また各地をフラフラして帰って来たら、あの二人が魔法使いを殺すようになっていた。ニカイドウくんは周囲に教えていないようだが、魔法使いなのにさ。どういうことなのか。
──と、二人について話す前に、改造したボクのバイク『アキフユくんVer.7.0』について、一旦解説させて欲しい。
修理でこの胸の内にたぎる欲求を誤魔化しているけど、時折メチャクチャ発明したくなる。そんな経緯で作られた発明品は複数あり、すべてハルちゃんから渡されたボクの発明品らしいポケットに突っ込んでいる。
その過程で、バイクを幾度と改造している。
見た目はさほど変わっていないが、素材を変えたり機能を付け足したり、エトセトラ。
以前カイマンを轢いた後に課題が見えたことで、今まで地味だった改造が派手になった。なってしまった。
まず、積載量が1トンでもフルスピードで走行可能に。これであの肥満トカゲでも、楽チンに乗せられる。音速も越えられるようになったが、ボクの体がぶっ壊れるのでこれは使えない。自動操縦にして、魔法使いにぶち当てる手はあるけどね。
あとボディを強化して、人間一人轢いても傷つかない装甲にグレードアップ。
ボディについては、元から強化しておくべきだったと反省。
そして、ケムリによる空中飛行も可能になった。けれどホールでバイクが飛んでたら、どうあがいても魔法使いです。ありがとうございます。ゆえに、この機能は使えない。少なくとも周囲に人間がいては。魔法界だったら普通に使える。
バイクの説明については以上だ。
それで話を戻させてもらって、というか、急にバイクの話を持ち出した理由がこれに繋がるのだけれど、その、轢いたんだよね、また。
ボクも「あ、やべ」で、弾く前にブレーキを踏んだけど、相手は即死。仕方ないね。裏道から急に出て来たのが悪い。
それで、轢いた魔法使いを追っていた二人はというと、唖然としていた。
「おい、テメェーッ! なに魔法使いを殺してくれてんだ、コラァ!!」
「ま、まーまー、落ち着け、カイマン」
一年前と比べて、随分と気性が荒くなったトカゲ男。ニカイドウの方は髪が胸を覆うほどに伸びている。
聞けば、カイマンの記憶と顔を元に戻すため、頭をトカゲにした魔法使いを探すための手がかりを求めて、ホールに来た魔法使いを襲ってしらみつぶしに調べているようだ。
そして彼らがたまたま発見したようだが、カイマンの口の中には“謎の男”がいるらしい。
魔法使いがカイマンに頭を食われ、謎の男に「お前は違う」と言われると、その魔法使いは彼に魔法をかけた人物ではないとわかる──という仕組みだそうで。
カイマンはナイフ使いで、ニカイドウが体術。中々イイコンビだ。カイマンの方は余計に十字目にしか見えなくなってきたが。
でも、レントゲンも見せてもらったしな。管や悪魔腫瘍などはこの男の中になかったから、魔法使いではない。やっぱり十字目の魔法使いを見て憧れを持った、人間説が今のところ濃厚。
「ニカイドウくんは、カイマンの手伝いをすることにしたんだ。へぇー…」
「な、何だよ、その意味ありげな視線は」
「いやぁ、別に。どうやらまだ、君の一方通行のようだからね」
「何の話だ?」
ボクとニカイドウくんの間に混じって来るカイマン。
彼から見たニカイドウくんは、友人、といったところだね。まぁ男女の間だから、いつ恋愛に発展してもおかしくない。ボク的に彼女を応援してあげたい。
「じゃあまたね、君た──」
「ちょっと待った!!」
ニカイドウくんが止めてきた。危うく彼女を轢き殺すところだったぜ。
どうやらまたボクに修理をお願いしたいらしい。彼女、なんと自分の店を持ったようで、その中の機械を修理、または点検して欲しいとのこと。知り合いだからって金はもらうよ? それが社会だ。
「ぐ……カイマンのせいで、金はあまりないんだが…」
「え、同棲してんの?」
「してないよ。コイツがよく食う上に店にツケるからさ、赤字なんだ」
「はぁー…そこのデブのせいで」
「デブじゃねぇよ!!」
「「デブだろ」」
ボクらの声がハモり、トカゲくんは地面に膝をつき項垂れる。まぁ、身長が2メートル以上あるから、100キロ越えもしょうがないのだろう。
それに腹筋を触った感じ、ガッツリ筋肉だもんな、コレ。
「キャッーーー!! 何、人の体を触ってんだよッ!」
「ちょっと屈めよ、君」
「人の話聞いてんのかお前!?」
不意打ちで足を蹴れば、カイマンは尻餅をついた。今度は頭をベタベタ触る。
うーん、どうやら向こうが意図して触って来ると、ボクは恐慌状態になっちまうみたい。不思議だ。それも大丈夫な時もあるし、ダメな時もある。その場合、ボクの精神の具合が安定しているか否かでも、左右されているみたいだ。
要するに、あまり彼に触られない方がいい。
「前に触ってみたかったんだけどさ、触れる雰囲気じゃなかったから……ちょっとトゲの数本もらうぜ」
「いやっーー!!」
「黙れ、生娘みたいに叫ぶな」
ライダースーツのジッパーを下げて、胸の間に突っ込んである試験管や、腰からハサミとピンセットを取り出す。一本には取ったトゲを数本入れて、もう一本には削った皮膚をピンセットで摘んで入れる。後で調べるぞい。
「ニカイドウも助けろよ!!」
「いや、何か近寄りがたいな…って」
顔が引き攣っているぞ、ニカイドウくん。ボクで引いていたら、ボク以上に知識欲に貪欲な博士はどうなっちまうんだ。あの人この間行ったときは、魔法使いの肉体を素材に、「扉」を作ろうとしていたからね。それができたら、人間が魔法界に行けるってわけだ。偉業だよ、カッコいい。さすパパ。
「それにカイマン、お前なら逃げられるだろ。さぞその位置は、“
「異様に怖くて動けねぇんだよ!!」
トカゲと人間の境目も見たいので、上手く隠れているパーカーを引っつかんで破く。それと歯も採取させろ。脳みそもひとスプーン分くれ。さらに顔を頭に突っ込ませろ。中の謎の男とやらを確認したい。ついでに唾液と────、
「ヒィッ……に、にっ、ニ゛カイドォ゛ーーー!!」
「ちょ、流石に止めろ、なっちゃん!」
ボクはニカイドウくんにはがいじめにされ、カイマンから引き剥がされた。その衝撃で、胸のところで中途半端に下がっていたジッパーが降りて、臍あたりまで落ちる。おっといけねぇ、ボク下着付けてないんだけど。
「………えっち」
ボクの顔が熱くなって、トカゲ男さんも真っ赤になって、後ろの彼女はプルプル震え出す。
そしてボクを離し、ニカイドウは拳を振るった。
そう、カイマンに。
「いつまで見てんだ、このバカッッ!!!」
トカゲ男さんは放射線を描いて吹っ飛び、電柱に思いきり頭を打ちつけた。真っ赤なニカイドウはボクの元に戻ると、ジッパーを勢いよく上げる。ついでに下着を今から買いに行くことになった。
ちなみにライダースーツは、すぐに乾くように作ってある。普段は洗ったら干して、その間はTシャツに短パンで過ごしている。
「ま、まさか下も着けていないのか?」
「いや、下は着てるよ。バイクの座席と密着する部分だから」
地面で伸びているカイマンを置き去りに、バイクの後ろ、積まれた荷物の上に飛び乗ったニカイドウくんに誘導され、ボクらは中央デパートに向かった。さよなら、トカゲ男さん。
そのあと、買い物を済ませて、彼女の店で食事をご馳走になる代わりに修理を行うことになった。
と、その前に食事を取っていたら、頭から血を流しているカイマンが現れて謝罪を受けた。そして彼はボクの隣に座り、異常な量のギョーザを頼んだ。だから肥えるんじゃなかろうか。
「うっせぇ、ほっとけ」
その汚い食い方に、ボクはなぜか、目を離すことができなかった。
不思議だ。
***
夜。カスカベ宅にて。
魔法使いの死体から漏れ出たケムリによって、時折異空間になるこの屋敷。その茶の間に電気がつけられた。
研究室から戻ったカスカベが血で汚れた体を洗うため風呂に入り、寝る前に一服すべくそこに訪れれば、一人の人間──否、魔法使いの姿がった。
「風呂の湯が沸いてたからまさかと思ったが、来てたんだね」
カスカベは、寝転がってテレビを見ているTシャツにハーフパンツの女へ目を向ける。彼はその横に座りタバコを吹かし、テーブルに肘をつけた。
「一言、声くらいかけてくれてもよかったのに」
「だって博士、前にボクが500回インターフォン押しても気が付かなかったよ」
「…あれは気づかなくてごめんよ。研究中でさ」
小夏は体を起こすと、部屋の隅置いていた荷物を漁り、ポリ袋に入れられた透明の容器を二つ取り出す。中にはギョーザが入っている。
「はい、ちゃんとご飯食べてない人間へのお土産。他にも土産はあるけど」
「おっ、酒に合いそうだね」
「そう言うと思って、ボクちゃんは酒も買ってきてあるのだ!」
冷蔵庫に向かった彼女はビール瓶を数本、グラスを二つ持って、テーブルに置く。晩酌タイムだ。
「そっか、君もお酒を飲める歳だもんね。今更だけど」
「そういう博士は飲んじゃいけない歳なんだよ、タバコもそうだけど」
「あはは、年寄りの娯楽を奪わないでくれ」
小夏もかく言いつつ、止めはしない。彼女は元は酒乱であったが、肉体が成人を越えたこともあり、ひどい酔い方はしなくなった。ただ上戸になったものの、飲み過ぎれば酒乱は発動する。それを知っているため、酒の量をいつもはキープしている。
ほろ酔いの中、小夏は旅先でのことなど饒舌に語った。それを笑みを浮かべながら、カスカベは聞く。
「楽しい旅だったんだね。今回は、何か研究したことはあったのかい?」
「あー、あるよ。今回はとびっきりデカいこと」
小夏は語る。
採掘で富を得ている町で、かつてから労働者が体調不良に見舞われる謎を知り、調べたこと。そして、特定の場所で取られる鉱石(そこではガラス製品に使われていた)に目をつけ、そこからさらに調査して行き────。
「人間の人体に有害な物質を見つけてさ、それを抽出して、何かに利用できないか考えてねー」
彼女は、爆弾を作った。大量のエネルギーが放出される爆弾を。それを彼女は作り、使い、一つの街を吹っ飛ばした。
「いやぁ、実験場だけでなく街ごと吹っ飛んじゃうとは、ボクちゃん予想外だったのよ。念のため遠隔で作業したけど、アレに巻き込まれたら魔法使いでも即死だね。町の周囲は汚染がひどくなっちゃったし」
「…その事件、君の仕業だったんだ」
「魔法使いの仕業ってことで騒がれてたね、新聞では。一夜にして、街が消失した──って」
「まぁ、文明の発展には犠牲も必要だからね。人間が君の技術を利用したら、魔法使いも一たまりもなくなりそうだ」
「やったぁ、小夏ちゃんパパにいっぱいホメられた〜!」
大笑いする彼女は、酔いが回り始めている。酔わない程度に飲んでいたカスカベは、苦笑いをこぼした。パパじゃないんだけどなぁ、と。
「うはは、博士が何を言おうと、あなたはボクのお父さんなのだ。うん、お父さん……」
「あれ、ちょっと、人の膝の上で寝られても困るよ」
「いっぱいボクを褒めろぉ〜………」
小夏はカスカベの腹に顔を埋め、そのまま寝てしまった。肉体的に子どもと大人の差がある二人。必然と寝転がる体勢になったカスカベは頬をかく。
仕方なくテーブルに手を伸ばし灰皿にタバコを押しつけ、ズルズルと大きな娘を引きずる形で彼は布団に向かう。腕に持つにはいささか、腕力が足りない。
やはりというか、布団もしっかり敷いてある。ちゃっかりその隣には、彼女が普段使っているであろう寝袋もある。
布団の上に転がる形で、カスカベは目を瞑った。
「君は大きくなったけど、中身は変わらないね…ずっと」
彼女が幼い頃、危なっかしい持ち方でハンマーを振るい、工作をしていた時期。
よく作ってはカスカベにそれを見せて、褒められる度に嬉しそうに笑っていた。懐かしい日々だ。過ごした時間にしては少ないが、一瞬一瞬が今のことのように思い出せる。
「ハルは生きているのか、それとも死んでいるのかわからないが…彼女も元気にやっていたらいいな」
愛想を尽かされたのか、それとも別の魔法使いとくっついたのか、その辺りはずっとわからないまま。
カスカベとしては、彼女が幸せであればそれで良いと思うが、波乱に生きている小夏を見るに、彼女も大変な人生を送っているだろうと考えている。
「まぁ、扉ももうすぐできる。そうしたら彼女と会う機会も、無きにしも非ずか」
小夏は扉を作ることもできるが、カスカベはそれで魔法界に行く気はない。
己の手で作ってこそ、意味がある。研究者としての、価値が。
「はは、小夏はもう少し、君に似た方がよかったね」
自身の発明欲と知識欲のついでに、マッドな才能を活かしてホールで大事件を起こしている小夏。
それをかつての少女の面影を見せて報告し、褒められたがるのだから、カスカベも困りものである。
いったい誰に似たのか──と、言えないヘイズだ。