「ボク」っ娘系メカニックちゃん   作:アビ田

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ずん、ずん、ずん、ずんずず、ずんだもん!(ズンドコ節)


おぢさん、さてはこのボクに乱暴する気なのだ?

 前回までのあらすじ。

 

 ボクらは煙ファミリーに捕まってしまった! 

 

 

 ということで、扉から出た先に待ち構えていたのは、ニカイドウが「煙」と言った赤髪を逆立てた男と、雛のマスクを被ったムキムキマッチョマン。

 

 ボクはトカゲ人間から出た触手のようなもので、体を拘束されている。千切れるには千切れるが、博士がキノコ人間に捕まってしまったので行動に移せない。ので、大人しく傍観に立ち回────え? 

 

 瞳と瞳が合わさる。

 

 ボクをじっと見つめているその子。心臓が高鳴って、思わず「はうっ…」と声を漏らした。横にいたサーティーンくんが驚いて肩を揺らす。

 

「だ、大丈夫ですか、小夏さん!」

 

「やめて、ボクを見ないで……!!」

 

 急に悶え出したボクに訝しげな視線を送る煙。

 何か攻撃されたのか──と仲間の心配そうな視線が向く中、ボクは今、自分の心の中に生まれた感情を理解した。

 

 

「アニャ?」

 

 

 猫のような生き物。チョコンと、煙の下で座っている。可愛い。

 

 色は桃色で、ふさふさしている両耳をハムハムしたい。まん丸なお顔の上にある小さな二つのツノも、マスクの下のつぶらな瞳も、長い舌も、体の黒斑の模様も、あんよも、悪魔のような尻尾も、オケツも、全部可愛い。全部舐め回して、腹に顔を埋めて吸いたい。

 

 ボクが身悶えている間に、煙の悪口を言ったサーティーンくんが頭だけキノコにされ、博士は無抵抗を決める。

 さらに窓から、チダルマとその他複数の悪魔が現れる。ニカイドウに名刺を渡しに来たようだ。それで煙は「本当にお前が時を操る魔法使いなのか…!!」と騒いでいる。

 

 そんなことより、だ。

 

 

「その可愛らしい生き物のお名前は、なんておっしゃるんでしょうかッッ!!!」

 

 

 大声で叫んだら、場が静寂に包まれる。

 

 たしかにニカイドウくんが「時を操る魔法使い」ってヤバい情報だが、それ以上にその子の名前を聞く方が重要である。

 

「……コイツは“生命を与える”魔法を使う、「キクラゲ」だ」

 

「ンニャッ」

 

 煙がまるでキクラゲを隠すように抱っこする。生命を与えるところもすごい!! 可愛いだけじゃない!! 

 

「ボクにその子をくださいッ!!」

 

「ダメに決まってるだろ!!」

 

「あれ……言い方がまずかったかな? ボクにキクラゲちゃんをください!! 彼…または彼女を一生大切にします!!!」

 

 また場が静寂に包まれる。皆一様に、「…ん?」という反応を示した。

 

 煙から、キクラゲの能力が目的だろう云々…と言われるが、能力は別に何でもいい。ボクはキクラゲちゃんだから好きになったんだ。つーか、能力を知る前に一目惚れだ。

 

『アァー……つまり、結婚させろってことか?』

 

「そうだよ! さっすがチダルマ分かってるゥ!!」

 

 一瞬の間を置き、チダルマが爆笑し出した。他の悪魔は目を白黒させている。

 

『ちょっと貸せよ、煙』

 

「いや、おいちょっと待て!」

 

『大丈夫だって、この生き物に危害は加えられねぇよ』

 

 チダルマは煙からキクラゲを奪って、床に仰向けで転がっているボクの前に立つ。そしてボクのマスクを外し、キクラゲのお腹がボクの顔面に来るよう乗せた。キクラゲちゃんはなされるがままに、「ニャ〜」と鳴いている。人類の宝か? 

 

 

 ────あっ、動物特有の絶妙な臭さがあっ、かわいいあっあっ、温いあっ、鼻息が首に当たるあっ、あっ、あっ。

 

 

『……死んだな』

 

「ニャニャッ?」

 

 我が一生に、悔いなし。

 

 ボクはそのまま、気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

 捕まってから、現在ボクは監禁されている。

 

 切り落とされた両手や左足は止血されており、包帯が巻かれている。それで首には鎖の付いた首輪が。鎖の長さはこの部屋を歩き回れる範囲内。

 

 狭い部屋の中は白色で、窓も扉も何もない。頭上に換気扇だけはある。この部屋は暗号の呪文を言わないと、入れない造りになっているらしい。そのため入れる者は限られる。

 

 中央にはベッドと、その側にテーブルと水の入った水差しやコップがある。トイレと洗面、それに風呂は部屋の隅の個室にあり、風呂についてはボクに飯を与えにくる煙の部下が毎日入れてくれる。最初は手間取ったが、自力で水を飲むのも食うのも、ついでにトイレも慣れた。かなり苦労するけど。

 

「捕まえるにしても、好待遇だよなぁ…」

 

 部屋の隅にある監視カメラを見ながら思う。

 

 まぁ、裏ではハルちゃんが一枚噛んでいるようである。十字目の関係者じゃ、即殺されてもおかしくなかったもの。

 向こうがボクから十字目の情報を吐かせようと画策しているのは、大方予想がついてる。

 

 

 ちなみに、監視カメラに工作してよく現れるハルちゃんは、ニカイドウが煙のパートナーになったことを教えてくれた。カスカベ博士がまだ生きてるってことも。

 

 ボクらが魔法界に来た時はちょうどブルーナイトで、ニカイドウは魔法使いの体内にある“契約書”を煙と交換してサインさせられ、現在は人格が変貌しつつあるとのこと。

 

 契約書はその者の人格を、強制的に相手の都合のいいものに変える力もあるらしい。この場合、ニカイドウは煙の都合のいい駒になりつつあるってこと。

 

 また、時を操る魔法使いを隠していたらしい「アス」が、近いうちに制裁を加えられるというのも。

 制裁イコールで、魔法使いに戻されるという意味だ。

 

『それで、貴様はいつまでここにいる気だ』

 

「えぇー…今のところ様子見中」

 

 両手を切られても、口からケムリを出して首輪を引きちぎるなど造作ない。口枷をされなかったことからも、ボクが手からしかケムリを出せないと思われている。いざという時のために、ボクも奥の手として残していたのだろう。

 

 そして扉を使い、ホールに逃げられる。でも博士たちを置いていくわけにはいかない。

 

 欠損部位は頼めばハルちゃんが治してくれるだろうし、この世界には修復系のケムリもある。それを手に入れればいい。

 

 でも個人的に機械パーツ──義肢を作ってみたいのだ。というか、設計図はすでにできている。作れば普通の両手足の感覚のように使え、なおかつ頑丈になる。ちゃんとケムリも出せるように作るぜ。

 ただその場合、作るのが大変だ。何せ右足しか使えないから。

 

 まぁ諸々も含めて、一旦ハルちゃんには待ってもらっている。

 

「かく言うハルちゃんも、ボクを助けていないしね。本当にボクがピンチだったらボクの言葉を待たずして助けるだろうし、今のところ危機感は少ないよ」

 

『……私にも、悪魔の色々があるのだ』

 

「強いて言えば、キクラゲちゃんを生涯のパートナーにしたい」

 

『お前はいくつ伝説を残せば気が済むんだ』

 

 どうやら、悪魔の間でボクの動物にガチ恋した件は、チダルマが吹聴して今や笑いの種になっているようである。ボクがキクラゲちゃんのお腹に顔を埋めて、気絶したことも含めて。キクラゲちゃんを顔に乗せたら、毎日快眠できる。

 

『アレは煙の所有物だ。それもヤツが溺愛している、諦めろ』

 

「やだやだ〜〜〜ッ!!」

 

『お前には私がいるだろう』

 

「………そう言われると、何も言えなくなっちゃうんだけど」

 

 ハルちゃんってたまに、ボクが照れちゃうほどカッコいい言葉を言うのは何なの? 

 

『悪魔の特性だ』

 

 ハルちゃんはそう言って、ボクの頭をヨシヨシした。

 これでも20代(多分)なんだけどなぁ…。

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

 まったり監禁生活を送っていたら、ある日煙が、部下の魔法使いと共に来た。

 

 コップに長ーいストローを刺しジュースを飲んで、さらに片足で器用に新聞を捲っているボクを見るなり、奴は苦い顔をする。新聞などについては、ハルちゃんの差し入れだ。漫画もある。

 

「何を寛いでいるんだ、貴様…」

 

「あ、煙サンも飲みます?」

 

「いらん」

 

 新聞類を部下の勝手な行動(差し入れ)かと訝しんだ彼に、知り合いの悪魔がよくお邪魔して…という旨を話す。ボクが「ハルのお気に入り」と悪魔たちに言われているくらいだ。別段おかしい点はないだろう。それを加味すれば、ボクがこんな余裕な態度でいるのも納得がいくはずである。

 

「ところで…」

 

 ソワソワしているボクに、煙は眉を顰めてキクラゲちゃんは絶対に連れて来ないことを語った。よくそんな悪魔みたいな真似ができますね? 

 

 

「本題に入らせてもらうぞ、発明家リンリン──いや、魔法使い小夏」

 

 

 ボクの不満をぶった斬られる。煙が連れて来た部下は、ケムリをかけた人物が本当のことを言っているかどうかわかる魔法を持っているらしい。ケムリをかけられたボクの頭に、一輪の花が咲いた。仮にボクが嘘をつけば花びらが一枚落ちる。それが全て落ちると死んじゃうんだって。“呪い”に近い魔法だな。使い道は限られそうだけど。

 

 そして、いくつか質問をされる。

 

 

 まず、ボクが記憶喪失かどうかについて。

 

 これについてはYES。六年前にホールで滅多刺しにされて死んでいた状態で発見されて、その後博士がボクが持っていた『NOI』という人物の修復系のケムリ瓶をかけて、遺体を修復。

 

 そしてバウクス先生がボクを乱雑に冷凍庫に入れた際、ボクの体の中に仕込まれていたおそらく蘇生系のケムリ瓶が作動して、生き返った。

 

 

「蘇生………なるほど、悪魔腫瘍に抱かせる超回復のケムリ瓶か。手術で頭に仕込んでいたのか」

 

「悪いけど、手術したかどうかは覚えてない」

 

 ただ、ハルちゃん曰くボクは体のあちこちを手術して強化しているみたいだから、その超回復のケムリ瓶の手術も行ったのだろう。口からケムリが出せるのも、手術のおかげである。

 

「それと、貴様の遺体には無数の刺殺痕があったのだな?」

 

「うん。十字目のボスに殺されたらしいよ」

 

「……何ッ!?」

 

「あっ、六年前以降のことは覚えてないから、十字目のボスに殺された時のことも覚えてないからね。と言っても、ボクの魔法界関連の知識はほとんどハルちゃんからの情報だ」

 

 十字目とボクの関係性を探るのは諦めてくれ。しかし相手は下がらないかな──と考えていたら、煙は存外すぐに次の質問に移った。

 

 次は栗鼠の行方について。ニカイドウが屋敷を強襲した後、栗鼠は逃亡したらしい。それについてはマジで知らん。

 カイマンの口の中にいる謎の男=栗鼠なのは、ニカイドウから聞いて知っているけれども。

 

「あ、これはあらかじめ言っておくよ、煙」

 

「何だ」

 

「カイマン……トカゲ男は今、魔法界にいる。詳しい場所までは知らないけど」

 

「……どうやら、本当らしいな」

 

 嘲笑の笑みを浮かべる煙。ボクが仲間を売ったように見えたようだ。たしかにカイマンがこの世界にいるってだけでも、大きな情報になる。

 

 そも、なぜ彼らがやたらカイマンに執心しているのか。

 

 

 最初はカイマンとニカイドウがバンバン魔法使いを殺していたから目を付けられたのだろうが、煙ファミリーの一員である(煙ファミリーのマスクの特徴があったからわかる)心臓のマスクと巨漢の男が現れたところで、また流れが変わる。彼らはカイマンに魔法が効かないとわかった上で、接近戦に及んでいた。煙もカイマンの特性を理解していたから、武闘派を送ったに違いない。

 

 そしてそこで、以前にも考えたカイマンが生きている=彼の知り合いの栗鼠を探っていたことに結び付ける。

 

 逆はあり得ない。連中が栗鼠の存在を知ったのは、カイマンが心臓マスクの男と戦闘になって、ボクの時のようにかぶりついた先で、心臓マスクの男が栗鼠を見たはずだからだ。

 

 それが魔法が効かない、その上に生き返ったかもしれない、というカイマンの特異な謎を解き明かすためにも栗鼠が捜索された。

 

 肝心の栗鼠は逃げてしまったみたいだが。栗鼠が生きているにしろ死んでいるにしろ、煙たちはカイマンの謎を探る鍵を失ったわけである。そうなったらあとは必然と、カイマン自身を調べるしかないだろう。

 

 

「まぁ、今は探す余裕がなさそうだけど。新聞で見たよ煙サン、どうやら魔法界の重鎮たるあなたがパートナーを作ったから、マスコミに大人気なんですって?」

 

「くだらん連中だ。部下が処理しているさ」

 

「あはは。モテるボスは何てやら、なのかな。それとこれは完全に私情だけど、ボクの知人のためだよ」

 

 パートナーになったニカイドウに乱暴なマネはしないと思うけど、人間である博士やサーティーンくんなら別だろうね。

 

 ボクはハルちゃんのバックがあるようだから今のような緩い扱いだけど、博士たちは尋問どころか、拷問にかけられているかも。例えば、カイマンの居場所を吐かされたり、ボクに関する情報を吐かされたり。

 

 許せないね。博士が死んだらボク、許さないよ? 

 絶対に────絶対に。

 

「魔法界が不毛の土地になるくらい暴れてもいいぜ、ボク。というか、暴れる」

 

「……「博士」とは、あの色黒の人間の小僧だろう? なぜそこまで肩入れする」

 

「えっ? お父さんだから」

 

「……………何?」

 

「ボクは人間と魔法使いのハーフ。…って、言ってなかったの? あなたたちと魔法使いリンリンとして提携していた時に、ボクが」

 

 煙の反応からするに、言っていなかったみたいだ。あんまりボクって自分語りはしなかったんだな。

 悪いことばっかりしているから、言わなかった、ってのもあるんだろうけど。

 所詮彼らとも、仕事上の付き合いでしかなかったのだろうし。

 

 あと、純粋にさ。

 

 

「トカゲ男さんならそう簡単に、お前らに()られないと思うから」

 

 

 ──と、そこまで言って、なぜそこまで豪語できるか、疑問に思った。

 

 だって心臓マスクの男に一度殺されてたんだぜ、カイマンは? もしかしてボク、一度生き返ったから彼が不死身とでも思っているんだろうか。というかマジで、何であの男はまた首が生えてきたんだ。

 

 ほら、煙もボクの発言に目を丸くしている。

 

「フン…まぁ、ニカイドウが手に入った今、奴は後回しだ」

 

「あー…そう言えば煙サンって、何で時の魔法使いを探してたんでしたっけ?」

 

「貴様に話すことではない、この裏切り者め」

 

 唾を吐かれる勢いで、忌々しくボクを睨めつける煙氏。連れないですね。

 

 

「あの時…六年前に何が起こったのか、すべては時の魔法を使えばわかることだ……」

 

 ボソリと、独り言のトーンで煙は呟き去って行った。

 

 

 急にブルリと、寒気がした。

 六年前って言ったら、ちょうどボクが殺されていた年でもある。

 

 果たして当時ボクに何があったのか。気にはなるが…でも、ボクにとってその思い出はパンドラ。決して開けてはならない記憶の入った箱。

 

 ボクが「小夏」として機能するために、振り向いてはならない過去だ。




【オマケ】


煙「……まさか本気で能力関係なしに、キクラゲが欲しいというのか?」

夏「(YES YES YES!!)」
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