「ボク」っ娘系メカニックちゃん   作:アビ田

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ショタ悪魔なのか、悪魔ショタなのか…。


Love is forever.

 煙に呼び出されクラブに向かった掃除屋コンビは、自称セクスィーマーメイドな恵比寿と、貝がらブラなその衣装に面食らってから煙と対面した。

 

「「うわぁ…」」

 

 これまた、苦い顔をした二人。

 

 ソファーに座る煙の膝の上で抱っこの体勢を取るニカイドウ。“契約書”はここまで人格を変えてしまうのかと、心も能井も思った。

 

 煙にデレデレなニカイドウは、雛の形のマスクを付けた「鳥太(ちょうた)」(小夏がムキムキマッチョマンと認識した男)のようになった。

 

 その鳥太とは、普段から煙に一方通行なハートを飛ばしている男である。その力は“魔法を解く”魔法使い──というこれまた珍しい魔法の持ち主であり、能井が恵比寿の魔法にかかり暴走した際も、その能力を解くキーパーソンとなった。

 

「で、用件って何だよ、煙」

 

 能井が尋ねると、煙は“黒い粉”を製造している場所が見つかった、と話す。しかしどこかの森の中にアジトがあるらしい、噂話でしかないと。

 ただ噂でしかなくとも、そこにボスがいる可能性がある以上、動く必要がある。

 

 またボス生存説が高まった裏づけとして、煙は昨日小夏から入手した情報も心たちに明かした。

 

 

「発明家リンリンは一度ボスに殺され、ホールでくたばっていたらしい。6年前の話だ。それと、トカゲ男はこの世界にいるようだ」

 

 小夏が十字目のボスに殺されたというのは、カスカベの話により「その可能性が高い」として、心たちが推測していたもの。あくまで推測な上、煙にそれを話すと小夏の情報を知るカスカベについて話さなければならなくなるため、二人は黙っていた。

 

 ゆえに心と能井は不自然にならないよう驚いたリアクションを取りつつ、煙の話した後半の部分に意識を向ける。

 

「そんじゃ栗鼠を探す時にも使った、「ターキー」の魔法に頼ってトカゲ野郎を探しに行こうぜ!」

 

 ターキーとは、煙ファミリーの魔法使いで“生命ある人形”を造り出す魔法使いである。チキンのマスクが特徴的な男性で、彼によって作られた人形は、オリジナルの元に向かう。もし死んでいる場合はそのオリジナルが死んだ場所へ。

 

 これを使い、能井はカイマンをブチ殺す気でいる。

 

「トカゲ男より、十字目のボスの方が優先だ」

 

「……ッチ、それもそうか」

 

「何だ能井、今日は妙に塩らしいな」

 

「ウッセー黙れ、キノコ野郎ッ」

 

 吐き捨てるように言い店を出た能井の後に続いて、心も退出する。

 十字目のボスに小夏が殺されたかもしれないことを知ってから、能井はピリつくようになった。

 

「本当に好きな奴に殺されたってンなら、あの発明家ヤローが記憶を失っちまったのも、納得が行きますよ」

 

「能井…」

 

「きっと、自分から忘れたんです、アイツは」

 

「………」

 

「────だからこそッ!! 十字目のボスも、十字目の野郎も、トカゲ野郎も発明家のヤローも、俺たちで全員まとめてぶっ殺しますよ!!」

 

「お前はそういう奴だったな………おっ、あそこに自販機あるぜ。ジュースでも奢ってやるよ」

 

「やった、先輩ってば太ももぉ! 俺炭酸ジュースが飲みたいです」

 

「それを言うなら太っ腹な」

 

 自販機の前で財布を広げる心の横で、能井は「太っ腹…ふとい腹…」と呟き、心の腹をつまむ。

 

 

「うひっ」

 

 

 いや、つまもうとしたが、そこには隆々に育った筋肉しかなかった。そのため無理やりその筋肉を巻き込むようにして、皮ごとつねる結果となった。

 能井は小銭をばら撒き、地面に転がった男を見下ろす。そして、マスクの下でニヤニヤし始めた。

 

「へぇー、「うひっ」っスか〜〜」

 

「………」

 

「へへ……痛ッ!」

 

 頭に拳骨を食らい、能井は頭を押さえる。ついでに缶ジュースを顔に投げつけられ、当たる寸前でキャッチした。

 彼女は頭をさすりながら少し下にある心臓マスクを覗き込むが、心が何を考えているかわからない。怒っているとは思うが。

 

「こういう時、さらっと奢ってくれる先輩は優しいっスね」

 

「…いつもは俺が奢らせてるからな」

 

「そりゃ、早食い勝負で先輩が強すぎるからですよー」

 

 雑談をしながら、夜道を歩く二人。

 心臓マスクの下の顔が何色になっているか、能井は知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 時間は少し過ぎ、場所は「ヒドラの森」と呼ばれる場所。

 

 妻たちがこの森に住んでいるのをハル本人から聞き知っていたカスカベは、煙の部下の服装もあり、屋敷から車を奪い抜け出すことに成功した。車にはサーティーンやバウクス、ジョンソンも乗車している。

 

 一応心たちには、ホールに戻る予定時間には戻る旨を記した置き手紙も残してきた。

 

 

 だがそこで待っていたのは、鬱蒼とした森の中で佇む古びた家。そして、魔法使いの死体がゴロゴロ転がっている室内。誰が見てもまず女性の家ではない。

 

「オ〜? 何だァお前ら」

 

 そこにはしかし、先客がいた。

 

 目の周りに赤い十字の刺青を施した数名の連中。カスカベはジョンソンに連中の相手を任せた隙に、ナイフにより傷を負ったサーティーンと戦力外なバウクスを連れて部屋の奥へ移動した。

 

 二人を戸棚に隠し、囮役を買って出たカスカベ。

 

「おっと…」

 

 一人を引きつけ、彼が行き止まりにぶつかり不意に見つけたのは、地面に落ちていた一枚の割れた写真。

 

 そこには30代の頃の彼と、その隣に立つ女性の姿があった。ハル──春日部とホールで出会って間もない頃に撮った一枚。小夏とソックリの、ただ彼女よりは凛々しい印象を受ける目鼻立ちの、女性の顔。

 

「やっぱりここは彼女の家なのか…」

 

「ギャハッ! ここまでだぜ、おチビちゃ〜ん」

 

 カスカベはさらに、十字目の男の腕に目を留める。

 その男はハルの蛇がとぐろを巻いたブレスレットを身につけていた。

 

 そして追い込まれた彼は、襲われた衝撃で後ろの窓をブチ破り落下した。

 

 

 

 

 

「イチチ…」

 

 

 ──が、二階から落ちたカスカベは死んではいなかった。

 ただ、十字目の男が後を追ってきたのでピンチは継続。そんな彼に助けに入ったのが、手紙を読んで一歩遅れてきた心たち。

 

 結果、ナイフと魔法使いの弱点をねらう十字目との戦闘に予想以上に苦戦した心。だが無事、倒すことはできた。

 

「能井を助けに行かねーと…」

 

 殺虫剤でショッキングになっていたジョンソンと心が遭遇していたところ、先に森の中で十字目と遭遇していた能井。彼女はケガを負っても傷が治るゆえ、猪突猛進で攻撃を避けない。

 

「あはは、君も大人になったんだねぇ。一人の女性を想うなんて」

 

「う、うー……ウルセェ」

 

 今にでも倒れそうな心に同行し、カスカベは再度ハルの家に戻った。

 

 

 

 二人が出会したのは、巨大化する十字目の男。

 能井もまたケムリによって体が修復され復活し、次々家の中の敵を殺していたのだ。そして追い込まれた一人の男が、巨大化するケムリ瓶を使用した。

 

 能井が負傷して意識を失った中、心は我を忘れて巨人に挑む。デカさの代償にノロマな相手の死角へ移動し、ハンマーを振るった。彼自身も大量に血を流しながら。

 

 そんな中、十字目が使用したケムリ瓶を発見したカスカベは、祭壇の上に腰かけた一体の人形を発見する。

 

「これは……蝋人形?」

 

 顔は布に隠され見えない。ゆらゆらと揺れる蝋燭の火が、壁に浮かび上がった人形の影を歪ませる。祭壇という場で、その蝋人形を十字目たちが崇めていたのは想像に難くない。

 

 カスカベはゆっくりと、その布に手を伸ばす。

 

「カスカベさん!!」

 

 巨人の急所をねらい隙を作った心は能井を抱え、カスカベに逃げるように言う。

 

 そこで我に帰ったカスカベ。だが巨人が暴れた影響ですでにボロボロになり、極めつけに巨人が倒れた影響で建物の一部が崩壊した。その衝撃で心は外へなだれ込む。

 

 一方中に閉じ込められたカスカベは、一瞬気を失った。

 

「イテテ………え?」

 

 祭壇にあった蝋燭が地面に落ち、彼の周囲を囲むように火の手が上がる。

 蝋人形も落ち、布が取れていた。その瞳には赤い十字目の刺青がある。カイマンにもあるものだ。

 

 

「アイ、コールマン?」

 

 

 カスカベの記憶にあるものより成長した姿の、アイ=コールマン。

 

 ただ似ているだけかもしれない。少年だった彼は男にしては長い髪で、手術後は一時無毛からスタートして、退院時には短髪だった。

 言うなれば、その短かった髪の姿と似ている。目つきが悪く、愛想のない表情もよく似ている。

 

「十字目の彼らが信奉する蝋人形……アイ=コールマン………この人形が本当にボスなら、ボス………なら……………」

 

 辺りに黒い煙が立つ。その煙を吸い意識が遠のいていくカスカベは、地面に倒れた。

 

 

 

「コナツは、アイく、ん…に………?」

 

 

 

 恐ろしい考えが、カスカベの中で過ぎった。

 

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

『アナタ────起きて、アナタ』

 

「うーん…?」

 

 頬を叩かれ、カスカベは覚ました。

 瞳を開けた彼の先にあったのは、顔。それも悪魔のように恐ろしい顔である。

 

 というか、悪魔だ。

 

 

「って、え? 「アナタ」って?」

 

『何だ、愛する妻のことも忘れてしまったのか?』

 

「………ええっ!?」

 

 しれっと、カスカベのことをお姫様抱っこしているハル。

 突如現れ、しかも悪魔になっていた妻に驚いたカスカベは、興味の赴くまま悪魔になった妻に触れる。研究心がムクムク湧き起こるが、今はそれより驚きの方が大きい。それも色々と。

 

『ひとまず座って落ち着こうか』

 

 ハルは木の上に止まり、カスカベを下ろす。並んで座ることになった一人と一匹。

 

 妻=悪魔ということで、これまでに何度か感じていた謎がカスカベの中で紐解かれていく。

 

「そうか、小夏の側にいた悪魔っていうのは、ハルだったのか…」

 

 そうなると能井の知り合いの悪魔が話していた「悪魔のお気に入り」というのも、ひょっとしなくとも「ハルのお気に入り」ということなのかもしれない。

 

「なるほど。リビングデッドデイの翌日にあの子がうちの前にいたのも、君の仕業だね?」

 

『ホールで小夏を任せるとしたら、オマエしかいないだろう』

 

「ハァ……あっ、さっきは助けてくれてありがとね」

 

『例を言われる程のことはしていないさ』

 

「でも、なぜ君がここに? もしかして私のことを観察していたのかい?」

 

『さてな。だがアナタと話すなら、今だと思ったんだ』

 

「…そっか」

 

 カスカベは口寂しさにつなぎのポケットを漁って、タバコが無かったのだと思い出す。

 

 木の上に乗り、そこから感じる夜の空気は森の木々の揺れる音や虫の音と合わさり、不気味ながらどこか心地よい音だ。

 

 

「ハルが小夏の側にいたなら、君は小夏を殺したのが“十字目”って連中のボスだってことも知っているんだよね?」

 

『あぁ』

 

「じゃあ、十字目のボスがアイ=コールマンという人間かもしれないことは……」

 

『悪いが、それには答えられない。小夏が関わっているとしても』

 

「…わかった。君たち悪魔にも色々あるんだね」

 

『察しがよくて助かるよ、ヘイズ』

 

 チダルマの()()が今何に向かっているか、悪魔たちは気づき始めている。

 この件に深く関わればハルだけでなくカスカベや小夏も死ぬ可能性があるため、彼女はなるべく動かないでいるのだ。

 一人の親として、一匹の悪魔として、ハルの心情は微妙なラインにある。

 

「……あっ、いっけね。戸棚に先生とサーティーンくんを忘れてきちゃったけど大丈夫かな」

 

『その人間二人なら勝手に抜け出して無事さ。…ねぇ、ヘイズ』

 

「何だい、ハル?」

 

『………いずれ、アナタと話し合わないといけないと思っていた。だから、聞いてくれ』

 

「いいよ」

 

『…私のこと、嫌いにならないでくれるか?』

 

「もちろんだ。じゃなきゃ君がいない25年、コレをずっと左手に付けていないよ」

 

 指輪。二人の“愛”のカタチ。

 もっと大きい愛の結晶は今、煙の屋敷でのんびりしていることだろう。

 

 

 

『聞いてくれ、ヘイズ。私たちの────これまでのこと』

 

 

 

 ハルは話した。自分と小夏に、これまで起こったことを。

 

 博士がいないことに気づき暫し探していたサーティーンとバウクスも、能井と心の容態を懸念して一度車で帰った後も、周りが白み始めるまで続く。

 

 長い長い、そして、重い話。

 でも笑いもあり、感動もある。さながら巻数の揃った映画のようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それが終わり、ハルが口を噤んだ時。

 

 カスカベは──ヘイズは、彼女を抱きしめた。優しい目で、怖い顔が胸元に来るようにたぐり寄せる。悪魔の大きな体は、小さく震えている。

 

 

「いっぱいがんばったね、ハル」

 

『……ヘイ、ズ』

 

「それと……ごめんね、ハル」

 

 

 ボロボロと、いつ以来か、デビルアイから水滴がこぼれ落ちる。

 完全無欠、質実剛健。向かうところ敵なしである彼ら。

 そんな悪魔でも涙を流す。

 深い深い「愛」の底で溺れたとき、感情に呑まれるのだ。まるでヒトのように。

 きっと最強の悪魔(チダルマ)だったら理解の叶わない感情。

 

 

「小夏に似ているね、泣き方」

 

『ム……ヘイズの方があの子に似ているさ』

 

「はは、じゃあ、どっちにも似たんだね」

 

『……ウム、そうだな』

 

 容姿や体格はハル似。それと泣き方や、愛情深いところ。

 でもおっとりした若干タレ目がちな瞳なんかは、ヘイズに似ている。笑う時、ニッコリと屈託ない表情を見せるのも。さらに探究心の虜であるのも。

 

『愛しているよ、ヘイズ』

 

「やだな、照れちゃうじゃないか。こんな歳になって」

 

『………言え、愚かな人間…私を「好き」と言え……』

 

「私のキャラではないんだが…そうだね。

 

 

 ──────今宵見たこの月の美しさより、勝るものはこの世にないだろう」

 

 

 ハルは首を傾げる。何かしら比喩の混じった言葉であることはわかるものの。

 

「あれ、伝わらなかった? ホールだと月を「愛しい人」に喩える言葉遊びがあって……」

 

『…つまり?』

 

「そういうことだよ」

 

『………』

 

「ハル?」

 

『……う』

 

「う?」

 

 

『ウワアアアァァァァァァァ!!!!!』

 

 

 悪魔の叫び声が、森の中で木霊した。

 

 


 

 Ⅴ/Ⅴ【隣人凸凹シルエット】

 

 

『今世紀最大級の糖度に仕上がってるにゃー』

 

 番外編であり、主人公はハル。

 あまりの糖度に城之内のアゴ芸を披露する悪魔が続出した。

アナタの性癖。

  • ショタ悪魔
  • 悪魔ショタ
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