それとランキングに入ってたみたいです。ありがとうございます…!この作品を機に、原作に興味が出たぜ、って方はぜひ読んでみてください。そしてアニメを見て、二期ッッ!!ってなる人間が増えて欲しい。
能井ちゃんのラブコールという名の、手合わせコールが激しい。
研究室で仮眠を取っていても上に乗っかられて起こされるので、どうしたもんか悩んだ。
見たところ煙は能井ちゃんを気遣っている。ひとえにそれは肉親だからだろう。彼女が「死ねェ!」だの、中指ジェスチャーを向けても許している。
「でもよでもよ! アイツ俺の魔法が便利だからって、いっつも面倒ごと押し付けるんだ。パートナーになれ、ってしつこく迫ってくるし、本当にいっぺん悪魔の気まぐれにあって痛い目みねぇかな」
「パートナー」とは、夫婦的なものじゃなく、魔法界における二人一組で決める風習のようなものだ。
相手は友人でも家族でも、恋人でもいい。そしてパートナー契約をするには四年に一度行われる「ブルーナイト」という儀式で行う。契約には悪魔立ち会いのもと行うから、この期間は屋敷の悪魔もいなくなる。ハルちゃんもだ。
ブルーナイト自体はお祭りの状態で、皆がこの時には盛り上がる。
ボクは参加したことないけどね。だってパートナー作る気ねェもん。
実はボクの頭に仕込まれていたケムリ瓶も、このブルーナイトに向けて悪魔が開発したもので、パートナーを奪い殺し合うその様を、より楽しみたいがために悪魔が作り出した。
まぁ手術そのものが危険だから、あまり流行らなかったそうだ。
それはさておき、ボクは手合わせコールから抜け出すためにも、何か策を見出す必要がある。
一度ギッタギタのボッコボコにすれば絡んで来なくなるとも思ったが、
何か良い案はないものか考えて、不意に過ぎった考え。
「…悪魔とか、いいんじゃない?」
「悪魔?」
悪魔試験を受けて、悪魔になる。そうすれば肉親の繋がりがあって抜け出せない煙のしがらみからおさらばできるし、無敵な力も得られる。上位種になってしまえば、煙をボコボコにすることも簡単だ。
「めっちゃいい案じゃん、ソレ!」
シュッシュと、虚空に向けてパンチを繰り出す能井ちゃん。さながらホールのボクサーだ。
「なら話は早い。ボクの屋敷に来れば悪魔がいるし、誰かに話をつけてみよう」
「マジか! …っていうか、リンリンの屋敷に悪魔いんの!? 俺、行ってみたい!」
「えー…まぁいいけど」
通り道のことは内緒にさせて、ボクのベッドの下から二人で潜り込み、その奥の壁に入り込む。すると巨大な通路に出て、そこをしばらく歩くと一見したら何の変哲もない壁に入り込む。そしたらボクの屋敷に着く。
スゲェー!! と、叫ぶ少女を引き連れ、まず先にハルちゃんに相談しようと彼女の部屋に向かった。
今日は彼女の友人のダストンもいて、二人でカードゲームをしている。
「────と、いうわけなんだ」
端的に説明すると、ハルちゃんが「じゃあ私が」と手を挙げて、彼女のノリを読んだボクも手を挙げる。
『じゃあ俺が見るにゃー』
『「どうぞどうぞ」』
『……お前らほんとソックリだにゃー』
でもダストンは能井ちゃんの力が強いこともあり、それなりにやる気になっている様子。
悪魔試験では悪魔が試験官の立ち位置になり、候補生たちにさまざまな試練を与える。その過酷さのあまり死者や自殺者が絶えない中、悪魔になれるのはごく一部の魔法使いのみ。
まずは試験に精神が向いているか、カウンセリングから行うとのこと。良心的だね!
「頑張ってね能井ちゃん、死んでも地獄に行くから安心してね」
「いや、それは安心できねーよ……っま、俺の力は“修復系”だしな! 何とかなる気がするぜ!」
それから能井ちゃんの悪魔試験の日々が始まった。ボクが彼女のその様子を実況する気はないから、割愛させていただく。まぁ、何度か死にかけたようだよ。
後から聞いた話だが、能井ちゃんが悪魔になるのを一番楽しみにしているのはチダルマだそう。煙のイトコと聞いて、どんな悪魔にするかデザイン案を悩んでいるらしい、近頃は。
「………悪魔って、チダルマのデザインだったんだ」
『あぁ、名前はすでに決まっていて、「ホイ」にするそうだぞ』
ハルちゃんはジュースを飲みながら、呑気にそう言った。
⚪︎⚪︎⚪︎
久しぶりにホールに行ったら、カスカベ診療所が無くなっていた。
「え……」
そのまま膝から崩れ落ちて、重力を感じた。何だかんだで思い出深い場所だった。アイくんと過ごした場所で、博士と過ごした場所で。
「カスカベ博士、死んじゃったのか……」
更地になるということは、その施設の主が居なくなったと考えていい。それもここはホールで、命をいつ失ってもおかしくない。体も子どもになっていたから、身体能力も大人には負ける。さらに言えばあの人魔法使いを解剖してたわけだから、恨みを持つ輩がいてもおかしくはない。
ひとまず墓を探すべく、知っていそうな博士の知り合い──バウクス先生を探した。前に勤めていた病院に向かったが、彼はすでに別の場所へ移ったらしい。
聞くところによると、ホールで「町内会」のメンバーがことごとく生きたままバラバラにされる事件があったそうで、その被害者の治療をすべく急遽建てられた病院に移ったそうで。
町内会はその一件を受け、解散してしまったようだ。魔法使いへの一つの抑止力になっていた存在が消える…か。時代は流れていくものだね。
「よっ、バウクス先生!」
「うおわぁっ!!」
病院に入り込んで、霊安室の保管庫に入り込んだボク。そこに隠れて先生が来るまで数時間待った。こうやってお茶目に先生を脅かすのは、前からの習慣である。リアクションが面白いのだ。博士じゃ「あはは、ビックリしたよ」で、笑顔で終わるし。
「南無阿弥陀仏……」
「ちょっと、幽霊じゃないってば。ボクだよボク、超絶美少女スーパーガールのリンリンちゃんだよ!」
「超絶極悪マナイタガール?」
「さらっとセクハラ発言するな! ボンキュッボンにいずれなってやるさ!」
お礼に腹のお肉を摘んで悲鳴を聞いて、博士の墓を尋ねる。
すると帰ってきたのは首をかしげる動作。
「何を勘違いしているか知らねぇが、あの人生きてるぜ?」
「うえっ?」
今は家に今朝採れたての魔法使いの死体を持ち帰っている、とのこと。
バウクス先生曰く、この病院──「魔法被害者病棟」で博士は勤務しているらしい。元の病院の方はカスカベ博士がこちらがメインになったこともあり、建て壊しになったそう。何だ、博士は生きてたのか。
「ハァ〜……そうだよね、あの変人博士がそう簡単に死ぬわけないよねぇ。心配して損しちゃった」
「お前もあの人と似たり寄ったりだけどな」
「それは褒め言葉? それとも売り言葉?」
「褒めてるから無言で拳を作るな、死ぬ」
せっかくだし病院の手伝いをしつつ、博士が戻って来るまで待った。夕方近くに帰ってきて、ボクを見るなり「お?」という顔をする。博士ェ〜!
「わはは、何だい急に?」
「博士だ博士だ──!」
血で汚れた白衣を着ている博士を持ち上げて、天井に衝突しない程度で投げる。二度三度と繰り返し、博士が吐きそうになるまで続けた。
「うん、今日も元気いっぱいだねリンリ……おえっ」
「おまっ、博士に何してやがんだ!!」
博士と会う目標は達成したので、お土産のキノコ(煙からもらったが量が多くて食べ切れなかった)を渡し、スキップでボクは病院を去った。
そういや、バラバラ殺人の犯人はツギハギの少年らしいけど、雨が降っていたとはいえ一度ボクが殺されかけた連中を殺しちまうなんて、中々粋なことをするね。
「アイくん、ボクは結構元気でやってるぜ」
花束を置き、墓の前で手を合わす。これももう何度目になるだろう。
時間は遅いようで、あっという間。
それが少し、寂しいと思った。
⚪︎⚪︎⚪︎
胸がドキドキしている。“彼”を見ていると、心臓が張り裂けそうになる。
あぁ、恋だ。絶対コレは。
煙ファミリーに新しくツギハギだらけの少年が入り、ブルーナイトが近づいてきた。能井ちゃんの方も悪魔試験が最終段階にきていて、「一年間魔法を使わない」という試練中。この間見たら、ツノと尻尾が生えていた。
ツギハギ少年に関しては腕を見た時まさかと思ったが、ホールで暴れ回った魔法使いで間違いなかった。
ボクと同じハーフの存在。歳はボクの方が少し上だ。ボクと似たようなもんだが、体内構造が気になったので、こっそり眠らせて解剖した。造りは人間の血が半分あるにも関わらず、魔法使いとして申し分なかった。
彼は言っていた、ツギハギの部分は管を探すために自分で切った──と。体がツギハギのままなのは、処置が遅かったかららしい。
知りたいことは知れたから、その後くすねていた能井ちゃんのケムリ瓶で体を治して、廊下に放った。バレなきゃいいのである。
そして、運命の出会い。
能井ちゃんから前に聞かされた、悪魔の肉を食ったという話を覚えていて、屋敷でふと思い出しハルちゃんに聞いたのだ。悪魔の肉の詳細を。
『
その戻す過程で悪魔を解体すると、悪魔の肉ができる。
悪魔になるにはその肉を食べることが必要で、能井ちゃんは掟を破った悪魔の肉を食った、ということになる。
『フム…ちょうど今の時間だと放送されている頃かな? ちょっとこっちに来い、小夏』
ハルちゃんがボクの腕を引っ張り、体内に引きずり込む。核のハルちゃんに促され、二つの穴を覗くように言われた。
その穴から、悪魔たちの目線で外を見ることができる。マジで悪魔の体どうなってんだろ。
「解剖……いい?」
「ダメに決まってるだろ。そもそも無敵の体には魔法も武器もきかんぞ」
ハルちゃんがチャンネルを変え、“地獄放送”なる悪魔制作の番組を流す。
画面にはがらんとしたショーケースが映されており、その上には電話がある。誰もいないそこに突如ズズ…ズズ…と、黒いモヤのようなものが映し出された。
そして現れたのは、異形。
黒い鳥の頭部を持ち、目をぎょろつかせている。頭上には天使のごとき黒い輪っかが浮かんでいた。
腕は根本からなく、肉の断面がありありとうかがえる。その腕の代わりとして機能しているのか、異形が体を前のめりにして羽を動かし、茶を淹れて飲んでいた。
何もなかったショーケースには、一瞬のうちに現れた肉の塊が陳列している。
「あれが前に話した異形の肉屋、「ストア」だ。奴は悪魔にしか見えなくてな。ゆえにお前をここに入れて、デビルアイを通して見てもらっている。アイツは魔法使いでも悪魔でもない。善でも悪でもない──掟を破った悪魔はストアの羽の先にある包丁によって、瞬時に解体されるのだ」
「………」
「小夏? どうした、黙って」
「……す」
「す?」
──────しゅき。
⚪︎⚪︎⚪︎
ハルちゃんのドン引きした視線をいただいた数日後、事態はトントン拍子に進んだ。
話を聞いたチダルマが爆笑して、お見合いの席を作ってくれたのである。色々過程をブッ飛ばしているが、些細な問題だ。
博士の家を想起させる和な部屋で、庭からカポーンと聞こえる、ししおどしの音。
机を挟んだボクの正面にはストアさんがいた。3メートルを越える肉体が逞しい。体重はなんと1トンだそうだ。座高がボクの身長よりあるのすごい。
『ナナナァ』
ストアさんは「ナ」しか喋らないので、通訳として彼の隣にチダルマが。
私の隣にはハルちゃんがいる。ずっと「お前正気か?」というような発言が絶えなかったが、ボクはいつも正気だ。多分。
ちなみにストアさんが見えるのは、事前にチダルマの悪魔パワーを食らったからだ。なぜ「ナナナ」語をわかる機能も入れてくれなかったのか。
通訳の会話まで入れるとややこしくなるから、ボクと彼の部分のみ抜粋して思い出そう。
「えっと…ご職業をうかがってもよろしいですか?」
『ナナアッ』
「肉屋…素敵なご職業ですねっ。ご趣味は?」
『ナーナナ』
「悪魔を切り刻むこと──ですか。ち、ちなみにボ……ワタシが悪魔になったら、切り刻んでくれますか?」
『ナッ〜〜〜ァ!』
「はうん、嬉しいです…!!」
隣から、何だコレ、と冷静なツッコミが入る。翻訳については涙を流し、腹を抱えて畳を叩いている。途中から雰囲気でしか言葉がわからなくなったが、そこは気持ちで何とかした。
「さ、最後にストアさんがよければ……ワタシと付き合ってくださいませんか?」
『ナ? ……ナナァ!?』
チダルマから内容を聞いたストアが驚いた顔をする。毒々しい見た目とは裏腹に、垣間見えるキュートなところが堪らない。
『ナァ………ナナナナ』
「そう…ですか。そうですよね……だってボクは、悪魔でもないただの魔法使いですから…」
『ナナァ!』
「でも……?」
ストアさんはいつでも肉屋で待っている、と言ってくれた。それはつまり、店員と客の関係でしかない。
それでも──それでいいなら、いつでも待っている、って。
「ストアさん……!!」
『ナーナナ』
思わずストアさんを抱きしめた。ボクより大きくて、何だか生臭くて、血の匂いがする。頭は鳥だけど下は人間の体を筋骨隆々とさせた感じで、カギ状の足が魅力的だ。
「ボクはまだ発明家として生きていたいから、悪魔にはならない。でもいつか悪魔になって、ストアさんに解体されに行くよ。だからどうかそれまで、ボクのこと…忘れないでね」
『ナァーナ…』
翼が動いてボクの頭を撫でてくれる。ハァ、好きだ……。
『小夏、小夏……。私はたまにお前という生き物がわからなくなるぞ』
『ヒィー、ヒィーッ』
『お前は笑いすぎだ、チダルマ』
『カカッ! だってよォ、ストアに本気で惚れたやつなんてオレ様でも見たことねぇぞ』
そして、時間はあっという間に過ぎて、ストアさんとの別れが来た。鼻水と涙でぐちゃぐちゃなボクの顔を、ハルちゃんがハンカチで拭う。手を振ると、ストアさんも振り返してくれた。
『お、ちょっと待て。最後にストアから何かあるみてぇだぞ』
「じゅ、ジュドア゛ざんがら゛…?」
羽…というか腕が伸びて、どこから取り出したのか、羽の先と似た形状の刃物(?)のようなものをボクの前に差し出す。
柄の部分にストアさんの羽がついてる!! ふわふわ! けれど芯は
デカいそれを受け取った瞬間、その重さに引っ張られるようにして、体が沈んだ。何これ、メチャクチャ重い。
刃物を持とうにも地面にめり込んだそれを動かせず、仕方なくケムリを使って持ち上げた。長さは目測60センチ以上。
羽の部分をセクハラオヤジみたいな手つきで触っていたら、後ろから伸びてきた手がそれを回収して上にあげた。どうしてそんなイジワルな男の子みたいなことするんですか、ママ?
『ダメっ、小夏ちゃん、ダメッ!』
「返してよぉ〜!!」
悪魔サイドは驚きの雰囲気に包まれている。その正体が何か察したが、それでもボクが彼からもらったんだ。いくらハルちゃんでもあげるわけにはいかない。
『…………「愛」ねぇ、オレ様にはわからねぇな』
ポツリと、チダルマが呟く。
結局その包丁はハルちゃんが『何でも入るくん』に入れ、管理することになった。本来なら悪魔──それもチダルマが管理するそうだが、ボクが渡されたものなので、自分で持ってていいそうだ。
ただ悪魔さえ殺せる危険物だから、使う時は一声かけろ、とのこと。
「グスン……バイバイ、ストアさん」
『ナァ──!』
翻訳なしの別れの言葉。でもボクにはわかったよ。
────オマエ ニク オマエ ニク
ボクも楽しみに待ってるよ、ストアさんに切られるの。