かなり無理くりなところがあるかもしれないです。
精神を鍛えるということはつまり、ボクの場合は喜怒哀楽を豊かにすること、らしい。
ボクはこれでも笑ったり泣いたり、表情豊かなつもりだ。ハルちゃんから見ると、「楽」の感情は人一倍持っているという。自分の創作意欲を享受するために必要不可欠な感情だから。
対し怒りは、毛ほども感じられねぇそうだ。一応、無いわけではないようだが。
確かによく遊びに来る悪魔たちにイタズラされても、自分のまぁ、それなりに可哀想な過去を考えても、悪魔へ怒りとか、社会への怒りとか、そういうものは抱かないように思う。
楽しければ人生それでいいじゃん?
『そんなキサマに、今日はイイ物を持ってきた』
ハルちゃんが渡してきたのは、ヘッドギア。これは魔法使いが“悪魔試験”を受けるときに使われるそうで、本来は対象が眠っている間、その深層に存在するトラウマや、負の感情などに打ち勝つために使われるものだという。最悪己の深層の意識に負けて、発狂することもあるそうで。
『おい、何をしている』
「何って……分解?」
こんな面白いものがあるなんて、ハルちゃんも水くさいね。もっと早く教えて欲しかったよ。どういう原理で魔法使いの脳に干渉しているのか、調べてみないと。
『壊すな、バカもの!』
「あーん、ハルちゃんのいけずぅ!」
道具を奪われてしまった。流石に手で分解するのは難しい。
『まったくお前は…。このヘッドギアは従来の物と少々違ってな、感情が増幅されるように私がいじった。無論、ただ付けて効果が得られるのはつまらんからな、ちょっとした仕掛けを用意してある』
「仕掛け?」
『お前には、夢の中で私の行動に付き合ってもらう』
歌を作ったり、魔法使いどもにイタズラする内容を考えたり、映画鑑賞したり、エトセトラ。
それってとどのつまり、ハルちゃんと遊ぶだけなんじゃないの…?
『フン、お前は最近私という悪魔がいながら、ほかの悪魔と遊んでいるだろう。ここら辺で誰のものなのか、しっかりと自覚させてやる』
「ボクって、ハルちゃんのものだったんだ」
『文句があるのか? 私が最初に目をつけた才ある魔法使いだ。ほかの奴らにはやらん』
まぁ、いいけど。悪魔に関しては遊んでいるというより、遊ばれているっていうか、弄ばれているっていうか。家が無くなるドッキリとかはやめて欲しい。
そうしてボクは、ハルちゃんのものである事を自覚させられつつ──この言い方は語弊がある気がするけど──、日々を過ごして行った。
その甲斐あって、悪魔にイタズラされて「ぢぐじょう……!!」と叫ぶくらいには、喜怒哀楽が育まれた。こうして語る分だと、あまり変わってないけど。行動と思考は常に連結しているわけではない、というヤツさ。
「あのクソ悪魔どもめェ! このオレが奴らを駆逐する機械をゼッテェに作ってやる!!」
『ウンウン、その意気だ。ただし悪魔への悪口はご法度だぞ』
「痛ッ! ……テメェ、何すんだゴラァァ!!」
ハルちゃんの加減されたパンチを食らい、床にめり込む。
この頃は完全に目的から逸れて、連日対悪魔用兵器を作ろうと躍起していた。しかし下の上くらいの魔法使いになったボクが、悪魔様に敵うわけもないのだ。相手は全知全能の存在。魔法だって効かない。
ただし調べたところによると、悪魔にも通じる手があるようだ。
それは、「ストアの包丁」という。悪魔たちが店に来たときに聞けた。
その包丁であれば、悪魔の肉を切り、殺すことができる。その刃先は「ストア」という異形の肉屋から取れるもので、普通の魔法使いには見えないのだそうだ。
それさえ手に入れば機器類を改造して、戦闘マシーンを作っていたかもしれない。その包丁の保管自体悪魔で行っているから、手に入れるのはまず不可能。そもそも、こんな企みをしているボクが地獄送りになっちゃう。
そして、悪魔討伐計画が頓挫すると、ボクはヘッドギアからインスピレーションを受けていた代物を作り始めた。
性格が
「死ねや、オラァ!!」
と、夜に物陰から魔法使いを襲って、オトナの被検体を数体調達してきたボク。
ハルちゃんがいない間に、かろうじて生きているソイツらで実験を進めた。
まず、彼らが魔法を使えないように指をすべて切り落として、切断面の管からケムリが漏れないよう縫合しておく。ついでに体の自由がきかないよう薬も投与する。
従来のヘッドギアっていうのは、魔法使いの脳に「トラウマ、または負の感情を刺激する」っていう効果の魔法が使われている。前提としてヘッドギアは、魔法使いの頭の中を読み取っているっていうことだよね。
この、頭の中を読み取るところが興味深いのだ。
脳波を読み取る機械は作ってあるから、あとは食べると死ぬほど笑ってしまうキノコや、見ると絶対に感動で泣いてしまう悪魔制作の映画。そんな“喜怒哀楽”を強制的に引き起こす物を使い、魔法使いの感情パターンを記録する。
「ヒャッハ、泣き叫びなァ!!」
正確に記録できるよう、被験者の頭蓋骨を切り開いて、無数のコードを脳につけていく。ベッドがガタガタ激しく音を立てていますね。生きがいい方が研究が捗りそう。
そうやって、無数の“喜怒哀楽”のデータを集めていき、さらにその感情を誘発させる機械を作る。コイツを小型化させて、頭に埋め込む。ボクのね。
…いや、まぁ、ボクも流石に今の性格は嫌なんだ。いくら感情的になるためだからって、ケモノのように気性荒いんじゃ困る。やっぱりボクってクールじゃないと。
ハルちゃんはボクが何かコソコソとやっていることに気づきつつ、静観していた。何か言われたらやめなければならなかったが、容認されているなら好きにできる。
手術前に伸ばしてた長い黒髪をバリカンで剃って、いざご開帳、我が脳みそ。
ただ医者ではないから、麻酔とか、専門の知識はない。だから人生最大の激痛を味わいつつ、手を動かしたよ。脳の状況を映像で見れるように、モニターを目前に設置して進めた。
言っておくと、魔法使いが脳を開張したくらいでそうすぐには死なない。前にたまたま事故に遭って体が真っ二つになっていたヤツを観察していたこともあるけど、なかなか死ななかったから。
手術自体は予定通りの場所に埋め込んで、終了。キズはクソ高い修復系のケムリを使えば、あっという間に治る。ただキズは塞げたけど、髪までは治せなかった。
見やすいように随分と大きく頭蓋骨を切ってしまったけど、手術が上手いならこんな苦労はいらなかった。
ご開帳したのには、別の理由もあったんだけど。
魔法使いには「悪魔腫瘍」っていうのがあってだね、図太いワレワレでも、ソイツを傷つけられると簡単に死んでしまうのだ。悪魔腫瘍は魔法使いの生命そのもの。心臓、と言ってもいいかもしれない。人間にはないものだ。それが頭の中にある。
自分の悪魔腫瘍を一目見たいがために、脳みそをかきわけて、変な声を上げながら映像に収めた。ハルちゃんにもぜひともボクの手術映像を見てほしい。何度か死にかけた気もするけど、小夏ちゃんは無事手術を終わらせたのだ。
あとは最後の仕上げで、右耳の上あたりにダイヤルをつける。これを回すことで、自分の感情を調整できる。回せる範囲は、ボクの脳が感情の変化に耐えられる範囲まで。それを越すと廃人になりうるから、上限は必要だ。
またこのダイヤルは磁石式だから着脱可能で、取ると下に円形の金属が見える。ちなみに中の機械は、つなげた内部の管からケムリを吸収して稼働する。
このような見た目にしたのは、ひとえにオシャンティーだからです。
そして後日、フードをかぶってボクはハルちゃんと会った。手術映像も持って。
『小夏、キサマ最近ヘッドギアを付けず寝ているな』
「それなんだけどね、ハルちゃん。実は自分で感情を調整できる方法を作ったよ」
『ほう? …確かに、性格が戻っているな』
「ほら、オシャレでしょ!」
フードを取って、自分の頭部を見せつける。直後、ハルちゃんは固まった。悪魔が思考が停止するほど素晴らしいものを作ってしまったというの、ボク?
『悪魔パワー!!』
瞬間、体に電流が走った。ハルちゃんの指先から放たれたエネルギーのようなものが、ボクの体に当たっている。
何をされたのか瞠目していると、やけに頭がむずがゆくなった。かこうと思えば、そこには髪が。あれ、全部剃ったはずなんだけど。ダイヤルは消えていない。
『フフフ、フフフフフフ………』
「は、ハルちゃん…?」
『次、勝手に、私の許可なく無毛にしてみろ………地獄に送る』
彼女の目が、笑っていなかった。どうやら怒らせてしまったらしい。小夏ちゃん大失敗じゃないか。
『まぁ、やったことについては褒めてやろう。自分の頭をいじくるとは、実に悪魔的な考えだ。私もたまに自分の角を取る』
「え…?」
『取ると、これが結構安眠なのだ。真似してみてもイイぞ』
「ボク角ないから無理だよ」
ダイヤルを着脱式にしたのも、寝返りを打つとき邪魔だからだ。まさか悪魔も己の睡眠の質のために、立派な角を取ってしまうとは、恐れ入る。
『悪魔は寝なくても、ぜんぜんヘッチャラだけどな』
平気なんかい。