「ボク」っ娘系メカニックちゃん   作:アビ田

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人畜有害カノジョ。

 翌朝から、ボクは十字目の労働力として──働いていない。悩んでいる。

 

 壊から聞いた言葉が頭の中を回っている。

 まるで自分が何なのか、よくわかっていない様子だった彼。ボクと過ごした過去の記憶はあるみたいだったのに。

 

 ボクを殺すのが嫌だから距離を置きたいって? そんなの許さない。

 そも殺されそうになったら逆に彼を殺せなんて、無理に決まっている。

 

 でも、曖昧にできている彼の中で、ボクへの恋慕は本物なんだと。嬉しいね。

 

 悲しい気持ちもある。彼が壊れてるってのが伝わったから。

 好きな人を殺したくないのに、殺してしまう。それを壊れていると言わずして、何と言うのか。

 

 壊れた者同士、ボクらって相性がいいんだ。

 

 

「はぁ…」

 

 彼が壊れているは原因は何なのだろう。壊のことをもっと知れば、「よくわからん生き物」な印象が変わる気がする。

 

 となると、ボスの過去を知る者に話を聞くのが手っ取り早い。本人に聞いても教えてくれないだろうし。今朝だって起きた時にはすでに姿を消していて、部屋に閉じこもってしまった。

 

 それと夏木ちゃんはかわいそうに、ご飯をカートで運んでボスの部屋に持って行ったら、壊が出てきて壁ドンをされボクの居場所を聞かれたようだ。

 

 

 まぁ、そういうわけで、ボクは首を運んでいるドクガをストーカーした。

 一向に手伝わないボクを見て、彼はため息を吐く。幸せが逃げてったね。

 

 聞きたいのはボスの過去。ボクが覚えていない彼とのエピソードでもいい。

 

 また、栗鼠についても知りたい。

呪い(カース)」の魔法で壊が一度死んでいるのは確か。どうやって生き返ったのかは不明なものの。存外その“謎”も、彼が自身について話したがらない理由の一つになっているのかも。

 

「栗鼠が何でこのタイミングで、壊を襲い出したかわからないし……」

 

 栗鼠を捕まえて解剖もしないとさ。つーか栗鼠に関しては「呪い」の力を調べたいから捕獲したい。あの獣の骨をかぶったような頭や四つ目、手の中から手など、じっくり調べさせてもらいたい。

 

 

「ハァ……話したら手伝ってくれますか?」

 

「うん、いいよ」

 

 

 人手不足な今、中ボスさんも大変なんだね。

 

 煙ファミリーの屋敷を占拠してから数日経ち、日に日に十字目に入ろうと希望する者が増えている。下の門でアピールをしているのだ。そのほとんどが魔法をろくに使えない連中。

 

 十字目の経営の中心を担っているのが彼だ。加入希望者をどうするか、ドクガくんはボスに話を通してから判断したいけど、肝心のボスとまだ話せていない状況の様子。

 

「この話は過去のあなたから聞いたものですが、ボスとあなたはホールで出会ったそうですよ」

 

「ってことは、ボクが修理屋をやっていた時よりもっと前の話かな…」

 

「ボスはしかし、記憶喪失らしい。いつから記憶がないのかは知らないが、俺たちがあの人と出会った時にはすでに、記憶が無かったはず」

 

「それって何年前の話?」

 

「八年以上前の話です」

 

 そもそもボスが記憶喪失であることやホールで小夏と出会ったことなど、すべてボクから聞いた情報だそう。

 

「ボクと彼の思い出話は?」

 

「あなたが俺たちに語ることはあまりなかったですよ。偶に、ボスの家に行ったとか、それくらいでした」

 

「そっか、彼のお家に行く間柄ではあったんだな…」

 

 当時のボクはあの凶器で殺されたりしてないよな? いや、流石に少女に手を出すとは思いたくない。

 そもそも、年齢不相応な姿をしていたボクって何だったの? 

 

「そう言えば呪い野郎の件なんだけど、栗鼠がボスに殺されたのは確かなんだよね? 栗鼠本人が言ってたし」

 

「…えぇ」

 

 やっぱ壊が呪い野郎に狙われていたのも、栗鼠を殺したのが原因だ。彼が殺したことにより、栗鼠の呪いが発動したんだ。

 

 

「俺からも一ついいですか」

 

「何?」

 

「あなたがボスに殺された話は………本当、なんですよね?」

 

「うん、事実だよ。殺された時の記憶はないけどさ」

 

 掃除屋の二人に側近たちは倒された後で、ドクガ以外は気絶していた。夏木ちゃんもその話をしていた時はまだ現場にいなかった。

 

 側近たちに頼まれてボスを探していた彼女は、別の部屋で壊を見つけて、憧憬の相手を目の当たりにして驚いた。

 同時に彼が行っていた手術痕に混乱して、その間に部屋に一人置き去りにされたという。

 

 つまり、ボクを殺した犯人を知っているのはドクガくんだけってこと。

 もうすでに仲間に話している可能性もある。実際どうなのだろう。

 

「テツジョーやウシシマダたちには話したの?」

 

「……いや、話していないです。話せるわけがない、アイツらに…」

 

「ボスへの不信が高まるかもしれないから?」

 

「ボスは仲間だった栗鼠さえ平然と殺している。あなたまで殺したと知れれば……」

 

 こう考えると、壊が栗鼠を殺したのはその力を奪うためだったのかもしれないな。「呪い」なんて滅多にお目にかかれない希少な魔法だし。

 だとしたら、その当時から相手の力を自分に移す手術方法を持っていたことになる。

 

 ならボクを殺したのも、ボクの魔法が欲しかったからなのか。

 

 ボクの強化は身体だけではなく、ざまざまな用途に応用できる。それがボクの頭の回しと合わさって、さらに凶悪な力へ昇華される。

 

 でもボクの頭は、悪魔腫瘍も奪われていない。

 

 

「あなたはボスをどう思いますか?」

 

「どうって…好きだよ。君の場合はボスを尊敬しているんだろ? けれど疑心暗鬼でもある。大変だね」

 

「俺は、ボスを……」

 

「今は悩むといいよ。答えは自ずと出るから。その答えに従って生きなさいな。ボクがそうしたように」

 

「………」

 

 約束どおり、ドクガからナイフを一本拝借して死体の胴体と頭を切り離す作業を行う。同時に腐敗臭で屋敷が魔境に(と言ってもすでに魔境になりつつあるけど)ならないように、遺体も回収する。後でこの遺体を燃やして芋を焼いて、みんなに配ってあげよ。

 

 その後ボクと彼で、黙々と作業をこなした。

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

 屋敷では雇われた従業員がせっせと働いている。

 

 それにより側近たちに余裕ができ始めた。ボスの許可がもらえてよかったね、ドク太郎! 

 

 雇用についてはボスの命を狙う刺客が潜んでいる可能性もあるため、力のある魔法使いは弾けるよう魔法の力を数値化できる機械を使い、調べてから採用の是非を決める。

 ボクが「発明家リンリン」として提携していた時代に、煙ファミリーが作ったシロモノのようである。

 

 この機械を夏木ちゃんも使ったようで、結構いい数字が出たらしい。

 でもケムリを出せないから本人は困っていた。そんな時のボクでしょ? どれどれ、ちょっと体を貸してみなさい。

 

 

「ちょっと、夏木に変なことしないでよ」

 

 彼女の相談に乗っていたボクの前に、トンくんが現れて夏木ちゃんを背後に隠した。ひどいな、人体実験の材料に使おうとか思っていないのに。

 

 ケムリの出をよくすればいいから、中の管を切断したりイジれば改善されると思うんだけど。

 

「魔法使いによってケムリが出しづらい、あるいは全く出ないのには個人差があるでしょ? 例えば管がケムリの出力に耐えられないのならその管自体を強化させたり、いくらでも手の施しようはあるって。もちろんトンくんたちにも!」

 

「でも、“希代”の発明家に体をいじくられるのはなぁ…」

 

「物は試しじゃない。さぁ、おいでよ夏木ちゃん」

 

「え、えぇーと、アネゴ…」

 

「天井のシミを数えているうちに、君の体は新人類への第一歩を踏み出すのだ」

 

 ちょうどいいから、腕を機械に付け替えてケムリを出せるようにしてあげよう。

 内心ニコニコしていると、部屋にトン以外の側近四名が入ってきた。最初にこの休憩室で話していたのはボクと夏木ちゃんで、その後にトンが入ってきて、今に至る。

 

 状況を察した四人は、呆れたような顔をした。

 

 

 

 それから場所は変わり、ボクはトンと夏木ちゃんと一緒に煙ファミリーの「キクラゲ」と呼ばれる、生命をあやつる動物()()()()()()目撃情報がある場所へと向かうことになった。

 

 情報は新規加入した十字目の一人によるもの。地方の新聞でキクラゲと思わしき絵が載っていたのだ。

 

 しかしキクラゲはメインではなく、あくまでサブ。記事の本題は【怪物現る!?】というもの。キクラゲはその怪物がいる近くに出没するため、絵に描かれることになった。

 

 ボクは、その怪物が怖い──って夏木ちゃんが言うもんで、連れて来られた。

 

 

 そうして、運転手に絨毯に乗せてもらうこと暫し。

 到着した森で、ボクは運命の出会いを果たす。

 

「あっ、いましたよ! アレじゃないですか?」

 

「よし、じゃあ捕まえ──」

 

「任せてください、トンのアニキ!」

 

 夏木ちゃんがねらいを定め、先が輪っかの形状になっている縄を振り回す。

 ボクはその腕をつかんで止め、首を傾げる二人を尻目に一歩踏み出す。

 

 

 

「ボクのパートナーにする!!!」

 

 

 

「は?」と、後ろからハモった声が聞こえた。いや、上からも聞こえた。

 

 視線を向けたら、雛のマスクを付けたガリガリの男が木の上に引っかかっている。あれ、コイツって煙ファミリーの幹部じゃなかったっけ? リストに載ってたな。

 

 ってか、もしかしてこのヒョロガリの不気味な男が怪物の正体だったりするの? 木の上にいるのはなぜなのか。いや、よく見たら足が腕が不自然な方向に折れ曲がっている。絨毯から落ちたとか? 

 いずれも高所から落下して木の上に落ちたのだろう。

 

「やっぱり十字目と関係があったんだね、この────尻軽女ッ!!」

 

「確か幹部のチョータだっけ。残念だが、ボクの心はすでにキクラゲ(あの子)に盗まれてしまったんだ」

 

「絶対にお前には渡さない! 煙に任されたんだ、キクラゲのこと…!! 最後に、煙に………」

 

「ちょっとアネゴ!! アネゴにはボスがいるじゃないですかっ!!」

 

 三者三様。荒れる現場。

 トンくんの「何だこの時間…」という声が聞こえた。何の時間かだって? そりゃボクのハートが掴まれた瞬間さ。別名ハートキャッチ小夏ちゃん。

 

 さぁ、さぁさぁ、さぁ! ボクの元においでキクラゲちゃん!!! 

 

「ア、アニャッ……」

 

「ぐひひぃ⤴︎そのお腹をモフモフさせてぇ、ほしいなぁ〜⤴︎」

 

「ニャーーーンッッ!!」

 

 キクラゲちゃんは一目散に逃げ出し、森の中に入っていく。これはお花畑を走り回る男女の構図に違いない。

 ボクに追いかけて欲しいのね、なんてかわいい子。

 

 絶対に捕まえる。ボクの首にあのモフモフボディが巻き付けて、寝る時はキクラゲちゃんの匂いが吸引できるよう顔の上に乗ってもらう。あの鹿のような足でフミフミもしてもらいたい。

 

 

「ギニャッーーーーァ!!!!!」

 

 

 森の中に、キクラゲちゃんの楽しげな声がこだました。

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

 夏木ちゃんが持っていた縄で首を吊ろうとしたら、トンに止められたボク。

 

 最終的にキクラゲちゃんは捕まえられず、元の場所に戻ってきたと思ったら、煙ファミリーの残党と思わしき連中にキクラゲが連れ去られた。

 

 追っかけたんだけど、絨毯で逃げられてしまってさ。ボクらが乗ってきた絨毯もすでになかったし、その場に崩れ落ちちゃったよ。

 

 残ったのはボクら三人だけ。チョータも消えていた。

 

 二人は戦闘にあったらしく、右腕がぶっ飛んだ夏木ちゃんが切断面からケムリを出すことができ、体全体がブヨブヨの脂肪のような膜に包まれている。いいベッドになりそう。

 

「ハァ…明日この世界が終わってもいいわ……」

 

「一応夏木はケガ人なんだから、上に乗らないでよ」

 

「つーかボクが滅ぼしちゃお……」

 

 

 割と本気で言っている言葉を冗談として流され、ボクらは帰宅。トンくんは他の幹部に報告しに行った。そして治した夏木ちゃんの腕は、指からケムリを出せるようになっていた。

 

 ボクはキクラゲちゃんショックで、彼女の腕が治ったのを見届けてからベッドに向かった。

 その前に夏木ちゃんが、あの、と声をかける。

 

「何でしょう…」

 

「私、もう片方の目にも十字目を入れようと思ってて…それで」

 

「いいんじゃない? そうしたら本当に十字目の仲間になるし」

 

「でも…私受け入れてもらえるでしょうか、アニキたちに」

 

 防御系とわかった彼女の魔法。トカゲになった少女の魔法を完璧に防いだというのだ。その力があれば十字目でも大きな戦力になる。

 

 だが同時に大きな力がある者は、別にわざわざ十字目として生きていかなくとも、いくらでも働き口はある。というか、魔法を生かせばもっと稼げる道がある。

 

 さらに強力な魔法を持てば、そのほとんどが魔法を使えぬ者の集まりである十字目の連中にとって、やっかみの的になる。

 まぁそれが側近となったら、話は違うだろう。

 

「君が強くなっても、彼らにとって君はかわいい後輩のままだよ」

 

「…そう、ですかね?」

 

「うん。ボクのかわいい子分でもあるさ」

 

「アネゴ……!!」

 

 このようなことで悩むなんて、やはり若いね夏木ちゃんも。

 それを言ったら記憶を失っているボクはどうなんだ、って話だ。

 

「へへっ…ありがとう、アネゴ。お礼にってのは変ですけど、ボスには黙っときますね」

 

「何が?」

 

「んもう、キクラゲのことですよ! ボスという御方がいながら…」

 

「え? 別にキクラゲちゃんのことを好きになってもいいでしょ」

 

「……それは愛している人がいるのに、別の人を好きになってもいいってことですか?」

 

「うん」

 

 いや、マジで好きなんだもの。壊とキクラゲちゃんを並べたら逡巡してしまうよ。どっちも好きだし、選べない。どうしてもってなったら壊を選ぶけど。なるべくなら選ばずに済ませるか、もしくは両方取る。

 

「……やっぱりこの事はボスに報告しておきます!」

 

「…? 別に報告していいけど」

 

「知りませんよ、後で喧嘩になっても!」

 

「いや、怒らないでしょ、ボクがキクラゲちゃんを好きになったくらいで」

 

 他の人を好きになっちゃダメなら、ボクが夏木ちゃんを好きになったり、ハルちゃんを好きになったりできないじゃん。そこまで独占欲がカンストしてる男じゃないだろ、アイツ。

 

 ボクは独占欲強いけどさ。もし他の女と、例えばチューなんてしてたら二人とも殺す。そして殺した後にボスだけ生き返らせる。それを2〜3回は繰り返す。

 

「…じゃあ、尚更ボスを一番に愛してなきゃダメですよ、アネゴ」

 

「はは、何言ってんだい、夏木ちゃん。

 

 

 ────比べるまでもなく、ボクが彼を一番に愛しているよ」

 

 

 そう言うと、彼女は口をモゴモゴさせて「ゲロ甘じゃ…」と呟いた。

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