「ボク」っ娘系メカニックちゃん   作:アビ田

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普段料理を作らない系パパのインスタント料理がやけに美味かった思い出。
なお、かつて母が第一子出産直後?に入院していた時に、鍋にうじ虫を沸かせた前科がある模様。


右手はママに、左手はパパに。

 目が覚めたら、見慣れた天上が見えた。木の節目が今にも蠢きそうで、その場所を凝視していたら襖の開く音がする。

 

「やぁ、おはよう小夏くん」

 

「……おー」

 

 まだ頭がボンヤリしている。体を起こせばボクは博士の布団を占拠していたらしかった。服はいつものTシャツに短パンの寝巻き。自分の身に付けていた服…と、そうだ、プレートはどこに行ったのか。

 

 そもそも、ボクはリビングデッドデイに参加していて、その途中で魔法使い四人が現れたのを見て、それから……。

 

「カイマンが死んで、ニカイドウくんが死んだフリをしていて…それで、どうなったんだっけ……?」

 

「君も現場に居合わせたんだってね。バウクスくんから聞いたよ」

 

「…あっ、生きてたんだ、先生」

 

 聞いたら、リビングデッドデイが終わってから二日経っているそうで。

 

 ニカイドウたちは魔法使いたちから逃げ果せた後、先生の前に扉を使って現れたと言う。ニカイドウは重傷だったがすぐに回復したらしく、カイマンも首が生えて来たそう。

 

 

「……は? 首が生えてきた? 気持ち悪」

 

「いやぁ、驚きだよね。トカゲの尾を例に挙げたら、あの生き物も天敵に狙われた際に自切を行うけれど、生え変わった尾に骨までは生えてこない。ところがカイマンくんには、頭の機能がソックリそのまま回復している。俄には信じがたいね。実に興味深い」

 

 博士がカイマンをロックオンした。これも死亡フラグだね、カイマンの。

 

 というか、ボクはいったいなぜ博士の家でグッスリ寝ていたのか。

 

「私に聞かれてもね。朝、インターフォンが鳴って玄関に出てみたら、君が地面に転がっていたんだ。バウクスくんの話を聞いた後で、てっきり魔法使いと戦闘になって、逃げてきたものだと思ったんだけど」

 

 博士がそのように考える理由に、彼が外に出た時宙に舞うケムリの残骸が見えたからだそうだ。

 だからボクが扉を使って逃げたものと思ったらしい。

 

「君じゃないってことは、いったい誰が…」

 

 考え込む博士。こんなボクに甲斐甲斐しくれるヤツなんて、一匹しか思いつかない。ハルちゃんだろう。

 

 体に傷がないから、魔法使い──ニカイドウが言っていた「掃除屋」の奴らと戦闘に陥ったのかはわからないが、その部分の記憶を失う何らかのショックは我が身に起きたのだ、きっと。

 

「あぁ、服の方は洗ってあるから大丈夫だよ。プレートにも交換期限があるから、景品をもらいに行くなら急いだ方がいい」

 

「はーい。その前にお腹空いた」

 

「焼きそばでいいかい?」

 

「うん」

 

 キッチンに向かう博士の後に続き、テーブルに腰掛けた。朝かと思ってたけど、ちょうどお昼時だ。博士もご飯を食べるついでにボクを見にきたのだろう。

 

 博士は白衣を椅子にかけて、冷凍庫から野菜を取り出す。それを刻んで油を回したフライパンに軽く炒め、インスタントの麺をぶち込む。あらかじめ切っておいた肉も同様に入れて、専用のソースを入れたら完成だ。

 

 ぐぅーと、腹の音がなる。

 

 今更、博士に着替えさせられたんや…って気持ちになったけど、思えばこの家に滞在する時も、ボクが勝手に入って風呂を一緒にすることがある。博士の面食らった顔を拝めたのは初回の一回限りで、二回目からは苦笑いしながら浴槽の隅に寄ってくれるようになった。

 

「何か、妙に美味しいのが不思議」

 

「そうかな?」

 

 なぜだ。ニカイドウくんのような思わず舌鼓を打つ美味さ、というわけでもないのに。

 偶にこの味を無性に食べたくなる。

 ろくに噛まないでバクバク食べていたら、不意にテーブルの上に水滴が落ちた。

 

 ポタポタ、とめどなく落ちてくる。

 

「……博士はいいよね。いつも冷静で、落ち着いてる」

 

「私のモットーだからね。焦っても仕方ないし、生来の楽観的な人間なのさ」

 

 拭くものがないから、とりあえず椅子にかけてある白衣で顔を拭く。血と死体の匂いがわずかに感じられる。若干タバコ臭い博士の匂いも。

 

「ボクも冷静でいたいな。よくわからない感情の波に呑まれてしまうのが、怖いんだ」

 

「そこもまた、君の良さでもあると思うけどね。…悪いところでも、あるけれど」

 

 途中から溢れる涙を諦めて、食事を再開した。鼻水も出てきて、それでも焼きそばは美味いから食べ進める。

 

 食い意地が悪くも見えるボクに、柔らかい表情を浮かべていた博士は立ち上がって、皿の肉を摘み、ボクの皿にくれる。

 

 それと、頭の上に手を置かれた。

 

 

「大丈夫だよ。君が落としても、私がまた拾う。私だけじゃない、他の人たちも拾って、君に届けてくれるよ」

 

 

 そうだ。ボクは“落としもの”が多い。

 

 自分でもいつか気づかぬ内にすべてを落としてしまいそうで、怖くなった。ボクが体験したはずのリビングデッドデイでの一部の記憶は、どこに行ってしまったのか。

 

 次第に声が抑えられなくなった。でも、少し安心できた。だって博士が拾ってくれる、って言うんだもの。

 

 それはきっと、また与えてくれる、って意味なのだろう。

 それでも欠陥品(ボク)燃料(愛情)を与えてくれるなら、ボクはまた明日に進める。

 

 ボクが「小夏」として、機能できる。

 

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 発明家リンリンがホールで生きていた──。

 

 斯様な情報が能井によって明かされた。また、その時の彼女の様子がおかしかったことも。

 

 戦った能井としても、戦闘の“クセ”などから本人で間違いないだろう、と。

 

 そうなればこれまで煙が知りたがっていた、十字目のボスが死んだかどうか、その疑問を晴らせる。そのためにリンリンを捕獲し、情報を吐かせる必要がある。

 

 

「DEATH茸事件」から六年経ち、十字目の勢力も弱まった。未だボスの側近を捕らえるに至っていないが、もう烏合の衆とも呼べない有様であるのが、十字目の現状である。

 

 しかし能井の報告でもう一つ、気になる点もあった。

 

 

「上手く聞き取れなかったんだけどよ。正しければ、リンリンのヤローは「カイくん。死なせない。どうしてボクを殺したの」って言ってたんだ。それこそお経みたいに、何度も何度も」

 

 

 もしそれが正しいなら、リンリンは十字目のボスに殺された可能性がある。

 

 また顔見知りであるにも関わらず、能井たちをまるではじめて会った人物のように見ていたことも能井は疑問だった。仮に掃除屋の二人に気づいていたなら、ゾンビを殺すような真似をせずとっとと逃げていたはずだ。

 

 さらに、現れた悪魔「ハル」の存在。

 

 

 いったい六年前、リンリンと十字目のボスに何があったのか。

 

 

 

 この解決策として、煙は自らハルとの接触を試みた。金銭を積み、悪魔を呼び出す方法で。しかし接触はできたものの、ハルは十字目のボスとリンリンの関係についてはノーコメントだった。

 

「なぜそこまで、お前は発明家リンリンに肩入れするのだ?」

 

『ッフ、能井と同じ質問をするか、煙。あの魔法使いにも言ったように、リンリンは私が見つけ、気まぐれに育てた娘だ。そこら辺は、他の悪魔にも聞かされ知っているのではないか?』

 

「……まぁな。悪魔のお気に入りがいると知れば、気にもなる。拾った、という内容しか知らないがな」

 

 煙もチダルマを筆頭に、悪魔の知り合いが多い。だが、それ以上に発明家リンリンは悪魔の知り合いが多く、また彼らとの距離も近かった。彼女の屋敷に悪魔がウロウロしていたのだから、当然と言えば当然であるが。

 

 

 リンリンの性質。100個のうち1つは魔法界の発展に繋がる発明を作り、残りの99個は悪魔が欲しがる発明(ゲテモノ)を作る。

 

 一から作らせると、ほぼすべてデッドボールになる女が、リンリンという存在。だからこそ煙は、彼女を開発部のアドバイザーの位置に立てた。その口出しする立場が、発明家リンリンを活用する上でもっとも適切な方法だったからだ。

 

「それと、これは能井が聞いた内容だが、リンリンは十字目のボスに殺されたと聞く。それは本当か?」

 

『それについてはお前の一番知りたい内容に触れるゆえ、答えられんが、リンリンが一度死んだのは本当だ。それもホールでな。だがアイツが()()、我々悪魔が作った超回復のケムリ瓶を頭に入れていたのと、万が一のために持っていた能井のケムリにより、生き返ったのだ』

 

「能井の……ケムリ瓶を?」

 

『何だ、知らなかったのか? 貴様のイトコに特訓に付き合わされる代わりに、リンリンは奴のケムリをもらっていたのだぞ』

 

 よく、致死量のケガをするから──と、ハルは忌々しげに付け足す。

 

 煙は額に青筋を浮かべた。イトコが勝手に希少なケムリを、よりにもよって敵対側の相手に代価として渡していたのだ。そりゃあキレもする。

 

「アイツ、自分の価値がわかってねぇのか……。まぁいい、俺としてはあの発明家を捕らえなければならないが…」

 

 チラリと、キセルを吹かせながらハルに視線を向ける煙。

 

 これもまた能井の発言で、ホールでハルは「チダルマにとやかく言われるから貴様らに手出しはせん」と語った。それは言い換えれば、ハルがリンリンに手を貸すにも限度がある、という事になる。

 そのラインに対して、リンリンに危害を成すことがどの範囲に及ぶか、煙はハルの反応を見て探る。

 

『………殺すマネはよすんだな。この間、魔法界に来たアイツにチダルマが接触した』

 

「何ッ、チダルマが?」

 

『そうだ。アイツはあろうことか、私が送ったマスクを付けず、ダサいマスクを付けた上に、チダルマからマスクをもらいソレを付けていたのだ。恩を仇で返すとは正にこの事。チダルマもわかって私のリアクションを愉しんでいるのだ、忌々しい。アイツは私のものということをわかっていない。フ、フフフ……またしっかり、誰のものかを教え込んでやらなければな……』

 

「……そ、そうか」

 

 ハルは薄暗い中、瞳だけ怪しげに光らせる。彼女の並々ならない、悪魔的な執着心を感じ取った煙は、引き攣った笑みを溢す。

 

 悪魔に魔法使いの時の性別はあってないようなものだが、ハルは女性。解釈によっては、女性が当時少女だったムスメをさらって育て上げたことになる。

 悪魔のいつもな理解しがたい行動だとしても、犯罪の香りがプンプンする。

 

 

「お前の言わんとするところはわかった。つまり、チダルマも目にかけているということか」

 

『いや、正確に言うなら、気に入っている、という感じだろう。さながらオモチャのような………奴の、チダルマのリンリンに対する認識は』

 

 悪魔にも、流行り廃りがある。有象無象のオモチャが存在する中で、チダルマはその一つ、「小夏」というオモチャを手に取った。

 ハルとしては先日のチダルマの行動は、そのように感じられたのだ。

 

 悪魔でありながら、雑巾の水を搾り取る時のような、そんな形容しがたい感覚を引き起こされていると錯覚するほど、身の毛もよだつ出来事。

 

 それを、チダルマから「お前の娘に会ってよー」と、軽い感じで言われて知った。

 もし彼女が魔法使いの時に同様の体験をしたら、そのまま卒倒する自信さえある。

 

 

『私は悪魔であるがゆえ、越えられないラインがある。だが忘れるなよ、煙。私はその線を越えてでも、あの娘を守る覚悟があることを』

 

「…まるで、母親のようなことを言うのだな」

 

『ッフ、あのじゃじゃ馬の母親か。もしそうなら、悪くないかもしれないな』

 

 威張るように語った割にハルが浮かべる表情は、コワモテの悪魔顔であっても不思議と柔らかく映える。

 煙は横目でその表情を見、ひとつの確信──悪魔ハルと発明家リンリンの関係性──にたどり着き、瞳を閉じた。

 

 開けられた赤いマスクの開口場所から、煙が吹かれる。白い、黒色ではない紫煙。

 

 生憎だが煙は、人の親になったことはない。二回り近く年の離れたイトコをの面倒を、それこそ少女が己の腰より小さかった頃から見ているが、それまでだ。なぜか当人の能井(ムスメ)からは、半永久的に嫌われているものの。

 

「そう言えば、ずっと気になっていたことがあってな」

 

『ここからは延長料金だぞ』

 

「悪いが、金ならいくらでもある」

 

 

 煙は語る。

 

 かつての、魔法界を騒がせた大事件。「キリキリ」について。

 

 魔法使いを虐殺した機械に取り付けられていた、謎の回し。最後はすべて跡形もなく爆発し、破片一つ残さなかった。

 だが、回しは確かにあった。

 

 それと、発明家リンリンのマスクに付けられていた頭の回し。それは「キリキリ」と音を出す。能井も今回の一件を話す際、口頭でその音を「キリキリと」と、表現していた。

 

 そう、あの回しは音を成すのだ。キリキリ、と。

 

 さらに人型機械が爆発した後、現場から辛うじて採取できた機械に搭載されていたと思わしきケムリ。それを調べて、当時煙は黒幕に行き着き殺した。その場面を彼はしかと覚えている。相手は抵抗したが、呆気なくキノコにされて死んだ。

 

 だが改めてそれを調べれば、ケムリの該当者が出た。調査したのは、発明家リンリンと提携をして間もなくのことだ。彼女から採取したケムリが一致した。機械に搭載されていたケムリと。

 

 このような大規模な隠蔽工作は、悪魔にしかできない。煙はチダルマにこの件を話したが、当の悪魔様は一瞬沈黙したあと、瞳を逸らして「知らねぇな〜」と、口笛を吹かした。マックロクロスケである。

 

 

『チダルマァ……ケムリへの手回しを忘れやがったな』

 

 

 ハルのその発言は、魔法使いリンリンが「キリキリ」であった、と証言したようなもの。

 

 チダルマが関わっていることで矛先を収めざるを得なかった煙は、怒りに震えるハルから距離を取る。

 

『言っておくが、煙。あのムスメは魔法使いだけを目の敵にしているわけでは……いや、「キリキリ」の時は理由があり目の敵にしていたが、アイツは魔法使いだから、人間だから、という区別は元よりない』

 

 人間だろうが、魔法使いだろうが、悪魔だろうが、必要とあれば殺してその命を消費させる。

 

 カスカベの平然と魔法使いを研究材料にし、その皮や肉、骨を剥いで実験に使うような──そんな一面を持ち、同時に愛を抱えている。ハルのように、大切なものへ抱く感情を。

 

 

『“発明”に愛され、愛に狂い、異常を素で体現しているのがアイツだ』

 

 

 手を出せるものなら出してみろ、とハルは言った。

 

 悪魔のように、恐ろしい笑みを作って。

 そこには脅しの意図が含まれておらず、純粋にリンリンの狂気を知らしめるように笑った。

 

 

 

 そして、悪魔ハルとの話が終わり、煙は思考に耽る。

 

 ハルのお気に入りであり、チダルマが手を付ける魔法使い、リンリン。

 その本名が「小夏」であることは、当時十字目のボスが漏らしたので、知れている。

 

「アプローチの仕方を変える必要があるな。ひとまず、療養中の心からの話を聞いてからだ」

 

 心臓をナイフで刺された男は、能井の魔法ですぐにケガは治ったものの、念のため数日の療養を受けている。対し能井の方は、リンリンを討伐する気満々で、朝から晩まで鍛え続けている。一応、現在掃除屋の二人はトカゲ男を抹殺する任務中なので、能井が独断でリンリンを殺しに行くことはできない。要は、(ボス)の指示待ち。

 

 

「心はまだ、トカゲ男が生きていると思っているようだが……」

 

 

 部屋から出ようとした煙。

 ちょうどその時、部屋の至るところに沸いているウジが手のひらに落ちた。

 

「うげっ」

 


 

 

【発散】

 

 

『もー、まぢあり得ない。私ちょー激おこプンプン丸なんだけどぉー。チダルマったら、絶対意図的に手を抜いてたと思わない、ダストン?』

 

『その方が面白そうだから、手を抜いてたんだと思うにゃー』

 

『やっぱそうだよねー。もう絶ッ対に、“マジでヤベェブツ”は貸してあげないんだから!』

 

『……ちょいと待つにゃー、ハルちゃん。そのマジでヤバイ奴って何だ』

 

『おっと、口が滑ってしまった。使うと私たち(悪魔)でさえ確定で死ぬものがある、あるいは世界を容易に滅ぼせるものがある、使ってはならない発明品類だ』

 

『めっちゃ使いたいんだけどにゃー!!』

 

『今は小夏が持っている、その危険物が入っている発明品をな』

 

『おい、ハルちゃん、おい』

 

『フッフッフ……今この瞬間、アイツが間違えて使い世界が滅ぶかもしれない。このスリルは堪らんな』

 

『チョー面白いけど、返してもらって来いにゃー』

 

 俗に言うJKの姿で、カフェでティータイムを取る二匹の悪魔。

 

 そこにたまたま通りすがった魔法使い、煙ファミリーのド下っぱ藤田は、思わずその光景に二度見した。

 

「また悪魔様が何かしていらっしゃる……」

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