三年E組にあの二色のハンカチ、仮面ライダーWが入るらしい。その一年間の成長記録 作:春瀬紫苑
「部活禁止なんだ。この隔離校舎のE組じゃ」
その声色は、いつもの彼より幾らも寂しそうで。誤魔化すように手に持った対殺せんせー用のボールを投げながら言い続けた。
(そういえば……)
翔太郎は部活動は禁止だ、と照井に知らされた時のことを思い出す。翔太郎は部活といってもあまり熱中してやったことはなかった。だから、翔太郎にとって『やり直しの一年間』に、フィリップにとって『初めての一年間』になるこの一年に、部活がないのに落胆した覚えがある。せっかくならやってみたかったし、訳あって学校というものをあまり知らないフィリップに、部活動を楽しむ学生生活を送ってやりたかった気持ちもないわけではない。でも、これは依頼だと割り切るしかなかったのを、翔太郎は覚えている。
「成績悪くてE組に落ちたんだから…とにかく勉強に集中しろってさ」
「それはまたずいぶんな差別ですねぇ」
「…でも、もういいんだ。昨日見ただろ? 遅いんだよ。俺の球」
これまでで一番高くボールを投げる。その顔は、あまりにも寂しそうで。未だに野球に未練があるのは明らかだった。
それを見て、翔太郎とフィリップは音楽家・ジミーのことを思い出す。確か彼も夢を諦めかけていた時の顔はこんなだった。
「杉野くん。先生からアドバイスをあげましょう」
少し杉野が無念が残る野球の事について話すと、先生が歯を光らせながらこう返した。
「うわっ! 殺せんせー!?」
「何してるんだい殺せんせー!」
校庭で、翔太郎とフィリップの大声が響く。それに気づき英語のノートを提出しようと通りがかった渚が木の影から覗く。
「思ったよりからまれてる!!」
どうやら、渚は何か絡まれてると思っていたらしい。しかし、杉野の体に絡みついた触手は思ったより絡まれている判定らしい。
「何してんだよ殺せんせー!! 生徒に危害加えないって契約じゃなかったの!?」
渚が大声で静止に入る。フィリップと翔太郎も、杉野と先生が少し離れてから先生の触手が絡まったので、少し急ごうとして走って、杉野と先生のすぐそばに着く。
「杉野君、昨日見せたクセのある投球フォーム。メジャーに行った有田投手をマネていますね」
杉野が口を触手で塞がれたまま驚く表情をする。その間も、翔太郎とフィリップは触手をナイフで攻撃しながら杉野を解放しようと試みる。
「でもね、触手は正直です」
ようやく杉野を地面に優しく下ろすと、シュルシュル、と触手が杉野の体から引いていく。
「彼と比べて君は肩の筋肉の配列が悪い。マネをしても彼のような豪速球は投げれませんねぇ」
嫌らしい笑みを浮かべながら、先生が言う。渚がなんで断言できるのか、と反抗するも、先生が衝撃の事実を話す。
「きのう本人に確かめて来ましたから」
確かめたんならしょうがない、というように翔太郎とフィリップ、杉野や渚もまさか、というように表情を大きく変えた。ちなみに英字新聞とサイン入り色紙を持っているが、色紙を見せて泣いている。『ふざけんな触手!!! 有田』と丁寧に名前が書かれた色紙を見て、そりゃ怒るよ!とツッコミを入れるのを欠かさない。
「…そっか、やっぱり才能が違うんだなぁ…」
「一方で、肘や手首の柔らかさは君の方が素晴らしい。鍛えれば彼を大きく上回るでしょう」
また自信を無くした杉野に、殺せんせーはアドバイスをする。
「才能の種類はひとつじゃない……渚君の自爆攻撃の時の肉迫なまでの体運び、翔太郎君の鍛え上げられた観察力、フィリップ君の興味を持った物事には一直線なところ。この教室では全て、暗殺につながります。君の才能に合った暗殺を探して下さい」
言い終わると、先生はザッザッと音を鳴らしてこの場を去る。しかし渚だけは、先生に何か用があったのか、殺せんせー!、と声をあげて追いかけていった。渚は、まさか杉野に
先生がそのことについて黙っている間、フィリップが渚を追って走ってくる。翔太郎は教室からバッグを持ってきながらフィリップの後を追いかけてきたようだ。どうやらそろそろ二人は帰りたいらしい。
「先生。ぼくの本を返してくれないかい?」
「ああ。これですね……ところでこの本は何ですか?」
懐からあの白紙の本を取り出し、適当なページを開く。殺せんせーや渚には、あると言っている文字は見えないがフィリップや翔太郎には見えているらしい。
「……それはかつて悪用されたことに関することなんだ。また二次被害が起きたら……ぼくはきっと罪を償いきれないと思う。だから、今は黙秘させてほしい。
それと……早くぼくにそれを見させてくれないかい!? ぼくはうずうずして仕方がないんだ!!!」
目をキラキラ光らせ、先生の方へ前のめりになる。それを見たのか、ゆっくりと歩いて来ていた翔太郎が、焦ったようにフィリップのように駆け寄った。
「おいフィリップ!? お前はマッドサイエンティストじゃないんだからそのような言動はやめろと言っただろ!?」
首根っこを掴むように襟の後ろを掴み、フィリップを持ち上げる。フィリップは手足をジタバタさせたが、翔太郎の鍛え抜かれているだろう体には勝てないらしい。
「こいつ回収して帰ります……すまん……」
しれっと触手が持っている本を取り上げ、そのまま坂を降りていく。じたばた手足を振りながら反抗しているフィリップに何か叱りながら坂を降りていった。
渚はそれを見計らって、英語の問題を先生に手渡した。
「先生はね、渚君。ある人との約束を守るために君達の先生になりました。
私は地球を滅ぼしますが、その前に君達の先生です。君達と真剣に向き合う事は…地球の終わりよりも重要なのです」
そう言いながら、渚のノートの採点をする。何故かノートの裏に謎の触手が描かれていて渚が若干引いていたのは言うまでもないだろうか。暗殺と生徒の両立を楽しめ、と言いながら歯でペンをへし折った。
「あの、先生……翔太郎君とフィリップ君のこと。どう思ってますか?」
さて帰ろうか、と先生が動き出したときに、最後のチャンスと言わんばかりに渚が話を振る。声に気づくと、殺せんせーが首を捻り、渚の質問に少々頭を悩ませる様子を見せた後、ゆっくりと渚に近づいた。
「先生は……あまりあの二人は掴めていません。成績も、苦手教科があれど優秀ですし、どこか掴み所がない生徒です。少なくとも……君達と同い年ではないと思います。同い年にしては人生を達観しすぎている、渚君もそんな違和感を感じたのでしょう?」
はてなマークを最後につけておいて、ほとんど分かりきっていることを聞いてきた。
「うん…まあ、そんな感じかな」
渚は先生の質問に素直に頷いた。ただ、返事がそれだけじゃないのも確かだ、ということを暗に示している。
「まあ、あの二人に関しては国から送られた暗殺者です。同学年じゃないのも無理もないでしょう。それに、きっと彼等は勝手に自分のテリトリーに入るのをなんとなく嫌っているようにも見えます。卒業までに、ゆっくりと距離を詰めていきましょう」
「ま…卒業までに、暗殺の方は無理だと決まっていますがねぇ」
そう言って、殺せんせーはこの場を去る。改めて渚はノートの裏に書かれた謎の触手を見る。そして、目を殺る気に満ち溢れさせた。
H(he)への憧れ
……彼への憧れ。
……さて、探偵は誰が憧れ?