「ボク」っ娘系メカニックちゃん   作:アビ田

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How much I LOVE.

 

 

「小夏」

 

 

 名を、呼ばれた。

 

 

 

 ボスに抱きしめられたと思ったら、抱っこされて顔同士が向き合う形にされる。

 シンと能井はその直後、彼が吐いたケムリで体の至るところがキノコになった。あれ、キノコの魔法って、煙の魔法じゃないの? 

 

 それに、キノコでマスクの破れた能井が女だった。デカい乳がジャージの下から溢れている。口からキノコが生えて、うめき声を上げる彼女は大変…その、淫ら(えっち)だ。

 

 そして彼が動いた拍子に、フードが取れた。怖さは未だ消えておらず、このままだとチビりそうなほど恐怖のエンジンがフルスロットルである。

 嫌だ、大の大人なのに。みんなの前だよ? 公開処刑かな? 

 

「小夏」

 

「ヒッ、うわ、わ」

 

「……小夏」

 

 顔が近づく。思わず顔を背けるけど、抱っこされた状態でボクに勝ち目はない。何度も名を呼ばれて、怖いのにまた相手の顔を見てしまった。

 真っ黒な瞳。その中に恐怖で引きつった自分の表情が映っている。涙で顔がグシャグシャだ。

 

「小夏」

 

「な、何でそんなに呼ぶんだよ」

 

「小夏」

 

「だ、だから何だよっ!」

 

 彼は徐に手を伸ばす。悲鳴を上げて目を瞑ったら、頭を触られた。ボクの髪留めを撫でるようにして、前髪に触れている。何、何なの? 

 

「…欲しい」

 

(お前の命が)欲しい、と。

 

 すでに収まっている倦怠感の中、相手を殴って逃げようとする。煙の魔法がどうして使えるのか知らないが、この距離で逃げられないけど争う。助けて助けて助けて。

 

「お前が欲しい」

 

 ほら、お前の(命)が欲しいって!!! 

 

 わざわざ言い直さなくていいんだよ! もう、もう本当にダメかもしれない。

 粗相したら、一生みんなに「やーい、おもらし野郎ー!」とか言われちゃうんだ。

 

 飼い主から逃げる猫のように、相手の服をつかんで無理やり逃げようとする。魔法を使わないのは何でだ? ボクをじっくり殺す気か? 

 

 ボスも負けじと離さない。男の頬に手で突っぱねるようにして拘束の外れた上半身を生かしてギギギ、と力を入れる。でも向こうも諦めない。

 

 生きた状態で体の大半がキノコになった掃除屋二人はまだ意識があるから、この現状が奇妙に映っているに違いない。彼らの顔を見ている余裕なんてないけどさ。

 

「っ、きゃ」

 

 二人でもつれあった末、体勢を崩したボクの上にボスがのしかかる形に。

 ボクの体の間に彼が入り込んで、ふぁ、とか変な声を出してしまった。チビる。もうダメ、舌噛み切って死の。

 

 

「……ごめんな」

 

 

 彼は、そう言った。

 

 

 色々怖さとかそういったものがすべて引っ込んで、まっさらになった自分の頭。

 

 悲しそうな表情。彼が泣きそうな気がして。泣かせたらダメな気がして、両手を伸ばして頬に触れる。熱い体温だ。生きている人の体温。彼は生きている。それがどうしようもなく嬉しい。

 おかしいな、狂いそうなほどさっきは怖かったのに。

 

 彼が自身の耳をボクの胸に押しつける。心臓の音でも聞いてんのかな。やっぱりヒトって心臓の音に弱いのかね。

 

 瞳を瞑った彼がこのまま眠ってしまいそうな気がして、足で体を蹴る。まだ他の面々も意識があるってのに、こんなラブドラマを送っている場合ではない。

 

 何より恥ずかしい、普通に。

 

「絵面的に、十字目のボスが女性の胸に顔を埋めてちゃダメだと思うんだ…」

 

「………」

 

 耳を離した彼は立ち上がる。ボクを持ったまま。

 

 その体勢で玄関の方が見えたんだけどさ、ドクガくんと目が合ったわけよ。いやあ、顔が真っ赤でしたね。記憶を奪う都合のいい発明品でもないかな。それか彼を殺してボクも死ぬしかない。ついでに掃除屋二人も殺す。

 

 ボスはほったらかしだった能井とシンを殺そうと動く。驚くべきことに、能井の方はキノコになった体が再生し始めている。修復系の力か。それもシャイターンでもトップクラスに入るレベルの能力。

 ひとえにまだ治りきっていないのは、煙の魔法が強力だからだろう。

 

 

(ふぉ)(なつ)…!!」

 

「ごめんね。ボクはこの中で誰か一人を選ぶなら、迷わず十字目のボスを選ぶ。怖かった……いや、まだ怖いけど、それでも………ボクは彼のこと、好きでしょうがないみたいだから」

 

 殺されても謝られたら許しちゃうくらいに、ボクは彼が好きなんだなぁ、と思う。

 

 否、「(アイ)」か。

 

 ボクってきっと記憶を失う前も「アイ」に縛られた人生だったんだろうな。

 波瀾万丈で、でもそれがいいと思うのは、人を愛することが幸せだからって知っているからだろう。

 

 現に今、ボクは恐怖しながら彼の体温でどうしようもない幸福を感じた。

 笑えるね。こんなチョロいんだ、ボク。

 また、殺されるかもしれないのに。

 

 

 だが、トドメを差す前に二人の姿が消えた。え? 

 

 絶対に魔法だ。消える魔法? いや、透明になる魔法か? 用途によってはとんでもない需要がありそうな力だ。男湯を覗き見し放題じゃないか。ハルちゃんが聞いたら喜びそうだ。だって筋肉が拝み放題。

 

 

 

『見つけたぞォ!』

 

 

 下りたいボクVS下ろしたくないボスで二戦目に入っていたら、窓に不法侵入者が現れた。

 

 黒い布とも似つかない、影のようなものを身に纏っているソイツ。一瞬悪魔かと思ったが、ハルちゃんを見ているので気配で違うとわかる。悪魔の絶対的な“ソレ”ではない。でも、禍々しいオーラを放っている。コイツ自体負の感情でできあがったみたいな、鳥肌が立つようなもの。

 

「まず名を名乗れよ、君」

 

『誰だ貴様』

 

「お前こそ誰だよ。白骨した頭に目が四つあるし、口の中に口があるし、手の中から手が飛び出てるし」

 

 敵の狙いはボクではないな。ボスみたいだ。

 守るようにして彼の頭に手を回す。息苦しそうな声がしたけど、我慢しろ。

 

 コイツを見た瞬間、ボスの顔に焦りの色が見えた。だからこそここはボクが守らないと。

 

「ちょっと、モゴモゴしないでよ! 気が散る!」

 

「……っ」

 

『………』

 

 一瞬黙ったヤツは気を取り直したのか、「お前のすべてを奪う」宣言をする。理由は自分がボスに殺されたからだそう。一回殺されたくらいで文句を言わないで欲しいね。命なんて簡単に死んで、消費されるものなんだから。

 

 そもそも、だ。

 

 

「彼はお前のものじゃない! このボクのものだッーーーァ!!」

 

 

 その瞬間、どこからともなく音楽が流れ出す。

 後ろからその音は聞こえてくる。見ると、マイクを持ったハルちゃんがラジカセ片手に現れた。

 

 何事? というか、その隣で気絶している褐色の少年を抱えている巨大ゴキブリは何? もしかしてボクと一緒にいたっていうゴキブリさん? 

 

「何でハルちゃんが? つか、その子どもと虫は…?」

 

『ここに来る前に歌ったら、気絶してしまってな。まったく、ニンゲンとは貧弱な生き物だ』

 

「いや、だから何でここに」

 

『一曲歌います、それでは聞いてください。「イチャイチャ☆パラダイス」』

 

「ハルちゃん、ボクの話聞いーー」

 

 ハルは呆気に取られているボクとボスと侵入者と、ついでにドクガくんを無視して歌い出す。まさに地獄な歌。ロックなテンポで言っていることは、暗にさっきのボクとボスの様子を示唆している。

 やめて欲しい。恥ずかしい上に耳がイかれる。

 

『ギャァーー!!!』

 

 でも侵入者はどうやら悪魔の歌が嫌いだったようで、尻尾を巻いて逃げていった。

 

 

『フー、満足だ。じゃあ帰る』

 

 

 ピクピクしているボクに手を振ってから、ハルちゃんは気絶した虫とヘイズを抱えて窓から去って行った。

 

 先ほどの音でとうとうドクガも倒れて、生きているのはボクと彼。

 かく言うボクは死にそうで、ボスも苦悶の表情を浮かべながらもボクを離さない。

 

「あ、あのぉー……」

 

 玄関から少しだけ、顔を覗かせるナツキちゃん。無事だったのね! 

 

 耳を押さえつつ部屋を見回して、彼女は部屋に入ってくる。

 何か妙に顔が赤いような…? 

 

 

「え、えっと、ボスに抱っこされてるアネゴってもしかして………し、親密な…そのっ」

 

 

 思わず白目を剥く。ボクとボスが両想いだったのって、ナツキちゃんには話されてなかったはずだ。もし知っていたら、ボスに憧れていて、そして色恋沙汰に敏感そうな年頃の彼女ならすぐに聞いてきただろうし。

 

 ということは、つまり、ボクは彼女を殺すしかない。

 

 そして、ボクも死ぬ。

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 でも殺せなかった。かわいい子分だから。

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

 みんなドクガくんが持っていたシャイターンのケムリで体が治り、十字目は再始動することになった。

 

 ボスはそこら辺は無頓着で、中ボスのドクガくんが回って勢力拡大など行っていくみたい。ひとまず煙ファミリーの幹部や部下をねらい、屋敷の占拠に動き出すようだ。

 

 ボクは協力しないのかナツキちゃんに聞かれたが、目を見てわかる通りボクは十字目ではない。その返答に彼女はちょっと不服らしかった。

 

「安心してよ。ボスは絶対に守るから」

 

「ムー……せっかくアネゴはメッチャ強いのに!」

 

 また殺されるかもしれないけど、その時は仕方ないと思う。どうして殺したか理由は聞いておいた方がいいと思うけど、怖くて聞けない。

 

 ボクは何がしたいのか聞かれたら、ただ、彼の側にいたい。

 

 

 心臓の音はちゃんと聞こえるか。

 

 熱がちゃんとあるか。

 

 

 それを確認しなくちゃいけない。失いたくはないから、大切な人を。会って早々こんなに好きになるなんて不思議だけどさ。

 

 ボクは自分の命が終わるより、大切な人たちの命が消える方がよっぽど怖くて嫌いだ。

 大切な人が奪われる世界だったら、ぶっ壊してなかったことにした方がいい。

 

 だって考えても見てよ。

 

 広大な世界で今まで二人で生きていたのに、一人で生きなくちゃならなくなるなんて、恐ろしいだろ。

 

 

 

 そして何やかんやと話が進み、準備が整ったら煙の屋敷に向かうことになる。

 

 側近たちが「ボスに魔法使いの首を」なんて言ってたけど、ボスは魔法使いの頭でも集めて飾る趣味でもあるのかな。

 煙の魔法が使えるようになってたのも気になったし。

 

 そもボクが窓ガラスを破って掃除屋と遭遇していた間に、ナツキちゃんは側近たちに逃されてボスを探していた。その後、頭から血を流してベッドの上に横になっていたボスを発見。

 周りには医療器具があって、自分で手術した痕跡が残っていた。

 

 つまり、ボスは他人の魔法を自分のものにできる方法を知っている。

 

 大発明どころじゃない。それが可能なら、魔法界の弱き者たちに明るい未来が指す。

 同時に強力な魔法を奪い合って、血にまみれる一つの時代が生まれそうである。それはそれで面白そうな世界だ。

 

 ボクとしてはその手術方法が気になる。

 

 掃除屋に襲われたビルだけど、煙ファミリーの即戦力はあの二人だからこれ以上の危険は今の所ないだろう、ってことでボロビルを使うことになった夜。

 

 いつもナツキちゃんを抱き枕にしていたから、人肌が恋しくて彼女と寝ようとしたら拉致された。ボスに。

 

 

「何で? 何でボクと君が?」

 

「嫌か」

 

「嫌じゃないけど…嫌だ」

 

「どっちだ」

 

「遠慮しておきます」

 

 ボクはベッドの上にいた。おかしいな、拒否したはずなんだけど。抵抗すれば勝てるんだけど、ジッと見つめられたら「NO」と言える雰囲気ではなくなって、これを断ったらあたかもボクが悪い、みたいな空気にさえ感じられてきて、それでもここで負けたらいかんと思って、負けた。

 

 彼の眼力が強かった。まぁデカいから抱き心地は良さそうだ。

 

 

 何で全裸なの? 

 

 

「わからない。どうして、どうして全裸なんだ……」

 

 いくら好きな人の前だからって、全裸でいるのは違うと思う。親しき中にも一枚のタオルあり、だよ。

 乗り越えてはならないラインなんだ、そのタオルは。羞恥心ってないの? 

 

 まぁ見ちゃった感想としては、思わずテツジョーくんを鼻で笑いたくなる差はある。

 

「ボク、ソファーで寝る」

 

「ダメだ」

 

「じゃあトイレ」

 

「ダメだ」

 

「お前ボクに漏らせっていうの?」

 

 座っていた彼はボクを引き寄せて、隣に座らす。そのまま頭を人の肩に乗せてきた。グリグリと、犬みたいに押し付けてくる。キュン、ってきた。超超大型犬が子犬のフリしちゃダメなんだぞ? 飼い主が心臓麻痺を起こしちゃうんだぞ? 

 

 

「今も怖いか?」

 

「そりゃあ怖いよ。でも、取り乱すほどじゃない」

 

「……そうか」

 

 側近たちのイメージの彼は、無表情ながら悲しそうな顔をしたり、嬉しそうな顔をしたりするのだろうか。

 外見は血の通っていなさそうな悪人に見えるけど、ちゃんとヒトだと感じさせる。

 

「ボクをどうして殺したか聞いたら、教えてくれたりする?」

 

「……魔法、使いだから」

 

「へぇー……? それじゃあなたも魔法使いじゃないの。ドクガくんやテツジョーくんたちも」

 

「………」

 

 体がさらに倒れてきて、ボクの膝に彼の頭が乗る。

 この姿を側近たちに見せたい気持ちもある。ボクが攫われた時、空気を読んだ彼らは颯爽と消えてったけど。裏切られた気分だ。

 

「じゃあ、またボクを殺す?」

 

「………殺さない」

 

「わからないよ、気が変わって殺すかも」

 

「殺したくない」

 

「殺したくない? 不思議な言い方をするね」

 

 彼は黙ってしまった。もうおしゃべりする気はないのかな。

 一応寝る前に、ボスが不安に思っていることを言っておこうと思う。

 

 色々怒涛なことがあった今日、今のところ出ているボクの考え。

 でも、多分これはそう簡単に揺るがない。

 

 

 

「君がボクを殺しても、嫌いにならないよ。だってボクがあなたの側にいるって、決めたんだから」

 

 

 

 死んだ時は自業自得。

 だから精々、ボクを殺してくれるなよ。

 

 

「………小夏」

 

「うん?」

 

「………」

 

 何だよ、名前を呼んだだけかよ。

 

 ズルズル起き上がった彼は、ボクをまたベッドに引きずり込んでその上にのしかかる。もしかしてボクが抱き枕にされるのか? お前絶対ボクの二倍以上は体重があるだろ。

 

「えー、ボクが君の上に乗っかるんじゃないの? …あ、でもその筋肉じゃ硬いかも」

 

「寝ていいか」

 

「いいよ、もうここまで来たら拒否しないよ」

 

「……言ったな」

 

「だからいいって。その代わりボクを潰すのはやめてよ」

 

 瞬間、彼がニィ、と笑う。捕食者のソレに本能的に恐怖を覚えたけど、頭を撫でてくる手つきは優しかったから、すぐに肩の力が降りた。殺されるわけではない。

 

 

 

 

 

 そしてボクは彼と、途中で聞かされたが、(カイ)と寝た。

 

 殺されないと思ったけど、殺された。おかしい。

 

 翌朝起きて早々彼を殴ったボクは、何も悪くない。




【やめて】


ハルと出会うことができ、彼女に頼んでカスカベが十字目のボスの場所へ向かっている最中。
ジョンソンは自力飛行させ、旦那を抱えて空を飛ぶ悪魔は、閃いた。

『いい歌が思いついたぞ、ヘイズ』

「えっ、今?歌うのはちょ」

『聞いてくれぇ!私の歌をぉ!』

カスカベは、意識が遠のくを感じた。
そしてちゃっかり距離を開けて被害を最小限に抑えたジョンソンである。 

~fin ~
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