能井ちゃんが
ボクも、逆に考えるんだ…精神で、手合わせした報酬に彼女のケムリをいただくようになった。今まではコッソリ盗んでいたものを、堂々と採取できるように。
よくボクちゃん死にかけるから、クソ高い“修復系”のケムリをタダでゲットできるのは熱い。
「なぁ、リンリン。俺とも手合わせしてくれないか?」
30分ほどで能井ちゃんとの肉弾戦が終わった後 訓練場で珍しくボクらを眺めていたシンくんが、そう切り出した。
彼の魔法は「生きたままバラバラにできる」能力である。
ケムリをかけられた魔法使いや人間は、体がローストビーフみたいになる。普通なら即死もんだが、そこは魔法。流石に長期間放っておけば死ぬが、敵を死なせず内臓を断面からチコッと刺激するなど、拷問に適した力だ。
シンくんの強さは実際に経験したことはない。
戦闘スタイルに興味もあったから、彼の方はケムリなしを条件にして戦うことにした。魔法を使われちゃ、手合わせも何もないからね。
「知ってるかもしれないが、ボクの魔法は身体強化系の中でも、トップクラスだ。ボクって女の子には紳士だけど、男の子には加減しないから────舐め腐ってると、死んじゃうかもね?」
感情の起伏で力が増すことは、申告していない。ケムリの検査でもボクの力が身体強化系であることはわかるが、それ以上を調べる技術はない。
知られているのはハルちゃんのお気に入りということや、ボクが「発明家リンリン」として活動している間の出来事程度。
かつて工場で、ど底辺魔法使いとして働いていたことは知らない。知る由もない。
それで、煽りを入れてみたが、相棒と違いシンくんは落ち着いている。
「──ッハ!」
いや、待てよ。いつもの好青年の顔が変わって、凶悪な表情になったぞ? バーサーカー状態の顔だ、アレは。それも魔法使いを殺して、「弱ェヤツらは死ねッ!!」って叫ぶタイプの。
「俺は誰かさんみてぇに、脳筋じゃねぇぞ!!」
「その「誰かさん」って俺のことっすか、先輩!?」
ちなみに武器はアリ。シンくんの武器はハンマーだ。服は基本的にスーツで、マスクは心臓を模したもの。腰にチェーンを付けているところが、男の子な時期なんやなぁ──と、感じさせる。
能井ちゃんが脳筋一強のパワー型なら、シンくんはしっかり状況を読んで人の急所を狙いに来る。
二人が協力プレイしたら、ボクも負ける気がする。でも彼らワンマンプレー同士だから、協力して戦うのは無理だろう。
先ほどと同じく30分で切り上げて、地面に寝転がった。ハードな戦い二連戦はさしものボクでもキツイ。
シンくんも大の字になって、一人だけ疲労から回復した脳筋ガールが「もう一回!!」とラブコールをしている。悪いがその告白、断らせてもらうぜ。
「ハァ、つかれた…。っていうか、あんた戦いの時もだが頭の回し? に、触れてるよな。ソレって何なんだ?」
「コレは回すと気分が良くなるんだ。使うと頭がスッキリして、眠気もなくなる」
「発明家の発明、ってことか」
以前はマスクと帽子が一体化していてクソ回しづらかったが、ハルちゃんが改良して帽子が着脱可になった。マスクとしての機能を成すのは顔につける方だから、もし帽子が取れても問題はない。
髪も下ろすことができるようになったから、ムシムシした空気から解放された。
ちなみに食事をする時は、クチバシが開くのでそこから食べられる。
食べる時はでも外すから、能井ちゃんや技術開発部の連中なんかはボクの素顔を拝んでいる。
発明家リンリンは、謎多き美少女なのだ……。
⚪︎⚪︎⚪︎
煙ファミリーと提携を組んでそれなりに時間が経つと、だんだん家との往復が面倒になり、ついにはファミリー用の自分の部屋を改造して、第二工房を作ってしまった。
工房にしては自分の部屋だけだと狭いので、壁をぶち破って広くした。
号泣していたお隣さんは強制退去させた。安心してね、あんたの部屋はボクが有効活用するよ。
そして居座る時間が長くなると、煙ファミリー扱いが加速化する。
ボクは煙ファミリーの発明家リンリンじゃない。ハルちゃん
おうちに帰る時間は減ったが、それはそれでハルちゃんがのんびり過ごしている様子。毎日一回はボクの顔を見に来るけどね。ついでにご飯を冷蔵庫に突っ込んでいく。
これが通い妻ならぬ、通いママ……?
そんな、割と平穏な日々を過ごしていたとき、魔法界に暗雲が立ち込み始めた。
「キリキリ」以来の不穏因子として、煙がソイツらを駆除するべく動き出した。
「十字目」────それが、上流魔法使いなどを殺している組織。
構成員は両目の周りに赤い十字目の刺青を施している。魔法界の社会的弱者で構成され、かつてのボクのようにろくに魔法を使えない者や、あるいはまったく使えない者が属している。
貧困層の魔法使いが当然ねらうのは、上流階級。
まぁ、わからなくもない。殺そうと思う気持ちが。基本的にお上から並の力を持つ魔法使いは、底辺魔法使いを差別し、虐げている。魔法使いなのに、魔法使い扱いされない。それが底辺たちの実情。
遠い昔に感じる工場での日々を思い出すかのような出来事だ。まぁあの時のボクらはご飯はもらえていたし、マシではあったのかもしれない。
底辺の集まりが組織として活動するには、少なからずまとまった資金が必要になる。
その謎を解くのが、裏で流行っているらしい“ブツ”の存在。
「魔法使いの力を強化する、「黒い粉」か……」
煙ファミリーは十字目を最大の標的とし、また黒い粉も検挙対象にしている。使っていたら十字目じゃなかろうが殺される。
ボクはというと、ものすごくソレが欲しい。当然成分の解析や、実際に使ってみたいという意味で。
これは現在の憶測でしかないが、魔法の力を強化するという点で、黒い粉の成分にケムリが入っているのでは?──と、考えている。ケムリも色が黒だしね。
だが煙のアジトでは押収したものを厳重に保管しているため、手に入れることができない。
ゆえに方法は、実際に十字目の構成員から買うしかない。構成員は世界各地にいるらしい。本拠地がおそらくあるはずだが、まだそれはわかっていない。
「っま、行くっきゃねぇな」
と、いうわけでやって参りました。来たことのない街です。
まず煙ファミリーのアジトから近場は却下。
魔法界にも電車はあるから、それに乗って先にリストアップしておいた下級魔法使いの多い街に行く。
サイコロを振ってその出た数の駅に降りたいところだが、今日はナシだ。
そして、着いた街。
ホールの人間が憧れる魔法使いだが、実際はろくに魔法も使えない奴もいる。
そういう奴は盗みでもしてその日を凌ぐしかない。
「さて、十字目の魔法使いを探すか」
裏路地など、いそうな場所を探す。一応煙ファミリーの方にもしばらくイマジネーションの旅に出かける、と言ってある。何がボクの想像の火付け役になるか、わからないからね。無論マスクはハルちゃんマスクじゃない、別のものを使っている。服は普通だ。
だが情報がほとんどない中で、初っ端から十字目と当たるわけもなく。
いなかったらホテルに泊まって、移動しては探し──を繰り返し、一週間ほど経った頃。ようやく第一十字目を発見した。目に確かに十字の刺青がある。ソイツの後を追い、ゴマを擦りながら「げへへ、実は黒い粉を買いたいんですけどにぇ…」と、交渉に出る。
「なんだ、黒い粉が欲しいのか? ……けど払う金はあるのか、嬢ちゃん?」
誰が「嬢ちゃん」だこなクソボクは二十歳を越えてんだぞッ死ねッッッ!!!!!
──などと、ブチギレてはいけません。分別ある大人なのです、ボクは。
金はあることを伝えたら、近くの街にある十字目が秘密に集まるビルを教えてくれた。表向きは飲み屋だが、裏で黒い粉の取引を行っているらしい。
もちろんこの情報に対しての報酬はこの魔法使いに払う。金は受け取ったかい? ついでに場所を変えて裏路地で話したから、人がいないことは確認済みだよ。
「あっ!」
「え?」
ボクが指を指した方向を向く魔法使い。黒い粉を欲しがる奴らは下級魔法使いな上、ボクが子どもサイズだから油断しきっている。
その隙を突いて、マヌケな相手の顔を殴り、頭を吹っ飛ばした。転がった首は壁にぶち当たってブヂュ、と音を立てる。
あとは残った体をブルーナイトの時のように小さく潰して、球にする。この工程は結構楽しいけど、服が真っ赤になってしまうのよな。それと周囲が血の海になる。
最後にその球を壁に付着している頭に向かって投げ、見事命中した。壁も崩落しちまったぜ。球はそのまま遠くへと飛んで行った。
「フー……スッキリした」
こういう時、人間だったら煙草を吸いたくなるのだろうか。
魔法界だとキセルが一般的で、ホールにしか煙草がないから後で博士の物を
「とりあえず場所は掴めた。明日向かうか」
翌日ボクは、肉塊魔法使いに教えてもらった街へと向かった。