これから原作軸ですが、概ね原作準拠にストーリー進めて行きたいです。オリジナルはドロへで無理だ…。
「修理屋なっちゃん」────機械類を中心に、ホールでその名を知られるようになった小夏。
彼女は改造ライダースーツ姿により、周囲からは“彼”として認識されている。ヘルメットも認識阻害機能をつけ、シールド部分を上げても男に見える。スモークがかかっているため、顔の全体像は捉えにくい。
ちなみにシールドは鼻下まで上がり、食事をとることも可能だ。
修理屋の“彼”は特徴として、故障した機械を一度すべて分解してから直す。分解する過程で、その構造を理解するのだ。
それで元に戻せなくなる、ということはない。解体も修復も恐ろしい速度でこなし、その腕前は客を圧倒する。見せ物として見る分にも、その光景は盛況を呼ぶ。
しかし、修理屋の“彼”は神出鬼没。
一期一会を体現するような、自由気ままな旅人属性の人間としても知られる。また、修理屋に魔法使いから助けられた、という情報もある。
人間たちの評価は上々。
これが本当は、ズレた倫理と罪悪感の欠けた
「久しぶりのぉ、実家感ン〜」
夜。一筋の光が線の軌跡を残す。
バイクを爆走させ、舗装がところどころハゲた道を走る小夏。
彼女は久しぶりに、「魔法被害者病棟(略名)」の近くに戻ってきていた。カスカベやバウクスに顔を見せるためである。
ホール生活も約四年。時折ホールの雨の影響で、怪奇生物の誕生や超常現象が起こる混沌とした世界で、よろしくやっている。
カスカベたちには一年に一度、会いに戻っている。
彼女がせっせと月に1〜2回のペースで死体を提供していることで、カスカベはすっかり研究に没頭中。
小夏としては、生存報告を知らせる意味での死体でもあった。二人が、このような真似をするのは彼女しかいない、と考えるのを見越した上で。
事実、送られてくる死体が、カスカベとバウクスが小夏の生存を知る便りになっている。
だが魔法使いの死体を病院に送られ、あまつさえカスカベが家の研究室に篭り病院に顔を見せなくなったことで、バウクスの仕事量が増えた。
いくら小夏が記憶を失おうと、彼の毛根にダメージをかけるその精神性は変わっていない。
「ん?」
そのとき前方にライトの光を浴びて、黒い影が浮かび上がった。
それは、人間。暗闇に同化していたその人物は、見事に小夏に轢かれ、宙を舞った。
「あちゃー、
道に転がった人間を見て、バイクを止めた彼女は悩んだ。助けるのは面倒な上、先の綺麗な吹っ飛び方を見ても死んでいる可能性が高い。魔法使いであればフルスロットルでさらに加速してぶつけなければ死なないが、いかんせん人間は脆い。
「こういう時は原始的な方法で決めよう」
と、道端の花を摘み取り、花占いを始める彼女。
助ける、助けない、助ける、助けない──────、
「助ける………仕方ない、優しいボクが助けてあげるか」
小夏は人間に近寄った。すると暗がりで気づかなかったが、その人間がガスマスクをつけていることに気づく。一瞬魔法使いかと思ったが、マスクから飛び出ている複数のトゲが、この人間が魔法被害者であることを示している。
「男性ね。脈は……おっ、あるじゃん。まだ死んでないのね。つってもすぐに死にそうだな。病院はここからそう遠くないし、バウクス先生に押しつけるか」
小夏は常備している死体袋に入れ、荷物が積み上がっている後部座席にバランスよく固定し、バイクを走らせた。しかし、思わず「チョー
「コイツ酒臭かったし、死んでもマジで自業自得だかんな」
キレ気味につぶやいた小夏は、バイクをもう少し改良することに決めた。
⚪︎⚪︎⚪︎
病院に轢いた男を運んだ後、カスカベ博士の家に向かおうとした。あの人、また研究室に入り浸っているらしい。ちゃんとメシ食べてるのかな。ここは一つ、ボクが料理を作ってあげよう。旅の間は基本的に作られた物しか食べないから、どの程度自分に料理スキルがあるか知らないけど。
「おいヤメロ。覚えとらんだろうが、お前は家事で火事を起こす
「ははぁ、バウクス先生ってば、言葉遊びがお上手なようで」
「マジで言ってんだよ!! それに人を殺しかけといて、勝手に行くな。どうせお前のことだ。最初は助けず逃げよう…とか、考えてたんだろ」
「うん。花占いで“助けない”が出たら、助けなかったよ」
「………」
先生は男の知り合いらしく、その男の関係者に連絡を取りに行った。
治療を終えた男は今グッスリ寝ている。奇跡的に内臓破裂はなかったものの、体の至るところを骨折して、全身包帯に巻かれている。その頭部はトカゲだ。
「おう、連絡ついたぜ。すぐコイツの知り合いが来るってよ」
手術着を脱ぎながら、疲れた様子で話すバウクス先生。
この男の名前は「カイマン」というらしい。ボクが旅に出てから間もなくして見つかった、魔法被害者。
駆けつけている知り合いというのは、カイマンを見つけた女性のようだ。そっちは「ニカイドウ」という名前だそうで。
「カイマンは記憶を失った状態で発見されてな。ニカイドウ曰く、首のなかった遺体を死体袋に入れて仲間を呼びに行ったら、遺体が入っていたはずの死体袋が歩いとったそうだ」
「死体が蘇ったってこと?」
「さぁな。俺は悪質な誰かのイタズラか、魔法使いの仕業か……それか、ニカイドウの見間違えだと思うぜ。どの道言えるのは、人間が蘇るなんてありえねぇってことだ。お前さんじゃあるまいに」
「確かにね」
男の名前をつけたのは、彼を発見したニカイドウ。カイマントカゲに似ているから、「カイマン」。
「あのさぁ、先生。カイマンのこの、目の周りにある赤い十字の刺青は何?」
「それも知らねぇ。博士も身に覚えがないそうだぞ」
「ふーん、そっか」
十字目の刺青………ハルちゃんの話によれば、魔法界で煙ファミリーと敵対していた十字目が、目の周囲にカイマンと同じ刺青をしていた、って聞く。
それを踏まえて婉曲に、「轢いた時にカイマンがマスクをつけていたから、魔法使いだと思った」──と、バウクス先生に話したら、一瞬キョトンとして、先生は大声で笑った。
「コイツが魔法使いだって? ハッハッハ、ありえねぇよ。レントゲンを撮った時も人間の体だったんだからよ」
そこまで調べてあるなら、人間なのは間違いないか。単純に十字目の男が魔法界に来ていて、魔法使いに憧れている若者(=カイマン)がその男を見て目に刺青を挿れた、って可能性もある。
ボクの少し後に発見されて、さらに記憶喪失など不可解なところが多かったから、ボクが警戒心を持つのも当たり前だ。
「にしても小夏、毎度思うがその格好じゃ誰かわからねぇよ」
「え? それは遠回しに、ボクのライダースーツの下の胸が見たいって意味? あー、博士に言っちゃおー」
────次回、減給されるバウクス先生! ゼッテー見てくれよな!
「やめてくれ、あの人基本的に怒らないけど、お前関連だとマジで怖いんだわ…」
賄賂として、バウクス先生は中央デパート買ったらしい団子(かなり人気)をくれた。ボクはチョロいので、今回は許してあげよう。
先生には前にざっくりとではあるが、魔法界でヘマをして記憶喪失になった旨を、ボクが知り合いの悪魔に聞かされて知ったことを伝えてある。
だからボクのことは「リンリン」じゃなくて、「修理屋」とか、「なっちゃん」と呼ぶように頼んである。または「ナツ」でも可。この事は博士にも伝え済み。
それからしばらくして、病院に短い金髪に青い瞳を持つ女性が現れた。息を荒くして、汗だくになっている。彼女がニカイドウか。
「ば、バウクス先生ッ、カイマンが轢かれたって本当か!?」
「おう、一応死んではいないぜ。当分入院だろうけどな」
カイマンは記憶喪失な身のゆえ、色々とニカイドウや先生が世話を焼いているようだ。稼ぎも考えて、先生は病院の
ニカイドウは寝ているカイマンを見た後、力が抜けたように病室の前のソファーに座り込んだ。
果たしてただの知り合いに、ここまでのリアクションをするだろうか────否、男の方はともかく、ニカイドウの方はカイマンに気がある。青春だねぇ。
「で、ニカイドウ。コイツがカイマンを轢いた犯人だ」
先生が彼女の前にボクを突き出す。人を悪人のように仕立て上げるのはやめて欲しいな。
「──でも、元はと言えば、酔って急に飛び出してきたカイマンが悪かったんだろ? ……あぁ、自己紹介がまだだったな。私は「ニカイドウ」だ」
「君の名前はバウクス先生から聞いたよ。カイマンくんの件はすまなかったね。ボクは修理屋をやっている、「ナツ」だ。呼び方は「修理屋」でもいいし、「なっちゃん」でもいい」
「修理屋って………あの、修理屋か?」
「うん。名前が知れてて嬉しいよ」
「……じゃあ、なっちゃんと呼ばせてもらうよ」
ニカイドウは常識人で、デキた人間だった。少なくともボクより。
ボクだったら逆恨みしてぶっ殺すもの、確実に。聖人のようだ。ホーリー・ニカイドウとでも呼ばせてもらおう。
「へ、変なあだ名を私につけるのはやめてくれ…」
却下された。
⚪︎⚪︎⚪︎
カイマンがまだ目覚めず、詫びを含めてボクはニカイドウの家の家具を直すことになった。冷蔵庫の調子が悪いようで、分解し始めると驚きの声があがったが、壊れている原因を突き止めて直すと、彼女は嬉しそうに笑った。
「なっちゃん、実は他にも見てもらいたいものがあるんだが…」
うんうん、わかるぜ。人間は強欲だからね、一個直すとほかにも修理して欲しくなり、頼み出す。
風呂や明かりなど色々と直し終え、時刻はお昼になろうとしていた。
「そう言えば、なっちゃんはバウクス先生と顔見知りのようだが、知り合いなのか?」
「うん、古い付き合いだよ」
ボクは覚えてないけどね。
その流れで昼食をご馳走される流れになり、ニカイドウ飯をいただくことになった。彼女は将来自身の店をホールに持つのが夢らしい。飯の餃子も美味い。
「まだ若いのに、よく頑張ってるね」
「そ、そうか? 私はいつも通りに過ごしているだけだが…」
「見たところ両親はいないようだし、その時点でキミはボクと違って孤独ながら、よくやっている」
「……うん」
家の中は食器や靴など、どれを取っても彼女の物しかない。それを言ったら、男の姿をしているボクを簡単に家に上げない方がいいと思うが、彼女の肉体はツナギの上からでわかりにくいが、よく鍛えられている。一般人なら簡単に伸されてしまうだろう。
少ししんみりした雰囲気になっていたら、さっきまでサンサンと晴れていた空からポツポツと、黒い雫が降り出した。
体に倦怠感と頭痛の症状が出たのを感じながら、最後の餃子を頬張る。
直後、目の前の人物が倒れた。
「あれ? 大丈夫かい、ニカイドウくん」
「ちょっと……立ち、くらみ、がっ……」
「おや、無理しない方がいいよ。というか、洗濯物が濡れちゃうぜ?」
「うぅ……」
床に転がって動けなくなった彼女は本格的にダメそうだ。低気圧頭痛ってやつかな。
仕方なく、代わりに服を取り込む。洗濯バサミも一緒についてきてしまったそれをソファーの上に投げて、食器を流しに運ぶ。洗おうと思ったけど、最初の一枚が割れたのでやめた。ボクってマジで家事ができないみたい。
床に散らばった破片を片付けようと、ほうきとちりとりで取──ろうとしたらほうきが折れて、結局破片を手で集めてゴミ箱に入れたら、そのゴミ箱がひっくり返る。
「な、何を……しているんだ、お前…」
「…ごめん。後で片付けておいて、ニカイドウくん。ベッドまで運んで上げるから」
おかしいな。まるでキッチンが、空き巣にでも入られたかのように散乱してしまった。でも厚意でやったことだし、ニカイドウくんなら許してくれるだろ。
それから彼女をベッドに運んで、頭に濡れたタオルやら、水の入ったペットボトルを側に置いておく。
「君、魔法使いなんだ」
「………ち、違う」
その謎の間は、己が魔法使いであると肯定しているようなものだぞ。
ボクもヘルメットを取ってケムリを人差し指から出して見せたら、彼女の目が丸くなった。
「え………えっ、まほ…?? それに……女?」
「ボクも魔法使いだよ。人間とのハーフらしいけどね」
お互いの秘密を共有して、秘密を守るための枷を作ってあげたわけです。これで彼女はボクが秘密をバラしたらボクの秘密をバラせるし、逆もまた同様。
「な、何でそんなこと…」
「何でって、君がさっき語った「ホールで店を持ちたい」って夢、マジだろ? バウクス先生からも、君がもっと小さい頃から餃子を売り回っている──って話も聞いたし、少なくともボクの敵にはならないと判断したからさ」
悪いヤツか良いヤツかなんて、それぐらいの判別はつく。
彼女はバウクス先生と同じお人好しだ。逆に敵に回したら怖いタイプ。だってさ、恐ろしい目つきしてたんだぜ?
病院に着いた時、体中をぐっしょりさせながら、ボクを一瞬見た時の目が────人を殺す、ソレだった。
「ま、同性同士、仲良くしようよ」
「……あ、あぁ」
未だ混乱中の彼女の手が伸ばされる。
ボクははじめてのお友だちをゲットしたのだった。
そして、その数日後。眠り
行く気はなかったけど、先生から「絶対来い」と連絡が来て、渋々向かった。
せっかく博士の研究を眺めてたのにさ。街に滞在するときは博士の家にお邪魔しているから、居場所がすぐに割れる。
バウクス先生に「こちらがお前を轢いた加害者です」という、最悪な自己紹介をされつつ手を振ったら、先生に頭を下げさせられた。誠に遺憾ながら、謝罪の言葉を口にする。
「…悪かったね、カイマンくん」
「い、いや、オレも記憶にねぇが、飛び出して悪かったよ」
カイマンは隣にいるニカイドウくんと談笑しながら、彼女に餃子をリクエストしている。仲睦まじい様子は恋人にしか見えないぜ。
「そうだ! せっかくだから改めて、自己紹介しないか?」
ニカイドウくんの発案で、再度自己紹介にすることになったボクたち。蚊帳の外の先生も巻き込んで、自己紹介させた。
「次はボクの番だね。ボクは「修理屋なっちゃん」、普段はホールで旅をしながら仕事をしているよ。名前は好きに呼んでくれ」
ボクを「なっちゃん」と呼ぶニカイドウくんとは違い、カイマンはボクを「修理屋」と呼ぶことにしたようだ。そして最後に、彼の自己紹介になる。
「え、エエーと…オレはカイマン。記憶がなくて、今はこの病院でアルバイトをしている……これでいいか?」
「うん、まぁ上出来だろう、カイマン」
記憶のない者同士、カイマンとは仲良くできそうだ。轢いた者と轢かれた者の関係であれど、些細な問題さ。
こちらから手を伸ばしたら、躊躇いがちにカイマンも手を差し出す。トカゲなのは頭だけで、この男、首から下は普通の人間のようだ。
その手を、握って。いや、正確には触れかけたタイミングで。
「────ヒッ」
弾かれたように、ボクは相手の手を払い除けていた。全員の目が丸くなる。
おかしいな。全身から汗がぶわぶわと滲み出てくる。視界も揺れ出した。
「ハッ、………ハ、ハハッ、はひぃ…」
呼吸が出来なくなったボクの異変に気づいて、慌てて先生がヘルメットを外させる。体が震え出して、先生はそのままボクを雑に抱える。二人は呆然としていて、手を振り払われたカイマンは、突然のことにショックを受けている。
「お、お前彼女に何をしたんだ、カイマン……」
「な、何もしてねぇって! 今日はじめて会ったんだぞ!? つーか、女だったのかよ!!」
「そうは言われてもなぁ…」
カイマンに向くニカイドウの目が、ゴミを見る目だ。
いやはや、何でこんなおかしな状況になっているんだろう。
結局体調が急変した理由はわからず、小一時間ほど経ってから落ち着いたボクは、その日は帰ることになった。
後日考えられた理由としては、「トカゲアレルギーなのかもしれない」という判断が、先生から下された。
でも手袋をはめたカイマンの手には触れたから、謎が残る現象となった。長旅帰りだから、ちょっと疲れていたのかもしれない。