三年E組にあの二色のハンカチ、仮面ライダーWが入るらしい。その一年間の成長記録 作:春瀬紫苑
「翔太郎君、フィリップ君。空中で人間に戻して落下ダメージがあったらどうするんですか!」
いつの間にか、村松の体は先生が抱えていた。意識はなく、ぐったりとした様子の体からガイアメモリが排出され、地面についた瞬間に粉々になった。
「先生、大丈夫っすよ。この伸びる手が受け止める予定だったんで。ま、先生が受け止めてくれた方が確実だったかもだけど」
翔太郎が話しながらWが降りてくる。バイクから降りると、Wの手はルナとメタルのガイアメモリを引き抜く。途端に頭の方から仮面ライダーの鎧のようなものが外れ、そこから翔太郎が現れた。そして、フィリップはさっきまで眠っていたのがいきなり起き、千葉は驚いた。そのせいで手を離されて、落ちたのはいうまでもないだろうか。
「さあ、新しい授業をしましょう」
はい、と生徒一同が厳かな雰囲気を感じ取り返事をする。翔太郎はポケットの中に入れてある『スタッグフォン』が震えたのを感知し、ポケットから取り出した。
「ああ、照井。風都からすまねえな。引き取りに来てほしい。生徒三名、全員男で命に別状はなさそうだ。……あ、意識も全員ありそうだ。先生が呼びかけてる。面白いくらいに必死に…………了解。それまで待ってるぜ。ついたらまた連絡くれ。じゃ」
照井の声は聞こえないが、何か連絡をしてるらしかった。
そこに、先生が村松を抱えて騒ぎ立てながらやってきた。
「では…まず……先生は月に一度脱皮をします。脱いだ皮を爆弾に被せて威力を殺した。つまりは月イチで使える奥の手です」
先生の顔は、見るまでもなく真っ黒だ。ド怒りだ。
「寺坂、吉田、村松。首謀者は君等だな」
三人が弁解の言葉を必死に述べようとする。先生は村松の体を地面に置くと、マッハのスピードで校庭から出ていく。町中をめぐると、また戻ってきた。
その手には、クラスの生徒の表札がある。ゴト、と表札が落ちると、皆自分の表札に目をやった。
「政府との契約ですから、先生は君達に危害は加えないが、次また今の方法で暗殺に来たら君達以外には何をするかわかりませんよ。
家族や友人……いや、君たち以外を地球ごと消しますかねぇ」
クラスの全員は悟ったような顔をする。この先生を殺すしかないと。
寺坂は逆ギレをするが、先生は暗殺の評価をしているのか、顔が丸になったりバツになったりしている。しかし、声があまり大きくないことや、皆がバラバラなこともあり、あまり声は聞こえない。
だが、先生がみんなの顔が見える位置に移動する。
「人に笑顔で胸を張れる暗殺をしましょう。君達全員それが出来る力を秘めた有能な
触手を畝らせながらアドバイスをする先生とこの教室は異常だ。
……でも、この進学校でこの三年E組をまっすぐ見てくれた人はいない。けれどのこの怪物は正面から見てくれた。
……三年E組は、それがとても嬉しかった。
「殺せない…先生…あ、名前。『殺せんせー』は?」
茅野は何か考え事をしていたのか、ふと顔を上げるとそんなことを話した。
「いいね!茅野。じゃあ、先生、これから殺せんせーだね」
渚がにっこり笑って話しかける。
「異論はありません。先生の名前はこれから『殺せんせー』です。皆さんいいですね?」
はーい、と生徒一同が手を挙げて賛同をする。
殺せんせー、と言いながら生徒たちがナイフを刺しにいく。そんな中、微かにバイクの音が聞こえた。
「思ったより早かったな、照井。近くの警察病院で頼めるのか?」
翔太郎はバイクの音が聞こえた方に振り返る。そこには赤い革ジャンを着た照井竜という男がいた。顔は険しく、無表情だ。
寺坂グループの三人は照井の方を向く。
「ああ。近くの警察病院に話をしたら三人分受け入れられるらしい。山の麓まで車は来るから、そこまでは人力で運んでこいということだ」
バイクは走ってこれたがな、と言いながらバイクのヘルメットをとる。壊れたガイアメモリを袋に入れる。村松のコックローチメモリが殺せんせーの近くにあることに気づくと、照井は殺せんせーを呼んだ。
「超破壊生物」
「おや、誰ですか?……翔太郎君とフィリップ君の保護者ですか。何故ここに?」
照井が殺せんせーを睨んでいる。殺せんせーに近づくと赤い革ジャンの内ポケットから対先生用の銃を突きつける。
「俺もお前の秘密を知っている一人だ。何か俺とお前が会うときがあれば迷わず命を狙う。……名目上左とフィリップの保護者になってるがな」
真っ直ぐに銃口を殺せんせーの頭に向ける。
「おやおや……銃はあまり得意じゃないんですか?」
ナメた時の顔、緑と黄色の縞縞模様で答えを返す。
「今は忠告だ……生徒諸君にも…急に大人が来たら驚くだろう。あと、この生徒を早めに回収したいこともあってな」
先を急いでる、と言っているんだろう。すぐに踵を返すと、翔太郎とフィリップに目配せする。
「殺せんせー、寺坂達下に運ぶからフィリップと早退しまーす」
教室から二人のバッグを取りに行くと、フィリップにバッグを投げ渡す。
「はい!? どうするんですか君たち!!!」
殺せんせーが慌てた様子で翔太郎とフィリップの周りを音速で走り回る。ついには周りだけ雑草がなくなりそうだ。
「やめろ、先生」
照井が静止の声をかける。すると、殺せんせーはすぐに止まり、なぜ止めたのか分からないというような表情をする。
「左とフィリップは俺が保護者だ。俺が認めたからこいつらは帰らせていただきたい。……でも、もう今日は終業時間じゃないのか?」
『ビートルフォン』、翔太郎が取り出したスタッグフォンの水色で色違いな携帯で時間を確認すると、勢いがいい音を鳴らしてすぐ閉じる。
そのまま、翔太郎が寺坂、フィリップが吉田、照井が村松を抱えて山を降りていった。
「片岡さん、磯貝君。照井竜を見なかったか?」
しばらくして、烏間が三年E組に入口から校庭に入ってくる。スーツで走ってきたからか、少々皺が寄っている。
「照井……ああ、翔太郎とフィリップの訳ありそうな保護者? 見たけれど、二人と一緒に山の下降りていきましたよ?」
磯貝が学級委員として状況をしっかり簡潔に説明する。烏間は、頭の後ろをかき、苦い表情をする。
「色々聞こうと思ったのに……。まあいい。また会う機会はあるだろう」
肩をすくめると、殺せんせーが烏間に近づく。
「彼等は国から派遣された人ですから、色々あるんでしょう……そして、きっと彼等は『ガイアメモリ』の専門家だと思います……詳しく話は聞きますから、生徒たちの帰る時間ですし烏間さんも帰って下さい」
「ああ、もう帰る……防衛庁のつてで生徒達のことは後で聞くからお前は変に病院周りをうろつくなよ」
烏間はきつくいうと、すぐに坂を降りて行った。三年E組一同も嵐のような騒がしさが終わってほっと一息つく。
「寺坂君のこともあって授業が潰れてしまいましたね。短歌は宿題とします。ではさようなら!」
先生は今からハワイに行ってきます! と急いだような声が聞こえ、いつの間にか目の前には先生がいなくなっていた。何か急ぐことがあるのだろう。
「色々あって大変だったな……」
磯貝がふっと溜息を漏らす。そして、校庭にそのまま座り込んだ。
「でもよ、あいつらは色々あるんじゃねえか?……あまり深入りしない方がよさそうな気がする」
前原が磯貝の意見に続くようにボヤく。
「僕は翔太郎君とフィリップ君が言うまで特に問い詰めないよ。何かありそうだからね……。あと、なんか中学生には見えない気がする」
渚が中学生には見えない、ときっぱり言う。不自然な空気が生徒を襲い、静かに黙って皆帰路に着いた。