三年E組にあの二色のハンカチ、仮面ライダーWが入るらしい。その一年間の成長記録 作:春瀬紫苑
ここは椚ヶ丘中学校。
そこに、涙を拭う二色のハンカチがやってきた。
さて、彼らはこのクラスにどのような風を吹かせるのだろうか。
「起立! 気をつけ!」
「礼!」
礼の合図で、教室中から銃が発砲される。銃が向けられているものは、超破壊生物である、異形の黄色い先生だ。
「おはようございます」
そう言いながら大量の対先生特殊弾をマッハ20で避けて出欠を取る先生は……来年の三月、卒業までに殺さなくてはいけない。
そんな学級に、左翔太郎とフィリップの姿はあった。
時は少し前に遡る。
「なんだい? 照井竜。警察の方から依頼かい?」
右側の髪をクリップで止めた、ロングパーカー等のラフな格好を着た青年、フィリップが、読んでいた本から顔をあげる。その先、この探偵事務所の入り口には、この街の風都署の超常犯罪捜査課の照井竜の姿があった。赤いジャンパーを見にまとい、表情は相変わらず険しく読みにくい。
「まあ……警察というより防衛省から署を通しての依頼だ。国家機密に触れることだからガレージで話したい」
「お偉いさんからかぁ……。あんまりいい気はしないな」
いつもの所長席で自分で入れた不味い(と言われるらしい)コーヒーを飲み、ハードボイルドらしいスーツをしっかりと身にまとい、暇なのでハードボイルド小説を読み耽っていた左翔太郎が少しだけ嫌悪感を示す。とはいえ、今ここで断ってしまうと国からの信頼は無くなる可能性があるし、何より依頼人がいなくて……厳密には依頼人が失踪して暇なのだ。
「まあ、なにかぼくたちの……仮面ライダーの力が必要、でも潜入捜査だから君を入れるわけには行けない、というわけかい?」
フィリップがちょうど一番近くにいたのでガレージの扉を開ける。
「亜樹子、いるか?」
ガレージの先には、掃除をしていた鳴海亜樹子……この鳴海探偵事務所の所長がいた。この事務所に日常的にいる・来る人は亜樹子以外男しかいないので、衛生に関しては亜樹子が全て行なっている。
「あ、翔太郎くん! あれ、竜くん! どうしたの?」
亜樹子が振り返りにこりと笑う。翔太郎はお偉いさんからの依頼だ、と言うと、机が置いてある壁側に体をもたれさせる。
「ああ、今から話すな」
その言葉から始まったのは、『ガイアメモリ』…不思議な力が含まれているメモリを作る組織壊滅と同じくらいに……いや、下手したらそれ以上にめんどくさい依頼だった。
「単刀直入にいう。月を爆破した百億円の賞金首である超破壊生物を暗殺してほしい。ああ、もちろんお前らだけじゃない。椚ヶ丘中学校三年E組と一緒にだ」
月が三日月になったのは記憶に新しい。それは超破壊生物の仕業だったのか、と思いつつ、なんで中学校でやるんだよ、と突っ込むことを忘れない翔太郎。
「椚ヶ丘中学校の三年E組は本校舎とは別の校舎で、山の奥だ。暗殺にうってつけの場所で国が大金積んで頼んだそうだ。
それで、左、フィリップ。お前らは年齢偽装して三年E組に潜入してほしい。何より超破壊生物には懸賞金が百億掛かっている。『ガイアメモリ』犯罪に手を出す生徒がいるかもしれないからその保険だ。
そのため、仮面ライダーへの変身は自由だそうだが……あまり生徒に悪影響を与えないように、とだそうだ。左とフィリップならダブルドライバーを巻いて連携プレーできるかもしれないがな」
正直俺も理解しきれていない、と照井が困り顔で肩をすくめる。
「なあ照井。年齢偽装とか言ってるが戸籍は大丈夫なのか?」
翔太郎が足りないところを質問する。
「ああ、戸籍については国が偽装するそうだ……。それに、身体面に関してはお前らは
ただ、照井はこの街・風都を愛している翔太郎に辛い事実を告げた。
「……ただ、この風都を離れることになる。椚ヶ丘中学校からここまではかなり距離がある。ただでさえ山の中の別校舎となるとさらにな」
しかし、翔太郎には少し引っかかる点があるらしかった。
「……その依頼を受けよう。いいよな、フィリップ」
「ああ、ぼくは別に大丈夫さ。でも、何かあったのかい? 翔太郎」
「別にー。ただ、ガイアメモリが外に出るのが嫌なだけさ」
フィリップは風都を離れるというのに承諾の意を見せた翔太郎に問いかける。しかし、案の定のらりくらりと交わされてしまった。
まだ、ガイアメモリがあると限らないのに、広まると嫌と言っているのだ。
何か、翔太郎の直感か、観察力か、フィリップには劣るものの探偵としては優秀な推理力かは分からないが、引っかかるものがあったのだろうか。
「まあ、行ってくれるならありがたい。椚ヶ丘の理事長にはE組に行けるよう話はつけてあるらしい。E組行きの理由はーー」
国からの依頼を受け、翔太郎とフィリップはE組にやってきた。
まず先生の説明があった後、今年の転入生を紹介する流れになったようだ。
「俺は左翔太郎だ。こいつを殺すために国の依頼でやってきた。……だからお前らの中ではまあまあ技術とか体力がある自信はある。よろしく頼む。俺たちに関することは色々と機密事項が多いからそのところは申し訳ないが……あと、フィリップは不可解なことが多いが見逃してくれ……」
こいつ、とは黄色い怪物のことだろう。いつもとは違う、見慣れぬ椚ヶ丘学園の男子制服をしっかりと着ている翔太郎が軽く頭を下げる。
「ぼくはフィリップ。翔太郎と同じく国からの依頼で来た。……翔太郎には負けるが君達よりかは劣らないと思う。……あと、これは暗殺を優位にするためにしてほしいことなんだが、僕と翔太郎はグループ等でも基本一緒にしてほしい。……これも後々君達が知ることになるだろうけれど、今は秘密だ」
普段の格好から想像もできないような、椚ヶ丘の男子制服をしっかりと纏ったフィリップがちゃんとお辞儀をする。明らかに翔太郎より丁寧だ。
「私は茅野カエデ。色々あってE組だけど同じ今年から転入のこの二人とは違って普通に転入です! よろしくお願いします!」
茅野は普通の転入生、黄色い化け物を殺すために国からは手配されていないので、自分より前に自己紹介した面々に少し怯えながら満面の笑みで自己紹介する。
「えー……フィリップ君は偽名ですか?」
黄色い異形の先生が顔に思いっきり困惑した表情を出す。目の位置や口の位置が常識外の位置になる顔だ。……元からだいぶ常識外の怪物に言えるかどうか分からないが。
「ああ、これは偽名……だが、ぼくが本名を出したところでぼくの相棒は結局フィリップ、って呼ぶからね。あと、本名は面倒なんだ。色々とあったから……。あまりこれは話したくないから、省かせていただくよ」
「あ、相棒ってのは俺のことだ。なんだかんだあってな。まあいつか機会があったら話す」
相棒、という謎の人物を指した言葉に即座に反応した翔太郎。さすがは相棒、というところだろうか。
「さ、左君とフィリップ君は真ん中の一番後ろの席…千葉くんと奥田さんの後ろに、茅野さんは渚君の空いてる隣に座ってください。」
先生が席に座るように指示する。
「あ、先生。俺左って苗字だけど、出来れば下の名前で呼んでくれ。左だと分かりにくいからな……」
照れながら頭の裏をかく翔太郎にフィリップは自慢の毒舌を吐く。
「その癖に照井竜には許すんだね、翔太郎」
「は!? お前るっせぇなぁ……。照井は最初からあれだろ。妻にさえ所長っていうやつが俺に下の名前で呼んでくれると思うか?」
「……思わない。君が照井竜には苗字呼び許してるのは理解した」
フィリップが若干肩をすくめる。
席に移動している最中、潮田渚から声が掛けられた……否、つんつん、と触られただけなのにされた翔太郎はかなり驚いているようだった。
「ねえねえ、翔太郎君、フィリップ君。国からの依頼だけど普通に中学生なの? 聞いてる感じそうは思わなかったけれど……」
「あーー……」
翔太郎はフィリップの方に顔を向ける。フィリップは少しだけやれやれ、という表情に変わると何もなかったかのように無表情に戻った。
「秘密だ。機密事項だ。……烏間先生なら知ってるんじゃないか? 教えてくれるとは思えないがな」
翔太郎は前の黒板の向かって右側にある烏間に目線を寄せる。烏間は翔太郎が責任を丸ごと渡したことに肩をすくめる。烏間は弁明をする。
「……俺の知り合いが翔太郎君とフィリップ君に繋がりがあってな。それでこの教室に来てもらった訳だ」
「だから、余計な詮索はよしてもらいたい。まあ……まだ君たちも中学生だ。質問することはあるだろうね。……翔太郎、早く席に行こう」
フィリップが同級生は鬱陶しいというように翔太郎の腕を引っ張って席に移動した。
「…おい渚。ちょっと来いよ、暗殺の計画を進めようぜ」
「…………うん」
渚が寺坂グループの三人に連れて行かれる。遠目からそれに気付いた翔太郎は、別に危ないところはないと判断し、今日も本を読み耽っているフィリップの隣でハードボイルド小説をこちらも読んでいた。
三年E組の別校舎の外。少し草が生えている入り口近くの階段に佇む寺坂、吉田、村松の三人と渚。
「たとえ…どんな手を使ってもな」
そう言いながら寺坂が小さい巾着袋を渚の目の前にかざす。渚のズボンポケットにそれを突っ込むと、教室に向かう去り際に寺坂軍団は『ガイアメモリ』を振りかざした。
……それがどれだけ危ないものかも知らずに。
「しくじんなよ。渚く〜〜〜〜ん」
「ギャハハハハ」
「……」
自身が持っている小さい巾着袋の紐を持った左手を胸の前に当てると、これから始まることへの不安を抱いた。
そして、それを拭い去るように、先生への殺意を隠し、闇に溶けるようにこの場を去った。
作戦決行は、今日、五時間目!
結構細々と分けていきます。
大体3000字くらいのボリュームごとに分けていく予定です。ものによっては少し長くなったり短くなったりします。
何かリクエストなどやってほしいものがありましたらやれるかは未定ですかリクエスト送ってください。
結構まめに編集し直したりします。暇があったらたまに見返してみると変わってるところが結構あると思います。