に全力の闘志を燃やして、優勝を目指す決意を新たにしていた。

 そして、同じように普段は争いを好まないものの、このような特殊な舞台だからこそやる気を燃やしている人物がいた。

 

「マリア、もうスタート場所は決まったのか?」

「士郎さん! はい。私はF地点になりました」

「そうか。俺はBだから結構離れてるけど、始まったらすぐに合流しに向かうからそれまで隠れてろ」

「そのことですけど、今日に限ってはお気遣い無用です」

「へ?」

 

 数少ない非戦闘員であり、行き倒れになりかけていた自分を助けてくれた恩人であるマリアをゲームとは言え危ない目には遭わせられないと自分と二人で行動することを提案しようとした士郎であったが意外すぎるマリアの返答におかしな声が漏れてしまう。

 

「士郎さんにはいつも守ってもらってとても感謝していますし、信頼しています。でも、守られているだけというのはダメだと思うんです。なので今回は私もいざというときはちゃんと一人でも行動できるってことを士郎さんに見て欲しくて……守らないでくださいね」

「え、あの……マリア? 本気で言っているのでございますですか?」

 

 寝耳に水なマリアの宣言に思考回路がバグった士郎はたまらずヘンテコな敬語で喋り出す始末だ。それぐらいひと夏の勢いに背中を押されたマリアの思いつきは彼にとって大胆極まる物だった。

 

「本当です。むしろ、ライバルとして正々堂々と勝負ですよ! もしも手加減なんてしたら私怒りますからね? それじゃあがんばりましょう!」

「………………うそだろ」

 

 清々しい笑顔で宣戦布告したマリアは胸元の立派な二つのメロンを揺らして自分のスタート位置へと移動して言ってしまった。ショックが大きすぎて真っ白になってしまった士郎についぞ気付くことなく。

 

「それではあああっ! アリスちゃんグランプリ! 開幕です!!」

 

 全九人の様々な思惑が交錯しながら、こうして真夏の一大サバイバルゲームがついに幕を開けた。果たして勝利の栄冠を掴み取るのは誰になるのか、勝負の行方は神のみぞ知る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 舞台となる無人島は思っていたよりも広く森林や河川も豊かだ。

 つまり、たかが水鉄砲を使ったお遊びと高を括れば痛い目を見る程度に本気で撃ち合いができる戦場であった。

 

「……」

 

 そんな森の中を優勝候補の一角であるキッドは息を殺し、山猫のように姿勢を低くして極力音を出さないように慎重に進んでいた。

 眼差しは既に容赦なく悪魔を撃ち抜く掃除屋としてのソレへと切り替わっている。それほどまでに彼女はこのゲームに本気だった。

 銃士としての誇り、朔月からの共闘の誘いを断った己への絶対の自信がそうさせるのか、あるいは――。

 

(ガッテムサマー!!!!)

 

 キッドは支給された竹の水鉄砲を握り締めて、半ベソになりながら心の中で絶叫した。

 

(ふざけんなよあの恋愛クソザコゲームマスター! なにが公平を期すために初期武器はスタート地点によってランダムですだ! なにこの筒! ボクの知ってる水鉄砲と違う!!)

 

 誇りとか自信とか関係なく、ただ予想を遥かに超えて手持ちの水鉄砲がクソザコ仕様で必死なだけだった。

 

(ゲームが始まる前に試射させてもらったけど射程微妙! 連射性劣悪! そもそも水が飛ぶってだけで拳銃の形すら成していないじゃないか! リロード性能がギリギリ、本当にギリギリでちょっと良いぐらいのガッカリ武器だよ!)

 

 キッドはさっき朔月の誘いを断ったことを死ぬほど後悔していた。

 こんな残念装備を掴まされるのなら彼女と共闘関係を結んでおけば良かった。

 竹の水鉄砲(こんなもの)が武器ではまるで戦車や最新の銃火器がひしめく戦場にロケット花火一本持って放り込まれたようなものだ。

 

「どうするかな? フィールドに落ちてあるお助けアイテムとやらを漁って別の水鉄砲を手に入れるか……こんなんじゃまともに戦えない」

 

 あれだけ大口を叩いておいて、速攻で脱落したとあってはキッド的に一生の恥である。

 きっとこの夏はずっと輝ける銃士wwなどと笑いものにされるだろう。

 なんとか勝ち抜く術を考えていた時だった。

 長く生い茂った雑草の向こう側が大きく揺れた。

 

「え?」

「あ?」

 

 緑のカラコンをした瞳が間の抜けた顔をしているキッドを映していた。

 雑草をかき分けて姿を見せたのは他でもないその朔月だった。

 この暑い中で慣れない野山を歩いたことでほど良く瑞々しい肢体が汗ばんだ彼女はどこか退廃的な色っぽさがある。

 

「ハージーメー! 無事でよかった! 会いたかったよぉ! やっぱり、しばらく一緒に――」

「みんなあああ! キッド見つけたーーー!!」

「う゛え゛っ!?」

 

 勝利のためにはこの際、恥もプライドもド返しにする決断したキッドは満面の笑みで友情の証とばかりに朔月にハグしようと駆け寄るが世の中はそう甘くはない。

 

「撃て撃て撃てー!」

「キッドちゃん、勝負だよー!」

 

 朔月の大声に呼応して彼女とチームを結成していた深紅と春歌があっという間にキッドへと殺到する。

 

「キッド食らえええーーっ!!」

「ふぎゃああああああああああ!?」

 

 朔月が持っていたショットガン型の水鉄砲を皮切りに三人の一斉射撃がキッドを襲う。特に春歌が初期装備として持っていた電動マシンガンタイプの水鉄砲は物凄い勢いで水を撃ち出していく。

 襲い来る水の弾丸と水流をキッドは情けない悲鳴を上げながら全速力で逃げ出した。

 常人なら近くにいた朔月の射撃を含めた三人がかりの水鉄砲の洗礼に成す術もなくやられていただろう。

 だがそこは掃除屋として生身でも悪魔と戦うこともあるキッドである。持ち前の身体能力を活かして山猫を思わせる軽快な動きでどうにかこうにか逃げ回る。

 

「こんなところでやられるもんかあああ――……へぶっ!?」

 

 決死の形相で例え水着がズレて尻を半分衆目に晒しながらも逃げ回った末にキッドは足を蔦に引っ掛けて盛大にすっ転んだ。

 

「え、あ、ちょっ……ほわあああああああああ!?」

 

 勢いよく転んだキッドはそのまま雑草で見えていなかった急な坂をそのままゴロゴロと転がっていき、そのまま川へと落ちていった。

 多くの謎を残しながら開催されてしまったアリスちゃんグランプリ。

 波乱に満ちたこのゲームの初戦はこうして幕を閉じた。

 しかし、一夏の大乱闘はまだまだ始まったばかりである。

 

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