「ボク」っ娘系メカニックちゃん   作:アビ田

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原作久しぶりに読んで描きたくなった…。多分続きません。


[Ⅰ]
在りし日の。


 一番古い記憶は、大きな手がボクの頭を撫でる場面。

 

 ボクの頭をすっぽり覆って、そのままわしづかめそうなほど、その手は大きい。

 手の主の顔はおぼろげで、思い出せない。声は笑っていて、真っ白い逆光の中でその声が届く。

 

『────すごいなぁ、君は』

 

 その笑顔が、ボクはきっと大好きだった。だって見ていると、心が温かくなる。

 

『将来君は、発明家になるのかもね』

 

 その人の手に握られているのは、鉄くずを寄せ集めて作られたような玩具。作ったことは覚えていないけど、それを作ったのはボクで、鉄くずの玩具をその人に見せている。

 

 そんなひと場面が、ボクの一番古い記憶。

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

 この世界には大まかに分けて、二つの世界がある。

 

 人間が住む「ホール」という世界と、ボクたち「魔法使い」が住む世界。

 ホールへは“ドア”を使って行けるのだけれど、そのドアというのは魔法使いしか作れない。

 

 そもそも人間と魔法使いは姿形こそ同じだが、この二つには大きな違いがある。それが魔法を使えるか否か、という点。

 魔法使いには人間にはない魔法の元となる「ケムリ」を作り出す器官や、それを送る血管のような管が存在する。その管は指の先や口などにつながっており、そこからケムリを吐いて魔法を行使する。

 

 魔法使いによって、使える魔法は異なる。人間を動物に変えたり、人体をドロドロにできたり。これは生まれもって決まっていて、放出できるケムリの量なんかも決まっている。

 

 例えば修復系の能力は非常に珍しい。ボクの能力は世間一般的なもの。身体強化系だ。少し早く走れたり、重いものを持てる程度で、役立たず。しかも右手の人差し指からしかケムリを出せず、量もほとんど出せない。体の作りに恵まれなかったのだ。

 

 

 そんな底辺魔法使いは生きづらい。魔法使いの練習台にされるホールの人間よりはマシだけど、一部のエリート魔法使いと比べれば肩身の狭いこと。というか、ボクのような奴らは“ドア”を作ることもできないから、魔法の練習さえ満足にできない。

 

「おら、さっさと働けチビ!」

 

 大人に頭を叩かれる。「チビ」、それがボクの呼び名。名前はない。

 

 物心ついた頃にはすでに人攫いに遭っていて、あれよあれよという間に売られ、工場で働かされる毎日を送っている。製鉄所の仕事は大変だ。熱い、とにかく。そして下手したら真っ赤な灼熱がわが身にふりかかる。実際それで亡くなった者もいた。

 

 働いているのはほぼ子どもで、ボクと同じようにどこからか攫われて働いているヤツが多い。ボクが「チビ」なのは、皆の中で一番歳下だからで、八つかそこらだ。

 

 

「ふわぁーあ…」

 

 朝早くに起きて、ケチな量のご飯を合間合間に食べながら、夜遅くまで働く。

 

 ど底辺な人生だけど、そんな中でも休憩時間に工場で出た鉄くずでガラクタを作るのは楽しい。ただひたすらに高く跳べる靴だったり、うじゃうじゃいるネズミを捕食する可動式ネズミ捕りだったり。

 

 周りの子どもが「ギャー!」と楽しそうな反応をすると、ボクも楽しかった。大人に見つかると面倒だから、すぐ溶鉄にぶち込んじゃうんだけど。自分で作った物が火花を散らして消えるのは、かなり気持ちがいいのだ。

 

 みんなの笑顔を見ると不意に思い出す、過去の記憶。

 ボクの過去。だれかが大きな手で、ボクの頭を撫でている。

 

「なぁチビ、お前は両親の記憶ってないんだよな?」

 

「うん、ないよ」

 

 仲間のひとりが話しかけてきた。

 大半の子どもは自分の親について覚えている。中には親に売られた子どももいた。

 

 もしかしたら、ボクの記憶の中のあの人は、ボクの親なのかもしれない。大きな手と、優しい声。多分、男の人。だから、ボクのお父さんかも。

 そうだったらいいな、ボクのパパ。会いたいな。

 

 まぁ、逃げられない。逃げてもし捕まったらどうなるか、“見せしめ”で見たことがある。燃やされるんだ。溶鉄に投げ込まれて、肉も骨もすべて燃える。

 それにもし逃げられても、ボク一人じゃ生きていけない。

 

 聞いただけの知識の、魔法の世界は広い。

 

 悪魔がいる。死神もいる。珍妙な生き物もいる。地獄もあるらしい。死んだら魔法使いはそこに行って、悪魔の玩具になって遊ばれる。それは怖いから、まだ死にたくない。

 

 寝るところがあって、ご飯を食べられるだけ、マシ。

 

 せんべい布団に包まれて、今日もみんなとすし詰めになりながら眠りについた、

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

「チビ、知ってるか? 最近工場の周りで悪魔が飛んでるんだって」

 

「悪魔?」

 

「あぁ。仕事途中にさ、空を飛んでるのを見たヤツとか、外の休憩スペースから工場のてっぺんに止まってたのを見たって」

 

 お昼中に、ボクの面倒をよく見てくる「おにい」が話しかけてきた。

 

 悪魔は見たことがない。ここらは工場地帯で、この製鉄所の周囲にもみっちりと工場がある。黒い煙がモクモクと立って、空気が悪い。

 そんな場所に悪魔が来ることは滅多にない。

 

「悪魔って元魔法使いなんだっけ?」

 

「そうだ。エリート魔法使いでもごく一部のヤツしかなれない。俺らじゃ夢のまた夢さ」

 

「何で悪魔がこんな場所に来てるんだろうね」

 

「さぁな、悪魔様のお考えになることは、俺らにゃわからねぇよ」

 

 辛い修行を乗り越えれば、魔法使いは悪魔になれる──らしい。魔法使いの憧れでもあるとか。

 ボクはでも、悪魔になるよりは、何かを作っている方が楽しい。

 

「……なぁ、チビ」

 

「なぁに、おにい」

 

 おにいは真剣な表情で、ボクを見た。

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

 工場で働かされている子どもは、魔法が使えない者か、ろくな魔法が使えない者がほとんど。

 現状の方がよっぽどマシな人生を送っている子どもや、何の希望も夢もなくただ過ごしている子どももいる。

 

 ボクはお父さん(仮)に出会えるなら、出て行ってもいいと思う。ただ逃げるリスクが高過ぎる。子どもが逃げたとしても労働力はいくらでも補充できるから、監視自体は甘い。でも見つかればそこは殺される。

 

 おにいはどうやら、コッソリと逃げるメンバーを募り、脱走を計画していたらしい。ボクも一緒に逃げようと、誘ってきた。

 

 ボクのやりたい事は機械いじりと、あの人に会うこと。

 

 でもお父さんに会うのは、不可能だと思う。だって自分の本当の名前すら知らない子どもの親を探すなんて、蜘蛛の糸をつかむように難しい。

 

 

「それでもいいじゃねぇか! ずっとこの場所にいるよりは、お前のオヤジに会えるかもしれないだろ!」

 

「でも、お父さんじゃないかもしれない。さらった子どもに笑いかける変なオトナかもしれないよ?」

 

「そんな変態だったら、俺がお前の面倒を見てやるさ!」

 

「おにいは本当に、ボクに優しいね」

 

「……おうよ」

 

 知っている。おにいにボクくらいの妹がいたってこと。「()()」ということは、今はもういない。

 その妹は今頃、地獄で悪魔に遊ばれているんだ。やっぱり死ぬのは嫌かな。

 

「けど、しょうがないな。おにいと一緒に行ってあげるよ」

 

 おにいは喜んだ。ボクもそんなおにいを見て、それにみんなを見て、心がポカポカした。

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

 人が持つべき平等な権利っていうのが、あったらいいなと思う。

 すべての魔法使いが平等で、多少の貧富の差はあっても、最低ラインが用意されているような、平等。

 

 そうすればど底辺なボクも、「底辺」くらいには格上げされるでしょ。

 

 

 

 作戦決行日の夜。事前に調べておいたダクトの中を通って、外に出る。ダクト内を通るのは廊下だと監視カメラや見回りがいるからで、その内側も非常に入り組んでいる。もし一つでも曲がる場所を間違えたら、まったく違う場所に出てしまう。オマケに中は掃除されていないから汚い。ボクがこの時のため作った鉄くずのライトが中を移動する唯一の明かりだ。内部には発光する虫が入れてあり、最低限の視界を確保できるようにしてある。

 

 そして無事、予定通りの場所に出ることができた。外側は無数の配管が剥き出しになっていて、ところどころにトタンの屋根もある。

 そこを伝ってみな下へ降りていく。ただ工場はかなりの高さがあり、風が強い。ボクじゃ一たまりもないね。

 

 途中までは、順調だった。けれど疲れが溜まっている中、ひとりが足を踏み外して転落した。

 

「あっ」

 

 真っ逆さまに落ちていく。直後、ダァァンと、大きな音がした。下にあった屋根に激突したらしい。

 

「まずい、逃げろ!!」

 

 先ほどの音を聞いて、近くの窓ガラスが開いた。見回りだ。銃を持った見回りは下を見て、ついで上の物音に気づき見上げる。

 銃声を聞き、混乱したみなは散り散りになって逃げ始める。前から後ろからと押され、咄嗟に壁にしがみつこうとしたけど、ダメだった。ドン、と押されて、足が滑る。そのまま視界が反転して、体が落ちる。

 

 

「チビ!!」

 

 

 おにいが手を伸ばしていた。ボクも伸ばしたけど、届かない。

 

 その手がどんどん遠くなっていって、おにいの顔も声も遠くなる。他にも撃たれた子どもや、ボクと同じように押されて落ちた子どもが、上から次々と降ってくる。

 

 

 死にたくないなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

「うーん…」

 

 瞼の裏に明かりを感じて目を覚ました。

 一面に広がっているのは、無数の工場。それと、建物の裏から上ってきている朝日。もうしばらくすれば至る所から黒い煙が出始めて、空に不衛生な雲ができあがる。

 

「ボク、は…」

 

 そう言えば、落ちたんだ。今の場所はどうやら工場の一番上の、煙突部分らしい。見下ろせば風が勢いよく吹いて、前髪をさらう。あまりの高さに眩暈がしてきた。

 

『ようやく目が覚めたか、魔法使い』

 

「へ?」

 

 ヌッと、煙突の中から突如として顔が出てきた。動物のようなツノが二本、フードを突き破って出ている。帽子の下は影になっていて顔が真っ黒に見えるが、二つの瞳孔が光って見えている。

 

 思わずひっくり返って落ちそうになったボクを、伸びてきた手が掴む。その手もやけにバカでかい。というか、この生き物魔法使いじゃない────? 

 

『何だ、悪魔を見たのははじめてか? キサマ』

 

「しゃ、シャベッタァ…!!」

 

『ム、失礼な。悪魔侮辱罪で死刑にするぞ』

 

 悪魔侮辱罪って何…と思ったら、もし悪魔の悪口を言った場合など、死刑になる罪状らしい。そんな恐ろしい法律があったっていうの…? 

 

『まぁ、今回は寛容に見てやろう。次はないぞ』

 

 煙突から全身を現した悪魔はやはりデカい。羽があって尻尾があって、二足歩行する動物のようだ。普通に歩いて、股下をくぐれる。

 

 

 曰く、マフラーをつけているこの悪魔は、「ハルちゃん」と言うらしい。最近ここら辺を散歩コースにしているようで、今日もまた空を飛んでいたら、偶々空から落ちてきたボクを拾ったそうだ。

 

 他の子どもがどうなったか尋ねると、逃げられた面々もいるらしい。でも、死んだ数や捕まった方が多いって。

 

「お、おにいは!?」

 

『おにい?』

 

 ハルちゃんはボクの頭に手を当てて、「ムム…」と唸ったあと、頭に手を当ててまた唸り始める。

 

『キサマの記憶で見たそのガキは生きているようだな。他の子どもと走っている様子が視える』

 

「悪魔って何でもできるんだ…」

 

『悪魔パワーに不可能はないからな』

 

 全知全能とも言える力に、無敵の肉体。それに様々な魔法も扱うこともできるという。

 悪魔は魔法使いに信仰されているらしいけど、その理由がわかった気がした。生物として、魔法使いの上位者だ、彼らは。

 

「そっか、おにいが生きてたのならまぁ、いいかな」

 

『何だ、逃げないのか?』

 

「こっから降りろって? 無理だよ、暗いならまだしも。他のヤツに見つかって溶鉄にぶち込まれて終わりだ」

 

 それにもう動く体力もない。このまま煙突の煙に包まれて息苦しさで死ぬなら、飛び降りた方がラクかも。

 

『キサマが助けを求めるなら、助けてやらないこともないぞ』

 

「そんなまさか、ハルちゃんがボクを助けたのだって、気まぐれでしょ?」

 

『まぁ、偶には気まぐれに行動するのも悪くないからな』

 

 悪魔ってたしか楽観的なんだっけ? 距離感が掴みにくい。

 

 

 

 ──と、思っていたら、朝日が建物の裏から顔を出した。いつもだったら今の時間に起きて、さっさと朝食を食べて、仕事が始まる。

 

 黒い煙が年中出ているから、基本的にここらは薄暗い。だからこうして太陽の光を浴びれるのは珍しいし、しかもこの特等席。

 

「あぁ、すごい、すごいよなんか」

 

『何がだ?』

 

「フフ…フフフ! 生きてるって感じがするんだ!」

 

 このまま落ちたら、飛べそうな気がする。鳥みたいに自由に、地平線の彼方まで行けそうな気がする。

 そう思えば高い怖さなんて無くなってくる。

 

 

「ボク、生きてる────!」

 

 

 飛び降りた。側から見たら単なるヤバいヤツかもしれない。でも不思議と、落ちたらハルちゃんが後ろから持ち上げてくれる気がした。

 落ちた直後体が大きく揺れて、見上げると足の指で挟むようにして、ハルちゃんが服をつかんでいた。ほらね。

 

『キサマほどバカな魔法使いは、はじめて見たかもしれんな』

 

「何ィ────?」

 

 風の音で、ハルちゃんの声が聞こえない。

 一瞬ムスッとしたハルちゃんは、ボクの名前を尋ねてきた。大きな声に思わず鼓膜が痺れる。

 

「チビって言われてたけど、本当の名前は知らない──!!」

 

『ではトクベツに、この私が名づけてやろう! 喜べ、魔法使い!!』

 

「わーーーい!!」

 

 服は掴まれているけど、落下スピード自体はさほど変わらない。このまま地面にぶち当てられないことを祈ろう。

 

 

 

『──────「小夏(コナツ)」。お前は小夏だ」

 

 

 

 そう言って、ハルちゃんはボクを後ろから抱きしめて、地面に下ろした。

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