「ボク」っ娘系メカニックちゃん   作:アビ田

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今の小夏のマスクはシュメール人。やがてペスト博士にしたい。


アメアメ、フレフレ。

 若き発明家の存在が、魔法界で知れつつあった。

 

 曰く、作られたものの大半が、悪魔ウケする斜め上の代物。悪魔が使って「面白ェ!」と思うものゆえ、魔法使いウケはしにくい。例えば目覚まし時計として、毎朝金切り声とともに首を絞めてくる人形など。

 

 しかし、“100分の1の気まぐれ”。

 

 ゲテモノばかりが生み出される中で、そのたった一つが魔法使いたちに画期さをもたらす商品となる。

 

 これまでで言えば、変身するケムリを使わず性別を変えられる機械や、カギの代わりに個人のケムリを登録してロックできる錠システムなど、便利グッズを生み出している。ただしこれらのヒットも魔法使いの感性なので、人間が見れば、何じゃコリャア、というものも多い。

 

 そして、彼女は気づけば周囲から、“100分の1”を表す「(りん)」という意味を込め、「リンリン」と呼ばれるようになっていた。

 

 ハルが名づけた「小夏」と呼ばれないのは、本人がその名を使っていないため。売っている最中は、自身の発明がいかに面白いかを熱く説明する。客が小夏の名前を聞けども、発明品への質問でなければ、彼女の耳には入ってこない。ゆえに、本名が知られぬまま商品が売れている。

 

 

 そんな彼女も、13歳となった。

 

 発明スピードはどんどん増している。最低でも一日ひとつは作っている。

 

 売れる商品が複数できてしまえば、自ずと金は入ってくる。彼女はそれで工房をこさえ、ガラクタとゴミにまみれた生活を送っている。食事は見かねたハルが作らなければ、三食カップ麺という始末。その三分を知らせてくれる爆弾型タイマーを作ったこともあったが、まぁ売れなかった。

 

『小夏、掃除用の機械でも作ったらどうだ』

 

「んー? アイディアが出たら作るよ」

 

『これだから愚かな魔法使いは…』

 

 工房では火花が散り、本日もまた発明日和である。防護服と溶接ヘルメットをつけ、小夏は机に前のめりになり作業を続ける。キィ、キィィと室内に響く、甲高い音。

 

『魔法の操作も慣れてきた頃合いだ。ここいらで、“扉”を作るコツを教えようと思ってな』

 

「……!」

 

 小夏の手が止まる。一度は訪れてみたいと思っていた、人間どもの世界。手術から始まり、精神や魔法の操作を鍛えてきた。顔が世間に知られるようになり久しいが、まだ「あの人」には会えていない。そこは焦らず行こうと思っている。もし死んでいれば、探しても無駄になってしまうからだ。その間気を急くと、せっかくのアイディアも逃してしまうかもしれない。

 

「人間たちの……フフ、()()を見れる日も近いというわけだねぇ」

 

下等生物(ニンゲン)の中身なぞ、そこまで魔法使いと変わらんぞ』

 

「実際に見てみないとわからんじゃんか! それに、人間にボクの魔法を使ったらどうなるか試したことがないからね。そこもじっくり観察したい」

 

 小夏の、彼女自身の感情によって無限にも上昇する身体能力。彼女が脳に小型機械(サポーター)をつけたことでその性能が上がったためか、他人にも一定の効果が見込めるようになった。ただハルの見立てでは、対象の身体能力をブーストすると同時に、相手の感情を増幅させる効果も出るだろう、とのこと。小夏が自身をイジった副産物である。

 

 

「魔法使いで試してもイイけど、前にオトナを誘拐して死体を捨ててたら、「(えん)ファミリー」に嗅ぎつけられちゃったからね。研究も節度を守らないと」

 

 

 ────煙ファミリー。

 

「煙」という男をボスとする魔法界の巨大組織だ。幅広い事業を展開しており、組織の邪魔になる者は容赦なく始末する。その反面、魔法や魔法使いを使って悪事をおこなう連中を掃除しているため、良くも悪くもその影響力は強い。ファミリーを尊敬する魔法使いもいれば、ボスやその幹部の命をねらう者も多い。

 

『フン、私に感謝するのだな。ハルちゃんが手回しをしなければ、今頃キサマは煙ファミリーの掃除屋(クリーナー)に殺されていたぞ』

 

「うん…そこは本当にありがと、ハルちゃん」

 

 手回しには、ハル以外の悪魔も面白半分で混ざり、証拠を隠滅した。よって、頭がご開帳させた犯人が、小夏であることはバレていない。

 悪魔的にも、愉快なものを作る魔法使い(小夏)をまだ死なせるには早い、と判断したのだ。

 

「にしてもホールか。楽しみだなぁ…」

 

『ホールへはお前一人で行け。これもまた勉強だ。一人前の魔法使いに向けての、な』

 

「押忍! 頑張ってくるよ!」

 

 そして小夏は“扉”を作り上げ、足を踏み入れる。

 混沌渦巻く、ホールへと。

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

 おいでませ、混沌! 

 

 小夏ちゃんinホールだ!! 

 

 ──と、いうわけで、自身の魔法を試すべく人間どもの世界に来たボクこと、小夏。最近よく呼ばれる「リンリン」でもイイかもしれない。漢字名じゃないから魔法使いっぽくないが、言葉の響きがかわいくて結構好きだ。それに、二つ名っぽくてかっこいいよね。

 

 

 ホールに来るにあたり、ハルちゃんから課せられたミッションがある。人間に魔法をかけ、魔法の操作精度を上げることだ。

 

 自分へ使う場合は、ケムリを出して使いたい部位にかける。昔はチョロチョロとしか出せなかったけど、今は一瞬で全身を覆えるレベルには出すことができる。

 

「ホールって何か空気が悪い感じがするわ…」

 

 全体的に薄汚れている。建物の壁とか、魔法を使わなくても蹴りで壊せる気がする。

 澱んでいる感じが、どうにも気持ち悪い。

 

 それで出た場所は、幸いにも人通りがない路地裏。こっちだと魔法使いを殺そうとする人間どもも多いらしいから、あまり目立ちたくはない。ボクは別に、人や魔法使いを殺して昂っちゃうようなヘンタイじゃないんで。

 

 でも、実験用に数体は持ち帰りたい。ぜひともボクに解剖されろ、ニンゲン。

 

「天気は晴れ。…ウン、よかった」

 

 ハルちゃんは雨が降った場合は、すぐに魔法界へ戻ってくるように、と言っていた。

 

 曰く、ボクは実際に体験したことはないが、ホールの雨は魔法使いにとって危険らしい。当たったたけで体にさまざまな不調が起きて、最悪死ぬ。仮に建物内にいても、雨の降るホールにいるだけで苦しむことになるそうだ。

 

「雨には黒い砂状になった魔法使いのケムリのカスが混じっているから、人間にも有害。悪いことづくしだねぇ…」

 

 …………解析したい。でも、ハルちゃんとの約束を破ったら、地獄送りにされちゃう。ここはガマンだ、小夏ちゃん。

 

 

 

 そして、人通りの多い場所に出る。商店街のようなところだろうか。人間がひしめき合っていて、何か食べ物を買ったり、店主が客に声をかけたりしている。

 

「…ほんとに人間って、魔法使いとそっくりだ」

 

 外側はまったく同じ。やはり違うのは内側なんだろう。ただし魔法使いの“練習”にされた者も多いから、足だけ虫になっていたり、目が飛び出ていたり、異形なヤツらも多くて面白い。

 

 それと目移りするのは人間だけじゃなくて、ホールの物も目新しく、ついとフラフラしてしまう。金は持ってないから、買えないけど。この世界の通貨は「円」というらしい。

 

 ちなみに、魔法使いが普段身につける「マスク」はつけていない。ただ、持ってはいるよ。

 

 このマスクにも、その個人によって色々ある。動物を模したマスクを付けているヤツもいれば、煙ファミリーの連中のように、トレードマークの歯を剥き出しにしたマスクをつけている者もいる。

 魔法使いが憧れるのは当然、悪魔が作ったマスク。もらうには悪魔に貢物をして、それが彼らが気に入れば手に入る。ただ悪魔製のマスクをつけられるのは、ごくひと握りの者。

 

 ハルちゃんはボクが一人前の魔法使いになったら、マスクを与えると言っていた。悪魔の中でも、彼女からもらえるんだ。超絶に嬉しい。

 

 今持っているのは──というか、普段使っているのは、いつぞやで買った目の巨大なかぶりもののマスク。かわいく、一目惚れして店頭で買った。

 

 そのマスクは今はかぶっていない。付けているだけで、人間に魔法使いであることがバレるからだ。堂々と練習に来ているならいいんだけどね、今回は人間も持ち帰りたいし、せっかく来たのだから軽い観光もしたい。雨が降るまでしばらくホールを見学するのだ。

 

「いざっ、尋常に!」

 

 ボクは気になった店頭の食べ物をつかんで、走って逃げた。

 まず誰かの金を盗むところから始めよう。

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

 町の外れの廃墟を寝ぐらにして、二週間ほど滞在しているホール。

 

 人間ってもろいな、というのが率直な感想。それこそハルちゃんが形容していた、「下等生物」というのも納得がいく。

 

 夜、ホームレスな人間に試しに魔法をかけた。すると、人間たちは体が筋肉や骨が急速に発達して、ひと回りも二回りも大きくなった。ボクが自分に使うと体の変化は一切起きず、強靭なパワーを出せるのだけどね。興味深い。

 

 それで超パワーアップした人間は、よだれを垂らし、白目を剥いた。この段階で、肉体の急速な変化に耐えきれず、死ぬ者が続出。耐えきれても理性を著しく失い、感情に任せて周囲のものを壊し出す。これは感情の増幅に耐えきれず、脳が破壊されたことが原因だ。

 

 面白いのは、生き残った彼らの魔法の効果はずっと残り続けるんだ。ボク自身の効果時間はかけたケムリの量によるが、だいたい一時間。それが、人間たちの場合は切れない。

 

 これはケムリの操作の一環でもあるから、魔法を解除するのだがね。解かれると対象者は急速に増加した筋肉や骨が戻るせいで、全身がボロボロになって、オマケに脳の破壊は戻らない。人間としての機能を喪失し、横たわる物体になる。魔法を解かないでいる場合も、人間を襲い出す。彼らには理性がぶっ壊れても食欲などは残っているようだから、食い出すんだよね。さながらゾンビだ。

 

 

 その結果、何が起こったかわかるよね? ────そう、突然のバケモノの登場に、ホールが連日ソイツらの討伐に当たったのです。定食屋の新聞(文字は魔法使いの世界と共通)には、多数の死者が出ていることが書かれていた。

 

 魔法を行使された人間は血管が浮き出て、全身赤くなり鬼のようだから、そのまま「オニ」と呼ばれた。

 

 ホールの「町内会」なる、魔法使いをぶっ殺す連中が躍起してオニを倒し、その死体からケムリが検出され、オニが魔法使いの被害者であることが発覚。

 魔法使い(ハンニン)探しをすべく、有志で急きょ討伐するメンバーも集められている。

 

「非常にまずい…」

 

 いや、ボクがいっぱい殺したわけじゃないじゃん? 三桁近い死人が出ているのは仕方ないよ。でも悪いのは「オニ」さんだ。ボクはただ、彼らに魔法をかけただけ。ほら、何も悪くない。

 

 もっとホールについて、調べたいことがたくさんあるんだけどな。

 町内会が頑張って魔法使いを殺しているから、巻き添いになった奴らはアンラッキーだった。

 

 そろそろ帰らなければならない。ハルちゃんの課題も合格点には達したと思える。

 

 でも、もう少し。ボクの未知への探究心が、そしてそれらに受けて生まれるアイディアが、帰る選択肢を突っぱねる。帰ったら作ろうと溜めているアイディア帳がどんどん増えている。

 寝る間も惜しい。つーか、気絶して寝ている。ケムリを使う用途とはまったく別で、脳を活性化させるために連日ダイヤルも回しまくっている。

 

 陰気くさい世界だと思っていたけど、ここには魔法界にはないものがたくさんあって、ボク困っちゃう。面白い。

 

 

「雨……雨ね。ちょっとぐらい雨が降ってもいいよな、ハルちゃん。雨の成分もじっくり観察したいんだぜ、ボク。どんな症状が起こるかも自分で体験してみたいんだ。貴重な経験になるよ、きっと。その一つ一つが、どんなアイディアにつながるかもわからない。体験してみなきゃ始まらないんだぜ」

 

 

 きっと戻ったら地獄送りだろうなぁ…と、頭の隅っこにいるボクが言っている。

 けどしょうがない。面白いんだもの、楽しいんだもの。

 

 ボクはだって、発明家だから。

 

 

 

 そして、それが運の尽き。

 

 ホールの雨の恐ろしさを、ボクは体験する。

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