「ボク」っ娘系メカニックちゃん   作:アビ田

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青い虫のいる頃に。

 恋多き乙女と言えばこのボク、小夏ちゃんだ。

 

 ストアさんとの涙の別れから時が経ち、ブルーナイトがやってきた。

 

 期間は三日間で、オープニングパーティーを執り行うのは煙ファミリー。ボクは静かな屋敷で三日間工房にこもって作業ができる。いつも寝ろ──ってうるさいハルちゃんが、ブルーナイトの仕事でいないからね。

 

『お前も行くんだよ、煙ファミリーの関係者だろう』

 

 招待状が来てた? そんなもの見ずにそこら辺に捨てちゃったよ。前は味をしめた能井ちゃんが屋敷に勝手に来て騒いでいたが、最近はシンくんと絡んでいて、ようやく解放された。ただひたすら孤独を噛みしめたい。ちょっと泣きつつ。

 

『キサマ、モチベ的に下がっている時期だろう。少し遊んで気分転換してこい』

 

「えーん、ハルちゃんはボクがそこらのモブ男に無理やりパートナーにさせられてもいいんだ」

 

『その時は相手を殺す。絶対に、必ず、私がこの手で』

 

「………う、ウン」

 

 鳥肌が立つほど部屋中に悪魔の殺気が蔓延した。

 

『なら、こういうのはどうだ? 小夏は『死んデレラ』は知っているな?』

 

「『死んデレラ』?」

 

 死んでいる少女だから、死んデレラ。

 

 一部抜粋すると、悪魔の力で生き返った少女は午前0時になると、魔法が解けて元のドロドロとした腐敗する屍肉に戻ってしまう。そんな少女は王子と天下一武道会で(おど)って、0時を知らせる鐘が鳴り、嵐のように逃げ去る時に真っ赤な靴を落として──というお話らしい。児童絵本とか読んだことねぇよ。

 

 

『……もしかしたら、お前の母親が読んでくれたかもしれないな』

 

 

 ────とっ、とんでもない地雷を踏んじまった。エブリデイウハウハな悪魔が落ち込むって相当だよ。もう幼児プレイしてもいいから、元気出してよハルちゃん。

 

 

「あ〜〜〜その『死んデレラ』って本、ボクめっちゃ気になる〜〜! 後でハルちゃんに読んでほしいなぁ! むしろハルちゃんの美声な朗読を聞けないと、ボク地獄に逝っちゃうよ──ー!!」

 

『そ、そうか? ……フフフ、そうだな。私が後で読んでやろう、光栄に思うがいい!』

 

 気分を持ち直したハルちゃんは、腐敗少女をなぞらえて、彼女の力でボクを三日間大きくしてくれるらしい。このツルペタわがままボディの体を、だ。神様仏様悪魔様。

 

「ぼ、ボクが核ハルちゃんみたいなナイスバディになっちゃうの…?」

 

『多少体の成長に合わせて、思考が変わるかもしれないがな。まぁしょせんお前だ。特に精神は変わらんだろう』

 

「マジかぁ! ボクが期間限定だけどナイスバディになっちゃうんだ!! ブルーナイト最高じゃん!!」

 

 現金な奴だと、いくらでも言うがいい。でも成長の兆しがない子どもボディなんだ。核ハルちゃんみたいな胸に憧れたっていいだろ……。

 

『ただし、調子に乗り過ぎるなよ』

 

「はーい!」

 

 こりゃあ早速、当日に向けて衣装デザインを考えなくちゃ。せっかくだし胸を強調させるデザインにしたい。男を悩殺させるセクシー小夏ちゃん、うーん、罪深いぜ。

 

 はじめてのブルーナイトの参加。俄然ワクワクしてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

 ブルーナイト初日。

 

 僕はハルちゃんが見つけてくれた煙ファミリーの招待状を持ち、メインゲートへ向かった。ブルーナイト会場を囲む壁だけでも10メートル以上ある。スタートは10時からで、期間中は敷地内から外部への移動ができなくなる。逆もまた然り。

 

 そのため、中には三日間のためだけの宿泊施設もある。金に物を言わせた造りだ。

 

「はいコレ、招待状」

 

「拝見いたします……えっ? …あ、リンリン様でしたか! 失礼しました、どうぞ中にお入りください」

 

 僕のように招待状を持っている者は、オープニングパーティーに参加できる。煙直々の挨拶が聞ける。対しその他の一般参加者は入場券を渡し、ケムリの検査などをして、一定基準に満たない者は落とされ、弱い奴らをふるいにかける。

 

 この一般参加者の中には当然、煙ファミリーの幹部とパートナーになりたいがために来ている連中もいる。能井ちゃんは幹部ではないが、超希少な「修復系」の魔法使い。狙う輩は数多いるだろう。でもそこはシンくんが身を呈して守るはずだ。あの二人の距離が近いのはまるっとお見通しなのだ。

 

『おっ、ハルのお気に入りじゃねぇーか』

 

「へぇー、悪魔が店員やってるの」

 

 中はテーマパークになっており、アトラクションがたくさんある。

 

 ボクに声をかけたのは屋敷に来る悪魔の一人。『悪魔射的』なる、のれんがかけられている。屋台だ。

 

 射的に失敗して、フッ…と、何事もなかったように発明家リンリンはクールに去るぜ。

 かき氷…じゃなくて悪魔氷もあったから頼み、それを食べながらパーティー会場へ向かった。…ねぇ待って、血の味がすんだけど。

 

「はぁーん、ドレス歩きづらい〜」

 

 ちなみに服は漆黒のドレスである。やはり僕には黒が一番似合う。

 ハルちゃんの悪魔パワーで体の大きくなった僕は、胸も尻も大きくなった。まさにボンキュッボン。

 

 胸元は大きくはだけるデザインで、ヘソ上からV字型になった布が首の後ろに行く。背中も大胆に出している。横から見ると、胸の先が見えないギリギリのラインだ。一歩間違えたらモロ出しになっちゃうこのスリルが堪らない。

 

 下は逆に僕の生足を見せない設計。靴は膝上までロングブーツだ。髪は下ろしているから、素顔だとマジで誰かわからないだろう。

 

 

《──で、あるからして……》

 

 

 煙の多分ありがたかったお言葉を聞き終え、ブルーナイトの始まりである。テーブルに並んでいるご飯が美味しいぞぉ。

 

「あの、リンリン様、この後少しよろしいでしょうか?」

 

「んん?」

 

 煙ファミリーの部下の一人が、幹部らの控え室に来てほしい、という。嫌な予感がしたが、ボスからの頼みだそうで、断りにくい。

 行ったら行ったで部屋の中に煙がいて、僕の姿に驚きつつ部下に紙の束を渡させた。

 

「何これ、暗殺リスト?」

 

「いや、暗殺は頼んでいないだろう。君の今日の分の応募者リストだ」

 

「……応募者ァ?」

 

 曰く、煙ファミリーのパートナー募集の中に混じっていたらしい。僕煙ファミリーの魔法使いじゃないんだけど。確かに煙ファミリーと発明家リンリンが提携を組んだ──って、新聞に載ってたらしいのはハルちゃんから聞いたが、組織の一員になったわけじゃねぇよ。

 

「フーン、まぁわかりました。暇つぶしにはなると思うし、このリストにある連中が僕のことをパートナーにするべく、襲ってくるってことね」

 

「あぁ、そうだ」

 

 ──と、そんな控え室にも早速煙のパートナーになりたい奴らが現れては、キノコにされて行く。別にパートナー志願者を殺してもいいわけだから、遠慮なく()らせてもらおう。この体でどれほど動けるか知りたいしね。試しに一人の体を使って、どこまでその全身を小さくできるかやりたい。

 

「にしてもリンリン君、なぜ君は大きくなっているんだ…?」

 

「やだなぁ、煙さん。成長期ですよ、成長期」

 

 能井ちゃんと同年代扱いをされているので、もう面倒だから普段年齢を聞かれたら、「永遠の13歳」と言っている。実際13歳くらいからまったく成長していないからな。なぜ成長が止まったのか、その原因を探るためにも一度カスカベ博士に調べてもらった方がいいかもしれない。

 

 

 それからハルちゃんがいないのをいいことに明け方までアトラクションで遊んで、時折来る魔法使いを殺しながら過ごした。

 

 現状だと、魔法使いの体をボールサイズにまで小さくすることができる。実際のボールと比べれば色んなものがギッチリ詰まっているから、その魔法使いボールを他の応募者に当てると、景気よくパァン、と吹っ飛んでくれる。

 

「ヒェ…」

 

 そんなブルーナイトを謳歌する僕を見た連中の反応はまちまちで、腰を抜かす魔法使いもいれば、僕の作ったボールを欲しがる悪魔もいた。そのまま悪魔数名で野球をし始めたが、チダルマに怒られはしないのだろうか。一応このブルーナイトは悪魔の間でも大きな仕事だったはずだ。

 

『あ、ヤベェ、家の方に飛んでった!』

 

『バカ野郎、当たったらチダルマに怒られるぞ!!』

 

 宙に浮かぶ黒い家。本来は、悪魔たちのハウス。いや、正確にはチダルマの家らしいが。

 

 パートナー契約は手続きを踏んで、あそこで行う。ハルちゃんも今頃あそこで仕事をしているのだろう。屋台を一通り回ったけど、いなかったから。

 

 目にもの止まらぬ速さで移動した悪魔は、球が家に当たる寸前でグローブに収める。能井ちゃんももうすぐ彼らの仲間入りか。確か前に会った時、ブルーナイトが終われば悪魔試験も終わる、って言ってたもんな。

 

 

「お、リンリン見つけたぜ! ……って、あれ?」

 

 

 噂をしたら、後ろから能井ちゃんの声がした。

 振り返ると僕より顔が下にくる美少女が。あら? マスクを突き破っていたツノと尻尾が無くなっている。

 

「あー……これは、実はちょっとな」

 

 どうやらつい先日魔法使いの強襲に遭って、紆余曲折を経て試験が失敗したらしい。魔法を使ってしまったんだそうな。

 

「へぇー、自分をかばって傷ついたシンくんを助けるために、魔法を使ったんだ……」

 

「ウン……って、何でニヤニヤしてんだよ。お前の友だちが悪魔試験失敗しちゃったんだぞ!」

 

 というか、なぜ大きくなっている! ──と、彼女は叫ぶ。普段見下げられている僕の気持ちを味わっていることだろう。でも年下にイジワルする気はない。今の僕は正真正銘お姉さん。超絶美人の。

 

「では、試験を頑張った能井ちゃんに、僕が何かおごってあげよう」

 

「ニクッ!!」

 

「わーい、即答」

 

 その前に彼女を守った功労者もお呼びしないとね。その辺にいたファミリーの部下を捕まえて、居場所を探すよう頼む。30分しないうちに、魔法使いに追っかけられているシンくんを見つけた。その30分の間に、僕も能井ちゃんも襲われている。

 

「時にリンリン」

 

「急にかしこまって何、能井ちゃん」

 

「俺、悪魔試験でめっーちゃ強くなったんだよねぇ。というわけで肉の前に────俺と戦え!!」

 

「バーサーカー能井ちゃんのお出ましだぁ!」

 

 ブルーナイトで本格的な戦闘に陥るという、思ってもみない事態。聞くと、悪魔試験の過程で彼女は剛力を手に入れたらしく、拳一発で地面がえぐれる。本当にバーサーカーじゃないか。

 

「今日こそは、絶対勝つ!!」

 

 応募者を殺し終えて、「何やってんだアイツら…」というシンくんの冷たい視線が向けられる中、僕と彼女の戦いが始まった。

 

 結果、勝利は僕。でも想像以上に強くなっていて、余裕こいていたら肝が冷える場面がいくつかあった。ダイヤルをかなり回したと思う。脳が熱い。

 

「クッソォ──! いつか絶対ギャフンと言わせるからな!」

 

「はいはい、そろそろご飯食べよう。もう朝ごはんになるけど」

 

 

 そうして、三日間。

 中々楽しい初ブルーナイトだった。

 

 

 ちなみに能井ちゃんはブルーナイト最終日、シンくんと同じ「掃除屋」──暗殺のお仕事──となり、タッグを組んだ。

 実はバーサーカーなシンくんと、バーサーカーな能井ちゃん。バランスが悪いように見えて、意外と息の合う二人。

 そのままパートナーを組み、甘酸っぱい──ではなく、血生臭いコンビができた。

 

 僕も将来もしかしたら、パートナーを作るのかもしれない。

 

 ストアさんは魔法使いじゃないから無理だが、もしかしたらアイくんとパートナーになれる未来もあったのかもしれない。

 

 

「この姿の僕を見たら、絶対即落ちしちゃうねアイくん」

 

 

 楽しかったけど、心の奥では小さな穴みたいなのが空いていた。

 

 ストアさんのは早めに治ったけど、アイくんへの“コレ”は中々治らない。

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