「ボク」っ娘系メカニックちゃん   作:アビ田

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三連休〜!!って喜んでたら、あっという間に終わるこの感じ。


1+1+1=∞

 魔法使いのケムリのカスが雨に混じって降る世界、ホール。

 その世界で彼、アイ=コールマンは育った。

 

 祖父は行商人をしていて、家にいないことが多い。両親は──知らない。少なくとも記憶にはない。

 

 いつも一人。友人はおらず、他人と関わりを持たず生きている。

 

 ジメジメとしてホコリ臭いホールで、アイは自分がなぜ生きているのか、考えることがあった。

 希望や夢がない。何かしようと望む意思もない。ただ呼吸して、そこに存在しているだけ。それは植物と大差ないように感じられる。

 

 そんな時だ。

 

 アイは魔法使いを見た。扉が空間に出現したと思えば、その中からマスクをかぶった魔法使いが現れた。

 咄嗟に隠れ彼らが去るのを遠目から眺めていたが、ふいに視線は扉の奥に吸い込まれる。

 

 向こうに広がるのはホールの造りとは異なる建物に、行き交う魔法使いの姿。それに、美しい青空。

 ホールとは違うその世界に、彼は心の中でずっと曇っていた何かが晴れるような、そんな感覚を得た。

 

 元々、魔法使いには憧れていた。同じ姿なのに、トクベツな力を持つ存在。彼らは人間を魔法使いの練習台にする。

 奴らを憎む者もいれば、それと同じくらい羨ましがる者もいる。強い力さえ持てば、虐げられることはないのだから。

 

 もし魔法使いになれれば、自分の何かが変わるかもしれない。

 

 次第に少年は、魔法使いになりたい、という夢を持つようになった。

 

 

 

 そしてその意思が明確になったアイは、ホールの魔法使い研究の第一人者でもあるカスカベ博士の元へと訪れた。

 

 これが彼が魔法使いを目指した、最初の一歩である。

 

 カスカベの手伝いをする傍ら、彼はどうすれば魔法使いになれるか研究した。そうして漠然とした夢が現実味を増していくほど、少しずつ変質する夢は、アイの気づかぬうちに目的へと昇華される。

 

 魔法使いになる。

 その後、一度扉の奥に見たあの魅力的な世界へ足を踏み入れたい。

 

 

 そんな折、アイは一人の少女に出会う。

 

 “発明家リンリン”と名乗った少女、小夏。彼より三つか四つほど年上らしい彼女は、ほとんど背丈が同じだった。どこもかしこも小さい。つるぺたボディである。そのくせ彼女の魔法の効果によって、アホみたいな力を出せるのだ。

 

 過去に手伝いの都合上、カスカベの車に乗ることになりガス欠になった際は、二人が乗っている車を小夏は持ち上げ、さらに車以上のスピードで走ってみせた。「すごいねアイくん!」と童心に帰った笑みを見せていたカスカベも、ある意味恐ろしかった。彼は揺れの吐き気でグロッキーだったこともあり。

 

 魔法使いを目指すアイにとって、初め小夏はコンプレックスや憧憬や、嫉妬、恐怖心────さまざまな感情を彷彿とさせる、複雑な存在だった。

 

 しかし想像していた魔法使いの像と彼女はかけ離れていて、親しみやすい性格で。

 ただカスカベのような理解しがたい研究脳な部分と、魔法使いであるからか、すれ違う常識の差というのが時折ネックだった。

 

 彼女が多数の死傷者を出した『オニ』の原因であることも踏まえつつ、遠くなったり近づいたりの激しい二人の関係性は、彼らの心の水面下で近づいた。

 

 天然が過ぎる小夏と接して、次第にアイは自分の感情が彼女と会うだけで浮き足立つのを自覚して。

 微笑まれたり、あるいはその仕草一つ一つに視線が向かってしまったり。

 

 その感情が「友情」ではなく「愛」であることに気づくのは、そう時間がかからなかった。

 

 それでも、魔法使いになる意思は変わらなかった。

 むしろ魔法使いになり、堂々と彼女の隣に立てる存在になりたい。人間だからこそ逃れられないその壁を破りたかった。

 

 

 だから魔法使いになる方法を考え出し、それを実行した。

 

 魔法使いの死体を集め、なるために必要な“()()”を集める。魔法使いにしかない器官を、自身の体に移植するのだ。そのためにもカスカベの存在は必要不可欠だった。

 

 アイはでも、わかっていた。きっと自分が人間でも、小夏という少女は差別などしないことを。

 自分も周りに合わせようという魔法使いではない、彼女は。分け隔てなく見ている。そこが彼が惹かれる部分の一つでもあるのかもしれない。

 

 それでも魔法使いへの執念は、色褪せることはなく。

 

 その過程で彼は、廃物湖に落ちる。雨が降る中、捨てられた魔法使いの死体を回収しようと、カスカベの制止を無視して飛び込んだ。

 

 結果、重体に陥り、その上でカスカベに手術を求めた。死にかけでもしなければ、カスカベは手術を行わないと踏んでの行動。いくら悪意も良心もない博士でも、人間を研究材料にするのは良しとしていなかったのだ。飛び降りたのは、そのような打算的な考えもあったがゆえ。

 

 

 そして────そして手術は成功し、奇跡的に生還したアイは、リハビリに励んでいる。

 

 何か少しずつ、時計の秒針が毎日1秒ずつ狂っていくような──そんな、得体の知れなさを感じながら。

 その秒針に合わせて、アイもブレていく。

 彼の中に存在する“自己”が、少しずつ変化していく。それに連れ、魔法使いへの想いが増していく気がした。

 

 あの扉の奥の世界を、この目で眺めてみたい。肺いっぱいにその空気を吸い込んでみたい。それができたらきっと幸せだろう、と。

 

 

 

 

 

「…‥不思議なんだ、小夏。何か俺自身が、変わってきてるみたいで」

 

 

 カスカベがアイの経過観察をつけ始めてから、半年が経った頃。

 

 自力で歩けるようにもなった彼は、休憩がてらベッドの上に座り、目の前でトンカチを持ち何か作っている小夏へ視線を向ける。材料はホールのゴミ捨て場から拾ってきたらしいガラクタだ。病室の周りには一見したら花畑に見まごうほどの植木鉢もあり、何ともカオスなラインナップである。

 

「それが魔法使いになってる証拠なんじゃねぇの? ボクはともかく、人間と魔法使いは思考の差があるからさ。それにアイくんは複数体の魔法使いの部品を体に装着してるわけだし、体や思考に変化が出るのはむしろ必然だと思うぜ」

 

 まぁ、カスカベのように魔法使いを研究しているわけではない。

 だからあくまでその考えは、自分の想像でしかない──と、彼女は付け加える。

 

「…そうか」

 

「でも、博士も君が変わったって感じてるみたいよ。ボクも感じる。ちょっと前より怖い(いかつい)感じになってるぜ、アイくん」

 

「………」

 

 アイが、自分が変わっている理由。それが魔法使いになった上での変化なら、いい。

 

 しかし彼には見過ごせない出来事がある。それは廃物湖に飛び込んだ時、彼は“()()“────漠然とした“何か”を、感じた。

 

 ドロに混じって感じた、その得体の知れないもの。あるいは、存在? それが、頭から離れない。

 

「早く退院しろよ、アイくん。じゃないとキミの家を突き止めて改造するからな」

 

「やめろ、爺ちゃんが卒倒するだろ…」

 

 でも今こうして小夏と話している時は、己がアイ=コールマンであるのだと、彼は自覚できる。

 退院して、そして向こうの世界に渡った時は、その時は────その時こそ。

 

 

「覚えとけよ、小夏」

 

「……え、何が?」

 

 

 “その言葉”を、ようやく口にするのだ。

 カッコつけて、年上の鈍感少女に。

 

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 死は免れないとまで思えた、アイの容体。それが見違えるほど回復し、ケガの影響で綺麗になってしまった髪も生え揃ってきた。

 

 体調も良く、歩くのも問題なくなってきた彼はその日、外へ出かけることにした。そろそろいつものように花を持った小夏が来る時間だったが、その時のキブンというやつだ。

 

 博士の許可を取り、キャップをかぶってブラブラとふらつく。前日の雨の影響で側溝がゴボゴボと、耳障りな音を立てていた。

 

「ドロ……」

 

 黒いドロ。廃物湖。彼の皮膚を、肉を、骨を、その全身を犯していった黒い水。言葉のするのも度し難い激痛が起こる中で、アイはそれに浸って、“死”というものを如実に感じた。

 

 そして、()()を感じた。

 その何かが己の中に入って、それと一つになるのを少年は感じた。

 

 あの感覚はいったい何だったのか。しかし不思議と、自分が魔法使いになれたという確信がある。ケムリもまだ出せないにも関わらず、不思議なことだ。

 カスカベはケムリを一切出せない魔法使いもいると言っていた。魔法使いになれても、アイ自身がその部類だったら話にならない。

 

「……!」

 

 その時、彼の目に入ったのは、扉。

 前方に現れたそこから魔法使いが数名出てくる。

 

 考えるよりも先に、足が動いていた。そこに、扉がある。彼が求める世界が、その先に広がっている。

 

「あのっ!」

 

 魔法使いがその声に反応し、振り返る。アイは伸ばした手を一度引っ込めて、視線を彷徨わせ、切り出す。

 

「お願いがあるんだ」

 

 自分が魔法使いであると、彼は告げる。そして共に扉へ連れて行って欲しいことも。

 

 いささか気持ちが急ってしまった。それでも目の前に喉から手が出るほど欲しいものがある。感情を抑えることなどできるはずもない。たとえ他の魔法使いに近づかぬよう、小夏に止められていても。

 

 魔法使いはお互いの顔を見合わせ、アイに視線を戻す。マスクの奥にある瞳は彼を見ているようで、見ていない。────いや、彼を()()()()()()、見ていない。

 

 まるで蝿でも見るような。まるで、彼が一つの命として認識されていないかのような。

 

 

「何だ、このニンゲン」

 

 

 魔法使いの手が伸びてくる。殴られる、蹴られる。

 

 おかしい。この二人は小夏と同じ生き物のはずだ。彼女と同じ魔法使いのはずで、自分と同じ存在のはずだ。だのに彼に向いてくるそれは、同胞として認識していない。

 いや、そもそも人間に向ける目が、ゴミを見る目なのだ。

 

 消費されるのが当たり前の()()として、見られている。

 

 小夏とはまったく違う目だった。コレが魔法使いなのだろうか? コレが自分が求めた存在だったのだろうか? コレが、本当に魔法使いだというのか? 

 

 

 体に痛みが走る。

 

 殴られる。蹴られる。

 

 さながら子どもがおもちゃを壊すように、容赦のない暴力がアイを襲う。魔法使いの楽しげな声も聞こえる。倒れた先の側溝の音が、よく聞こえる。

 

 ゴポポ、と。

 

 彼は苦しみから逃げるように手を伸ばす。その手が何かを掴むことはない。頭に激痛が走った。脳全体が熱くなっていく。見えたのは魔法使いが持っていた鋭い刃物。真っ赤だった。ピンク色の何かも付着していた。きっとアレは自分の脳だ。

 

 聞こえていた魔法使いの声が遠くなっていく。しかし耳障りな水の音は消えない。

 

「あ、ァ」

 

 薄れゆく意識。彼が重くなる瞼の先で見たのは、遠くから走ってくる誰かの姿。その形を正確に捉えることはできなかった。瞼が下り切ってしまったから。

 

 でも、声が聞こえた。彼女だ。

 

 

「アイくん……アイくん!!!!」

 

 

 少年の愛する、小夏の声だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アイ=コールマンはその日、短い人生を終えた。

 

 少年を殺した魔法使いを嬲り、嬲り続け、肉塊(ミンチ)にした少女は、狂ったように笑う。

 

 後日、その遺体がホールの人間によって解剖され、カスカベからアイが魔法使いのパーツを詰め込んだだけの、()()()()()()ことを知らされた小夏。

 

 もし仮に魔法使いになっていたなら肉体の強度も増し、()()使()()()()()()()()「物質の増加」程度の魔法で死ぬことはなかった。

 

 その事実を知った瞬間、彼女の中で何かが切れ、そして。

 

 

 小夏は魔法使いを、殺し始めた。

 

 

 ダイヤルは彼女の感情に合わせて、キリキリと回る。

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