仮面ライダーハーメルンジェネレーションズ MIRACLE FESTIVAL! 作:大ちゃんネオ
追憶。
8月X日 とある少女の戯言。
喫茶Hameln大きな鏡のすぐ傍の席にて。
「いやぁ~ツラいわぁ♪ 近所のキッズたちを神レベルの水鉄砲捌きで無双しちゃうボクってばツラいわぁ♪」
今日も近所の子供たちに混じって目一杯に夏を満喫した少女は夕暮れの誰もいない店内でまどろみながら(自分に)酔っていた。
「でもちびっ子たち相手じゃ張り合いがないよねー! もっとこう脳がヒリつくような撃ち合いもしたいなーダメかー……ここのライダーたちの争いはタブーだもんなー」
『面白いことを言いますね。ここに集まるライダーはみんなお利口さんばかりで物足りなかったところです』
「いやーキツイでしょ? そもそもボクみたいに銃がメインの人も限られているしさ」
『では水鉄砲では? 試してみませんか? 本気でやる、やらざるを得ない水鉄砲での
「フフン。誰か知らないけど君も面白いこと言うじゃないかぁ! もしもゲームのセッティング全部やってくれるのなら費用全部負担しちゃうよー。めんどうだからボクはパス」
『クス。言いましたね? お安いご用ですよ♪ ええ、確かに言質はいただきましたからね……お楽しみに♪』
この数秒後に少女は居眠りを始め。
ある夏の日に、こんなやり取りを誰とも知らない相手と交わしたことを覚えてもいなかった。少女の側だけは。
※
真夏の無人島を舞台に突如として開幕した流水の祭典アリスちゃんグランプリ。
開始早々に銃の名手ながら貧弱な水鉄砲を引いてしまったキッドがチームを組んだ深紅たちの集中砲火を受けた末に川へと転げ落ちていくという波乱の展開で始まったこのサバイバルゲームは更に激しさを増していくことになる。
「始まったか。さて……どう仕掛けるか」
渡された端末に届いたメッセージから本格的にゲームが開始されたことを把握した紫乃は端末の画面を地図に切り替え、注意深く移動を始める。
アリスの真意にはまだ疑惑は残るが遊びならばそのように不慣れながらも楽しもうと意気込む紫乃。しかし、彼もまたキッドと同じように封魔司書として情けない戦果だけは避けねばと任務に当たるのと同じぐらい真剣にこのゲームに勝ち残るにはどうすべきかを思案する。
「お助けアイテムとやらの一つが近くにあるな……待ち伏せてみるか」
やみくもに競争相手を探し回るよりはアイテム欲しさにやってくる者を狙った方が戦いを有利に進められると判断した彼は歩く速度を速めた。
「ふぅっ、流石に水もこれだけあると少し重いな」
首筋を伝う汗を拭い、紫乃は熱気で火照った顔を苦笑させて背中に背負った水鉄砲の一部を一瞥した。彼が初期装備として手に入れた武器はポリタンクサイズのマガジンと銃がホースで連結したタイプの物だった。
豊富な水を撃ち放題だが重さも飛び抜けたタンクタイプの水鉄砲は修練を積んだ紫乃であっても移動に少なからず負荷を与えていた。
「弾切れをそこまで心配する必要が無いと考えれば適度なハンデと言ったところか……とはいえ暑いな」
熱風と潮風にあてられた紫乃の体は汗ばみ、白い水兵風の上着は薄らと透けて程良く鍛えられた白い肌に張り付いている。スパッツタイプの黒い水着は彼の下半身のボディラインとくっきりと浮かび上がらせて、もしも第三者が見ていたとしたら艶やかにさえ思えるだろう。
「あれだな。よし、潜伏できるポイントを……ッ!?」
数分歩いたところで紫乃は大きな岩の上にRPGに出てくるような宝箱が置かれているのを発見する。まだ開封されていないことを目視で確認して身を潜ませる場所を探そうとした時だった。真横から突如として放水の奇襲、それも五筋のものを受けた。
「避けられてしまいましたか! やっぱり運動神経が違いますね紫乃くん」
「マリアさんか……士郎は一緒じゃないんだな」
「はい。今日は士郎さんも紫乃くんも競い合うライバルです! いきますよ!」
紫乃を攻撃してきたのは今回非ライダー枠ながらやる気十分のマリアだった。
挨拶もほどほどにマリアは普段の清楚な雰囲気を夏の高揚感で少し緩ませたようなアグレッシブさで紫乃にアタックしていく。
「そういうことなら、オレも手加減抜きで相手をするのが作法のようだな、いくぞ!」
「お相手お願いします!」
マリアの持つボウガンタイプの水鉄砲は五つの発射口から同時に水を発射するものだった。広い範囲から飛んでくる水を紫乃は冷静に回避すると反撃を開始する。
弾数を気にする必要が少ない自分の装備の利点を存分に活かしてフェイントを混ぜて連続射撃で水を撃ち出していく。
「ま、まだです!」
「おもちゃの盾? そういうのもあったのか!」
ガッツは十分だがやはり身体能力や経験値で紫乃とは歴然の差があるマリア。しかし、彼女は事前に入手していた別のお助けアイテムで何とか耐え凌いだ。
「士郎さんと対戦するまでは負けられません!」
「良い気迫だな。オレも油断せずにいく」
本来なら決して実現しないであろう異色のカード。
夏の一騒動だからこそ出来る夢の戦いは加速していく。
※
選ばれしチャレンジャーたちが無人島で激しい戦いを繰り広げている頃。
休業日の喫茶Hamelnではというと。
「うおー! すげー! キッド姉ちゃんあれだけ撃たれたのに全部避けてった!」
涼しい店内でPCの画面の向こう側で行われている大激戦を観戦していた章太郎が歓喜の声を上げていた。
なんとこのアリスちゃんグランプリ、運営に関わっている者たちの手で身内限定でライブ配信されていたのだ。
店内には面白い物が見えると誘われてやってきたゲームに参加していないライダー関係者の顔も何人かいて、各々一喜一憂しながら試合を観戦している。
「特撮の夏映画もいいけど、こういうのも面白いでしょー章太郎くん?」
「うん! サイコーだよカナタ姉ちゃん!」
瞳を輝かせて無垢な笑顔を見せる章太郎の反応に今回の首謀者――否、主催者の一人である天風カナタは女神のように穏やかな笑みを浮かべる。彼女を良く知る者が見たら震えあがる極悪で涼しげな黒い笑みだ。
ちなみに双子の弟のハルカと頼れる仲間のクー・ミドラーシュは現地スタッフとして実は無人島の方に足を運んでいた。
「ムゲンがみんなのことを拉致してるって聞いた時はビックリしたけど、こういうことだったんだ」
計画通り!作戦大成功とばかりに達成感に満ちた様子のカナタを引きつった笑みで見ていた常若永春はぼそっと零す。彼も突然この場に呼ばれた観客の一人だ。
「一応断っておくけど、今回私たちはあくまでサポーターであって主犯じゃないのでどうぞよろしく。ムゲン経由でアリスが面白そうなことを計画しているから少し助言させてもらったりはしたけどね」
「そ、そうなんだ。とりあえず、沙夜さんをターゲットにしないでくれて良かったよ。ね、沙夜さん?」
「……はい。そう、ですね」
何気なく隣にいる望月沙夜に言葉を振った永春だったがあからさまに歯切れの悪い様子の彼女に嫌な予感を覚える。
「おや? 沙夜さん?」
「いえ、私は別に人攫いだなんて悪いことはしていませんからね永春くん。ただちょっと皆さんのお着替えを手伝ったり、ムゲンが騒がせた場所の記憶処理をですね……はい」
ドーバー海峡でも横断しているのかという勢いで目を泳がせて弁解をする沙夜に永春は絶句した。一体どれだけの人間がグルで、純粋に観客でいられる者が何人いるのかまるで分からなくなってしまったのだから。
「難しい役目をご苦労さま沙夜。ちゃんと報酬は弾むから胸を張りなさい。あと、運営側はアリスと私たち四人に沙夜だけだから永春は何の心配もせずに楽しむといいよ」
「カフェ・メリッサこわー」
悪事の片棒を担いでしまったかのように狼狽している沙夜や永春の心を見透かすような一言を告げて再びPCの画面に視線を戻したカナタ。
面白そうなのでアリスに協力した彼女であったが実のところ、彼女も今回はアリスの魂胆が何なのか確信を持てる物を見つけていなかった。
ただ一つ確かなのはアリス曰く夏に浮かれた出資者からの提供案件というおかしな言葉から全ては始まったようだ。
※
「マリアが敵……え、戦うのか俺? マリアと……何故? 襲ってくる……マリア?」
その頃、マリアに宣戦布告をされた士郎はと言うとそのショックから未だ放心状態が抜け切らず大きな動きを見せることなくスタート地点で立ち尽くしていた。
まだ何もしていないのに既にセミの抜け殻のように真っ白に燃え尽きていた状態の士郎だったが目の前の茂みがガサガサと揺れ動く様子にようやくハッと我に帰る。
「うおっ!?」
「やあ、ボクだよ。安心しなよ戦う気はない」
「お前キッドか!?」
士郎が驚くのも無理はない。
ズカズカとやさぐれた様子で現れたキッドは全身泥だらけの敗残兵のようなみすぼらしいことになっていたのだ。
「なにがあったんだよ?」
「一難去ってまた一難。川に落ちたと思ったら、イケナイ人魚に襲われかけてギリギリ逃げ延びた」
「人魚? ああ、瑠璃さんのことか」
「人間がしていい泳ぎじゃなかった。自分でもよく逃げ切れたと思う。この夏にプ●デターの再放送を見ていなかったら間違いなくやられていた」
あの後川に落ちていったキッドは流されている途中で水辺をテリトリーにしていた瑠璃からも攻撃され逃亡に次ぐ逃亡を強いられていた。
某SF映画をヒントに全身に粘土質の泥を浴び、擬態することで間一髪切り抜けていた。しかし、キッドのガンマンとしての尊厳は面白いぐらいに破壊されていた。
「なんというか災難だったな」
「そういう士郎はまだマリアの挑戦状にテンパって身動きとれないでいるのかい?」
ひと思いに水鉄砲の引き金を引くのは忍びない状況のキッドを同情していた士郎だったが彼女の手厳しい言葉にバツの悪い顔をする。
「う、うるせえな」
「そんな士郎に素晴らしい提案をしよう。ボクと暫く組むんだ」
「なんでそうなる?」
「ボクと組むなら、士郎の決心が固まるまでマリアには手を出さない。寧ろ、彼女を狙う連中も返り討ちにしてやるよ。早くしないとボク以外の腕自慢に彼女やられちゃうかもだよ?」
みんなで楽しむレクリエーションとは程遠い殺伐とした空気を醸し出し、士郎に取引を迫るキッド。本人はボクはまだ未成年だと屁理屈を叩くかもしれないが大人げないったら無い。
「……いいぜ、その話乗ってやる! マリアのことちゃんと約束守れよな?」
「オーケー、契約成立だね。大丈夫だとも、ボクはボクで倒すべき相手いる」
こうして悔しさと逆恨みと青酸っぱい少年の微妙な感情によって、銃士と地獄の番人は手を組んだ。
※
マリアVS紫乃の戦いは大きな変化が見えていた。
やはり戦いにおける経験値と単純な身体能力の差がここにきて如実に表れてマリアが圧倒的に押され始めていた。
「そこだ!」
「きゃっ!? ま、まだまだ……!」
死に物狂いの反撃。
まさかのビギナーズラックの逆転の可能性さえ考慮して確実に相手を封殺するかのような射撃でマリアを追い詰めていく紫乃。
「灰矢ほどではないがオレも射撃兵装は使い慣れている。健闘は称えるが仕留めさせてもらう」
大きな木の際にマリアを追い込んで彼女を紫乃が最初の脱落者にしようとしたその時だった。彼方から複数の足音が勇ましい勢いで聞こえてくる。
「こちらダークムーン! ターゲットを補足した。指示を!」
「当然、
「ヒャッホォォォウ! ハウンドソング続きまーす!!」
マリアと紫乃の戦場に現れたのは朔月たち三人衆だった。
いつの間にか朔月考案と思われる趣味全開のコードネームまで名付け合いご機嫌なテンションでやって来た彼女たちは実力者である紫乃へと放水を集中させる。
「くっ……新手か!」
「久しいなパープルアイ。聖なる水の裁きを以て、汝を灼熱の闇の深淵へと誘おう」
「ちょっと待て! 今日はあの奇妙な衣装は持ち合わせていないぞ!?」
「甘いパープルアイ。魂は常に宿命の正装を纏い、
たぶん、泣いてないです。
「なんだと……燐、すまない。そんなことにも気付けなかったとは俺はまだまだ未熟だ」
たぶん、気付けなくても大丈夫です。
「よし! 朔月が何語喋ってるのか全く分からんけど、とにかく紫乃の動きが鈍った! アタックだ! マリア、いまは私たちについてきな!」
「は、はい!」
「ガンホー! ガンホー! ガンホー!」
朔月が秘めし気高き趣向の一端に触れて、精彩を欠いた紫乃の様子を見逃さなかった深紅の号令で美少女カルテットは逆襲に転じる。
「これは不味いな。一度退くか……うん?」
キッドがそうであったように封魔司書として日々過酷な任務とトレーニングを積んでいる紫乃も数の暴力から繰り出される水鉄砲の射撃には簡単には太刀打ちできない。
被弾する前に退却しようと冷静な判断を下そうとするが優れた彼の動体視力には夏の無人島に舞う蝶の幻影を見逃さなかった。
あまりにも突然に謎の水撃が背後から春歌たちを襲う。
「わわっ!?」
「きゃぁ!?」
「春歌ちゃん! 朔月さんも大丈夫ですか!?」
「敵襲!? どこから!」
「うふふ……こちらでございます」
立ち並ぶ木々の間をひらり、はらりと舞うように麦わら帽の白い影が紫乃や深紅たちを囲むように見え隠れする。逸れ紛れもなく薫だ。
「五人同時に一人で相手にする気? いい度胸だよ薫!」
紫乃に続いて薫の存在に気付いた深紅がすかさずライフル型の水鉄砲で反撃を試みるが御伽装士としての修練が成せる業か薫は白いワンピースをはためかせて、踊るような体捌きで飛び掛かる水を紙一重で避けていく。
「流石の身のこなしだな。だが避けているばかりではどうにもならないぞ!」
「ご忠告ありがとうございます。けれど、心配はご無用とお伝えしておきましょう」
「ハッ……これなら! もらいましたー!」
敵味方が入り乱れる混戦状態の中でわざわざ一人マークされかねないタイミングで姿を見せた薫を紫乃たちは狙い撃つ。見事な回避を続ける薫だったが大地に伝う些細な木の根に足が引っ掛かったのかその動きが僅かに止った。
幸運にもその瞬間を目撃したマリアが咄嗟にトリガーを引くと放たれた五条の色水が純白のワンピースを汚した。
「やっ――!?」
まず一人撃破を確信したマリアだったがしおれるように地面に落ちた中身の抜けた白ワンピに表情が驚愕固まる。
「空蝉というやつか!?」
「薫はどこへ……!」
「皆さまは大事なことをお忘れのようですね」
まるで忍者のように薫はすぽんとワンピースを脱ぎ捨ててマリアの会心の一撃を無効化していたのだ。慌てて本体を探す五人は不敵に弾む薫の声に一斉に振り向き、そして彼女が背にした太陽の輝きに堪らず目が眩んでしまう。
「わんまんあーみーの私からしたら、徒党を組んだり呉越同舟とばかりにこの場に寄り合う皆さま方は良き的でございますのをご存知でしょうか?」
黄金の日光に照らされながらついに露わになった夜舞薫の水着姿。
白い肌を濃紺の衣で包み、胸元にはでかでかと刻まれた「かおる」の三文字。
「旧スクミズだとぉぉぉ!?」
「待って! 薫さんの武器なんかすごくゴツくないですか!?」
思っていた以上にフェティシズムな水着を着こんでいた薫の姿に驚く深紅。その隣で春歌はそんな薫が所持している水鉄砲の凶悪さに青ざめた。
「それでは皆さま、
太くて長くて大きなガトリングウォーターガンを容赦なくぶっ放した薫。
春歌の電動マシンガンを凌駕する連射力で襲い来る色水に現地は阿鼻叫喚に包まれた。
「うひゃあああああ!」
「なんの! 反撃いいいいっ!」
「くっ……めちゃくちゃだ」
「ふふふっ、楽しゅうございますね」
密集していた五人に遠慮なくブチ撒かれる水の弾丸の洗礼。
咄嗟に応戦する者もいるが敵味方入り組んでいたので一発でも被弾したアウトというサバイバルゲームのルールも手伝って思い切った行動が出来ずにどうしても防戦か逃亡を余儀なくされる。
そして、ついに――。
「しまっ……がぼぼぼ!?」
「紫乃おおおおおお!」
一発の流れ弾が紫乃を捉えた。
被弾で生まれた微かな隙を逃さずに薫のガトリングが紫乃をあっという間に頭からずぶ濡れにして見せた。
アリスちゃんグランプ、最初の脱落者はまさかの行雲紫乃。
「これはこれは……快感でございますね♪」
薫にとってもこんな風にたくさんの仲間と大騒ぎして水遊びをするのは初体験のことだった。
御伽装士としても銃の類は取り扱わないこともあり、水鉄砲とは言え物騒な代物を躊躇いなく撃ちまくる行為に恍惚とした表情を浮かべていた。
「このまま一網打尽といきましょう」
「ちょっと待ったー!」
戦局が大きく変わろうとしていた時、大混戦の渦中に更なる乱入者がエントリーした。
「うおおおおおお! しくじるなよキッド!」
「任せとけ! 士郎はとにかく全力で突っ走れ!」
薫よりも一歩遅れて乱戦の場に駆けつけた士郎とキッドは雄たけびを上げながら全員を敵にする気でかち込んでいく。しかし、乱入よりも他の者たちが驚いたのは二人のフォーメーションだ。
「なんか変なのがきた!?」
士郎とキッドはなんと肩車した状態で戦いの場に乗り込んで来たのだ。
「走れ! 走れ! 夢はでっかく凱旋門賞制覇だー!」
「俺は馬じゃねえええ! それより早く撃ちまくれって!」
「言われなくても!」
恐れ知らずにも薫と紫乃たち五人の間に割って入るように走ってきた士郎+キッド。
決死の形相で走る士郎の上でキッドは静かに竹の水鉄砲を構える。
「騎馬が銃火器に敵うとでも?」
「使い手によりけりってヤツでしょ!」
ガトリングの銃口を士郎に向ける薫だがそれよりも早くキッドが得物から水を放つ。
竹筒の銃口から撃ち出された色水は薫本人でなくまずはガトリングの銃身に直撃して標準を大きく逸らす。
「なんと!?」
「キッド畳み掛けろ!」
「ヒャッハァァァ! 乱れ撃ちだあああっ!!」
キッドは水切れになった竹の水鉄砲を放棄すると下の士郎から彼の初期装備である二丁のレトロな水鉄砲を受け取り、そのまま大ジャンプした。
性能は低いがちゃんとした拳銃の形をしている水鉄砲をキッドが持っているというだけで話は違ってくる。
空中で錐揉み回転しながら彼女は今までのフラストレーションを発散するようにトリガーを引きまくった。
上空から降り注ぐ色水の雨にその場にいた者たちは大慌てで回避を試みる。
「ヤバい! みんな散って散って!」
「深紅さん後ろ!」
「え。冷ったぁ!?」
そして、また一人脱落者が現れた。
仲間たちが逃げるのをサポートしていた深紅の背中にキッドが撃った色水が直撃したのだ。
「嘘だよね……深紅さん!?」
「ドジったな。朔月、春歌、私の分まで戦って。頼んだ……よ」
「「ロォォォォォドスカーレットオォォォォォッ!!」」
「そこ深紅呼びで良かったよね!?」
こうして凶弾の雨に晒されて薔薇は散る。
第二の脱落者、皇深紅は仲間たちに無念とツッコミを残してリタイアとなった。
「やったああああ! どうだ! 見たか! キッドちゃんが本気出せばこんなもんなのさあああ!!」
「よくやったキッド!」
見事に競争相手を一人仕留めて着地したキッド。
ようやく自分の本領を発揮できたことで声高らかに喜びを露にする。
どれぐらい嬉しかったかというとその瞳が薄っすらと熱く潤むほどである。
「フフン♪ フヘヘ! ウェヒヒヒヒ!! アッハハハハハ!! 撃ちまくりパラダイスだぁぁぁ!!」
「お、おい! 何でもいいけど、俺やマリアに当てるなよ!」
そのままキッドはトチ狂った危ない人のように水鉄砲を乱射する。
混雑した状況をリセットするべく、一度生き残った全員を散り散りに分散させようと思ったのである。
既に薫などはこのままここに留まって撃ち合うのは不利とみて姿を消していた。
「仕方ない、私達も一度バラバラに分かれて態勢を整えよう!」
「はい! マリアさんも一緒に!」
「え、ええ……ありがとうございます春歌ちゃん!」
「待てマリア!」
このままでは勝てないと朔月たちも悔しさを堪えて逃げることを選択した。
春歌に促されて咄嗟に海の方へと走り出そうとしていたマリアを士郎の声が呼び止めた。
「士郎さん……」
「水辺の方へ行ったら瑠璃さんの餌食なるぞ! 森の奥へ逃げろ!」
「は、はい! でも」
「大丈夫だ。仕切り直したら正々堂々と俺もお前の相手をするさ」
不器用な士郎の思い遣りにほのかに胸の奥が熱くなるのを感じながらマリアが言われた方向へと走り出して十秒も経たない時だった。
彼女の進行方向の先にあった大きな木の枝の一本が僅かに揺れて、不意に飛び出した黒光りする銃身から色水が撃ち出された。
「あ、うっ……へ!?」
勢いよく飛び出した色水は無慈悲にマリアの胸元を大きく濡らした。
余りにも唐突に、あっけなく白金マリアは撃たれたのだ。
「マリアアアァァァァッ!!」
「ごめんなさい士郎さん……私、やられちゃいました」
儚げなやりきれない微笑みを浮かべてマリアは消えてしまいそうなぐらい弱々しく膝を付いた。
そして、無人島の空に士郎の絶叫が木霊する。
「ごめんなさいね、マリアちゃん。貴女を狙っていたわけじゃないけど、射線上に入ってきたライバルを素通りさせるほど優しいお姉さんじゃないのよ?」
悪戯っぽい声でそう告げて、マリアを狙撃した張本人がしゃなりと木の上から飛び降りてきた。
ポニーテールにまとめた紺碧の長髪と豊満な双丘を得意げに揺らして、彼女は人魚であると同時に勝負師だった。
「泳ぎの得意な人間がいつまでも水辺にいるだなんてナイーブな考えは捨てないと……夏のお姉さんにはご用心ってね♪」
漆黒のスナイパーライフルをまるでポールダンサーのように妖艶に抱き抱えて姿を現したのはなんと瑠璃だった。彼女はゲーム開始直後に他の参加者が予想していた通り海と川を泳いで行動していた。
しかし、それはライバルたちを惑わす陽動の一手。キッドを適当に襲撃して全員に自分は水辺をテリトリーにして待ち構えているという認識を植え付けさせると密かに森林へと潜り込み、アンブッシュの用意をしていたのだ。
あっという間に三人がリタイアしたアリスちゃんグランプリ。
戦いはついに最終局面へと突入していく。
残る戦士たちはあと、六人。