「ボク」っ娘系メカニックちゃん   作:アビ田

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あなたはきっと覚えていないでしょうけど。

 四人と一匹を乗せた魔法の布が空を滑空する。追う先は煙のホウキ。

 そこで彼らが見たのは、地平線からニョッキリ覗く巨大キノコ。

 

「あぁー!! ここからじゃキノコしか見えねぇつーの!」

 

 能井が膝を叩く。一同目を凝らす中、小夏は視界の邪魔になるマスクを取り、魔法を使って視力を強化した。他人(魔法使い限定)にも使おうと思えば使えるが、その調整は難しい。

 カスカベに手を握られている彼女は、過去最悪のグロッキーでビッグキノコの周囲を探る。

 

 そうすれば、煙に殴りかかる大漢の姿が見えた。黒いパーカーの彼はカイマンだろう。その腹からは体内をぶち破り、臓物を絡め取って無数のキノコが生えている。またその顔は、巻かれていたであろう包帯が解けてかかっている。

 

 カイマンと相対する煙はケムリを吐き、今にもトドメを刺そうとしている。

 

 そして二人の間には、カイマンをそのケムリから守るように飛び込むニカイドウの姿があった。

 

 背中に、ケムリを浴びたニカイドウ。

 

 さらにキノコによって地盤が緩み、崩壊し出す。先ほどまで地に足がついた部分にポッカリと穴が空いた。それにより周囲の温泉施設も倒壊する。

 

 

 ────カイマンッ!! 

 

 

 ニカイドウはカイマンに手を伸ばすが、その手は彼の体をかすめたのみ。

 彼女はキノコを足場にする煙に腕をつかまれ、落下を免れる。

 

 暗い、ポッカリと開いた穴の中へ落ちて行くのは、カイマンただ一人だった。

 

 一連の様子を見ていた小夏の耳に、ニカイドウの絶叫が聞こえた気がした。

 

 

「…小夏?」

 

 

 不安定な絨毯の上に立った小夏に、腕を引かれる形になったカスカベは眉を寄せる。

 

 彼女は繋がれた手をもう片方の手で、一本一本外すようにして、やんわりとカスカベの手を退ける。自由になった手はダランと垂れ、彼女は穴の中を見つめた。その体はフラフラと揺れ、今にも倒れそうである。

 

「小夏、どうしたんだい?」

 

「急に何だよ、カスカベさん」

 

「いや、彼女が……」

 

 現場を見つめていた心が、生じた絨毯の揺れに気づき、カスカベに声をかける。

 カスカベがそれに気を取られ、小夏から視線を外したほんの一瞬だった。

 

 

 落ちた。小夏が。

 

 

「「あっ」」

 

 

 心とカスカベの声がハモる。咄嗟に彼女の手を掴もうとしたカスカベだが、一歩遅かった。

 

「…っ、頼む、ジョンソン!」

 

「ギュチィ!」

 

 下の茂みに落下していく彼女を救うべく、ジョンソンが飛び降りる。

 

 危うかったが、小夏が地面にぶつかる寸前でキャッチしたジョンソン。それを見たカスカベは安堵の息をこぼした。移動する絨毯から見れば、止まっている地上のジョンソンとの距離はあっという間に離れていく。

 

 この状態で止まるわけにもいかず、ひとまず一人と一匹とは後で合流することになった。

 

 

 そして残った三人は煙と、体の一部がキノコになり気絶しているニカイドウと合流した。

 

 煙は彼女を抱えすぐに絨毯に乗り、屋敷に戻る。治療に当たらせるために能井も連れて。

 

 心たちは絨毯が重量オーバーのため取り残され、さらにボスに「念のためトカゲ男の遺体を探しておけ」と言われ、ガレキの山を捜索することになった。控えめに言って見つかる気がしない。まだジョンソンが戻ってきていないため、人手は二人だ。

 

「つか、煙さんも立て込んでて、カスカベさんのこと何も言わなかったな…。せめて人間サイズのゴキブリを見たらリアクションがあるだろ」

 

 ブツクサ言いながら、しっかりお仕事をする心。崩壊した地面の底にはマグマが露出し、周囲の温度を上げる。

 

「心くん、こっちにちょっと来て!!」

 

 カスカベが何かを発見したようだ。心が駆けつけた先にあったのは、生首。それもトカゲ頭の。

 

「…どういうことだ? トカゲ野郎の体はどこに行った?」

 

「わからないが……一旦回収しよう」

 

 首はカイマンのものに違いない。謎が残る中、魔法界は朝を迎える。

 

 

 

 そして、カスカベと心の元に帰ってきたのは、負傷したジョンソンだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 カイマンたちが「ベリス温泉」に泊まっていた際、そこでマスクの下に十字目の刺青を持つ五人の男たちが働いていた。毒蛾たちである。

 

 ボスが姿を消してから約二年。

 

 派手な事件を起こした十字目のメンバーがこぞって掃除屋(クリーナー)に始末された中、彼らはボスの帰還を信じてひっそりと暮らしていた。

 

 唯一“黒い粉”の製造方法を知るボスが消えたことで、十字目の資金源が絶たれた。組織はこの二年残った在庫をやりくりしてどうにか維持してきた。しかしその黒い粉も、ついに底を尽きたのである。

 

 側近たちはそのため、節約ママも驚きなビンボー生活を送ってきた。脳内は常に節約。なるべく自給自足をして、暗くなるまで部屋の明かりは無し。体内のエネルギー消費を抑えて食費を削減するため、体力温存タイムと称して、みなジッと動かない時間があるほど。

 

 そんな彼らの元にある日、一人の男が現れた。

 というか、店で特売品を買っていた鉄条が遭遇した。

 

 その男とは、栗鼠である。

 

 

 十字目のアジトが「ベリス」にあることを知っていた栗鼠は、自分が殺した人物を探るためベリスに来たのだ。

 

 彼は二年前、黒い粉の取引の最中に後ろから何者かに襲われ殺されている。その時、目の前のあった悪魔像の瞳に映った自分の後ろにいたのが、十字目の男だった。死ぬ直前に見えた情報だったため、その男のハッキリとした顔は覚えていない。

 

 そして、死んだ場所とは別の場所──とあるアパートで腐った生首になり金庫に入れられていたところを、「ターキー」の人形で栗鼠を探していた心と能井たちが発見。

 

 キクラゲの魔法で生き返り、一時は首から下が機械ボディだった。ニカイドウの強襲で逃げたしたあとは、ブルーナイトの際、紆余曲折を経て倉庫でケース(対能井用修復阻害効果付き)の中で気を失っていた能井を見つけ、そのケムリで体も治ったのだ。

 

 そこから自身を殺した犯人探しである。

 

 その栗鼠は現在、宙吊りになっている。最初は側近たちと過ごしていたが、痺れを切らし無理やり聞こうとして返り討ちにあった。

 

 

 

 側近たちは現状、ギリギリを生きている。

 

 以前は黒い粉の製造場所だったヒドラの森のアジトも延焼。そこにいた仲間たちは全員死んでいた。

 

 その直前に“お手紙飛行機”で求めていた、生活資金の援助の話も失敗に終わる。手紙を受け取りヒドラのアジトに向かった時にはすでに、金も何もかも燃え尽きた後だったのだから。

 

 犯人はアジトの側にあった車から、掃除屋による犯行であると判明した。

 

 いよいよ金に殺される思いを味わった五人はそして、温泉ではたらき始めたのである。

 

 そのバイト先も、給金をもらう前に壊れてしまったのだが。

 さらに煙が来たのだから、弱り目に祟り目。

 

 五人は背の高い茂みに隠れ、嵐が過ぎ去るのを待った。

 

 

「にしてもいったい、なぜ煙が突然現れたんじゃ? これまでワシらのアジトがここにあるのはバレておらんかったじゃろう」

 

 牛島田が胡座をかき、不満を口にする。

 

 温泉の従業員の誰かが五人のうちのマスクの下の刺青を見て、煙ファミリーに密告した可能性もあるかもしれない──と考えたが、そのようなヘマをやらかす者はいない。側近の中では。

 

 ならば別の理由があった可能性もある。

 

「そう言えば俺と毒蛾が外の自販機で金を探しているとき、トカゲ頭の男に会ったんだけどよ。ソイツが「栗鼠に会わせろ」って言ってきたんだ」

 

「え、ソイツって誰だったの?」

 

「刺青はなかったから、十字目じゃないのは確かだ。ソイツは「栗鼠の友人」だと名乗った」

 

 豚の質問に答える鉄条。

 毒蛾も彼も、トカゲ男のその栗鼠の友人という言葉に一人、思い当たる人物がいた。

 

会川(あいかわ)」という人物。“ザガンシティ”という街にある魔法訓練学校に通っていた栗鼠の同級生であり、彼のパートナーでもあった男。

 

 栗鼠でさえパートナーが今何をしているか知らないのだ。側近ならば殊更知る由もない。

 

「本当に会川だったのか?」

 

「いや、わからない。顔がトカゲ頭だったし、会川はいつもマスクを付けていたから顔も知らない」

 

 首をかしげる佐治に、毒蛾も唸るのみで、答えは得られず。

 どの道本当にトカゲ男が会川だったとしても、彼らは栗鼠に会わせる気はない。

 

 そんな時だ、彼らがいるすぐ近くの茂みから、ガササ、と音がしたのは。

 

 その音を出している物体は高速で移動している。

 一同ナイフを手に持ち臨戦態勢になったところで、ソイツは現れた。

 

 

「ショッキング!!」

 

 

 巨大なゴキブリ。しかも喋る。

 ソイツは地を移動しつつ、背中に誰かを乗せて走っている。落ちないように片手で押さえながら。

 

 ジョンソンと鉢合わせした毒蛾たちは状況が状況なゆえ、殺気を放つ。

 さすればジョンソンもその殺気を感じ取り、五人を敵対生物と見なす。

 

 かくして五人と一匹の戦闘が起こった。

 

 ジョンソンは以前カイマンとも戦い、その圧倒的な速さを活かして一方的に蹂躙している。ゆえにこの戦いもジョンソンが優位かに思われるが、実際そうではない。

 

 

 まず、場所。

 

 カイマンと戦闘したときはホールの地下水路だった。雨水に足をつけていたこともあり、カイマンの動きは一部制限がかかっていた。

 

 次に人数。

 

 純粋に五対一。

 さらに毒蛾たちは、ボスを除いて十字目の中で五本指を占めるナイフの腕前を持つ。これが連携して戦うのだから、さすがのジョンソンでも分が悪い。その上ジョンソンは気絶している女を背負っている。地面に置いて戦うこともできるが、そうなると敵が彼女を狙う可能性もある。守るためにはジョンソンの身から離さない方がいい。それこそ人質に取られてしまえば戦えなくなる。

 

 

 最後に────そう。

 

 側近たちのコンディションがバッチリであったこと。

 

 いつもハングリーな彼らは、バイト先の料理をつまみ食いして、体力が十分にあった。

 

 

 

「ギュチィッ!!」

 

 最初に動いたのはジョンソン。一番美味そうな豚に襲いかかる。

 

 その速さに一瞬気圧された五人だが、一人が狙いを定めナイフを投擲することで、相手が避けざるをえなくなる状況を作る。体勢を崩したジョンソンは背にいる小夏に当たらないよう、その切っ先が己の腹に向くよう移動し、地面に着地する。

 

「速いな、ゴキブリということもあって…。隙を作らせる必要がある」

 

 五人をまとめる毒蛾は、指示を飛ばし連携してナイフの投擲、そして避けたところを接近して切りかかり、ジョンソンに傷を負わせていく。

 

「ギュ、ギュチ…」

 

 ジョンソンは体の節々から血を流す。

 右足に投げられたナイフが当たった際、彼は体勢を大きく崩し、女を固定していた手を離してしまった。

 そのまま彼女は転がり、草むらの中に落ちる。そちらにジョンソンの意識が向いた瞬間。透明な液体が、彼の顔────それも目に入った。

 

「ショッキングッ!!!」

 

 その液体、ツバを吐いた毒蛾はトドメと言わんばかりに一斉に切りかかる。本能的に危険を察知したジョンソンは飛び退き、大きく距離を開けた。このままではジョンソンも小夏も殺される。しかし彼一人では勝てない。

 

 決断の末、ジョンソンは増援(彼から見ても強者であるとわかる心)を呼ぶべく、カスカベたちの元へ向かった。

 

「俺の毒が含まれたツバを受けてなお、避けるか…」

 

 巨大ゴキブリが逃げた先を見つめながら、毒蛾はナイフをしまう。これ以上の深追いは禁物だろう。煙の手下(?)の可能性があるが、会話できる知性はなく、戦いも本能にしたがったものだった。仮に毒蛾たちを見ていたとしても、それを伝える術は持っていない。だがこのままこの場に残るのは愚策である。

 

「煙に見つかる可能性があるため少々危険かもしれないが、ここから退散するぞ」

 

「お、おいっ、毒蛾!」

 

「何だ、鉄条」

 

 鉄条──だけでなく、毒蛾以外の男四人が女の側に集まっている。胡乱な視線を送った毒蛾だが、四人のそばに近づいたところで、目を見開いた。

 

 

「発明家………リンリン?」

 

 

 否、体は大きくなっている。しかしその顔は少女の姿の面影を色濃く残している。

 防護服を着た彼女が、なぜこの場にいるのか。しかも奇妙な生き物に背負われていたのか。

 

 何より、魔法使いリンリンは。

 

 

「六年前に死んだはずではなかったのか……?」

 

 

 六年前、マステマの事件を新聞で知り、事態を知った彼ら。ボスの独断専行はいつものことである。

 

 その後アジトに帰還したボスから告げられたのは、小夏が死んだ、というもの。

 

 それ以上ボスは何も語らなかった。彼らが聞ける雰囲気でもなかった。ただただ、静寂に包まれた男の沈黙だけが、五人に重くのしかかったのである。

 

 彼らは今まで思っていた。

 

 マステマの一件で────()()()()()()()()()のだ、と。

 

 現にそれ以来、発明家リンリンは姿を消した。

 

 過去に新聞で彼女が十字目と関わりがあったことを示唆する内容も出されている。それは煙が『発明家リンリンとの提携を切った』と発表したことで、世間ではその示唆されたものが確信に変わった。実際にリンリンがどうなったかは、煙はこれまで公言していない。

 

 しかし“奇代”の発明家はもう死んだのだと、誰もが思ったのである。それも十字目と関わりがあったため、煙ファミリーが秘密裏に殺したのだろう、と。

 

 それが、生きている。

 

 生きていた。

 

 

「ど、どうするんだよ、毒蛾!」

 

「どうすると言われても……」

 

「………おっぱいが」

 

「いっぱいじゃのう…」

 

「………」

 

 下で寝転がっているのは、防護服の上からでもわかる豊満な胸。

 

 20代な男たちは仲良くそろって顔を赤くし、目を逸らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

【「ボク」が終わる日記】

 

 

 日付は、もう覚えていません。

 

 天気も、覚えていません。

 

 ボクが何だったのかも思い出せなくなっていきます。

 だからボクは「ボク」の最後の日記を頭の中で綴ります。

 

 日記なんていつもは綴りません。

 綴ったとしてもボクがいつ消えるかわからないからです。

 次の「ボク」が見たってその出来事は覚えていないのです。

 書いたって意味がないものです。

 

 でも今日は綴ります。

 

 

 ボクは見ました。

 

 カイマンくんの頭を見ました。

 

 

 彼の頭は、人間でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そろそろボクがなくなります。

 

 みなさんさようなら。

 

 また次の「ボク」を、よろしくおねがいします。

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