「ボク」っ娘系メカニックちゃん   作:アビ田

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「愛」別離「苦」


笑えよ笑え、今日もまた。

 ママの声が聞こえる。

 

 

『────小夏。おい起きろ、小夏』

 

 

 ママの………え? 

 いや、本当にハルちゃんの声が聞こえるんだが?

 

 

 次の煙のモーションでボクの命が終わろうというところで、側に扉が出現し、そこから出てきたハルちゃん。ついでにその後ろにはチダルマもいる。

 

『おっ、煙じゃねぇか』

 

「チダルマ……!?」

 

 何だ、この二人知り合いなのか。チダルマを見た煙が目を丸くしている。

 その間横から伸びてきたハルちゃんの手に攫われたボクは、彼女の腕の中で猫のように伸びていた。ひとまず落ち着こうと、自分の手を食ってみる。美味くも不味くもない。

 

「なぜお前がここにいるんだ、チダルマ!」

 

『そりゃあよォ、“オモチャ箱”を殺されるわけにはいかねぇからだよ。少なくとも今はまだ、な』

 

 悪魔の指先がボクを指す。なるほど、悪魔がハマる発明品(オモチャ)を作り出すから、「オモチャ箱」か。着実にボクの二つ名が増えていて、漆黒の力が封印された右目が痛む気がする。今度博士みたいに刺青でも掘ろうかな。

 

 そう言えば、チダルマのパーカーにポケットが付いているんだが、アレってボクが前に作った『いっぱい入るくん』ではなかろうか。異次元に住む悪魔がいると聞き、ピンと来たのだ。

 

 発明欲が爆発する時は、平常時になると「これどうやって作ったんだ…?」という代物を作る時がある。『いっぱい入るくん』もその類だ。

 

 ポケットが異次元と繋がっていて、何でも入れることができる。デカいものでも、その中に吸い込まれるようにして収納することが可能だ。取り出す時は念じながら取る。

 

 ただし、偶に使った本人まで吸い込まれる。悪魔なら異次元からでも戻って来れるから心配ないが。

 

 でも『いっぱい入るくん』は、ハルちゃんが他の悪魔に見つかる前に持って行ったはず…。

 

 

『このポケットはハルが「マジでヤベェブツ」として持ってたもんよ。オレ様に黙って隠し持ってたのさ』

 

『心外だなチダルマ、隠していたわけではない。小夏のものは私のもの、私のものも私のもの────そして、小夏も私のもの。ゆえに私が持っていても何ら問題はない。そうだろ、小夏?』

 

「う、うん…?」

 

『ほら見ろ、本人確認も取れた』

 

『大分無理やりじゃねぇか』

 

 ボクは確かにハルちゃんのもの(洗脳済み)だけど、発明品はボクのものだよ。ホールと違って魔法界は特許の部分がガバガバなところあるから、そこら辺の法とか作ってくれないかな。

 

 煙もボクと彼女の関係性知らないから、面食らった顔しているじゃないか。チダルマについては愉快そうに笑っている。どこにウケるポイントがあったのだ。

 

『ちなみに「マジでヤベェブツ」は一つだけじゃねェぞ、ハルのちびっ子(お気に入り)。まさか過去と未来を行き来できる物も作ってたとはな…』

 

「それって、『テェムマスィーン』のこと?」

 

『相変わらずネーミングセンスがねぇな』

 

 さりげなくディスらないで欲しい。『テェムマスィーン』は卵型の機械で、中は柔らかい材質でベッド代わりにもなる。先程チダルマが言ったように、過去と未来を行き来でき、外側からお湯をかけると未来、逆に水をかけると過去に行く。ただその危険性ゆえ、ワープした人はその時空に手出しできない。透明人間のようになり、人や物に干渉することはできないのだ。簡単に言えば幽霊状態。飛べる時代は完全にランダムで、一時間経つと、自動的に元の時代に戻れる。ただ時空を飛べる確率はハーフハーフにしてある。失敗するとどうなるかは知らない。試す前にハルちゃんに奪われてしまったので。ただボクの発明は“失敗作”は出来上がらないから、機能については十二分に補償できる。

 

「っていうか、ハルちゃんはそれをチダルマに渡してよかったの?」

 

『一時的に貸すだけだ、先にゲットしたのは私だからな。それにお前の“()()()”は絶対的だ』

 

『ハルはオレに交渉してきたんだぜ?』

 

「……交渉?」

 

 ハルちゃんは「オモチャ箱」としての役目を果たさなくなり、悪魔たちの興味がなくなったボクの有用性とやらを再度問うた。それこそ「マジにヤベェブツ」。

 

『前からオマエの“特異性”は理解していたが…いやはや、オレをして、その腕認めるしかねぇぜ』

 

 なんだか、ものすごい褒められている。

 

 完全に話の外に出された煙は何か言おうとするが、ハルちゃんの悪魔パワーによって気絶させられる。ママの愛が強すぎて、ボクどうすればいいんや。ちょっと可哀想になってきたぞ、煙が。

 

『まぁ今回はハルに感謝するんだな。魔法界に喧嘩ふっかけてたのは面白かったぜ』

 

 悪魔たちは今回の件を「面白そうなことが起きてんなぁ」感覚で見ていたそうだ。気楽である。

 その勝敗でボクが死んだら、それなりに頑張ったな、くらいの感想のようだ。やっぱり悪魔ってボクらと思考回路が違うね。解剖…させてくれないかなぁ、ハルちゃん。

 

『タイトルは【愛に狂った魔法使い】で決まりだな、ハル』

 

『あまり気乗りはせんが、あのガキとの甘酸っぱいシーンを観られるならいいだろう』

 

「愛に狂……何が、ハルちゃん?」

 

『いや、悪魔(こちら)の話だ。気にするな』

 

「そ、そう……」

 

 また悪魔たちの娯楽で何かしているんだろうか。ボクに隠すなんて、ハルちゃんもケチンボだ。

 

 一人だけ仲間外れにされたようでブスくれていたら、ビビビ、と悪魔パワーが体に走って、キノコにされていた手足が治る。結局、ハルちゃんに助けられてしまった。

 

 いつもボクが暴走した時、止めてくれるハルちゃん。悪魔の悪戯によって死にかけている時も、ほぼ毎回彼女が助けてくれた。次点はダストンだ。彼は「ハルのお気に入りだから、みんなつい構い(イタズラし)たくなっちゃうんだにゃー」と言っていた。悪魔どもめ。

 

 

『フフフフ、私が小夏離れできていないな』

 

 

 悪魔も涙を流すんだなぁ。しかも透明だ。

 

 ボクを抱き枕にでもするように圧迫して、圧迫する。彼女の着ている革ジャンに顔がめり込む。するとゴツゴツとした感触が伝わった。前から思っていたが彼女、服の中に雑誌など色々と入れている。

 

「ハ、ハルちゃん、中から臓物が出ちゃうよ」

 

『黙れ、愚かな魔法使いめ』

 

「ぐ、ぐえぇー」

 

 事の様子を傍観している悪魔は、長い舌を出して目を丸くしている。そして腕を組んで、首を傾げた。たすけてくらさい。

 

 

『はじめて見たぜ、悪魔も心から泣くんだな』

 

 

 助けてくれなかった。

 肋からボギャァツっと、素晴らしい音がしたあと、ボクの意識は途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

 “キリキリ事件”が収束してから一年。

 ボクはまた発明家リンリンとして稼働し始めていた。

 

 事件については悪魔の力のゴリ押しで、犯人が捏造された。新聞の見出しには煙が敵を殺したことになっていたが、犯人はボクではないまったく知らない奴になっていた。指パッチン一つですべて解決してみせたチダルマは、本当に悪魔なのだろうか。ハルちゃんも悪魔の力を越えている、と言っていた。

 

 そう言えば二つ名的なものなのかと思っていたが、チダルマ自身が「オレ様は純粋にして最強の悪魔」と言っているのを聞いたことがあるし、悪魔の上司的なポジにいるし、とんでもなく偉い存在なのかもしれない。

 

 …今度から「様」を付けた方がいいのかな?

 

 

 

 それでボクは、ハルちゃんに大きな心労をかけてしまったことを反省して──というか、彼女の涙にボク自身が、驚き桃の木山椒の木ィ!して、またしばらく塞ぎ込んでいた。

 

 ボクはアイくんを大切に想っていたけど、ハルちゃんもボクを大事に想っていた。

 

 それをわかっていたはずなのに、自棄になって、暴走して。

 

 魔法使いを殺したことに罪悪感はない。ハルちゃんの知り合いに似た人がいるそうだが、絶対にカスカベ博士のことですね、わかります。あの人魔法使いの死体を見て、むしろ嬉しそうになるもんな。遺伝って怖いね。

 

 そして、ベッドから起き上がれなくなったり、何でもできるような感覚がして最高にハイになったり、気持ちの浮き沈みが激しい日が続き、それが少しずつ回復して、前のような生活を取り戻した。

 

 二年も経ってアイくんの墓参りにも行っていないなんて、本当に彼のこと好きだったのか? と、思われてしまいそうだ。

 

 でも、ボクが彼を好きだった気持ちは本当だ。今は少しずつ気持ちの整理がついてきて、心に余裕ができた。

 

 

「ちょっとホールに出かけてくるね、ハルちゃん」

 

『雨には気をつけろよ』

 

 

 屋敷は元通りになっていて、また悪魔が自由に過ごしている。ちなみに「マジでヤベェシリーズ」はハルちゃんとチダルマしか知らないらしい。

 

 ひとまずホールに着いて、先に子どもになっていたカスカベ博士に顔を見せてから、アイくんの墓へ向かった。博士は最近、魔法使いに子どもにされてしまったそうだ。てっきり隠し子と思って、ハルちゃんにチクろうと思ったけど、違かったぜ。身長はボクより大きかった。

 

 性格は変わっておらず、相変わらず喫煙しながらニコニコしていて、ボクの頭をポンポンと叩いてきた。ボクの身長への当てつけに違いない。解せぬ。

 

「元気そうで良かったよ、小夏」

 

 はて、ボクは博士に本当の名前を言ったことがあっただろうか。

 

「うん? 前に寝ぼけて言っていたじゃないか、君は覚えていないだろうけどね」

 

「そうだっけ?」

 

「あぁ、そうだったよ」

 

 まぁ、そうだった、ということにしておこう。

 一番古い記憶の手より小さくなったそれは、でも変わらなかった。温かくて、大きい。ボクを包んでくれる、目に見えない愛情で。

 

 ボクって本当に、愛されている。その“愛“を無碍にするのは本当に愚かだ。

 

 ボクはだから、愚かだった。

 

 

 

 

 

 場所を移して、墓場。

 夕暮れに世界が染まる中で、墓石の前に花束と線香を供えて、手を合わせる。

 

 

「好きだったぜ、アイ=コールマン」

 

 

 人間は地獄にも行かない。その魂はどこへ行くのか。

 

 彼は魔法使いの被害者だから、おそらく新年来る、ホールの「リビングデッドデイ」にゾンビとして蘇る。その時はボクも参加して、アイくんを見つけて葬ってやろう。死んだのに起こされるなんて可哀想だろ。だからボクが眠らせてあげるんだ。

 

「じゃあまたね、アイくん」

 

 また会いに来るよ、扉を伝って。

 

 愛に、苦しみながら。

 

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 二作目、【愛に狂った魔法使い】が上映され、悪魔たちはスタンディングオベーションした。

 

 だがまた、そのフィルムは全国ロードショーとはならず。ハルの許可が下りていないからである。そもそも一部の悪魔が一作目を鑑賞している時に本人が現れ、こってり搾られることになった。

 

『ハルちゃん、ちなみにチダルマが認めたお前のちびっ子の特異性って何なのかにゃー?』

 

『フフフ、それはなダストン』

 

 映画館の帰り際、買った小夏の生首ぬいぐるみを抱えながら、ハルは悪どい顔で言う。

 

『アイツの作った発明品には“デメリット”が存在する。そのデメリットが最強の私たちに通用する点で、まずおかしいとは思わんか?』

 

『んー? それは確かに、考えたことなかったにゃー』

 

『まぁ、基本面白ければそれでいいからな、私たちは』

 

 強いられる制約が反映されている間は、キャンセルができない。例えば「◯◯をしたら首がチョン切れる」という効果があったとして、その「◯◯」をした後、首がチョン切れることを悪魔パワーで防ぐことはできない。もし使う場合は首が刎ねられた後、元に戻すときなどだ。

 

 悪魔にさえも通用するその発明品。だからこそ、チダルマはそれを“特異性”と称した。

 

『小夏自身も、なぜ作れたのかわからない発明を作る時があるようだ。まさに天性の発明家なのだろう、アイツは』

 

『さすがハルちゃんの娘ということはあるにゃー』

 

『グフフフ、アイツは私にも、旦那にも似たのだ』

 

 魔法使いと、人間の子ども。生まれだけでも特別な少女は、特異な在り方を活かして生きている。

 

 

『私の自慢の娘さ』

 

 

 ハルはドヤッと、笑った。

 

 

 


 

 

【映画のパンフレットの抜粋】

 

 

 愛に狂い、

 愛に苦しみ、

 またあなたに会いに来る。

 

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