「ボク」っ娘系メカニックちゃん   作:アビ田

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一日で3話……やればできる子ね!


カッコつけて、1、2、3。

 カイマンと花畑で走り回る夢を見て、黒い水溜まりに落ちたら朝になっていた。あれぇ…? 

 気づいたらベッドの上の、さらにハルちゃんの上で寝ているし。コアハルちゃんもその隣にいた。全裸で。

 

 ボクの世話がかりの女中は、部屋に入るなり状況を把握できていないボクと全裸の方のハルちゃんを見て、「え?」と言い、頬を赤らめた。誤解です。

 ついでボクの下敷きになっている悪魔を見て、唖然とする。

 

「あ、あのぉ…えーと……」

 

 何か布に包まれた細長いものを持っている女中は、ソレをボクに手渡す。中身は──めっちゃ高級そうなお酒だ。

 

 昨晩の件で、煙からの謝罪を込めた酒らしい。え、ボクあの男に何かされたの? 

 

「先日のドリームマシンには、実は悪夢を見せる効果もありまして……それに対する煙様のお詫びだそうです」

 

「ははーん、さてはボクの悪夢(トラウマ)でも見たんだな。だからハルちゃんがいるのか」

 

 ボクというか、ハルちゃんに対するご機嫌取りなのかもしれない。形式上は謝っておこうという魂胆か。

 もしくはマジで申し訳ない気持ちがあるのかも。ボクがどれほど取り乱したか知らないが、ハルちゃんがわざわざ出張るくらいには荒れたのだと思う。

 

 煙は何か意図があってボクにドリームマシンを食わせたに違いない。その意図ってやはり、6年前に起こった何らかの事件に関係しているのだろうか。煙がニカイドウの魔法を使い知りたい過去。いったい何を求めているのか。

 

 知りたいな。でも、内なるボクが言っている。ソイツには踏み込むなって。

 

「ありがとう。あっ、そうだ。ちょっといい?」

 

「え?」

 

 女中の首に手刀を落として、意識を奪う。そのままその肢体を引きずり、ベッドの下に隠した。

 

 

『うーん、よく寝た』

 

 ボクが一連のことをしている間にハルちゃんが起きる。実際寝ていたのかはわからないが、何も言ってこないので寝ていたことにしよう。コアハルちゃんは悪魔の体内に戻った。

 

『どこへ行くんだ、小夏』

 

「ん? 一度生存報告を踏まえて、博士と合流する」

 

 どうしようか考えたけど、暫く魔法界に潜伏することにする。それも煙の屋敷で。キクラゲちゃんもいるし。

 

 アスが近々処刑されるんじゃニカイドウに化けている男の魔法は解けるだろうし、そうなればニカイドウがいないことがバレる。その男もニカイドウがいないことを知った上で彼女に化けているのか、あるいはアスに記憶を改竄されているか知らないが、煙が知ったらキレるだろう。だってパートナーが美女じゃなくて本当は野郎だったんだから。知ってて化けてたなら、殺されることもあり得そうだ。

 

 そしてその後、煙はニカイドウとカイマンを探し出すだろう。

 

 奴の動向を知るためにも、この屋敷にいた方が情報が入手しやすい。

 煙が動けばボクもニカイドウたちの元へ向かう。ついでに隙を見て、キクラゲちゃんもいただく。

 

『服はどうするんだ、その寝巻きじゃすぐにバレるぞ。この魔法使いの服を剥ぎ取らないのか?』

 

「剥ぎ取ったらここに潜伏してますよ、って言ってるようなもんだろ。ホールに逃げたかもしれないって、情報撹乱を狙いたい。そのうちバレると思うけど。それにバレたとしても煙はボクのこと放任状態だった。奴の邪魔さえしなければ、殺されることはないだろ」

 

『ではそこに立て』

 

「はーい」

 

 ビビビ、と悪魔パワーを食らう。ボクの服は煙の部下が着ている防護服へと変わった。動きにくいがこの服なら顔もわからない。

 

 

「よし、屋敷を探索してくるぜ!」

 

『おい待て』

 

 

 誰も最初から博士に会うとは言っていない。

 周囲を探り、ある程度建物の構造を把握しなきゃ。それと、

 

「待っててね、ボクのキクラゲちゃん!!」

 

 後ろから盛大なため息が聞こえた。

 

 

 

 そして半日歩き回り、建物の構造は大まかに知れた。新人のフリをすれば部下たちから容易に聞ける。

 

 また「シンさんに渡す資料があって…」と彼の部屋の場所を聞けば、これもまた簡単に情報が入った。ガバガバだな、情報網。

 

 キクラゲちゃんはついぞ見つからなかった。普段は煙の側にいるみたいだし、いない時は屋敷の中を徘徊しているそう。大丈夫? 不埒な輩がキクラゲちゃんのお腹に顔を埋めて息を荒げたりしない?──とも思った。しかしキクラゲちゃんの首輪には優れた防犯兼、攻撃システムがあるとのこと。だから貴重な“生命を与える”魔法使い(…魔法使いだよな?)でも、安全らしい。

 

 これなら突然キクラゲちゃんを攫う奴がいても安心だねっ! 

 

 キクラゲちゃんを連れ去りたかったな…。

 

 

 それで、シンの部屋に行ったが不在だった。中にはピッキングして入った。いくらか待ったが来ないため、置き手紙を残しておくことにした。ハルちゃん伝いで戻ってきたポケットについては、バウクス先生のキノコがなかったから、すでに助け出されているんだろう。

 

 

【拝啓、カスカベ博士とバウクス先生とサーティーンくんに、ジョンソン。それと掃除屋の心さんに能井さん。キクラゲちゃんを愛しているボクは元気です。安心してください。しばらくは屋敷に潜伏しています。

 

 P.S.キクラゲちゃんが欲しいです。煙を説得してキクラゲちゃんをボクにください】

 

 

 我ながらいい文面ではなかろうか。裏面にはビッシリ【キクラゲちゃん】の文字も書いてある。博士ならボクの筆跡がわかる。

 ボクの安全とキクラゲちゃんへの想いが伝わって一石二鳥。それを煙からもらった酒に結びつけて、冷蔵庫に入れる。

 

 あとは次の展開を待つのだ。煙が動いたなら、事態も急変したと見ていい。

 

 それから思ったより早く、事は動いた。

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

 煙がぶっ倒れたと聞いて、部下に紛れて駆けつけてみれば、ピッチピチなニカイドウのものと思わしき服を着ている男と遭遇した。煙がお姫様抱っこをしている。

 

 前のジッパーが大胸筋によってまったく締まらないあのマッスル具合、以前見たことがある。黒い雛のマスクを被っていたムキムキマッチョマンだ。「鳥太(チョウタ)」と言うらしい。すごいムキムキ具合だ。カイマンには負けるけどねっ! 

 

「煙っ〜〜!!」

 

 チョータは眠る煙のシーツに顔を押しつけて泣いている。

 部下の一人が何があったか尋ねれば、彼はボクが概ねハルちゃんから聞いて知っていた情報を話した。

 

「悪魔がニカイドウの中にあった煙の“誓約書”で、俺の姿をニカイドウにしてたんだ。でも、どうして突然魔法が解けたんだろ…」

 

 そしてその誓約書を、どうにかバレまいとニカイドウの服を着ていたチョータに煙が迫られた際、誤って手に持っていたソレを破ってしまった。誓約書は時間が経ったら直るみたいだ。さらに契約書は煙がニカイドウに近づいた場合、ニカイドウの中に戻る。そうなると彼女はまた人格が変質する。

 

 にしても、煙がいるってのに、キクラゲちゃん来ないな。例えば猫はあまりにも好き好きオーラを出している人間には近寄らないって言うけど、もしかしてそれなのだろうか。ボクの愛が大きすぎて、「ごめんっ、小夏ちゃん!」って逃げてるのだろうか。

 

「キクラゲちゃん…」

 

 ボソリと呟いたその時、部屋の扉が現れた。そこからスーツを着ている掃除屋二人と、バニーなマスクをつけている博士、それにそのまんまなジョンソンも出てくる。ジョンソンはボクを見るなり首を傾げ、嬉しそうに近寄ってきた。おうおう、ボクやで。匂いでわかったのか。

 

「あっ、こらジョンソン」

 

 博士もジョンソンを追ってきた。シンくんがチョータに博士たちを見逃すよう話している間に、腰を曲げて博士に耳打ちする。

 

「やっほー博士」

 

「…! ビックリした、小夏か」

 

「ホールに何しに行ってたの?」

 

「それは……」

 

 シンくんたちにはすでに煙が倒れた情報は入っているようだ。チョータに事情を聞いている。

 

 その隙に、部屋の外に移動したボクと博士。ジョンソンは周囲を探る担当。部屋の前にいた部下たちには「シン様のご友人らしい。丁重に扱えとのことだ」と話した。ジョンソンは博士のペットです。

 

 

「でぇ、どこに行ってたのさ。というか、何をしていたのさ」

 

 先生とサーティーンくんはホールに戻ったのだろう。しかし博士はまた魔法界にやってきた。何かを調べているに違いない。

 

「いいかい、簡潔に話すよ。魔法界に来た私のこれまでの動向をね」

 

 ヒドラの森の件や、悪魔になった元妻にあったことを話す博士。ハルちゃんの件をストレートに告げたのは意外だった。

 

 そしてそのヒドラの森にあったハルちゃんの元家で、彼は十字目が祀っていた祭壇の人形を見たという。その顔に見覚えがあったため、掃除屋の二人も連れてホールで色々と調べていたようだ。

 

「小夏、ちょっと手を貸して」

 

「ん? いいよ」

 

 ぎゅっと、博士がボクの手を握る。

 

 なぜかボクの額からは、汗が噴き出す。体も震える。でも博士の熱が伝わると、しづらかった呼吸が幾許かマシになる。

 

 怖い、漠然と。

 

 

「その“彼”は、元々人間だったが、私が“彼”に魔法使いにする手術を行った。それが“彼”の死に際の願いだったから。でも手術は成功して────それで、彼は死んだ。魔法使いに殺された。13年前に」

 

「…へ、ぇ?」

 

「君は…そう、覚えていない。でも君もいた。私の目を見なさい。息をゆっくり吸って、そして吐いて………まだ聞けそうかい?」

 

「……うん」

 

「よかった。無理だったら言ってくれ。…それでね、“彼”の墓に行って遺体を調べたが、棺桶の中には何もなかった。私は棺に入れられる死体も見たし、その葬儀にも出た。埋葬される瞬間も、見た。だが“彼”の遺体はなかった。彼がリビングデッドデイで出たとする、ナンバープレートもこれまで見つかっていない。だからあと考えられるのは、その“彼”が生きているかもしれないということ。俄には信じられないがね」

 

「その、ぁ、“かれ”は、の、名前…しらない、ボク」

 

「…あえてこれまで君に話さなかった。私は言いたくない。“彼”じゃダメかな? その子の名前は」

 

「だいじょうぶ、ボク……は、大丈夫」

 

「……わかったよ。彼の名前はね」

 

 

 

 ──────アイ=コールマン。

 

 

 

 懐かしい響きだった。はじめて知った名前だけど、知っている。ボクは知っている。

 その名前がボクの中でとても大切なもので、捨てたくなかったものだと知っている。

 

 全身が震える。立っていられなくなって、博士に寄りかかる。というか、博士を圧迫させる勢いで抱きしめる。怖い。

 

 

 怖い、怖い、怖い怖い怖い。

 

 

 何が怖い? 彼はだって怖くなかった。やさしかった。ボクに髪留めをくれた。ボクの手をその大きな手で握ってくれた。その体温をボクは知ってる。

 

 でも怖い。だって暗闇の中で、彼は血まみれで、ボクを、

 

 ぼ、ぼぼぼ、ボク、ボクを。

 

 ころし、

 

 し、

 

 た。

 

 

 

 

 

 

 

「ボクはアイくんに、ころされた」

 

 

 そう、「ボク」は、小夏は彼に殺された。

 カイくんに殺された。アイくんに殺された? 

 

 ナイフを持って血まみれで、ボクを見下ろしている。笑っている。泣いている。

 

 泣いて、泣い……………? 

 

 泣きながら笑って刺して、ボクを殺した。

 

 どうして泣いていたの? 

 

 何でボクを殺した? ボクのこと嫌いだった? ボクは魔法使いだから? ボクは好きだった。君のこと好きだった。

 

 

 君のことを、今も大好きで。

 

 愛しているみたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「小夏?」

 

 

 博士がボクの手を握っていて、ボクの目を見て、声をかけている。

 彼はボクの父親で、ボクの愛しい人間。

 ハルちゃんはボクの母で、大切なヒト。

 

 そうだよ、ストアさんのことも大好きだ。キクラゲちゃんも。ニカイドウも好きだよ、能井くんも。カイマンくんも大好き。

 

 アイくんはでも何よりも誰よりも、一等好き。

 

 

 今にも窒息死しそうな博士を抱きしめていたら、ジョンソンが反応した。一人の部下が慌てて煙の部屋へ向かう。ケムリで聴力を強化してその内容を聞くと、ニカイドウとトカゲ男を発見した煙の部下たちの消息が、連絡の後になくなったとの情報が耳に入った。

 

「ぷはっ……どうしたんだい、小夏」

 

「煙が動く。ニカイドウたちが見つかったって。と言っても、おおよその場所だけど」

 

「どうする気なんだい?」

 

「どうするって……どうしよ」

 

 アイくんや博士、ハルちゃんだったら突っ走るけどな。ニカイドウとカイマンだし。

 でも二人には、死んで欲しくないな。隙を見て逃せないだろうか。それか、煙を殺せないかな。奴を殺せばキクラゲちゃんはボクのものだ。

 

「ひとまず、ついて行く以外に選択肢はないでしょ」

 

 扉を開ける音がした。慌ただしく目覚めた煙が歩いて行く。

 ボクらもその後を追うシンくんたちに続いた。ボクを見た二人が訝しげな視線を向ける。

 

 

「ただの部下は付いてくんな」

 

「えー……発明家リンリン様でも?」

 

 

 マスクを取ると、二人の目が丸くなる。次の瞬間飛んできた能井ちゃんの拳をつかんだ──けど、ケムリ無しだから見事にボキボキに折れた。複雑骨折がかわいいくらいの衝撃を受けた左腕をダランと下げたまま、またマスクを付けて歩き出す。シンくんは半目で能井ちゃんはお怒り状態だけど、ついてくもんね。

 

「あとで俺とタイマンしろッ、小夏!!」

 

「いいよ、後でね」

 

「ゼッテー約束は守れよ!!」

 

 守れれば守るさ。

 

 ボクたちはバイク型のホウキに乗った煙の後に続いて、絨毯でニカイドウたちがいる場所へと向かった。煙は体内にあるニカイドウの契約書によって、彼女の居場所がわかる。だからあの男を見失うわけにはいかない。

 

 正直立っていられないくらい気持ち悪いけど、こんなの刺された時と比べればへっちゃらだ。

 

 

「おえっ」

 

 

 でも耐えきれず空中に吐いた。涙も止まらないし震えが止まらない。

 でも耐える。耐えるんだ。

 

 だって会いたいから。

 

 アイくんに。

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