仮面ライダーハーメルンジェネレーションズ MIRACLE FESTIVAL!   作:大ちゃんネオ

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エキサイティングサマーファルス~終幕トワイライトスプラッシュメモリー~

 前回、最終的に参加者全員が姿を見せ色水が四方八方に飛び交う大混戦により三名が脱落したアリスちゃんグランプリ。それぞれに譲れない想いや因縁が生まれひと夏のウォーターカーニバルはますますの盛り上がりを見せていた。

 

「悪いキッド、手を組むのはここまでだ。俺の銃を返してくれるか?」

「ほら。いくのかい?」 

 

 士郎の言葉に促されてキッドは彼に透明なプラスチックでできた二丁の水鉄砲を返却する。彼の視線はほんの数十秒前にマリアを撃破した後に風のように退却した瑠璃が潜んでいた木に注がれていた。

 

「忠告しておくけど、こと勝負事に関しては一筋縄じゃいかないよ彼女」

「分かってる。けどな、勝てるか勝てないかじゃない。やるかやらないかだ」

 

 叶わずに終わってしまったマリアとの約束。

 やりきれない無念と後悔はエネルギーとして士郎の中で爆ぜた。

 このサバイバルゲームの中で彼の成すべきことが生まれたのだ。

 

「アリス! いるか!」

「なんですかぁ? そんな大声出さなくても聞こえてますよぉ」

「質問がある。やられちまった奴の装備は拾って使って良いのか?」

「一回だけなら認めましょう」

「よし、十分だ」

 

 端末の真っ黒い画面に映ったアリスの返答に満足げに頷いた士郎はマリアが使っていたおもちゃの盾を拾い上げると決意を固めた表情で装備する。

 

「幸運を祈るよ。次に顔を会わせたら敵同士だ。遠慮はしないよ」

「上等だ」

 

 これにてチーム解散となった二人。

 士郎は森の奥地へと消えた瑠璃を追って猟犬のように走り去っていった。

 そして、残されたキッドはと言うと。

 

「まさか誰も手をつけずに放置していくとは……大乱闘さまさまだね」

 

 紫乃も当初は撒き餌として利用していたお助けアイテムが入った宝箱をしめしめと開封していた。箱の中には本物同然な見た目をした回転式拳銃タイプの水鉄砲が入っていた。

 

「お! フフン……いいね、運が回って来た♪」

 

 箱の中身を見てキッドは口角を嬉々として吊り上げた。

 そして、クソ雑魚装備とけなしながらもその特性から活用方法を見出し始めた竹の水鉄砲も回収するとゲームの優勝を目指して士郎が行った方向とは逆の道へと進んでいく。

 あれだけの大騒ぎをしてみんなで水鉄砲を撃ち合ったその場所には再び無人島があるべき静寂が訪れた。

 

「そーっと……そーっと……誰もいないですよね?」

 

 と思われたのも束の間。

 なんと、その場所にこっそりと戻って来た者がいた。

 司令塔の深紅を失い、仲間の朔月ともはぐれてしまった春歌である。

 

「よかったぁ、そんなに汚れてない」

 

 周囲に敵が潜んでいないかしっかりと水鉄砲を抱えて警戒しながら探し物をしていた彼女はお目当ての品を発見する。それはなんと薫が脱ぎ捨てていった白いワンピースと麦わら帽子だった。

 

「うんうん! これならイケる。夏なんだからこの手を試さないでいたらオカ研の名がすたるもんね。よーし、がんばるぞぉ!」

 

 何を思いついたのか春歌は満面の笑みを浮かべてその二品を回収すると敵の目から逃れやすくなるであろう雑草が伸び放題に生い茂る方へと臆せず進んで姿を消してしまった。

 もしかしたら、今回このアリスちゃんグランプリを一番エンジョイしているのは彼女なのかもしれない。

 

 

 

 

 彼女たちが無人島の広大な森や川で大激戦を繰り広げている頃。

 最初にルール説明が行われた日陰が多く島でも涼しい場所ではスタンドミラーをシンボルに運営本部が設営されていた。

 

「フッフッフ♪ あそこで全員闇雲に撃ち合って惨めな全滅エンドになるかと危惧しましたが悪くない盛り上がりで結構! プロデューサーの私も鼻が高いです」

 

 鏡の中で水着姿のアリスが豊かな胸をむぎゅりと歪ませ腕を組み、自分の仕事ぶりを自画自賛する。その視線の先では天風ハルカとクー・ミドラーシュの二人が持ち込んだ機材で島中に仕掛けたカメラの映像をチェックして配信作業の真っ最中だった。

 そして、歩いてすぐの浜辺では蛮族ムーが律義に覆面を被ったままキャンプファイヤーの木を組み、打ち上げのBBQの準備をいそいそと行っていた。

 

「我ながら見事な企画力と不備の欠片もない運営力! これはもう燐君も仕事のできる悪魔的才色兼備なアリスにメロメロ間違いなしなのではないですかぁ♪」

 

 実際ライダーバトルに比べたらこの程度のイベントを執り行うなど朝飯前なアリスは喫茶Hamelnでこの配信を見て楽しんでくれているであろう燐を想像して滾る恋心で体をくねらせ高笑いを上げていた。

 そんなアリスの隣に休憩を取りにきたムーがしれっと現れて大きく息を吸い込んだ。

 

AHOOOOOOOOOOON(きっと燐君の隣には今頃美玲がいまーす)!!」

「おだまり駄ムゲン! 燐君はちゃんと私の涙ぐましい努力や燐君その他おまけが楽しい思い出を作れるように頑張ったってことを正当に評価してくれるからいいんです!」

SOLOOOOOOOOOOO(でも燐君はいまお前の隣にいますかあああ)!!」

「なっ……それは!」

BOCCHIIIIIIIIIIIIIIII(いませえええええええええん)!!」

「ぐっ! どうやら躾が足りなかったようですね。顔を貸しなさい……あなたの尊厳という尊厳を破壊して、文字通りの犬にしてさしあげます♪」

 

 遺恨勃発。

 こちらでも夢の一大対決が始まろうとしている……かもしれない?

 

「ところでなんでアリスはムゲンの雄叫びに隠された意味を読み取って会話出来ているんだ?」

「さあ……フィーリングじゃないです?」

 

 

 

 

「ハア……ハア……あった!」

 

 春歌と別れて乱戦から離脱した朔月は敵との接触を避けて無人島内を走り回りまだ手つかずのお宝アイテムの回収に専念していた。

 

「水風船? 手榴弾ってこと?」

 

 宝箱の中には二つの水風船が入っていた。

 そっと手に取り振って中に入っている液体の量を感じ取りながら使用用途を想像する。

 

「なんかこうもっと分かりやすく強そうな物は入ってないのかな~」

 

 折角手に入れた追加装備だがお世辞にも戦力アップに繋がらないアイテムに朔月はぼやきながら顔をしかめた。

 残るメンバーを相手にした場合、悔しいが朔月の勝率は低い。

 それを自覚しているからこそ、こうしてより強い水鉄砲などは用意されていないのかとアイテム回収に奔走しているが成果はイマイチだ。

 

「キッドは間違いなく敵として襲ってくるだろうし、薫もなに考えてるか分かんないし……士郎と瑠璃さんもこの状況で今更チームを組むって話には乗ってこないよね」

 

 息を整えながら、改めて強敵揃いの中でどう生き抜くか思案するがそう簡単に妙案は浮かばない。そんな時、遠くの方で二色の叫び声が朔月の所にも届いた。

 

「かなり近い……考えるのは後だ。やるだけやってやる!」

 

 無意識に朔月の口元が薄らと三日月を作っていた。

 どうせ撃たれても冷たい水に濡れるだけだ。

 なら、腹を括ってぶち当たってみるだけだと彼女は力強く大地を蹴って戦いへ行った。

 

 

 

 

 朔月が聞きとった叫びの先では二人の水姫が舞踊にも見える激しい銃撃戦を繰り広げていた。

 

「そこだ!」

「お戯れを!」

 

 木漏れ日に照らされた雑木林を駿馬のように駆け抜けて

木々の狭間を蝶のようにひらりとすべり抜けて

キッドと薫はそれぞれの水鉄砲を撃ち合い激しいデッドヒートを繰り広げていた。

 

「フフン♪ 楽しいよ薫! やっぱり歯応えが違う……こういうのがしたかった!」

「それはようございました。では、気が済んだのでしたらそろそろご退場を!」

 

 見た目だけとはいえ本物志向の水鉄砲を手に入れたからか格段に動きが良くなったキッドに対して薫は御伽装士として鍛え抜かれた身体能力を惜しげもなく発揮して応戦する。

 

「ケチくさいことを言うなよ! 夜に舞う蝶だったっけ? ダンサーならファンのアンコールに応えるのも仕事だろう!」

「まあまあ、踊子になった覚えはないのですが。粗相をするお客にはお仕置きをしなければいけませんよね」

 

 薫のガトリングが雄叫びをあげるような勢いで水を吐き出す。

 それをキッドは難なく自分の放水で相殺させるとマフラーをなびかせながら横っ跳びで死角からに数発お見舞いするが薫もそれを逆宙で華麗に回避して見せる。

 

「アッハハハハ! 弾が効かない相手には何度も会って来たけど、ここまで当たらない相手は初めてだ! 最高だよ! ありがとう!」

「私も川遊びとはまた違う趣のこのような遊戯は初めてでずっと胸が高鳴っていますよ。ですがそろそろ終幕に致しましょうか」

「いいよ。そうだな……ちょっと古臭いけど、落ちたらだ(・・・・・)

 

 次で勝負を決めることになった彼女たちは一度戦いの手を止めて、互いの顔を見合う。

 まるで西部劇のガンマンの決闘のようにキッドが拾った小石を空高く投げ、それを合図に二人は並走する。

 

 両者視線を一切逸らすことなく、集中力を研ぎ澄ます。

 五感を際立たせて、得物を持つ指先へと繊細に力を込めて、あっという間にその時はやって来た。

 

 ――コロン。

 

「そこ!」

「お覚悟!」

 

 思いのほか軽い小石の落下した音。

 瞬間、二人は目にも止らぬ速さで同時に水鉄砲を撃ち放った。

 狙っていたわけではないが二つの水の弾丸は一直線上でぶつかり合う。

 

「ッ……やばぃ」

「運に見放されましたね。終わりでございます!」

 

 追撃を試みたところでキッドの顔色が青ざめた。

 水切れ。

 確実に仕留めるために肉薄して止めを刺そうと銃身を突きつける薫。

 万事休す――と思われた。

 

「だなんて思ったか!」

「……!?」

 

 キッドは何を思ったのか突然後ろへと大きく跳んだ。

 その左手には水が装填された状態の竹の水鉄砲。

 無論、銃口は迫る薫へと向けられている。

 

「こいつの良いところは引き金を引くのに指が要らないってところだ……トリガーはこの島のどこにでもある!」

 

 闘争に溺れている狂者のような恍惚とした顔をしてキッドはバックステップを取った勢いで背後の木の幹に竹の水鉄砲の柄尻部分を叩きつけた。

 

「ひゃん!?」

 

 押し出された水が勢い良く撃ち出されて不意をつかれてしまった薫を真正面からびしょ濡れにして見せた。

 

「おっしゃああああああ! イエーイ! キッドちゃん大勝利!」

「よよよ……負けてしまいました。ああ、これから西部の荒くれ者に好き放題にされてしまうのですね」

「しないから!? まだ四人も相手いるし!」

 

 夜舞薫、無念の敗退。

 激闘を制したキッドは密かに欲していた強者との腕比べを堪能して火照った心と体のまま次の相手を探しに森の先へと消えていった。

 

 

 

 

 キッドと薫が激闘を繰り広げているのとほぼ同時刻、島のほぼ反対側でも因縁の対決が始まっていた。

 

「うおおおおおおお!!」

 

 飢えた猟犬のように闘志全開で激走する士郎を遥か前方からカッ飛んできた数発の色水が襲う。

 

「落ちなさい!」

「舐めんな!」

 

 士郎は獣が獲物に飛び掛かるような勢いで自分を狙う色水を飛び避けて、そのまま前転。滑らかな動きで姿勢制御をこなしつつ瑠璃を追いかける。

 緩やかな傾斜の坂道を物ともせずに駆け上げっていく士郎は少しずつ彼女との差を縮めていく。

 

「ふふ、元気が良いわね。流石男の子」

「逃げてばかりじゃなくて、正面から戦ったらどうだよ!?」

スナイパーライフル(この武器)でインファイトするだなんて、ナンセンスでしょ? 勝負なんだから、挑発するならもっと工夫しなきゃ相手は釣れないわよ、士郎ちゃん♪」

 

 逃走しつつ相手の射程範囲外からの射撃を繰り返す瑠璃とそれを一心不乱に追いかける士郎。やや千日手の構図になりつつあった状況に刺激を与えるべく、瑠璃は士郎の文句へあべこべに蠱惑的な仕草で煽ってみた。

 

「後悔するなよ! あと犬みたいに人のことを呼ぶんじゃねえ!!」

「だ・か・ら……そうやって熱くなるのがお子様なのよ♪」

 

 追撃する足の速度を更に加速させた士郎をせせら笑って、瑠璃はここで方向転換。

 弧を描くように回り込んで士郎を側面から狙い撃ちにしようとする。

 

「酒落くせええ!」

 

 だが、やる気全開の士郎もそう簡単にやられはしない。

 マリアから引き継いだ盾をまるで剣のように振るい、瑠璃が撃った色水を全弾切り払ってみせた。

 

「わお……ッ!?」

「道具は使いようだ! いくぜ!」

「驚いたわね。けど、少し遅かったかしらね」

「なに?」

 

 彼が見せた予想外の芸当に面食らい慌てて逃走再開をする瑠璃。

 しかし、それよりも速く士郎が彼女を射程圏内に捉えかけた。

「地図はちゃんと見て、よく頭に叩き込んでおくことね」

 

 士郎は気付かなかったが二人は無人島の最南端。

 一番高所な崖の頂上近くまで走ってきていたのだ。

 その証拠にここでは波の音と潮の香りが濃い。

 

「えっ!? ま、待てって……あぶな!?」

「アディオース♪ なんてね」

 

 そして、そんな崖から海へと瑠璃は何の躊躇いもなく飛び降りたのだ。

 士郎が慌てて無意識に手を伸ばしたのを尻目に彼女はプロの飛び込み選手顔負けの美しいフォームで着水。そのまま自慢の泳ぎで華麗な逃走劇を成功して見せた。

 

 

 

 

「ハージーメー! あーそーぼー! キャッハハハハハ!」

 

 島の中心部ではキッドのふざけた哄笑が響いていた。

 難敵の薫を退けた彼女はほぼ自分の勝利を確信して悪役ムーブなどを決めながら残るメンバーの中でもずっと戦いたかった朔月を探していた。

 

「朔月ー? どこー! ダークムーン? 継ぎ接ぎ野郎(パッチワーカー)と遊ぼうよぉ!」 

 

 スロー。スロー。

 クイック。クイック。スロー。とちょっと気持ちの悪い動きで小躍りしながらふてぶてしい笑顔で森を探索するキッドの目の前に彼女は正々堂々と現れた。

 

「……キッド」

「やあ、ボクだよ。また会えて嬉しいよぉ朔月……いや、ダークムーンって呼んであげた方がテンションは上がるかな?」

 

 日が暮れ始めて、黄金色の夕焼けに包まれ始めた無人島で退治する二人。

 にやつくキッドと表情を強張らせる朔月。

 

「どっちでも。本当ならそのノリに付き合ってあげたいけど、ちょっと無理」

「ええ? 残念だなぁ」

「イジワルなこと言わないでよ。だって、ふざけてたらキッドに勝てないでしょ?」

「…………フフン♪」

 

 勝ち目の薄い戦いに追い詰められて苦笑いをするしかない朔月。

 しかし、その翠の瞳に宿る戦意が枯れていないことを悟るとキッドは満足したように口笛を吹いた。

 

「いい目だ。それでこそ朔月だ。おいで……お姫様みたく可愛がってあげるよ」

「私がやりたいのはね……ヒーローなんだよ! うわああああああ!!」

 

 完全に小悪党の三下キャラがやる挙動である。銃の扱いに限ってはボスキャラ級なのが始末に負えない。そんなキッドに対して意を決した朔月はショットガンを構えると撃ちまくりながら真っ直ぐに突撃していった。

 奇策も罠も一切ない。

 勇気一つだけを友としたあきれるほど単純明白な攻撃手段。

 キッドの前にこの選択は勝負を捨てたようにも見えた。

 

「ふぅー……なにをしてくれるかと思ったら、それだけかい? 朔月その威勢だけは買っておくよ」

 

 一抹の寂しさと物足りなさを覚えながらもキッドは容赦することなく朔月の眉間へと標準を絞る。トリガーを引いてしまえば彼女との戦い(時間)は終わりだ。

 だがしかし、キッドは大きな誤算をしていた。

 もしも、朔月が自分一人だけの勝利以外を狙っていたとしたら?

 

「さよなら、朔月」

「違うよ、キッド」

 

 キッドが引き金を引くよりも少しだけ早く朔月は行動した。

 してやったりと笑顔を浮かべてキッドの頭上へとあの水風船を投げたのだ。

 

「キッドがそこにいてくれて本当に良かったよ」

「は……?」

「一緒に地獄へ落ちようよ……!!」

 

 朔月の手がキッドに触れるよりほんの少しだけ早く銃口から水が飛び出した。

 けれど、ほぼ同時に朔月が投げた水風船もまたキッドの頭上――にまで伸びていた木の枝の尖った先端にぶつかる。

 

「うっぷううう!?」

「ふぎゃあああ!?」

 

 水風船が破れて、降り注いだ色水を朔月とキッドは仲良く頭から被って二人一緒に水浸しになってしまった。そして、一拍の間を置いて二人の少女はそれぞれ絶叫と激励の声を天高く上げる。

 

「うそでしょおおおおおおおおおおお!!」

「春歌あああ後は任せたおあああああ!!」

 

 信じられないまさかの事態に半泣きになって嘆き喚くキッドに抱きついたまま、見事に彼女を道連れにすることに成功した朔月は最高に晴れやかな笑顔を浮かべて、まだ健在の仲間の勝利を祈る。

 

 更科朔月、そしてキッド(フランチェスカ・ヴィクター)両名同時にリタイア。

 戦いは遂に最終局面へと突入する。

 

 

 

 

 海へと逃亡した瑠璃を追って遠回りで崖下の浜辺まで降りてきた士郎。

 水辺は彼女のホームグラウンドと細心の注意を払って大きな岩も転がっている砂浜を進む。

 

「これは……」

 

 薄暗くなってきた砂浜にある大きな岩の下から見覚えのある布らしき何かが飛び出しているのを見つけた士郎は用心しながらそれが何かを確かめに向かう。

 

「この色……やっぱり、瑠璃さんがしていたパレオか!」

 

 ならば、この近くに彼女は隠れていると士郎が周囲一帯を隈なく探そうとした時だった。

 ほんの1m先の海面が弾けて、水飛沫を上げなら何かが飛び出した。

 

「もう忘れたの? 夏の私にご用心ってね!」

「フッ……ああ! 肝に銘じてるさ!」

「あうっ!? きゃっ!?」

 

 彼女を知らないものが見たら、きっとそれは人魚の悪戯。

 夕闇が味方をしたとは言え常人からしたら信じられないぐらい長い間潜水していた瑠璃の背後からの奇襲。しかし、今回は士郎の方が一枚上手だった。

 瑠璃の急襲を完璧に予測していた彼は初撃を見事に防御するとそのまま盾を蹴り飛ばして彼女の持つスナイパーライフルにぶつけさせてその手から落とさせたのだ。

 

「勝負あったな、瑠璃さん」

「う……くうぅ」

 

 半身を海に浸かりながら尻もちをついてしまった瑠璃に突きつけられる士郎の銃口。

 もはやこれまでと瑠璃は諦観の色が滲む苦笑いを浮かべた。

 

「参ったわね。まさか海辺で士郎君に出し抜かれるなんて……私もまだまだね」

「ちょっと一方的に突っかかる形になったが良い勝負をさせてもらったぜ」

「一つだけお願いを聞いてくれるかしら? このまま撃たれて負けはちょっと惨めだからせめて立ってもいい? 負けるにしても堂々とした格好でいたいのよ」

「ああ。その方が俺もスッキリする」

 

 マリアの仇は取れたわけだし、それ以上敗者を辱しめるようなことを良しとしない性格の士郎は何の疑いもなく瑠璃の願いを聞き入れた。

 

「ありがと……ね!」

 

 差し伸べられた士郎の手を取ることはせず、自力で勢い良く立ち上がった瑠璃はそのまま大きく上半身を逸らせた。すると黒いビキニに押さえつけられてどこか苦しそうな彼女の豊満な胸がブルンと弾み、なんと谷間から小さな水鉄砲が飛び出したのだ。

 

「ええええええええええ!?」

「自慢の身体で大逆転よ♪」

 

 信じられない驚愕映像を見せられて、顔を真っ赤にしながら動揺するしかない士郎へ瑠璃は投げキスと共に自分の胸の間に隠し持っていた水鉄砲をお見舞いした。

 

「そんなんありかよおおおお! わっぷ!?」

「おっぱいには気をつけなさい。ひと夏のいい勉強になったでしょ?」

 

 最後の最後で足元を救われた黒道士郎の悔しげな叫びは波の音に呑まれていった。

 切り札は最後の最後まで隠し通しておく。

 勝負師の真髄を見せた瑠璃の華麗なセクシーショットが猛る士郎を手玉に取り、それと同時に最後の戦いが開始される。そして、その刻はあまりにも早くやって来た。 

 

「ぽぽぽ……ぽぽぽぽぽぽぽ」

「なにこの声?」

「ぽぽっ、ぽぽぽぽ……ぽっ」

 

 スナイパーライフルを回収した瑠璃の耳に気味の悪い謎めいた声が聞こえ始める。

 参加者の誰かの声に似ているがわざと濁声っぽく喋っているようで判別が難しい。

 

「ぽぽぽぽぽぽぽぽ」

 

 声が聞こえてくる方向を注意深く目を凝らすと浜辺と森の境目にあたる場所にそれがいるのを瑠璃は見つけ出した。

 白いワンピースに麦わら帽子。

 薫が着ていたもののようだが彼女が敗れているのは瑠璃も把握済みだ。

 

「ハッ! 丸見えよ春歌ちゃん!」

 

 なにかお化けの真似だろうか?

 何の目的があって彼女が薫の服を着ているのかは分からないが不用心に茂みから上半身が見えているのを見逃す理由はないと瑠璃は素早く春歌と思われる白いワンピースを射抜いた。真っ白な生地が色水で大きな染みを作り瑠璃は自分の優勝を確認する。

 

「最後はちょっぴり呆気なかったわね。でもこれで……」

「スキありですー!」

「優勝GET……ね?」

 

 得意げに小さくガッツポーズを作った瑠璃を白いワンピースを着た春歌が立つ下の茂みから不意に顔を見せた水鉄砲の色水が直撃する。

 先程は見事な秘策で士郎を制した瑠璃だったが今度は自分に降りかかった思わぬ事態に理解が追いつかなかった。

 

「八尺様作戦、大成功! やったー!」

「やだ……やられちゃった」

 

 色水に濡れた瑠璃の目の前で茂みから出てきた黄色い水着姿の春歌が可能な限りリアルに見えるように無人島でかき集めた素材で作った長い案山子を片手に大喜びしている。

 瑠璃が撃ったのは春歌本人ではなく彼女が誤射を誘うために用意した良く目立つデコイだったのだ。

 

「おめでとうございまーす! 犬山春歌さん、あなたをアリスちゃんグランプリの映えある優勝者として称えてあげましょう! パチパチパチ~♪」

「え!? 私優勝ですか!! やったあああ! 頼人~鉄平~コワポンみてる~? 勝ったよー! ぴーす♪なんてね」

 

 自分が優勝したと知らされた春歌は子犬のように愛らしくその勝利を喜び盛り上がる。

 無人島で怪談を基にしたフェイクを作り上げて使用すると言う斬新かつオカルト愛に溢れた作戦を実行に移した春歌が脅威の大番狂わせを達成して優勝を掴み取ったことで灼熱の空の下で行われたアリスちゃんグランプリはここに集結を迎えた。

 

 

 

 

「では! 優勝者の犬山春歌さん! 勝利者への賞金として金一封を差し上げます。いい戦いでしたね、私の世界で他にも願い事があるのならライダーバトルの参加も喜んでお待ちしていますよ」

「ありがとう! でもバトルは遠慮しておきます」

 

 すっかり日が暮れて満天の星空が広がる夜の下で始まりの砂浜に集められた参加者たち。

 キャンプファイヤーの炎に照らされながら優勝を掴み取った春歌へアリスから宣言通りの豪華賞品としてそれなりの重みがある包みが渡された。

 

「ホントに良いの!? 貰えても図書券とかだと思ってたからすごくビックリなんだけど!」

「当然です。勝利者への報酬をケチるようなアリスちゃんではありませんので」

「アリスちゃんサイコー! これでオカ研念願の心霊スポット探検ツアーが開けるよ!」

「おめでとう春歌! アンタすごいよ、カッコ良かった」

 

 思わぬお小遣いをゲットして喜ぶ優勝者の春歌へ深紅たち共に競い合った仲間たちからの拍手が送られる。

 そして、一同はムーが用意していた打ち上げ会場でBBQを楽しみ、忘れられない夏の思い出を笑顔で締めくくった。

 

 

 

 

 後日。

 喫茶Hamelnにて。

 

「キッド、ナポリタンとコーヒーのセットあがったぞ。3番テーブルな」

「アイアーイ!」

「それ終わったら、皿洗いとテイクアウトのサンドウィッチの下ごしらえな」

「クソゥ! こんなことなら沙夜に頼んで御伽装士のバイトにしとけばよかった! なんでいつも暇そうにしてる店なのにこんな時に限って忙しいんだよ!?」

「こぉらぁあ! お客の前で汚い言葉使うな! それともカフェ・メリッサに連行してウチのシスターに再教育されてえか!」

 

 そこには何時ぞやの騒動で使われたメイド服を着て馬車馬のように働くキッドの姿があった。

 なぜ彼女がこんなことをしているかというと至極簡単な話が金欠である。

 というものの、実はアリスちゃんグランプリのスポンサー&言い出しっぺは他でもないキッド本人であったのだ。しかし、アリスが半ばイカサマに近い形で言質を取り実行に移したことと彼女自身も夢うつつでそのことを口走ってしまっていたのでそんなやり取りをしていたことを完全に忘れていた。

 

 そのため、アリスちゃんグランプリ開催にかかった費用と優勝賞品の全額を負担した結果、懐が一気に氷河期へと突入したのだ。

 もちろん最初はアリスに抗議して踏み倒そうとしたのだが彼女にそんな手が通用するはずなく、むしろ証拠の音声やいつの前にか作られていた契約書や見積書などなどを突きつけられ逆に逃げ道を塞がれて今に至る。

 

「楽しかったからいいけどさー! こんなことならもうちょっと楽に稼げる手段を考えとけばよかったよぉ」

「そんな甘い話があるわけねえだろ! ほら新しいお客が来たぞ!」

「うわああああん! いらっしゃいませお客さまー!」

 

 楽もあれば苦もある。

 どんな世界でも夏休みとはそういうものである。

 彼女の夏休み、後半戦はまだまだこれからだ。

 

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