三年E組にあの二色のハンカチ、仮面ライダーWが入るらしい。その一年間の成長記録   作:春瀬紫苑

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Wが来た/仮面ライダーとは

「……どうしたんだい? 翔太郎」

「……いや、なんでもないさ。相棒」

 

 ハードボイルド小説を読みながら、何か不穏な空気に感づいた翔太郎は一度顔を上げたが、なんでもないと嘘をついた。

 ……翔太郎の直感力は何かと侮れないのである。そのことを見に染みて知っているフィリップは、心の隅に残しながらそう、と生返事を返した。

 

 

 

 実際に、不穏な空気を感じた翔太郎の直感力には嘘はなかった。

 

 

 

「ーーラスト七文字を『触手なりけり』で締めて下さい」

 触手なりけり、とはなんだ、と心の中で総ツッコミを入れた翔太郎。心の中で収めたのを誰かに褒めてもらいたいところだ。

 

「出来た者から今日は帰ってよし!」

 その言葉を合図にして皆短歌作りに移行する。翔太郎は今も触手なりけりってなんだよ、という言葉が心の中を回っている。フィリップは当たり前だというようにもう短歌を作り始めている。

 

 

「先生しつもーん」

 茅野カエデが手をあげる。その言葉に、先生は少し遅れて反応する。

 

「…? 何ですか茅野さん」

「今さらだけどさぁ、先生の名前なんて言うの? 他の先生と区別する時不便だよ」

 

 茅野の言葉に、先生は宙を見てぼんやりとしたまま答える。

「名前…ですか。名乗るような名前はありませんねぇ。なんなら皆さんでつけて下さい。今は課題に集中ですよ」

 

「はーい」

 茅野が申し訳なさそうに笑みを作る。その笑顔を確認すると、先生はプシュー、と音を立てながら顔をピンク色にしていく。翔太郎の探偵ながらの観察眼によると、あれは油断している顔だと知っている。もちろん、その他の生徒も少なからず知っている人もいるようだが。

 

 ガタッ、と椅子が動いた音がする。

「お、もうできましたか渚くん」

 音の原因は渚だったようだ。しかし、俳句の用紙の自分側には対先生用ナイフが隠れている。

「(渚…殺る気か!!)」

 殺る気と分かり、クラスの全員が緊張体制になる。それを見て、翔太郎はぼんやりと前を向く。しかし、視界の端の方で自分たちが警戒している最も危ないものが見えた。

(危ない! 絶対渚の暗殺での混乱で『あれ』になる気だ!!)

 翔太郎はひっそりと机の中に入れていた『ダブルドライバー』を腰に巻き付ける。すると、フィリップの腰にも同じダブルドライバーが現れ、フィリップは自身の腰に突然現れたダブルドライバーに一瞬驚く。しかし、理由を把握し普段通りの様子を演じる。

 なぜなら、ダブルドライバーは巻き付ければお互いの思考を共有することができる。それによって、巻き付けられたフィリップの脳内には翔太郎の考えが入ってきたからだ。

 

 

 渚が、先生に向かってナイフを振りかぶる。先生の触手が渚の腕を触り止める。

「…言ったでしょう、もっと工夫を」

 先生がそう言ったのも知らずに、渚は先生の体をぎゅっと抱きしめる。

「しま…!」

 

 教室内にBB弾グレネードが飛び散り視界が塞がれる。そのことに翔太郎は気づかなかったので驚くが、押した本人……寺坂はボタンを押したすぐ後に『ガイアメモリ』を起動させたようだ。……いや、寺坂だけじゃない。寺坂軍団の一員である吉田や村松も『ガイアメモリ』を使ったようだ。

 

『ビースト』

『アームズ』

『コックローチ』

 

 三つのガイアメモリのガイアウィスパー音声が教室内に響く。白いモヤが引いた後、教室内の寺坂、吉田、村松の席には怪物が佇んでいた。

 

「胡散臭い売人が言ってた通りだったぜ。これならあいつをぶっ殺せる感じがするわ〜」

 寺坂の席に座っている怪物の声色は完全に寺坂のものだ。その見た目は……野獣、ビーストみを感じる。

「寺坂、早くぶっ殺そうぜ。これで賞金百億貰うんだよ!!!」

 吉岡だと思われる怪物が、左手を対先生用の武器を体にしている。まる全身アームズ……武器のようだ。

「コックローチってGのことだよな……。変身してるのに自分でも嫌だわ……」

 そう呟くのはおそらく村松が変身した怪物だ。確かに全身があまり見たくないGだろう。

 

 

 

「何!? あの怪物何!? 先生と同じ感じ!?」

 主に隣に座っていた女子たちがパニックになり、遠く離れた窓際に移動した。しかし、翔太郎とフィリップは余裕を持って立ち上がる。

 

「何してるんですか翔太郎君! フィリップ君! 危険だから君達は下がりなさい!」

 先生が怪物の方へ足を進める二人に静止をかける。しかし、翔太郎は綺麗な長方形をした紫色のガイアメモリを顔の前にかざし、軽く笑ってみせた。

 

「なあ先生よ、お前がやったらこいつらは命を落とすだけだ。こういうのには専門家の俺達に任せな」

「ああ、僕たちは『ガイアメモリ』を使った、このような怪物、『ドーパント』に関する事件の専門家と言っても差し支えない……先生がたとえ医者でどんな怪我でも病気でも治せても、今回はやめた方がいいと思うよ」

 フィリップも綺麗な長方形をした、翔太郎と色違いで緑のガイアメモリを顔の前に持ってくる。

 

「あ、千葉龍之介。僕の体をよろしくね」

「え、?」

 まだそこにいた千葉に謎の言葉をかけたが、なんの弁明もなくガイアメモリのボタンを押した。

 

 

 

『サイクロン』

『ジョーカー』

 先ほど聞いたガイアウィスパーの声が教室内に響いた。

「「変身!」」

 フィリップが右側のスロットに緑色のサイクロンメモリを指す。そして、翔太郎の右側にサイクロンメモリが転送された。

 

「千葉、フィリップを頼んだ」

 その言葉と共にサイクロンメモリを奥まで挿す。そして、ジョーカーメモリを反対側のスロットに入れる。

「うわ、フィリップ!?」

 一応、とそばに居た千葉が倒れてきたフィリップの体を支える。頭にはてなが浮かんでいた。

 

 翔太郎がガシャ、と音を立ててスロットを左右に動かし、スロットでWの形が作られる。

『サイクロン、ジョーカー!』

「「さあ、お前の罪を数えろ!」」

 翔太郎の足元からだんだん鎧のようなものが纏われていく。最終的には、翔太郎の体は、左半分は黒、右半分は緑色のスーツで纏われたものになっていた。しかも、翔太郎の体なのにフィリップの声も聞こえる。

 

「え……何が起こってるの?」

 茅野が呆然とした顔で体の左右半分で色が違う翔太郎が返信した姿を見つめる。

「「俺/僕達は、二人で一人の仮面ライダー。仮面ライダーWだ!」」

 茅野達がいる方向を向き、これまた同時に言葉を放つ。それを話しただけで、体も顔も寺坂だったものに向いた。

 

「ごめんな、君達と同じドーパントは既に攻略済みさ。ついでに言えば君達はあまり強くはない」

 フィリップの声が聞こえると、緑色の左側の赤の複眼が光る。

「先生も、そこで指…触手加えて見てな。……渚は無事な様だな。さ、早く窓からみんな出てくれ。巻き込まれたくなかったらな」

 翔太郎の声が聞こえたと思うと、黒色の右側である赤の複眼が光った。

 そして、黒色の左手がシッシ、と生徒達は邪魔だというように手を動かす。危なさそうなことは三年E組の全員が知っていたので、いざとなった時に止める役の先生以外は窓から教室外に出て行った。千葉もフィリップを抱えながら出ていく。

 

 先生曰く、

「生徒同士の争いには仲介しませんが、危険があったら強制的に止めるのが先生というものですからねぇ。ヌルフフフ」

 らしい。

 

「なに転入生がイキってんだ? 国からの依頼だとしてもよぉ?」

 寺坂軍団のリーダー、寺坂が仮面ライダーW相手に煽る。Wはやれやれ、と肩をすくめながら、右側が光ってフィリップが声を出す。

「君達は僕らに勝てない。まあ、いらない争いをする前に君達の体に毒素を植え付けているメモリをブレイクしよう」

「ああ、全部あんたららしく力ゴリ押し系のだから少し心配はあるがな」

 翔太郎がその言葉を言った瞬間に、Wは動き出す。まずはビースト…寺坂かららしい。ビースト、とは野獣の意味だ。美女を御所望なら辞めていただきたい。

 

「……国からの依頼だから、君たちより強いんじゃないかい? 君達は僕達の力を見誤ったみたいだ」

 フィリップが喋りながらキックでビーストに確実にダメージを蓄積させていく。しかし、防戦一方の寺坂を黙って見ているほど吉田や村松も絆は柔くない。

 

「寺坂に何してるんだ!」

 アームズのガイアメモリを使った吉田が、左手を対人用ナイフにして背中からWに襲いかかる。

「翔太郎君!? フィリップ君!?」

 渚が危ない!と言うように大きな声をあげる。しかし、見えたのは思っていたのは違う光景だった。

 

『メタル』

『サイクロン、メタル!』

 

 サイクロンメタルになり、黒い部分が銀色に変わった。メタルになったから出てきたのか、銀色に光る細長い棒……メタルシャフトが出てきた。その棒が、背中にあり、アームズの左手の刃を防いでいる。

「僕らは攻防も自由自在さ。そして……コックローチの村松拓哉。君が空に舞い上がっても無駄にしかならないよ……リボルギャリーとバイクに既にハードタービュラーを既に手配してある。……そろそろ着く頃じゃないかな」

 廊下の窓から飛び立とうとする村松を見て、フィリップが声をかける。コックローチドーパントになった村松は、舌打ちを立てながら廊下の窓から出て行った。

「ちっ、相変わらずコックローチは面倒だな……でもまだ飛べていないみたいだ。先にこっちを片付けるかぁ……」

 翔太郎がだるそうな声を上げながら、だるそうな仕草でメタルシャフトを人に当たらぬように振り回すと、アームズに向かって棒を突く。戦い慣れしていないからか、メタルシャフトに当たり続けている。

 

「何すんだこの正義のヒーロー気取り! 寺坂を傷付けやがって!!!」

「……何言ってるのか全く分からねえな。矛盾だらけじゃないか?」

 翔太郎が言っていることが分からない、というような声色で呟く。そして沸点の低い寺坂が野獣のようにWに襲いかかる。そして、同時にアームズの攻撃も来た。しかし、Wはメタルシャフトの端でどちらの攻撃も避ける。左手でメタルシャフトを持つと、右手で一度ダブルドライバーを閉じる。そして、黄色のガイアメモリのボタンを押した。

 

『ルナ』

『ルナ、メタル!』

 

 先ほどまで緑色だった部分が黄色になり光る。そして、メタルシャフトがまるで蛇のように伸びた。

 

「これで二対一でもいけるだろう? お前らは近接戦が得意なガイアメモリを選んだようだからな。そんな頭でもガイアメモリを選ぶ脳はあったようだ……ま、適合率は考えてなかったようだがな」

 翔太郎が、話しながら攻撃を仕掛けていく。慣れた手つきだ。

「適合率という言葉を教えてあげよう……あるガイアメモリが、その人にとってどれだけ適合しているかの数値だ。まあ、今でもそのメモリが出回っているのが不思議だ。……コックローチメモリに関しては増産しやすく比較的誰でも超人になりやすいから今でもたまに見かけるけれど」

 フィリップがよく分からないだろう言葉を説明しながら、両端から蛇のようになっているメタルシャフトがビーストとアームズを圧倒させていく。

 

「そろそろメモリブレイクと行こうか、翔太郎」

「俺もちょうどそう思ってたところだ! コックローチに逃げられるとめんどくさいからな」

 頃合いかというようにメタルメモリを左側のスロットから外す。シューン、という音が聞こえたかと思うと、メタルシャフトの中心辺りに刺した。

 

『メタル・マキシマムドライブ!』

「「メタルイリュージョン!」」

 

 メタルシャフトを振り回し、黄色に見える複数の円の形をしたカッターを発生させた。そして、一度メタルシャフトを止めたかと思うと、二人のドーパントに向けて宙でメタルシャフトを振り回す。

「うわああああ!!!!!」

「死にたくない!!! 辞めてくれ!!!」

 寺坂と吉田は命乞いをするように叫んだ。

「安心しな、死ぬことはねねぇ。ドーパント体を解除しない限りはな」

 翔太郎が無慈悲に答えながら、メタルシャフトに同期された空中に浮かんでいる円形のカッターをドーパントに打ち付ける。

 

「あ゛……」

「う゛ぅ……」

 

 寺坂と吉田はうつ伏せで倒れる。どうやら意識はなさそうだ。人間体に戻ると、体からガイアメモリが排出され、そばには壊れてもう使い物にならないビーストとアームズのメモリが転がっていた。

 

「さあ、先生。寺坂竜馬と吉田大成をよろしく頼んだよ。もうすぐ僕たちのような仮面ライダーの全身赤色版か赤い革ジャンを着た警察官が駆けつけてくれるはずだから……。それと、他の人たちはあまり関わらないように先に教室に入っていてくれ。色々とこのあたりは繊細な部分でね。変に君達に秘密を教えられないんだ」

 

 右側のフィリップがそう言いながら、Wはいつの間にか廊下側の窓のそばに到着していたリボルギャリーのバイクに乗り込む。そこにはハードタービュラーがくっついており、バイクで空を飛んだ。

 

「すげぇー!!! 空飛んでる!!!」

 主にクラスの男子が空に飛んでいる二体を見て興奮している。男子はそういうところに弱いのは全国共通なのだろうか。

 

「ああー、めんどくせぇ。ゴキブリはゴキブリらしく隠れてればいいんだけどなー」

 翔太郎がだるそうな声色で呟きながら、メタルシャフトで攻撃する。コックローチドーパントである村松が痛そうな声をあげないがら急降下していく。

 

『メタル・マキシマムドライブ』

「「メタルイリュージョン!」」

 

 再び、黄色の円形のカッターが宙に浮かぶ。メタルシャフトを振り回すと、コックローチドーパントはダメージを確実に負い、人間の村松に戻る。

 しかし、飛んでいる分、村松の体は落下する。ルナメタルの手が村松の体を受け止めようとしたが、村松の体はもう空中にはなかった。

 

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