「ボク」っ娘系メカニックちゃん   作:アビ田

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ゲームで主人公が冒険して、魅力溢れる生き物たちを至近距離で見ることもできるワクワクの止まらない「闇を目指した連星」ってゲームがあってですねぇ…。


正解は……悪魔製菓ッ!

 そしてボクらはようやく、ボスの部屋があるボロビルの前に着いた。

 そこに一室だけ明かりがついている。不意に窓に黒い、大きな男と思われるシルエットが映った。

 

「あれはボス……!?」

 

「毒蛾、ボスの部屋番号はいくつじゃ!」

 

「ご、「501」だ」

 

 皆が駆けていく。窓を見上げたままのボクに気づき、ナツキちゃんが手を引こうとする。

 もう隠し通せないほど汗が、震えが、止まらない。

 

 どうしてこんなにも、怖い? 

 

 

「小夏のアネゴ? ちょっと様子が変だと思ってたけど、調子が悪いんじゃ…」

 

「……ボクはいいから、先に行ってて」

 

「でも……」

 

「夏木、先に行こう」

 

 ドクガは目でナツキちゃんを促し、建物の玄関に向かう。彼はボクの体調を慮ってくれるみたいで、ここで待ってていい、と言う。

 

 

「色々、募る想いはあるでしょうから」

 

 

 募る想いって、恐怖が、ってこと? 

 ボク、もしかしてボスに強制レ……みたいなことされた過去があるんじゃなかろうか。それともテツジョーのとは比較にならないボスのボスをベッドで見て、メチャクチャ恐怖を抱いた過去があるから、とか? 

 

 頭を回らせども、ボクが震える理由がわからない。

 

 

 汗を地面に垂らして。

 

 風を受けた体が汗で冷やされて。

 

 いつまでそうして立ち止まっていたのか。

 

 

 次第にわけのわからぬ恐怖で、足がすくんでいる自分がおかしく感じ始めた。

 

 ボクはもっと「怖い事」を知っているはずだ。覚えてはいないけれど。

 

 それはきっと自分が死ぬ怖さではない。それもきっと恐ろしくてしょうがないものだけれど、もっと怖いものがボクにはあったはずだ。

 

「ンなの、思い出せないよ…!!」

 

 小夏は欠陥品である。いや、そう言ったらボクの母親と思われるハルちゃん(彼女)に申し訳ないな。

 

 何不自由なく愛されているのだから、“欠陥品”なんて言うべきじゃない。けれどボクが壊れているのは確かで。

 壊れていないなら、記憶をなくしているはずなんてないのだから。その上で平然とボクが「小夏」として機能しているわけがないんだから。

 

「でもボクなら「生まれてごめんね」じゃなくて、「産んでくれてありがとう」って言うよ」

 

 止まってちゃいけない。ボクが震える理由を知らなくちゃ。それはきっとボスに会えばわかる気がする。

 

 階段を上る時間も、エレベーターに乗る時間も惜しくて、体を強化させてボロビルに足を突っ込み、そのまま重力に逆らうようにズボズボと壁を垂直に登る。そして唯一明かりのついている窓の下に到着したら、腹筋の要領で体を曲げて、手で窓を割り中に侵入した。

 

 中は荒れていて、ソファー類が散乱している。血痕も飛び散っていて、黒いポリ袋が複数ある。なんかアレ微妙に動いてるんだけど…キモ。

 

 部屋の中央には二人の大男。

 一人は心臓マスクで、もう片方は歯を剥き出しにしたマスクのヤツ。若干後者の方が身長が高い。目測二メートルってところだな。

 

 みんなどこに行ったのかと思ったら、床に体がバラバラになったテツジョーとドクガが倒れている。この二人と戦闘にでもなったのか、この部屋の荒れ具合からしても。

 ということは、この二人はボスを狙っている者に違いない。ボスの家があるこのボロビルにいるんだし。

 

 いや…ちょっと待て? もしかしてあのポリ袋ってバラバラになった誰かが入ってるんでねーの? 中身が見たい。

 

 

「「小夏!!?」」

 

 

 二人は仲良く目を丸くして、ボクを指差す。ボスを狙うってことはおそらくこの二人は煙ファミリー。

 

 で、ボクは過去に「発明家リンリン」として連中と提携していた過去もあって……。でも十字目との関わりがバレて、ハルちゃん曰く「何やかんや」の末、ホールで暮らすことになった。

 

 

「どこ行ってたんだよ、アンタ。というか生きてたのかよ。あの後虫野郎だけ戻って来たんだぜ?」

 

「ここで遭ったが100年目ェ! 死ねや発明家リンリン!!」

 

「アホ、今は戦ってる場合じゃねーだろうが」

 

 飛びかかろうとした「能井」と呼ばれた男に足をかけ、転ばす心臓マスクの男。

 能井の方は嬉々として殴りかかろうとしたが、心臓マスクの方を見るにボクを知っているっぽい。裏切り者なんじゃなかったの、ボクって? 

 

 ともかく、今の行動ってかなり大事。

 

 心臓マスク──能井から「心しぇんぱい!」と呼ばれた方からは、ボクへの敵意は感じられない。

 一方能井の方は敵意より闘志というか…でもボクをぶっ殺したい、って気持ちも強く感じる。

 

 間違いなく床に転がっている十字目の諸君は、ボクが裏切り者だった──と思考しているに違いない。現にドクガがバラバラになったせいでプルプル震えながら、こちらに鋭い視線を向けている。

 

 この状況を考えたらボクがみんなを騙していて、煙ファミリーに情報を売っていた、っていう風に見えるだろう。

 

 記憶があった前のボクは、シンや能井と関係があったのかもしれない。

 

 …が、薄情ではありますが、今は十字目のみんなに衣食住をお世話になった身。一人で生きようと思えばいくらでもできたんだけど、もらった恩は返したいタチでね。その恩を“恩”で返すか、“仇”で返すかは気分次第だけど。

 

 今日は、恩の気分である。

 

 

「能井くんにシンくんも、十字目のボスのところに来てたんだね」

 

 ひとまず話を合わせよう。この状況でボクが十字目に肩入れしていると知れたら、まだ生きているバラバラな彼らを人質にされかねない。だからなるべく慎重に。

 

「おい、発明家」

 

「何だい、能井くん」

 

「…やっぱ、十字目のボスが生きてたの知って、会いに来たのかよお前」

 

「悪いかな?」

 

「……別に、どうせ六年前のあの時のことは覚えてないんだもんな」

 

「六年前?」

 

 掃除屋の二人が、ボスと対決したって話。

 その時ボクもいたんだって。正確には途中で現れたし、能井はボクが現れたのを見ていなくて、見たのはシンの方。

 

 彼はボクがボスに駆け寄る一部始終を見た。それを見たシンが恋仲を想像するほど、ボクらはあつーい様子だったって。

 

「シャイターンの店で事件が起きたって煙さんから話を聞いたときに、アンタにまた作った変なモンを食わせた、ってのは聞いた。たしか夢をどうとか…ってやつだったか?」

 

「見た目も味も匂いも肉なのに、キノコ!ってヤツですよ、先輩」

 

「そう、それだ。俺たちも「()()()()()()」と思っていた内容が、煙がお前の悪夢の中で見た内容でほぼ確信に変わった」

 

「そういや、心先輩の冷蔵庫に酒入れたのリンリンだよな? アレ結構美味かったぜ」

 

「…お前はちょっと黙ってろ」

 

 能井が話す度に話が少しずつ逸れていく。

 一方でボクは、かなりショックを受けている。

 

 まさかボクが他人の冷蔵庫に、“ただの美味い酒”を入れるなんて。

 

 毒も何も入っていないの? 酒の中に微生物が入っていて人体を少しずつ破壊し、阿鼻の地獄を与える──みたいなハプニングも一切なかったの?

 

 本当に何の変哲もない酒だったの? それでもボク、本当に天下の発明家様だったの? 情けないぞォ、リンリンンン!! 

 

 

 

「発明家、お前は十字目のボスに殺された」

 

 

 

 ヒュウと、か細い息を漏らしたのはボク────じゃない、ドクガくん。テツジョーはすでに気を失っている。

 

 肝心のボクは「え?」と、間抜けな声を出した。

 

 殺された? ボクが十字目のボスに? もしかして煙ファミリーを裏切ったと見せかけて、本当は十字目を裏切っていたWスパイだったとか? そりゃいいね、傑作な映画になりそうだ。タイトルは『裏切りの女』とか? 

 

 

「へ、へへ、なに、いって? はは、は、は………ッ」

 

 

 息ができない。息ができない。息ができない。息ができない。息が、息、息。

 

 

 もう立っていられないくらい全身が震える。意外にもこちらに近寄ったのは、シンじゃなくて能井。マスクの奥の瞳が揺らいでいる。さっきまで君、戦闘本能剥き出しにしてなかったっけ? ボクって彼女と仲でも良かったのかな。

 

「お前の目的は何だ? 十字目のボスへの恨みを晴らす、って線もあるかと思ったが」

 

「どうします、先輩? 帰ったらカスカベ(あのボウズ)のとこに戻しときますか?」

 

「先生のとこなぁ……あの人、「十字目のボスらしき男を探す」って言ってたろ」

 

「言ってましたね、確かに」

 

「んで、俺たちがシャイターンの仕事に行った後、なぜか悪魔を呼び出す部屋の場所を聞いていた。その後から姿を見てない」

 

「あぁ…多分死んだんじゃないすか? 所詮ニンゲンだし」

 

「じゃあこの女はどうすんだよ」

 

「あ、そっか。…じゃあ俺の部屋で見ますよ! そうしたら毎日特訓ができる!」

 

「あのなぁ……つーか、そもそも俺たちは今、煙の頭を探しに来てんだぞ」

 

 そう言えば、彼らってどうやってここに来たんだろ。下には車もなかったし、歩いて来たのか? それかホウキで来て、屋上から入ったか。

 ボスの場所を探る方法はあるんだろう。なかったらこの二人がここにいるわけないし。

 

 どうしよう。能井の支えなしじゃ立てない。

 

 もしかしてボクがあのナイフにメチャクチャ恐怖を抱くのって、あのナイフで殺されたからなんじゃないの? 

 だったら辻褄が合う。ボクがあんなに、取り乱した理由が。

 

 でも、だったら、何で。

 

 ボクが悪かったから、彼はボクを殺したのかな? それが理由ならまだいい。

 でもボクが無実で殺されたなら、ボクは十字目のボスが怖くてしょうがない。

 

 好きなヤツを殺すのはだって、「狂人」でしょ。

 

 

 

 

 

 その時、世界がグニャリと、歪んだ。

 

 

 

 

 

 全員まともに立っていられなくなる。何だこの頭の痛み。脳の内側が握りつぶされるみたいな。

 平衡感覚を失い、物が歪んで見える。はじめてだけど、この忌々しい感じをボクの体は覚えている。

 

「これは、六年前と同じッ…!! ホールの、雨……ぐうっ」

 

 シンが言う“ホールの雨”。魔法使いの天敵であるはずのそれが、なぜ魔法界(ここで)起こっている? 

 

「うぅ…」

 

 ダメだ、思考が余計に回らなくなっていく。ワンチャン自分のケムリで無理やり動かせないかな。シャイターンでパクったケムリを、今ドクガが小分けした袋に入れ体に巻き付けているから、みんなのバラバラになった体はそれで治せるはずだ。難しいならこれに乗じて、シンを殺せばいい。

 

 幸い、ケムリは指から出せた。体は倦怠感が強すぎるものの、動く。

 

「待て、小夏…!」

 

 能井がボクの手を引っ張る。腕を振っても離れない。仲良く二人で手を繋いで、ブラブラしている状態。

 脳筋そうな男でも膝をつくくらいの状態なのに、どうして手だけは離れないのだ。

 

「行ったらお前、また殺されるって」

 

「ボクは死にましぇん」

 

「ウソつけ!」

 

 煙も殺されたから、と彼は続ける。

 

 魔法界の最強の男が殺された。ボクなんて敵いっこないだろう、と。だったらこの二人にだって勝ち目はない。

 でもボクは別に、十字目のボスを殺しに行こうとしているわけじゃない。ただ、会いに行くだけだ。

 

 

 会いに行く。

 

 愛に生く? 

 

 アイ? 

 

 

「えっ」

 

 能井とボクが見つめ合っている間にナイフが飛んできて、彼の腕が切れた。ボクの手には掴んだままの彼の腕の一部から先が残されている。

 すっげぇチョー綺麗な切断面!! 

 

 じゃなくて、ナイフを投げたのは誰だ? 

 

 玄関に誰か立っている。身長がデカすぎて目元が見えない。全身を真っ黒に包んだ服。

 

 うっすらと、目元の十字目の刺青(?)の模様は見える。彼がボスか? 玄関の方にいるってことは、自分の部屋と違う場所にいたってことか。まぁ、この部屋以外誰も使ってなさそうなボロビルだもんな。他に使える部屋はたくさんあるか。利用者一人だけなのに電気が通ってるのは謎だが。

 

 

 一歩、足を踏み入れる男。フードの下の顔が見えそうで見えない。

 

 怖い。

 

 手を握っている能井の手もそのままに、後ろに交代する。その先は窓。

 

 怖い。

 

 窓は誰かさんが入る時に破ったせいで、風が中に入り込んでいる。つまりこのまま行けば後ろから落ちる。

 

 怖い。

 

 もうこれ以上後ろに下がれない。また、ボクは。────()()? 

 

 こわい。

 

 嫌だ、嫌だ。来ないで欲しい。ボクを殺した彼が本能的に怖くてしょうがない。記憶を失っているのにここまで“恐怖”を刻みつけられているなんて、マジでどんな殺され方をしたのか。

 

 こわい!! 

 

 

「やだ……やだ、やだ、やだ、やだっ、やだ」

 

「………」

 

 

 ボクを殺す。彼は「小夏(ボク)」を殺す。

 ボクを壊さないでくれ。もう十分壊れた。これ以上壊れたらボクは、ボク、ダメになる。

 ボクの心が粉々になって、死んじゃう。

 

 たすけて、たすけてまま。

 

 まま、ままはあの人た

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────へ、えっ?」

 

 

 抱きしめられた?

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