やって来たぜ、リビングデッドデイ! いつものライダースーツに釘バットを用意して、準備は万端だ。
ボクはお祭り感覚で来ているけど、ホールの人間は自身の命がかかっている。街の放送で《夜12時以降の外出禁止》と伝えられているから、駆除者以外の人間はいない。あといるのは装束を身に纏った坊さん。中央墓地に集合で、今は先生の隣で坊さんの話を聞いている。
「頼むぞナツ、俺が狙われる前にゾンビを殺ってくれ」
「はぁーい」
先生も律儀だよね。ゾンビどもの中には先生の元患者が多くいるってことで、彼はこうして毎年参加しているらしい。安らかに眠って欲しいそうだから。
先生はボクの作った発明を使わず、武器の他に秘密兵器として毒ダンゴを用意している。
ちなみにニカイドウたちも参加するそうだ。途中で出会って、先まで坊さんの説明を聞いていたんだが、二人揃ってどこかに行ってしまった。まぁ彼らなら話を聞かなくとも、ゾンビ相手に無双だろう。
「ボクは介護しなきゃいけない人間がいるけどね」
「何か言ったか、おい」
「HAHAHA、大船に乗ったつもりでいてよ、バウクス先生」
でも、不思議だよな。リビングデッドデイは、空に溜まった魔法使いのケムリによってホールの歪みが増して起こるらしいけど、なぜそれで死んだ人間が蘇るのかね。
そこらは突き詰めても原因がわからないから、調べても仕方ないが。
「一体につき、1ptか……。先生、ゾンビの首にあるプレートを集めたら景品と交換できるみたいだけど、ボクが殺した分は貰っていいよね?」
「好きに使え。あと始まる前に一つだけ頼む」
「何?」
「間違っても近くにいる俺を殺すなよ」
それはちょっと、自信がない。だって今日は血が疼いているんだもの。
ボクの危ない部分なのかな? 物でも、魔法使いでも、人間でも。ソイツをぶっ壊す時、気持ちがいい。スカッとするのよね。
笑って黙ったボクに、先生は絶望した表情を浮かべた。
⚪︎⚪︎⚪︎
一匹、二匹、三匹、四匹………。
三十二匹、三十三匹、三十四匹………。
前から襲いかかって来た奴の頭をぶっ飛ばして、背後から迫って来ていた二体の頭もブッ飛ばす。そうやって殺しまくっているんだが、まったくゾンビの数が減らない。ボクが通った道の後ろは、ゾンビの死骸がゴロゴロと転がっている。
「スゴいな……」
「恐ろしい…」
後ろに控えている数人の坊さんが、引いた目でボクを見ている。彼らは彼らで仕事があって、ボクが倒したゾンビを成仏させるために塩を撒いている。
現状、全身ゾンビの返り血でボクの体は真っ赤。プレートは頭をぶっ飛ばしたゾンビの首に手を突っ込んで、引き抜いたものを腰のレッグバッグに入れている。
「先生、生きろよ」
最初は一緒にいたんだけど、途中で10体を軽く越えるゾンビの大群が押し寄せて、博士と離れ離れになった。というか、ボクが戦闘中に彼が逃げ惑い、気づけば消えていた。死んでいたらごめんね、先生。その時はボクが殺すから安心してよ。
「そういや、景品何にしようかなぁ。電子レンジとか使わないし……ならタバコにしとくか。一カートン50ptだったから、博士や先生に配ろ」
先生が見つからないまま、午前四時を過ぎた。今頃はゾンビになっているだろう。一旦、デパート前の中央広場でカップラーメンを食いつつ、坊さんたちと休憩タイムを取る。
中央あたりをウロウロして、同じ駆除者や坊さんにハゲのオッサンを見かけてなかったか尋ねてんだけどね、情報が集まらない。むやみやたらに回っていても、体力が減る上にゾンビに出会すだけだし。
「おっ、なっちゃんじゃないか」
こちらに手を振って来たのはニカイドウくん。その隣にはカイマンも。二人とも程よく血まみれだ。
彼らも休憩に来たようで、ボクと同じようにカップラーメンを啜り始めた。必然とボクの隣に座って話すことになり、二人から先生の居場所を聞けた。
彼、どうやら僕とはぐれた先でニカイドウくんたちと出会って、途中まで行動していたそうだ。しかし彼らも暫くして、先生とはぐれてしまったと聞く。
二人が来たのは西地区の方からだから、食べ終わったらそちらに向かうことにする。彼らが暴れていたなら、西地区のゾンビはある程度減っているだろう。先生の生存も期待が持ててきた。
「修理屋、お前は何体ぐらいゾンビを倒したんだよ」
「さてね、50までは数えてたけど」
「全身真っ赤でえらいことになってるぞ、なっちゃん…」
「しょうがないさ。頭をぶん殴ったら、首から血が吹き出しちまうんだもの」
そろそろ西地区に向かおうと、オトモしてくれている坊さんたちを連れて、二人に別れを告げた。先生の命運は毒ダンゴにかかっているね。だって彼、武器は持ってたけど戦闘できる人間じゃないし。
「……ん?」
空気が、変わった。休憩モードで緩んでいた空気が、一気に引き締まった感覚。
西側に向けていた体を戻し、中央の広場に向ける。そこにはまだ食事中のニカイドウ、カイマンが変わらずいて。彼らの視線は東側、ちょうどボクの正面方向に向けられている。
数にして、四人。四人の魔法使いが揃って立っている。
左から順にジャージの一番デカい男に、心臓マスクの男、鼻の長いマスクの少年に、骸骨少女。
臨戦態勢だ。ひとまず、人間が揃っていることで集まり始めたゾンビをバットで吹っ飛ばす。彼らのお目当てはボク──じゃなく、カイマンとニカイドウのようだ。
まぁ、あの二人相当な数の魔法使いをこの二年で殺しているらしいしね。狙われるのは必然か。現在の魔法界のバランサー的立ち位置におわすのは煙ファミリーらしいから、あの四人もファミリーの魔法使いの可能性が高い。
大漢がニカイドウくんと、心臓マスクの男がカイマンと当たる。残った二人の魔法使いは見ているだけのようだ。あの少年少女からは強者の雰囲気は感じられない。対し、無駄にデカいあの魔法使いコンビは、かなりの手練れだ。
ボクは彼らの戦いを観戦する美味しいポジションに立ちつつ、邪魔なゾンビをブッ飛ばす役割を買って出た。
ニカイドウとカイマンの技量を実際に見たことがないからね、ちょうど良い機会だ。
「魔法の効かねぇ俺に、奴らが勝てるわけがないぜ!」
知らないのかい、カイマンよ。こう言った場面でそのような発言は、死亡フラグって言うんだそうだ。ボク、ハルちゃん講座で習ったよ。
──っていうか、魔法が効かないって何それ? はじめて知ったよ?
後でじっくり解剖させてもらおう。博士はともかく、絶対先生は意図的に黙ってたね。ボクが強行策(解剖)に出ないように。
「クスン…ひどいよ、バウクス先生。この戦いが見終わってから助けに行くね」
涙を流してたら、四人のうち三人が巨漢の野郎な戦闘が始まった。ボクは紅一点のニカイドウが、全員伸しちまうことに50ptかけるぜ。
***
戦いの決着は、濃密な戦闘に対して、呆気ない幕開けだった。
ニカイドウは一時的に能井を追い込んだものの、怪力による拳を腹に食らいノックアウト。
対しカイマンはニカイドウが倒された後、シンの心臓にナイフを打ち込めたものの、その直前に頭をハンマーで殴打された。さらにシンの顔に食らいついたが、再度ハンマーの攻撃を首に喰らい、頭が吹っ飛ぶ結果になった。
「カイマンッ!!」
死んだように見せかけ逃走する機会を窺っていたニカイドウは、起き上がり咄嗟にカイマンの元へ駆け寄る。
その時、カイマンの首から血が噴き出す中で、一瞬見えた物体。それを彼の前にいたシンは目の当たりにした。
「首……?」
ニカイドウが苦渋の決断の末、カイマンの肉体と首を持ち、“扉”を使って逃走する。
「大丈夫っすかぁ、先輩ッ!」
周囲が沈黙に包まれた中、シンの元に駆け寄る能井の声が響く。心臓にナイフが突き刺されば、さしもの魔法使いでも長くは保たない。気を失ったシンにケムリを吹きかけ、能井は傷を治した。
「はぁ……んもう、本当に先輩は俺がいないとダメなんスから」
能井はシンの肩を持ち、亡者に食われてゾンビの仲間入りを果たした骸骨少女「
────リ。
ゾンビもほぼ死に、魔法使いの登場で駆除者や坊たちが逃げて行ったこの場所、中央デパート前広場。
そこにかすかな音が響く。
シンが倒されたことにより一時我を忘れていた能井は、その音に耳を傾けた。
────リ、キリ。
何かの回るような音だ。機械的な、その音。能井はその音に聞き覚えがあった。
音の方向に視線を向ければ、一人のライダースーツにフルフェイスな人物が、釘バットを持ったまま佇んでいる。その人間が見つめている場所は、先程シンがトカゲ男の首を刎ね、そしてできた血溜まりの場所。
そこにフラフラと、その人間が近づいて来る。それ即ち、能井たちに距離を詰めてくることに他ならない。
「お前さっき、ゾンビを倒してたよな。わかるぜ、あの
能井はシンを下ろし、構えを取った。
耳につくこの、「キリキリ」という音。もう六年以上前になるが、彼女はこの音を特訓の際によく聞いていた。
掃除屋として数々の窮地も体験した。当然、かつてより圧倒的に強くなっている。
「お前さ、ちょっとそのマスクの下、見せてくんない?」
「………」
無言な男の代わりに、キリキリと、音が鳴る。
男は尚も一歩一歩と、血溜まりへ歩を進める。その場所は能井たちから少し逸れており、若干斜めに向かっている。
「無視かよ……ならいいぜ、こっちを見させるまでだ!!」
能井が叫んだと同時に彼女の足の筋肉がバネとなって地面をえぐり、人間では追い付かぬ速度で男の前に現れる。拳をその顔面に向けて彼女が振るった瞬間、ゴォっと、男の指から大量のケムリが出て、ライダースーツごと男の全身を覆う。
それに構わず能井は黒いケムリを霧散させ、その頬へと拳を減り込ませようとし。
「なっ」
あともう少しで拳と頭が触れるというタイミング。その間にかまされるように手が入り込み、能井の拳を掴んだ。それだけで突っ込んだ勢いもろとも殺された彼女は、瞬きの内に視界が反転する感覚を味わう。先まで上だった天上が、次の瞬間には地面に。掴まれた手を回され、能井の体が反転したのだ。
「ぬっ、うらぁ!」
地面に頭をぶつける前、能井は右足で相手の足を狙う。それに気づいた男は避けようと後ろに跳び退こうとするが、今度は能井が手を逆に掴み返し、ニヒルな笑みをマスクの下で作った。
「会いたかったぜェ、リンリンさんよォ!!」
ゴッと、音が鳴る。能井が彼の──小夏の頭に頭突きをかました。
その衝撃でフルフェイスは壊れ、破片の集合体となり地面に散らばる。その下から覗いたのは、先の衝撃で鼻を折り、鼻血をしとどに流す女の姿。
見覚えしかないその顔に、さらに能井の笑みが深まる。
嬉しそうに、そして凶悪に、目の前の魔法使いを“ターゲット”として認識した。
だが、対する小夏は切れた口内から唾液と血が混じったものを吐きながら、表情を崩さない。無表情に、感じているはずも痛みなどないかのように、佇んでいる。
その様子に能井も違和感を感じ、一歩後退した。
「おい、何か答えろよ、リンリン」
「………くん」
「ア?」
「……せな…」
ポツポツと、小夏は何かを呟いている。小さな声で、おそらく能井が最初に見た佇んでいた時も、言葉を紡いでいたのだろう。
「キリキリ」の音の合間に聞こえるその声に、能井は耳を澄ませた。
「……イくん。死なせない。ど……して…クをコ……し。カ…くん。死なせない。どう…てボクを……し。カイ…ん。死なせない。どうしてボクをコ………。どうしてボクを。どうしてボクを。どうしてボクを。どうして、どうして、どうして、どうしてどうしてどうしてどうしドウシどうど」
キリキリ、キリキリ、音が鳴る。
能井はさらに一歩、後退した。今彼女の目の前にいるのはリンリンだが、どうやら頭のネジが数本外れた状態にあるらしい。
歯を剥き出しにしたマスクの下で、汗が伝う。能井は何度か強く、瞬きを繰り返した。
「えっ?」
そして、カイマンの血溜まりにたどり着いた小夏は足を取られ、滑って頭をぶつけた。そのまま動かなくなる。
「エェー……?」
当然、能井は困惑した。
その直後、小夏の背後で扉が出現する。その中から現れた存在は、彼女を抱きしめた。
能井は知り合いの悪魔、彼女の悪魔試験を担当したダストンの友人であるその悪魔に視線を向ける。
「…ハルちゃん」
『やぁ、魔法使い共。生憎だが私は今、凄ぶる機嫌が悪くてな』
「ダストンがリンリンは「ハルのお気に入り」って言ってたけど、どういう関係なんだ、アンタら」
『コイツは私が暇つぶしがてら、一から育てたのだ。誰にも渡さん。チダルマにとやかく言われるから貴様らに手出しはせんが、一つ言っておこう』
地獄に来たら、覚えておけよ──────。
ハルはニッコリと笑い、小夏を抱きかかえたまま扉の中に消える。
残されたのは能井と、恵比寿に追われそれどころではなく逃げ回っている藤田。それと、気絶中のシン。
能井はひとまずシンを背負い、絶対に面倒になる煙への報告に頭が痛くなるのだった。
「だが、ようやく見つけたんだ。逃げられると思うなよ、俺から」
捕食者は、次なるターゲットに目をつけた。