「ボク」っ娘系メカニックちゃん   作:アビ田

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[Ⅴ]
青春プレイボール。


 ボクは機械類なら発明も修理もお手のものなんだけど、生物をイジって何かを作るのは苦手だ。作ろうとすると基本的に実験体が死ぬ。

 

 対しカスカベ博士は人間の手術もでき、生物──殊に魔法使いを利用して研究することが多く、その過程で彼は人造人間を作った。魔法使いの死体を再利用したそうである。

 博士曰く、30分毎に電流を流さないと暴走する、とのこと。

 

 また、ニカイドウを攫った男が飼っていた愛らしい見た目の巨大ゴキブリも、電波で操れるようにした。

 

 これも博士曰く、車よりも速く走れるよ、とのこと。名前は「ジョンソン」と言うらしい。虫でありながら、「ショッキング」という単語も話せる。

 

 絶好調な博士に、ちょうど良いボディーガードくんが増えて、我が家は賑やかになった。唯一ジョンソンの衛生面だけ気になるが、まぁ大丈夫だろう。

 

 

 

 時刻は夕方。

 

 そろそろかなぁ、とバイクに荷物を積んで身支度をしていたら、博士に声を掛けられた。

 

「街を出るのかい?」

 

 普段より長居した。こうして所在なく生きているのも、この人間の世界を楽しむためだけど、一定の場所に居続けていたら必然と他人と親密になってしまう。いつ失うかわからない爆弾持ちのボクにとっては、人間との関わりは必要最低限でいい。それでもできた繋がりは、大事にするよ。

 

 それと、単純にこのホールの街が魔法使いの出現が多いからだ。身元が割れないよう、なるべくここから遠ざかる。仮に正体が魔法使いにバレて終われる羽目になったら、博士を巻き込む可能性が高まる。

 

 人間は脆い、魔法使い(ボクら)と違って。

 

 ボクがまだ壊れるのはいいんだけどさ、博士が壊れるのは絶対に許せないんだわ。

 

 それでも博士の元に帰って来るのは、彼がボクの父親であり、「小夏」の充電場所だから。

 

「ニカイドウやカイマンと友だちになれてよかったよ。やっぱ楽しいね、ここは」

 

「ふふ、そうかい。私としては残念だよ」

 

「寂しい?」

 

「あぁ、寂しいかな」

 

 珍しく、ショージキに本音を口にする博士。

 

 思わず抱きしめたくなったら拒まれた。抱擁したら、必然と彼の顔がボクの胸に突っ込むことになるからだろう。あまり子ども扱いされるのは嫌がる博士である。特にボクの場合だと。

 

「ニカイドウくんたちと友人になれたのなら、別れの挨拶くらいはしていったらどうだい?」

 

「えぇー…恥ずかしいよう」

 

空腹虫(ハングリーバグ)ならまだやっていると思うから、行こうか」

 

「恥ずかしいよう〜!!」

 

「ハイハイ」

 

 博士に引っ張られて、ジョンソンに担がれて、ボクはニカイドウの店へ向かうことになった。

 

 

 

 

 

 そして店に着き、すでに居たカイマンやバウクス先生、それと、初めましてなシャチっぽい青年「13(サーティーン)」くんと遭遇した。

 男共は程よく酔っていて、ニカイドウは餃子を作っている。カイマンのテーブルには大量の空になった皿があった。

 

「やぁニカイドウくん、バウクス先生、デブ、それに初めましてな青年くん」

 

「誰がデブじゃい!!」

 

「別にぃ、トカゲ男さんのことを「デブ」って言ったわけじゃないんだけどぉ。反応したってことは、自分が太ってるって自覚があるのかな〜?」

 

「ぐぬぬ……言わせておけば、この野郎…」

 

「そうカイマンをからかってやるな、なっちゃん。博士もこんばんは、注文は何にする?」

 

 ジョンソンは可哀想だが、店の外で待ってもらっている。飲食店にペットを入れないように、最低限のルールは守らなければいけない。後でめいいっぱい遊んでやろう。

 

 先生とサーティーンくんが座っている隣のテーブルに博士と座る。

 博士はねぎまと枝豆を頼んで、ボクはビールとチャーシューラーメンを頼んだ。

 

「はい、お待ちどうさん」

 

 さほど待つことなく、ラーメンが届く。どのタイミングで別れの言葉を告げようか考えながら、麺を啜る。はぁ…美味い。チャーシューが瞬時に溶けて行くし、麺もコシがあって、何よりスープがダシが利いて美味い。飯を食っている時は、割と本気でニカイドウくんを嫁にしたくなる。そうすればボクは毎日この美味い飯を食えるわけだ。

 

 ──などと考えていたら、嫁の…の部分が口に出ていたのだろう、「オイオイ」と、ニカイドウくんが苦笑いする。

 

 それにイイ感じで酔ってきた先生が、ボクの性別を忘れて茶化してきた。

 

「いよっ、モテる女はつらいねぇ、ニカイドウ!」

 

「おい、先生までやめてくれよ…」

 

 一瞬カイマンの反応が気になって視線を向けたが、餃子に夢中である。頭の中が餃子の具に侵されでもしているのか。まぁボクが女だと知っているから、焦る必要もないか。いや、女だとしてもニカイドウに好意を寄せている訳でもないからな。どの道泰然としていられるのか。

 

「へぇー…ニカイドウを嫁に?」

 

 博士が皿に分けたねぎまの肉を外のジョンソンにあげに行っている折、サーティーンくんが寄って来た。この青年、両頬に赤いラインが二本ずつ入っているのが特徴的だ。

 

「アンタ、よくこの店には来るんですかい?」

 

「いや、あまり。この中だと一番来店経験が少ないんじゃないかな」

 

「そうですか。俺はよく来るんですけどね、ニカイドウのギョーザを食べに。彼女のギョーザを食べると元気になるんですよ」

 

 おぉ……? ニカイドウくんも中々隅におけないな。

 

 肝心のニカイドウは、明からさまな発言をしたサーティーンの方を見ていない。話は聞こえていただろうが、彼が自分に好意を向けていると気づいていないようだ。鼻歌を歌って皿を洗っている。ウッソだろ、鈍感属性も持っているというのか…? そりゃあモテるわ。男は振り向かせたくなっちゃうよ。

 

「………」

 

 

 おおっと、これまた餃子の虜になっていたカイマンが、サーティーンへ忌々しげな視線を向けました。

 

 これは恋の三角形(トライアングル)な予感です。波乱、実に波乱。このバチバチを乗り越えて恋の女神を味方につけ、ニカイドウに辿り着くのはいったい、いったい誰だァーー!! 

 

 いけない、実況風に………な、なんとカイマンがカウンター席から立ったぞ! 

 

 彼が向かう先はサーティーンの元。その巨漢で地面を揺らし、愛しき餃子をテーブルに残してやって来る。殴り合いもかくや、という状況なのか? せめて器物破損だけは勘弁願いたいぞ、ニカイドウのためにも。

 

 しかし、しかし、カイマン選手は止まらないッ! サーティーンも一瞬身を怯ませたものの、カイマンから目を離さないぞォーーーッ! 

 

 

「オメーが毎日店に来たら、オレのギョーザが無くなるだろうがァ!!」

 

 

 ………ハ? 

 

 思わず、席を立ってカイマンを殴りたくなった自分を押さえた。

 

 この野郎、ニカイドウより餃子を優先したのか? 恋より食べ物を優先したっていうのか? 本当に頭の中に餃子の具が詰まっているのか? 解剖して確かめねば。

 

「…()()()()()、ライバルってわけですね」

 

「ライバルも何も、ニカイドウのギョーザはすべてオレのもんだ」

 

「HAHAHA、熱い戦い……ん?」

 

 三人? サーティーンくん君、今ボクのこと見た? 何かニカイドウ争奪戦にボクも頭数に入れられている? おかしいなぁ。

 

 …いや、おかしくはないか。だって今のボク、見た目はフルフェイスのライダー野郎だもんな。つまり最初から、サーティーンくんに男として認識されているわけで。彼以外の全員は、ボクが女だって知ってるけども。

 

「ヘイ、サーティーンボーイ」

 

「あ? 何です……へえ?」

 

 知り合いしかいないので、ヘルメットを取って顔を見せる。「む、胸…?」と指を刺され、かなり失礼なことを言われたので、服のジッパーを下げて胸の形が露わになるようにした。

 

 オイラは実は、女だったんだ! (デデドン!)

 

 

「え? ………え?」

 

 

 一度ボクの顔を見て、また視線を胸に戻すサーティーンくん。そんなに凝視されても困る。

 カイマンの方は前の一件を思い出したのか、露骨に視線を逸らした。それはそれで少し傷つく。

 

「というわけだ、あと自己紹介していなかったが、ボクは「修理屋のナツ」。呼び方は好きにしてくれ」

 

「………あ、はい」

 

 先の熱い戦いは何処へやら、カイマンもサーティーンくんも席に戻ってしまった。ちょっと空気の悪さに気まずくなり酒を飲んだら、サーティーンくんが座ったまま顔をこちらに向ける。

 

「…あの、俺明日、処刑場跡グラウンドで野球するんですケド、よければ観に来られませんか?」

 

「野球?」

 

 そう言えば博士が、この歳で野球することになっちゃったよー、と前に言っていた気がする。

 もしかしてその試合なのだろうか、博士が参加するのは。

 

 チームの監督らしい酔っ払いになったバウクス先生に聞けば、ニカイドウやカイマンも出るらしい。ジョンソンも出るって本当ですか? 

 

 ボク、誘われなかったんだけどな……べ、別に疎外感なんて感じてないよ……。

 

「だってお前じゃ一人は殺すだろ、絶対」

 

「何を根拠にっ! この中年ぶとり!」

 

「お前さんのこれまでの悪行を知ってる身からしたら、参加させられるわけねーよ」

 

 先生の酷い言われように、ボクのガラスのハートはバラバラに砕けた。ボクがリビングデッドデイであげたタバコを返して欲しい。詫びと思って結構たくさんあげたのにさ。

 

「まぁ、応援ぐらいには来いよ。参加は許可できねぇが」

 

「行くよ! もう!!」

 

 せっかくだから、前に街を回っている間に買った応援に適していそうな服で行ってやるさ。ボクは先生のチームの応援役。

 

 

 結局、ボクの別れの言葉は明日に先伸ばしされることになった。

 何て言おうか迷っていたから、ある意味ラッキーだったかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

 対戦相手は「平和シャークス」。対するこちらは「中央ワームズ」。

 

 平和シャークスはシニアなお医者様のチームで、バウクス先生といがみ合う中らしい。場所はかつては魔法使いの処刑場だったグラウンド。今でも殺された魔法使いの死体が棒に縛り付けられて残っており、趣がある。

 

 ボクはかつて人間界で入手した「セーラー服」なる衣装を着て、両手にデカめの銃を装備し参加している。

 

 ちなみにセーラー服の上はへそ出しルックである。スカートの丈も短めだ。飛び跳ねると下着が見えそうになるので、きちんとタイツも履いてきた。

 

 とりあえずマウンドにいる皆んなに向かってピョンピョン跳ねながら、銃を撃つ。

 

「フレー、フレー、中央ワームズっ!」

 

「実弾じゃねぇか!!」

 

 ベンチに座っている監督でもあるバウクス先生が、顔を青ざめさせた。人間を殺さなければイイんでしょ? 

 

「いいか、撃つなよ……絶対に撃つなよ…」

 

 それは“フリ”というヤツだろうか。撃つなよ…と言うのは建前で、実際は撃って欲しいという。

 了解した。不肖小夏、タイミングを見計らって敵チームを狙います! 

 

 

 今回の試合では、中央ワームズのサード役として博士の作った人造人間の「フランケンシュタイン」くんも参加している。

 

 逆に平和シャークスには、意外にも10代と思われる青年と、シャークな着ぐるみを着た紫髪の少女がいた。青年は投手のようで、少女の方は楽しそうに歌っている。

 

 一番はサードのフランケンくんから始まり、見事にホームランを決めた。

 それに続いて試合はこちらの優位に進む。

 

 博士もバントなものの、老人とは思えない速さであっという間にセーフをもぎ取った。

 

「キャー! 博士カッコいい〜〜!!」

 

 さすパパ。是非ともハルちゃんと観戦したかった。

 撃つ前に、ボクの方を見てなぜかウインクして来たサーティーンくんもライト前ヒットを決め、次のカイマンもホームランを決めた。

 

「……へぇ、やるじゃん」

 

 思わず見惚れてしまうくらいには、清々しいホームランである。

 だがバウクス先生が打者に立った時から突如、投手の青年の球が速くなった。覚醒した……だと? 

 

 元より先生の活躍は期待していないので、どうでもよいのだが。

 

 

「オノミモノ、オマエモノムカ?」

 

 その時、斜め下から声がかかった。そちらに視線を移せば、シャークな少女がいる。カイマンの方に視線が釘付けだったので、気づくのが遅れた。先生の弟さんと、その友人の魔法被害者の男二人は飲み物を手に持ったまま、うつらうつらとしている。飲み物に睡眠薬でも仕込んでいるな。

 

 敵チームの策略というわけだろう。まぁ、このままでも十分中央ワームズが勝ちそうだからいいか。その代わり、そちらが工作をしたのだ。こちらも工作をさせてもらうさ、銃でな。

 

「飲み物はいいや、シャークスさん」

 

「シャークスジャナイ、エビスダ!」

 

「えびす? ……あぁ、君の名前ってこと?」

 

「ソウダ、デカパイオンナ!」

 

「………そ、そー言われると恥ずかしくなっちゃうから、言わないでよ…」

 

 自分の正確な歳は分からないけど、普段肌を隠している分、露出の多いこの服は結構恥ずかしいのだ。

 何だろうこの気持ち。年下の子どもに、「おばさん!」って指を刺されて言われる気持ちに似ているかもしれない。

 

 ボクが胸元を隠すようにしてしゃがみ込んだ間、エビスくんは、ジャーナ、と言って去って行った。

 

「着替えて来ようかな。でも服の替えないし……いいや」

 

 先生は三振。ジョンソンはショッキングにフォアボール。弟さんはマウンドに立ったが半分寝ており──投手が投げる前に、ジョンソンが三塁まで進んだ。

 しかし弟さんとその友人は完全に眠ってしまい打てず、ここでスリーアウトチェンジ。

 

 

「私に任せろ!」

 

 

 おーっと、ここで我らがニカイドウの登場だァ! 

 

 ニカイドウ、華麗なフォームで次々とアウトをもぎ取る。三番目の人間も粘って打てたが、その球をキャッチャーのカイマンが取り、敵はスリーアウト。またチェンジである。恐ろしい…恐ろしい速さだ。これが神の右手を持つとされるニカイドウ選手の力なのかぁ…!? 

 

「実況者の方が向いてそうだね、ナツくんは」

 

「試しにマイクでも持たせようぜ、博士」

 

 カスカベ(セカンド)バウクス(監督)、外野二人の声が聞こえますが無視です。私はこの戦いを観る者として、この熱い戦場をお伝えする義務があるのですッ!! 

 

 そして、そしていよいよ我らがニカイドウ、彼女が打者となった。

 

 先ほど投手として圧倒的な力を見せたニカイドウ。神の右手を持つ彼女は、いったい私たちに何を見せてくれるのでしょうか!! 

 

 お、おっと……! あのクソ青年投手、ニカイドウにデッドボールもいいところな球を投げました!! 

 

 持ち前の反射神経でニカイドウはギリギリ避けましたが、これは許せません。次デッドボールを狙おうものなら、あの青年のドタマに風穴が開くでしょう。執行人は……この、私だ。

 

 

 ────ガギィィン……。

 

 

 に……ニカイドウォォ〜〜〜!!! 打ちました、打ちましたァ!! 

 

 その重くも鈍い、いささかボールとバットから発せられたとは思えない音をマウンドに残し、その球は外に向かい恐ろしい速さで飛んで行く! 

 

 だが平和シャークスもここで諦めません! 監督がその球の前に立ちはだかりますッ! 

 

「ぎゃっ!!」

 

 ニカイドウボールはしかし止まらないッ! 監督のミットを突き破り、その顎に衝突して空中に吹っ飛びましたぁ!! 

 

 空中に……いえ、違います。アレは、アレは…………!! 

 

 

 

「入れ歯やないかいッ!!!」

 

 

 

 ボールは顎に当たった衝撃で、なんと近くの水溜まり(というか底なし沼)に落ちてしまったようです。ボール無くして野球はできない。点数として加算はできないでしょう。これは痛恨のチャンスを逃してしまったぞ、中央ワームズ!! 

 

 

「いつまで実況してんだアホッ! 一旦中止だ!」

 

「いてっ」

 

 

 先生に頭を叩かれた。……ッハ!? ボクはいったい何を…。

 

 ニカイドウくんがマウンドに立ってから、まるで何かに取り憑かれたように実況していた。ニカイドウ、末恐ろしい子………! 

 

 

 

 結局、相手の監督が倒れてしまったことで、この試合はノーゲームとなってしまった。

 

 その後、皆んなでニカイドウくんが持ってきたランチを食べて解散となり、帰ることに。そう言えば、弁当中に敵チームを見たけど、いつの間にかシャークス少女と青年が消えていた。ついでに、フランケンくんも。だが作った博士は、フランケンシュタインが居なくなったことをあまり気にしていなかった。さすが楽観的人間。

 

 

「それで、ニカイドウくんやカイマンくんに別れの言葉は言えたのかい? 

 

「え? ………あっ」

 

 

 帰り道。博士に言われ、肝心のことを二人に告げるのを忘れていたことを思い出した、うっかりボクちゃんだった。




藤田(投手)
「あのグラマラス女性、どこかで見たことがあるような…」

恵比寿(シャークガール)
「ナンダ、アノデカパイハ……!?」

フランケンシュタイン(藤田の元パートナー)
「あ……あ……ががが」
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