ちな主人公は「夏」と言いつつ遅生れで、心より少し年上。
またニカイドウの魔法もゴロの良さと名前の厨二臭さを推して、ボックスの前に「ブラック」を付けたりしてます。
煙の屋敷にはサウナがある。男女別でもないから、性別関係なく入っている者も多い。
そのサウナで、ボクはゆっくりしていた。
せっかくのサウナである。一人で寛ぎたい。そのためにわざわざ【清掃中】の看板を立てた。
先ほど風呂の中から現れたハルちゃんに聞いたが、彼女は現在この屋敷の悪魔用ペントハウスに滞在しているらしい。
最近まったく現れないと思ったが、「ヘイズ」って人物と一緒にいるらしい。ボクという魔法使いがいながら、他のヤツにうつつを抜かすなんて!
そのヘイズが気になるから、近いうちにハルちゃんの元に行く。
「サウナには「整う」ってものがあるらしい。実践するしかないよねぇ」
サウナと水風呂、そして休憩。それぞれ決められた時間をこなし、それをワンセットとする。大体2〜3セット行うのが目安である。
整えば体が宙に浮くような、極限のリラックスを味わえる。初挑戦のボクは果たしてその高みを目指すことができるのか。
ちなみにハルちゃんはヘイズにオイルを塗ってもらったそうだが、いったい何をしているのだろう。いや、地獄なバカンスに行っていたのだったか。
羨ましいから、ボクも壊くんに塗ってもらおう。
***
ある日、とある街で大爆発が起こった。天に轟く黒い正体は黒煙ではなく、ケムリ。
現在地下に拠点を構えている煙ファミリーの残党や、十字目たちにもその地響きや爆発の光景が目に入った。
その原因はニカイドウが悪魔試験の修行を経て、自身の魔法を操った際に起こった爆発である。
これにより、彼女の魔法の形であるブラックボックスが、完全体へと変化した。
その爆発を廊下の窓から目撃した小夏の脳裏にふと、ニカイドウの姿がよぎった。
まさかな──と思ったが、そのまさかである。
正体不明の爆発に動き出す者もいれば、奪われた煙の悪魔腫瘍を取り戻すため動き出す者もいる。
そして、悪魔な嫁の遊びに付き合わされていた男も。
さまざまな思惑が絡み合い、混沌の色はより深まっていく。
そんな中、爆発の一件以降急変したボスの様子に、小夏は不安の色を強めた。
「またこもり始めちゃったんだよな、自分の部屋に……」
何か実験を進めている。未だ彼女は壊の部屋に踏み入ったことはない。入ることを男が拒んでいることもあるが、彼女自身その部屋の奥に潜む狂気の気配を感じ取り、恐怖が先行して入れずにいる。
部屋の扉を叩いて「カーイくん、あそーぼぉ!」と言ってもみるが、無反応。
ならば色仕掛けしかないか──などと考えていた矢先、男は動いた。
重い足音を響かせ、側近たちの前に現れた壊。
すでに装備を終えた男は部下を引き連れ、探し始める。
大爆発を起こした人物を。
そして魔法使いの虐殺が、始まった。
⚪︎⚪︎⚪︎
壊くんもまぁ、よく飽きずに毎日魔法使いを殺せるね。ボクだったらすぐに飽きる。
彼はつい先日起こった爆発の元凶を探している。天に轟くケムリの量って、まず普通じゃあり得ない。当然その魔法は強力なものだ。それは調べなくともわかる。
今十字目が取っている方法は、ローラー作戦。街を移動して、彼らに立ち向かう魔法使いのみを殺す。
二兎を追う者は一兎をも得ず──欲張りは禁物だ。
ドクガたちは毎日一人当たり数十人から百人近い数を殺している。狂っているボスならともかく、彼らは着実に追い込まれている。やっぱり魔法使いを殺し慣れていても、その数が増えると精神に負担がかかるんだね。
その内一人が吐いているのを見た時は、さすがに哀れに思った。
でもボスに付き従っているのは彼らの意思。五人が付いて来なくとも、ボスは進み続けるんだろうけどさ。
そんなボクは魔法使い狩りには加担せず、彼らの様子を見守っている。
現状おかしくなっている壊くんを止める術が、ボクにはない。今のボスにボクの声は届かない。
もちろん流れ弾で魔法使いが襲ってきた時は、殺すけど。正当防衛ですよ。
そうして、魔法使いの死体が積み重なって行く。
夜になったら束の間の休息が訪れ、強襲の騒ぎですっかり静かになった街で幹部や下っ端は眠る。中には民家に忍び込んで、金目のものを盗んでいる連中もいるだろう。
シャワーで血みどろになった体の汚れを落として、人が集めた魔法使いの指でドミノを作っていたところに現れる男。
ろくに体も拭かずビショビショでボクの傑作を足で蹴っ飛ばし、傍若無人にふる舞う。
はたして今日殺されるのかと思えども、ボクの首の皮は繋がっている。
熱いヒトの体温が体に巻きつく。自分の骨が折れるんじゃないかと思うほど、その力は遠慮ない。
この時の彼が、ボクには不思議と子どもに見える。だってかすかに震えている。その振動がボクの体にも伝わって、胸の奥で小さなしこりが育つ。
魔法使いを殺したから精神が追い込まれているわけではない。ボクと同じで赤の他人を殺しても、彼は何とも思わないのだろう。
ならなぜ震えるのか。
自分の視界に映るのは、バラバラになった指のドミノ。
これがちゃんとしたドミノだったら、崩されたら倒れる音がよく聞こえるのだろうね。
彼の耳に聞こえているのは、そんな崩壊の音。
バラバラと、自分自身が壊れる音。
だから震える。極端な比喩だが、誰だって目の前にチェーンソーを持っている殺人鬼がいて、足の先から順々に輪切りにされていったら絶叫するでしょ? 怖いでしょ?
この男は「怖い」なんて絶対に言わないけどさ。
ボクができるのは、胸を貸してやることくらいだ。
「…小夏」
「はーい、何でしょ」
「小夏」
「だから何だってば」
壊の手を握る。ほら、ボクはここにいるよ。
今、君の目に美女が見えているだろ? それが小夏ちゃんだよ。
「今日は殺さなかった」
「じゃあ明日ボクを殺しちゃうかもね」
「………」
言いたいことはわかっている。君から離れろ、ってことだろ。でも、一緒にいて欲しいって気持ちもある。
それをすべて引っくるめて、ボクに離れて欲しいのだ、彼は。
この無言の問答を、いったい何度繰り返しただろうか。
そろそろ壊くんが強行突破でボクを置いて行く可能性がある。その度に、その場で彼を引き止める行動をとってきた。
「君と地獄に行く覚悟はあるから」
自分の口から漏れるのは、ドラマで使い回されていそうなセリフ。
今日は観念したのか、壊くんの瞼がゆっくり下りていった。
最近彼が眠る度、怖くなる。ほら、人って目をつむると死体と同じ姿じゃない。
壊くんが生きているのかどうかわからなくなる。目の前の腹は動いているのに、死んでいると思ってしまう。
だからボクは、彼が生きているのかどうか、
眠らず、ずっと。
寝そうになったら頭のネジで無理やり脳を活性化させる。無論、昼など他にボスを見ている目がある時は、軽い睡眠を取っているけども。
そろそろ十日になる、この生活も。
えぇ、まだまだ余裕ですとも。
眠らない。ボクは魔法使いをやめるぞォ────ッ!!
寝てしまった。
当たり前の結果だった。
⚪︎⚪︎⚪︎
「小夏?」
目が覚めたら、褐色肌のメガネをかけた男の人がいた。ついでにあの巨大ゴキブリも。二人ともウサギのマスクを着けている。虫の方は体全体を布で覆い隠している。
「ここは…?」
「煙の屋敷だよ。ジョンソンが反応して、着いてきたら君が病室で寝ていたんだ。ハルが君のことを大丈夫だと言っていたから安心していたが、なぜここに?」
「ハル? ハルって、ハルちゃんのこと?」
「そうだけど…?」
「…………あっ、ヘイズ!!」
絶対この人がヘイズだ! ハルちゃんが話題に出す時いつも乙女な顔になる、あのヘイズ!!
か、かっ…………かっくいい!!!!!
前に彼女が持っていた少年に面影が似ているが、もしかしてあの少年の父親なのだろうか。悪魔のハートを魔法使いがつかむなんて、この人凄すぎない?
というか、ボク寝ちゃってたわけ? 屋敷に戻されてんじゃん!!
「あ、あばばば、早くボスのところに戻らなきゃ!」
「おや、刺青がないから違うと思ったが、十字目に入ったのかい?」
「入ってないよ。ボクは壊くんを監視してなきゃいけないのさ。逆に聞くけど、あなたのその十字の模様は本物の刺青じゃないでしょ?」
「あぁ、意外にバレないものだよ。それより一つ聞いていいかな、小夏」
「うん」
記憶を無くしたか、聞かれた。それも最近。
ハルちゃんの関係者だし、嘘を吐く理由もないので頷くと、ヘイズは困ったような表情を浮かべた。
そして、ボクの頭に手を置く。この人って何歳くらいなんだろ。そこまでボクと歳が離れていない気がする。30代ってところかな、おそらく。
「………」
「急に黙ってどうしたんだい?」
「いや、うーん…」
十字架だとかウロコだとか、男の腕に入った特徴的な刺青。
ボクの記憶にある。それも、唯一残っていた記憶の中の一つ。
この手がボクの頭を撫でていた。今も撫でている。知らないはずがない。だってこの手は、「
「パパ…?」
ヘイズは一瞬目を丸くして、ニコニコと笑う。父親であることの肯定の言葉は返ってこない。けれどこの手は間違いなくボクの父親のもの。
ってことは、あの少年はボクの弟だった……!?
「あぁ、それは私だよ」
違かった。この人、ホールで「カスカベ」という名前で研究者をやっているらしく、現在は十字目のボスと接触する機会を窺って屋敷に潜んでいるらしい。魔法使いじゃなくて人間だったよ。つまりボクって、人間と魔法使いのハーフじゃん。
同時に彼は魔法被害者でもあり、ハルちゃんの力で子どもの姿から大人の姿(それも実際の年齢より遥かに若く)に変わっている。
「……ボスに何の用なの、パパが」
「「カスカベ」と呼んで欲しいな。少し十字目のボスと会って確認したいことがあってね。別に危害を加えるつもりはないさ」
「…そう、ならいいけど」
「君の様子を見るに、ボスとの関係は良好みたいだね」
「うん。ラブラブだよ」
「………」
「後で紹介してあげるね、博士」
事実を言っただけなんだけど、ラブラブ…の話を聞いた直後、博士の笑顔が固まった。
え、博士だってハルちゃんとラブラブしてたんじゃないの? 悪魔と人間のラブラブって、想像できないけど。ハルちゃんのあの毛むくじゃらボディにオイルを塗っても、効果はないと思うんだ。
「っと、そんなこと言ってる場合じゃないなかった! ボク行くね、パパ!」
「…うん、気をつけてね」
急いで向かわなきゃと、屋敷のホウキを使おうとした矢先。
下っ端たちが騒がしい声が聞こえた。幹部たちが戻ってきたと聞こえては、行くしかない。
「壊くんっ!!」
ところがどっこい、コソコソとドクガたちが運んでいたのは大きなパイ。ついでにパイから頭と足を生やしているサジもいる。
「パイパイ」しか喋らないサジに、冗談抜きに笑いで死ぬ思いがした。爆笑するボクに、みんなの冷たい視線が刺さる。
「ヒ、ヒヒ、イーヒヒ………だってチョー面白いんだもの、その生き物」
彼らはこれからサジを治すため、魔法を解く魔法を持つチョータのケムリ瓶を探し始めた。面倒なマネをせずとも、屋敷に保管されているであろう能井のケムリで修復すればいいんじゃないだろうか。ボスもサジも。
そもそも二人がパイになったのは、ある店で青年に反撃にあったからだそう。
説明の中で「ボスの首が」とか、「ボスが会川に」とも聞いたのだが、もしかしなくとも、会川=壊ということがバレてしまっている。
──いや、まだ二人が同一人物であることは側近たちはわかっていない。
理解が追いついていないのだ。非現実的な出来事を目の当たりにしてしまったから。
「希少なケムリがある場所を知っているのは佐治だけなんだ…」
と、ドクガくんは言う。
それならば確かに、先にサジを治す必要がある。
チョータのケムリは幸い見つかって、サジを治す作業に入った。料理の真似事を行っている四人を尻目に、ボクはボスのパイから溢れている中身をつまみ食いする。パイの穴は、パイ屋の従業員に蹴られた際にできたものらしい。
魔法の解除には一番大切な者の臓物が必要みたいで、その穴から採取したボス(かなり液状)が使われる。
それを見ていたから、食べても大丈夫と思ったのだ。だって魔法使いがパイになったんだよ? 味を確かめたいじゃん。それに能井のケムリで治すんだし、ちょっとくらい食べたって無問題でしょ。
「何やってんだ、貴様ァ────ッ!!!」
ドクガくんに蹴り飛ばされて、ボクは厨房から追い出された。
その後、ドアを叩いても入れてもらえなかった。
「うん。肉の味だァ」
・小夏的かっくいいランキング
1位 ストア
2位 ヘイズ(30代)
3位 壊
4位 ハル
5位……
以下順不同。