「ボク」っ娘系メカニックちゃん   作:アビ田

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ご飯美味しすぎるだろ。


いっぱい食べる君は138キロ。

 次の日、夜遅くボクは目的の場所に向かった。

 

 裏に行く方法は、まず特定の料理を頼む。

 そのあとそれを食べて、「トイレはどこですか?」と尋ね、店員が場所を案内するのでそれについて行く。

 そして二人きりになったとき店員のポケットにチップ(入場料)を渡すと、秘密の部屋に案内される。

 

 心臓がバクバクしたよ、だってまるで秘密の取引してるみてぇで、カッコいいじゃん。

 

「コチラになります」

 

 扉を開けると、薄暗い中で広い空間が広がっていて、思ったよりも多くの魔法使いがいる。十字目の奴もいるが、一般客もいる。メシを食べたり話したりと、ディスコっぽい雰囲気を感じながら、人の波に揉まれつつ奥へ向かった。

 

 そして無事、黒い粉を買えた。分析用とお試し用と……で、かなりの量を買った。「修復系」のケムリほどじゃないけどお高めだ。一応、下級魔法使いが大枚はたいて買える値段設定にはされている。暴利じゃ買う奴いなくなるだろうし…いや、それでも買う奴はいるか。

 

 買ったそれを胸元に挟──むことはできないから、服の裏ポケットに突っ込む。ボクの動作を見ていた売人は、憐れむ目をした。残念だが、キミはもうお家に帰れないよ。

 

 

 ────ざわっ。

 

 

 そのとき、室内がざわついた。有名人でも来たのかと、人混みで見えないから、椅子に乗って状況を確認する。

 

 開いた扉の先にいたのは、二人の少年。一人は中性的な顔立ちの少年と、もう片方は頭に兜をかぶって帯刀している少年。さっきボクを案内した店員が二人の側にいて、ペコペコと赤べこになっている。

 

 その少年らの目には、十字目が。組織の中でもお偉いさんというわけか? 

 気になったので、死亡フラグが確定した売人に尋ねる。

 

「知らないのか? あの方たちは十字目の側近だ。中性的なのが「毒蛾(どくが)」さんで、右目に傷があるのが「鉄条(てつじょう)」さんだ。あんたラッキーだな、お二人にお目にかかれるなんて」

 

 二人が来たのは上納金をもらうため。でも基本はこちらから渡しに行くため、直接来るのは珍しいらしい。

 

 聞けば十字目は、「ボス」の圧倒的な強さや上流魔法使いを殺す様にあこがれて入る者が多く、まるで磁石に引っ張られるように増えている組織らしい。

 

 煙も似たタイプだが、あのキノコおじさんは戦力や有用性が高い魔法使いを自ら勧誘している面がある。

 

 対しボスは、「おいでよ十字目!」というムーブがない。ひたすらガンガン突き進むタイプらしい──と、心酔した様子で話す売人が気持ち悪かった。だって両手を握って、「ふわぁん、ボスゥ!」と、夢見る乙女みたいな反応をしてやがる。オッサンのくせに。

 

「恋する売人さんは、ボスに会ったことあるの?」

 

「誰が恋する売人さんだ! 俺のは憧憬だからね? 履き違えないでね? …まぁ、一度だけな、遠目から見たんだ。デカい体で、フードをかぶっていたから顔は見えなかったが、そこに存在するだけで圧倒されるオーラがあったよ」

 

「ふぅーん…」

 

 未だ謎が多い十字目のボス。巨漢の、恐ろしく強い男だということはわかっている。ついでにそのナイフ捌きは、比肩する者がいないとか。

 

 魔法を使わずして、魔法使いを伸す。十字目の在り方からして、そのボスも魔法が上手く使えない可能性が高い。仮に煙とそのボスが戦ったとして、どちらが勝つか。……まぁ、煙だろうな。あのキノコおじさんの力が本物なのは、身をもって知っている。準備をして状況を整えればボクにも勝機はあるが、今さらお世話になっているおじさんを殺す気もない。

 

 側近二人がこちらに向かってきたので、さり気なくフェードアウトする。

 

 二人が売人と会話し金を渡す様子を見つつ、ボクは用がなくなったこの場所から退室した。

 

 だがまだミッションは残っている。ボクの胸を憐れんだ売人さんを闇に葬らなければならない。事、ボクのコンプレックスに対しては、超絶に根に持ちやすくなる。

 

 この、博士に調べてもらっても特に異常のなかった体。他に原因があるのかもしれない。ハルちゃんに聞いても、何も問題なし、扱いだったし。なぜか目を逸らしていたのは気になったけど。つーか、犯人がその時わかったけど。あのママ野郎……でも小夏ちゃんは許した。その代わり許せない分は、ボクの体を貶した奴らで償ってもらう。

 

 

「なっ……お、お前はッ!!」

 

 

 朝方になった辺りで、建物から出てきた売人をこっそり追跡して殺し、ボールにして地平線の彼方に向かって勢いよく投げた。

 

 眠くなってきたので、今日は街のホテルに泊まってからボクの屋敷に帰り実験する。いやぁ、楽しみですな。

 

 

 スキップでホテルに移動し、シャワーを浴びて床につく。

 

 その数時間後、ボクは室内に気配を感じて目を開けた。

 下着姿の淑女の部屋にいる、二人の魔法使い。ばっちりと目が合った。

 

 

「ぎゃっ──ー! 強姦…むぐっ」

 

 

 ボクの口を押さえる右目にキズのある少年。そして片方は縄を持ってボクを拘束する。これなんてプレイですか? 

 そのまま椅子に座らされ、さらに手足を椅子に固定するように縛られる。両手は切り落とされて、ベッドが真っ赤になった。

 

 えっ? なぜ身体強化の能力持ちのくせに、抵抗しないのかって? 理由はちゃんと教えるさ。

 

 おそらく彼らは先日ボールにしてぶっ殺した十字目のことを嗅ぎつけ、来た可能性が高い。

 

 もしかしたら彼らを探る存在が、現場から一番近いこの場所に現れるかもしれない──と。

 

 そして殺された十字目の件の翌日、黒い粉を大量に買った新規の客が現れた。さらに、ボクは怪しまれてんだろうなぁ、と思いつつ売人を殺した。

 

 売人の行方が不明になったのは朝方。まだ近場に犯人がいるかもしれないと探して、ボクにたどり着いたのだ。街に黒い粉を売る場所があれば、自ずとこの街自体、十字目と関わりがあるのは想像につく。即ち、ある程度()()()()()ことの裏返しである。

 

 ボクが抵抗しない理由は、側近と接触したかったため。側近であれば十字目の存在理念を理解しているはずだ。

 

 

 無論この行動は、煙ファミリーへの義理立てではない。ボクがやりたいからやっている。

 

 知りたい。なぜ弱き彼らが魔法界に噛みついているのか。

 

 その気持ちはひとえに、ボクも弱小魔法使いだったからだ。あるいはハルちゃんと出会わなければ、ボクも彼らと同じような道を歩んでいたかもしれないという、「IF」の可能性への興味。

 

 まぁボクはどう歩んでも発明家になったろうが。でも0.001パーセントは、ならなかった──もしくは“なれなかった”可能性もある。

 

「ぷはっ」

 

 毒蛾という少年の方がタオルをずらして、ボクの口の拘束を解く。

 

「貴様に色々と聞きたいことがある」

 

「先日十字目を殺したこと? それとも売人を殺したこと? それとも大量に買った「黒い粉」の用途? それとも、ボクが十字目を探る輩であるか否か、ってこと?」

 

「わかっているなら話は………ッ! もしやこれは罠か!?」

 

「いや、罠じゃないよ。でも頭の回転が早いね、君」

 

 二人は周囲の気配を探り特に脅威となる存在がないことを確認すると、話を戻した。

 ボクが二人に接触してみたかった旨を話せば、怪訝な顔をされる。

 

「本当に……何が目的なんだ、貴様?」

 

「貴様じゃねぇよ、ボクはリ………小夏って言うんだ、小夏。しっかり覚えとけよな」

 

「殺す奴のことを覚えとくとでも思ってんのか?」

 

 リンリンではまずいから、咄嗟に名前の方で答えた。その間テツジョーくんが刀をボクの頸動脈にちょいちょい当ててくる。

 

「君らのことを知りたかったんだ。ボクも似たようなもんだったから」

 

 昔は底辺魔法使いで、今は手術をしてそれなりの力を得た、というような説明をする。

 その上で彼らに問う。十字目の存在理念。彼らの野望とやらを。

 

「俺たちはボスにつき従うだけだ。ボスのために……」

 

「…なるほど。すべてはボスのためか」

 

 超カルト宗教じゃねぇか。

 

 絶対ボスのためなら命捧げるじゃん、特にドクガくんの方。目が恋する売人さんの比じゃない。絶対的信頼、絶対的服従、俺のものはボスのもの、ボス(が欲しい)のものは俺がすべて集めてみせる──な顔だよ。

 

「さて、世間話はここらで終わりだ。貴様が持つ情報、吐かせてもらうぞ」

 

 ドクガくんはまったくボクのことを信じていないようです。テツジョーくんも。

 

 ボクは「乱暴する気でしょう、バウクス先生が持っていたエロビデオみたいに、エロビデオみたいに────!!」と、あらんかぎりの声量で叫んだ。

 

 彼らが止まることはないが、ボクにはセコムがいる。

 最初に悲鳴をあげた時点で出てきそうな雰囲気はしたが、こちらの空気を読んで待ってくれている。

 

 

『お前というヤツは、アホなことばかりしおって……』

 

 

 扉が二人の後ろに出現し、彼らは咄嗟に後ろを向く。そしてそこから現れた悪魔を目にした途端おどろきと、絶望の表情を浮かべた。

 

「なぜ、悪魔が……?」

 

「ヤベェ毒蛾、一旦逃げ────!!」

 

 二人は一瞬にしてハルちゃんに殺される。いや、殺すまで行かなくてよかったんだけど。

 二つの首が宙を舞い、首から漏れた血飛沫によって部屋中が真っ赤になる。血の雨だ、わぁい! 

 

『あとでお仕置きだ。二泊三日、地獄ツアー体験コースに強制参加だ』

 

「小夏、ハルちゃんのことだーいすき!」

 

『………もう一声』

 

「こなつ、しょうらいママとけっこんしゅる!」

 

『ッフ、残念だったな。私にはすでに愛する夫がいる。結婚する代わりに私の子どもにしてやろう』

 

「やったぁ!」

 

 と、ボクと彼女の芝居はさておき、幹部の二人はボクに関する記憶だけ消して、生き返らせてもらうことにした。

 

 彼らがボクに何かしたわけでもないしな。邪な視線を向けることも、ボクのボディーをどうこう思っている様子もなかったし。ハルちゃんは不服そうだ。

 

「だってさ、今スゲェ面白い状況なんだぜ? 煙ファミリーVS十字目って状況。なのに側近を二人殺しちまったら、勢力図が大きく変わっちゃうじゃん」

 

『キサマ、そういう悪魔的ところあるよな』

 

「ハッハッハ、そういうハルちゃんも結構楽しんでるんでしょ?」

 

『まぁな』

 

 悪魔パワーで血まみれだった部屋も、ボクの拘束や手も、死んでいた二人も復活する。気を失っている彼らをハルちゃんは扉の外にポイ捨てして、ボクのベッドに横になった。ついでに全裸核ハルちゃんも出てくる。今日は一緒に寝たいらしい。しょうがねぇな(イケボ)

 

「危ない真似はあまりするなよ、小夏」

 

『私の気持ちも考えろよ、愚かな魔法使い』

 

「わかったよ、ハルちゃん」

 

 ママ二人に挟まれ、ボクは眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 とあるレストラン。そこには店員を近くから追っ払った中で、一つのテーブルを囲むように六人の男たちが揃っていた。

 

 

「──というわけです、近況は」

 

 

 資料を持ち話しているのは、毒蛾。鉄条含むほかの側近四人は、その話を聞きながら食事にありついている。

 

 毒蛾は一番隅に座る大男へと視線を向けた。店内でもパーカーのフードをかぶり、変わらない吸引力で次々皿をカラにしていく。食べかすをこぼす食い方はお世辞にも綺麗とは言えない。

 

 そんな男こそが、十字目のボス。毒蛾は食事に回らず、ボスのテーブル周りを綺麗にして、席に着く。

 彼が話している最中、四人と違ってボスの視線は毒蛾に向かなかったが、いつものことである。

 

「で、ようやく煙ファミリーの幹部の情報を手に入れたわけじゃが、狙いに行くのか?」

 

 幹部の一人、頭がさみしく恰幅のよい青年、「牛島田(うししまだ)」が尋ねる。

 その右にいる髪の逆立った老け顔の青年が「佐治(さじ)」で、左にいる可愛らしいぽっちゃりボディの少年が「(とん)」。

 

「いや、まだ時期尚早だ。まだ俺たちにそれほどの力はないし、それに派手に動けばそれだけ目立つ。慎重に行動するべきだろう」

 

「まぁ、そうじゃなぁ…」

 

 牛島田は食事を取りながら、片手間に資料を読む。それには煙ファミリーの幹部の名前や顔写真、大まかな能力について書かれている。もちろん煙も強敵だが、掃除屋のコンビも侮れない強さを持つ。

 

「ん? さっき紹介してなかったこのガキは何じゃ?」

 

「…あぁ、ソイツは正式なファミリーの魔法使いではなかったから話さなかった。戦闘用員ではないしな。だがもし目に見えて敵対するならば、討伐対象になる」

 

「……! おい、この名前って…」

 

「そうだ、牛島田。「発明家リンリン」────その名を知らぬ者はいないだろう」

 

 “100分の1の気まぐれ”、悪魔に需要のあるヤベェものばかりを作ることで有名なその発明家はしかし、時に魔法界に大きな発展をもたらす発明を作る。

 

 現在は煙ファミリーと提携しており、彼らの技術開発面において大きく貢献している。

 

 そんな人物を殺せばどうなるか。悪魔的な面でのおそろしさもあるが、彼女の社会への貢献を認めている者たちも非常に多い。仮に手にかけた場合、十字目の組織勢力に影響を及ぼす可能性が高い。

 

「顔はわからんが、見るからに子ども……それに少女か」

 

 牛島田の資料を覗き見た佐治がつぶやく。

 それと同時だった、次から次に皿の上のハンバーガーを取っていた手が伸びてきたのは。

 

「ぼ、ボス?」

 

 珍しいその行動に毒蛾が声を上げる。基本的に食事中は話を一応聞きつつ食べ終わるまで見向きもしないボスが、資料に手を伸ばした。手についたケチャップやらで資料が汚れるのも気にせず、男はフードの奥の吊り目がちの瞳で、じっと見つめた。

 

 その視線の先は、発明家リンリンの写真である。

 

「何か気になることでもありましたか、ボス?」

 

「……いや、気のせいだ」

 

「気の……せい?」

 

 ひとしきり眺め首を傾げた男は、隣にいた豚に資料を押しつける。そしてまた食事にありつき始めた。

 ボスの意味深な行動にみな首を傾げつつ、側近たちもまた食事を再開した。

 

 

「そういえば毒蛾、鉄条、お前らこの間気づいたら路上で寝ていたらしいが、何があったんだ?」

 

「…いや、それが覚えていないのだ、不思議なことに。奇妙な十字目の死体が発見されたと聞いて、その場所まで向かったところまでは覚えているのだが……」

 

「まるで狐につままれた感じだよな……モヤモヤするぜ」

 

 

 佐治の質問に、二人はうなるばかり。

 

 正確には狐ではなく、悪魔(ハル)につままれた二人である。

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